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60. それぞれの1日

前回のプチトラブルからまあまあ日が経ってしまいましたm(__)m


10/14 追記:人化した幻獣が人の言葉を喋るようにしました。

魔法大会本選まであと1日。

今日は午後4時からアインシュバルトのギルドに集まることになっている。団体戦ということで、1回街ごとに代表が集まって不在の確認があるからだ。

マナリアは今日飛行瘡魚(ひこうカサゴ)で来るらしい。着くのは午後だそうだ。


「とりあえず、〈境界〉のみんなの分の衣類を買おうと思うんだけど、ムーンたちはどうする?」


「にゃーはユイナと町を回るにゃ! ドラとシェルは人化すればいいのにゃ」


「おう!」「そうですね」


「きゅー!」


ルーンも! と、ルーンが腕の中に飛び乗ってくる。


「はいはい。ムーンは...」


「きゅうぅん...」


オリジナとは違って、いくら街に入るのが許された従魔でも大きなムーンが街中を歩くと一騒動起きてしまうだろう。

泣く泣く別行動になってしまったムーンは暇潰しにマルピチャに頼んで〈境界〉へ遊びにいくことにした。


「街に入る前に一旦散会ってことで、じゃあマルピチャ頼むね?」


「任せるにゃ!」


ピッ! と自信満々にしっぽを高くあげて、マルピチャは空間を紡ぎ始める。ムーンは大きいから少しだけ魔力を分ける。


「きゅうぅ」


ぐりぐりと身体に私を抱え込んで抱き着くムーン。

マルピチャが開いた空間の歪みに渋々と入っていった。数時間の別れとはいえ名残惜しい。いつも隣にいた柔らかな温もりが恋しくて、足元でシェルと喋っていたルーンを抱き抱える。


「きゅー」


心を繋ぐ絆で私の気持ちがわかるルーンは、ぽふぽふとしっぽで私を励ました。あー、やっぱりもふもふ癒しだよぉ。


それから草原を降りて、アインシュバルトに入場しようと審査を待つ列に並ぶこと10分。やっと街に入れた。

人気のない路地裏でドラとシェルに人化してもらう。どちらも私とたいして変わらない背丈の少年に変わった。


「ドラって人になっても背が低いんだ」


「もっと青龍さまみたいにスラッとしたいんすけど」


おっ、ちゃんと人の言葉喋れてる!

人化して声帯が人のになってから、〈境界〉のみんなに人語の訓練を始めてもらったのだ。〈境界〉の幻獣たちは適応能力があるのか、大抵が簡単な会話が可能になった。

鱗の朱色を引き継いだ頭髪をぐしゃぐしゃと掻くドラ。小柄でいたずらっ子のようだがどこか年上らしい顔つきだ。服は白のTシャツと黒のズボン。シンプルな服装が彼の明るい髪色を引き立たせている。それなりに大きい翼と尾が狭い路地裏で窮屈そうに身動ぎした。

そんなドラは じとっ と隣を見やる。


「自分はドラより年下なんですけどね」


そういう少年は蛇のシェル。紺色の髪にドラと同じTシャツ、ズボンはストレートジーンズという組み合わせだ。

パッと見ドラと同年代に見えるが、シェルの方が数年分年下ながら3㎝ほど身長が高い。


「やっぱり蛇だからかな」


「おそらく」


「ぐぬぅ....っ」


〈境界〉出身者はもう1匹。マルピチャも人化出来るはずだがしたくないらしい。

とりあえず翼と長い尾を持つ2人にローブを渡す。これで見えることはないだろう。ドラの角は小さくて髪に隠れる。

猫耳族だと豪語している私と違って、幻獣が人の姿をとれることは人々はまず知り得ないことだ。それに、犬が見ていたかもしれないし、〈境界〉の2人がアインシュバルトにいることは聖教会に知られない方がいい。

ユイナも帽子を被って猫耳を隠す。しっぽはローブの中に納めた。


「じゃあ行こうか」


「はい!」「おー!」「にゃ!」「きゅー!」








そうしてユイナたちが街へ買い物に出掛けた頃、先に着いていた聖教会の面々も動き始めていた。

アインシュバルトに入った3人は魔法大会の王都代表、つまり聖教会からの精鋭部隊だ。彼らは勇者であるリンの従者でもある。

街中央部、宿屋にて。


「今のところ魔王らしき魔力反応はなかった」


報告会で最初に口を開いた男は言う。

マントに長杖、魔導師のようだ。


「俺もだ。街を歩いてきたが、猫の耳としっぽを持ったやつなんていなかったぞ?」


魔導師に同意する剣士。


「私もよ」


修道服の戦闘衣の女は呆れたようにベッドに座った。


「あ、そういえば、幻獣を5匹も連れた少女が昨日入場したそうだ」


魔導師の言葉に自分を含めてハッとする3人。


「.....そいつか?」


「その子ね」


「そいつだろ」


―――満場一致


「くうん?」 と彼らの足元の犬が伏せの状態から顔をあげる。


「....そうだな、よし見張れ」


「きゃうん!」


むくりと立ち上がった偵察犬(しもべ)は魔導師からの任務を遂行すべく駆けていった。











ユイナたちがアインシュバルトのメインストリートで服を吟味していたころ。

〈境界〉にて。


「きゅうぅ」


ムーンは〈境界〉の住人たちに案内されて森の中を散歩していた。

木々の木漏れ日のなかに交ざるさまざまな植物の発光灯や、足元の霧やカラフルなキノコが美しいが、ムーンのテンションは上がらなかった。


「シュー(もうすぐ白亜の樹だよ)」


「..きゅうん」


「にゃあご?(どうしたの?)」


あまりの生返事に、猫の幻獣に気を使われる。それほどにムーンはショボくれていた。


「きゅむむ...」


アインシュバルトでは敵対勢力がいるし、ユイナは強いとはいえ護りたい。護衛の幻獣たちとルーンでは頼りない。

けしてルーンを弱いと思っているわけではないけど、まだあいつは落ち着きがないし、力量はあってもテンパりやすい。襲われたら逆にユイナに庇われるのでは....?

とまあ、こんな感じにムーンはグルグル考え込んでいた。


どんっ


「きゅ?」


何かにぶつかって歩みが止まる。

目の前一面に見えたのはキラキラした鱗。顔をあげると、座っていたらしい青龍と目があった。


「グルァ(お前は....)」


「きゅうぅん」


どうやら青龍の腰にぶつかったようだ。

ムーンよりもさらに大きい青龍。ムーンの10倍はありそうだ。

ごめんなさい とペコリと謝るが、青龍は何も気にしていないようだ。


「グルルル(どうした、何かあったのか)」


ぶつかったことよりもムーンのことが気になったようだ。堅気な性格の青龍が佇まいを正してムーンに向き直る。

ユイナの親友の幻獣として、心配してくれているようだった。

ムーンは実は...とこれまでのことと自分が〈境界〉にいる経緯を話す。


「グルァ...(そうか...)」


「むきゅうぅ...」


話して思い出したことでさらに落ち込むムーン。

が、青龍は共感はしたがなにか腑に落ちない様子だった。


「グルルル....(ムーン、なぜ落ち込む? 体が大きいことがそんなに不服か?)」


「きゅ?」


「グルルルル...(お前のその柔らかな毛並みがユイナの好みではなかったか? 時たまユイナに空間魔法を繋ぐと、よくお前たちの話をする。とても信頼できる頼もしい親友だといっていたぞ)」


「きゅ!?」


「グルァ..(それに、〈境界〉でもお前は人気者だ。寝心地が言いとかでよく背に乗られていただろう。お前のその大きさは売りの1つなんだ、そんなやつは見たことない。誇っていい)」


「きゅ...きゅう」


「グルルル(それだけ育ったということは、お前がそこまで強く、成長した証だ。現に、ユイナはお前によく頼るではないか。信頼される存在の証明だ)」


「きゅうん」


青龍がふと何かを思い付いたように立ち上がる。つられてムーンも立つと、青龍はムーンについてくるように言った。


「きゅ?」


「グル(いいから来い)」


しばらく歩くと、森が開けてかなりの広域が岩の点在する荒野になっているところに出た。

倒木や鋭い岩山、坂や峰まで備わったなんとも歩きづらい場所。


「グルル(ここは特訓場だ。我々は人の姿を手に入れてから、ここで体幹などを鍛えている)」


そう言うと、青龍はムーンから少し距離をとった。


「グルァァ(かかってこい。お前の力、試してやる!)」


「!」


ハッとするムーンに、青龍は長い尾でピシャリと模擬戦の火蓋を切った。




読んでくださってありがとうございます!

次回、ムーンVS青龍 です!

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