62. 選択、そして覚悟
遅くなりましたっ!m(__)m
青龍の打撃が岩を砕き、飛び散った岩石は弾丸同等の威力で飛散する。
俊足をもって回避、更には間合いまで詰めてくるムーンに、青龍は毅然とした様子で迎え撃つ。長いリーチを誇る尾が蛇のように執拗にムーンに繰り出される。
「きゅうっ!」
高速の精密な打撃の嵐を、数歩の横移動のみでかわしていく。青龍の攻撃を避けながらさらに接近し、ムーンは勝負に出る。
疾風が吹き荒れ、ムーンを取り巻く。風を纏ったムーンはギアを切り替えたような超加速で次の瞬間には青龍に肉薄していた。
「グルルッ...!!」
「きゅーっ!!」
始まる超近距離戦闘。
雲獣の鋭利な爪が青龍の鱗に火花を散らせ、青龍の鍵爪は滑らかな毛並みが受け流す。近距離は種族的に苦手とする青龍は身体をうねらせて回避を図る。
長い身体を絡ませ、ムーンの攻撃を尾がいなすなか、首は複雑に入り組む身体の陰で戦線から離脱し、どの方向からでも回り込んで雷嵐を撃ち込んでくる。
ムーンは風で掻き消そうと試みるが、青龍の巧みな風操作で打ち消されてしまう。暴風と共に紫電がムーンの白い毛並みを這い、ふわふわの毛が乱れる。が、ムーンにダメージは通らない。高い防御力を誇る毛皮が一切を無効果した。
お返しとばかりに後ろ足を蹴りあげ、不意を突いた斬撃が青龍の首の鱗を吹き飛ばす。金属同士がぶつかったような高い音と共に数枚の蒼の鱗片が散り、忌々しそうにムーンを睨む。再び爪を振るうムーンに青龍が向けたのは龍の牙。一本一本が業物の刃のような鋭利なムーンの爪が、折れる。
一切の抵抗もなく。
「きゅ!?」
驚愕するムーンの動作が僅かに鈍る。その隙に青龍が両足の爪も切り飛ばし、攻撃力と冷静さを欠いたムーンの攻撃は空ぶるばかりだ。
焦るムーンに、青龍の魔法が《詠唱》される。
「オオオオオオォォォォォォォォォォォォォ(〈我が荒ぶる暴風のごとき魔力よ、竜巻の鎖となれ。我が願いは完封、自由を意志を希望を折れ。全てを縛る冷酷なる嵐の檻。我、雷嵐の王の名において命ずる。嵐よ、我が敵を捕縛せよ!〉)」
適性属性の魔力を操るのとは違う、本物の上位術式魔法。
高速詠唱によって、その複雑な魔方陣が組まれる時間は僅か二秒。練られた魔力は緻密かつ膨大。
「ォォォッッ!!!(召喚〈竜風の監獄〉っ!!!)」
風ははっきり可視化されるほど密度を持って、ムーンの四肢を四方から拘束する。さらに、空中に不自然に浮遊するムーンの周りに紫電を有する曇風が輪になって吹き荒れた。
「ぎゅぅ~っっ!?」
雷が白い毛皮をのたうち、光線同士が繋がったそれは 電気の檻 。あらゆる攻撃を防ぐ純白色が衝撃と電流によってくすんでいく。艶やかな毛色が光沢を失うのにつれて、ムーンに電流が牙を剥く。電気が肌を刺し、その度にムーンの手足が痙攣をおこす。
苦悶するムーンに、青龍は発破をかける
「グルルゥ(お前の力はそんなものか? 魔国戦で感じた覇気は何処へいった?)」
「きゅ!?」
「グルアアッ( 拘束魔法なんぞで足を止められるのか? それでお前は我らが主の隣に立てるのか? 王は先に進むぞ)」
ギリリッ! と奥歯が噛み締められる。ムーンは発起して、全身の力を込めて拘束を破ろうともがくが、青龍の縄は頑丈だ。
やっぱりこの龍は強い....!
魔力を練ろうとするが、霧に迷ったように魔力は集まらない。爪で切り裂くにも竜巻の手枷が振り払えない。青龍の阻害が、ムーンの武器をことごとく使わせない。
さあ、どうする? と青龍は目の前で長い体を波打たせている。水晶が寄り集まったような長い髭を靡かせてムーンの反撃を待っていた。
◆
「いたぞ、あいつだ」
アインシュバルトのメインストリート、細い横路に聖教騎士団の3人がいた。聖教会から派遣された王都の魔法大会代表たちだ。
賑やかな大通りのある一点を見つめ、対象の動きに目線を動かす。無言で、香ばしいの薫りの串焼きにも、甘い芳香を放つ菓子にも目もくれず、陰から覗いている様子はまさにストーカー。
彼らの目的で言うならば、監視である。
そんな不躾な視線をユイナが気付かないわけ無く、知らぬふりをして洋服屋巡りを続けるユイナ一行。ちなみにユイナだけでなくドラやシェル、マルピチャ、ルーン全員に情報は共有済みだ。伝えたとき、マルピチャは気付いていたようだから流石は空間魔法使いだ。
「きゅうっ!?」
「この匂いはっ、なんかめっちゃうまそう!」
ルーンとドラはさっきから食べ物に夢中だから、そのせいで気付かなかったのかも?
「これは良い。持っているだけで暖まるなんて...」
シェルはというと、カイロを握り締めてご満悦、というかさっきから同じことしか言ってない。てか、ほっこり顔で意識が浮いてる?
変温動物ならではの秋冬の体温低下防止にぴったりだと口許がにやけてる。
「あっ、あれいいんじゃない? 色もきれいじゃん」
「あー、そうですね」
「きゅう!」「いんじゃね?」
「何枚買うにゃ?」
「5枚ずつで全色買おっか」
良さそうなTシャツっぽい服を大量に購入し、ドラとシェルに持たせたバックに入れるふりをしてストレージに突っ込んでいく。
色柄の豊富なサルエルパンツも全色買い込んで、唖然とする店員さんからとっとと去っていく。
「あそこ! 結構かわいい服あるにゃ!」
「あー、朱雀に着せてみたい感じだ」
目についた店に入って、良さそうなのをまとめ買いしていくユイナたち。
こんもり抱えていた衣類がバックにどんどん収まっていく様子に、ほかの客は足を止めるほどだ。が、当の本人たちは慣れたとばかりに気にしない。どうせ、行き交う人々はこの一瞬限りの出会いだからだ。ストーカーのほうはもう放置である。
「ユイナ、そろそろお昼食べねぇ?」
「きゅ! きゅ!」
「あー、自分もいいですか? あの鶏肉ずっと気になっていて」
「はいはい、いいよ」
話が聞こえていたようで、屋台のおじちゃんが人数分の串焼きを焼いてくれる。
「6本ね」
「はい毎度ぉ! へいよ!」
「あざっす!」「きゅー!」
塗られているのは植塩水か、濃厚な肉汁のなかにほんのり苦味がある。その中にあるこの風味は...
「...レモン?」
懐かしい柑橘類の香りがした。
「おっ、気付いたのか。ウチは隠し味にレモン入れてんだよ。どーだ?」
「食べやすい...、レモンって見たことなかったけど、どこに売ってるの?」
オリジナにはなかった果物だ。ぜひとも買って帰りたい。
「あー、まだあんまり広まってねぇからな。それ、ウチの実家で栽培してんの。まだ1本しか樹はねぇし、売り出してはねぇんだ」
屋台のおじさんいわく、ミデン原産の果物なんだそうだ。
「お嬢ちゃん、気に入ったんならやるよ。串のおかわりと一緒にな」
手持ちは10個だと指を立てる。
振り返ると、まだまだ足りなそうな幻獣たち。
「..5本追加で」
「あいよ!」
あっという間に食べ終えられた串焼き。レモンは日本のより少し小ぶりで色が薄い。柑橘類って陽射しが大事らしいし、日光が足りなかったのかな?
「ありがとね」
「また来いよ!」
気前のいい屋台のおじさんと別れ、再び店回りを始める。が、
「ユイナぁ、そろそろウザいんだけど」
「同感だ。自分も流石にこの不躾な視線は耐えかねる」
ドラとシェルが眉間にシワを寄せている。私もだけど、まーうざったい。
「きゅー」
ムーンもくりくりの瞳を細めていた。
抱き上げると、いつもはふわふわの毛が逆立っているのか抵抗がある。
もふもふを奪うやつらは、敵だ!?
人通りの少ない路地裏に入ると、ストーカーもガサゴソとついてくる。
「ねぇ! そろそろやめてくれない?」
キッ! と全員から視線を送られ、びくっと肩を揺らす三人の人影。
そして諦めたように三人の軍人が姿を現した。そ 足元には一匹の犬。
ドラとシェルの反応からして、彼らが追いかけていた犬だろう。
「...聖教会の人たちだよね」
「わかっているということは、やはりあなたが〈境界〉の魔王ね」
修道師っぽいお姉さん。側には魔導師と剣士。全員から強者の風格がうかがえる。
「俺たちは聖教騎士団。覚えておくといい」
「我々は〈境界〉を越え、〈魔界〉を征服するために勇者および戦力も過去最高だ。その時退くならば殺しはしない。考えておくといい、勝ち目のない戦いに死ぬか、こちらに降るか」
「...ふぅん」
ピリッと緊張の糸が走る横道。
落ち着かない雰囲気が漂うなか、マルピチャはゴクリと唾をのんだ。
長くなったので次でこの話は終わります。
魔法大会本戦、もうちょっとお待ち下さいm(__)m
遅い投稿になってしまいました(^-^;




