59. プチトラブル
アインシュバルト来ました! でもほとんど入ってません(^-^;
アインシュバルトはオリジナと同じく、外壁で周囲を覆われた街だ。しかし、〈人間界〉の最大勢力 軍 のホームグラウンドなだけあって計5枚の外壁は堅固かつ巨大、常時発動の結界の数も普通の街であるオリジナとは桁違い。各所にある門も牢獄や地獄の入口のように堅牢で荒々しく、街の外観は攻略不能の要塞である。
そんな軍の街を目の前に、ユイナたちは早速、入場検査に引っ掛かっていた。ちなみに、追っていた聖教会の集団の臭いは、訪れる人々の臭いで分からなくなってしまったようだ。
「こちら西門入口、幻獣5匹を連れた見た目のおかしな少女が来ました。身元を情報本部に確認要請します。見るからに不自然ですが上官、どうしますか」
小隊長だという兵隊が何かの魔法を発動させて片手の魔方陣に向かって喋る。マルピチャの空間接続魔法の簡易版の通信魔法と言うものらしい。使い方は電話そのものだ。
『確認に向かう。引き留めておけ』
「了解」
えぇー。まだ待たされるの?
「小隊長、幻獣は全て奴隷紋無しでした。受け取った身分証明書とオリジナ領主とギルドの書類によると、魔法大会選手のようです」
奥から駆けてきた兵隊の報告を受けていると、小隊長のもとに軍服の偉そうなおじさんが来た。なにか話し合ったあと、
「ユイナというのは君か。オリジナの犬ギルド長から、猫耳の少女が来たら問題にせず通すように言われている。証書も持っているようだし、君をアインシュバルト入門を許可する」
「エルさんが。どうも」
話が通っていたなら良かった。人間とも獣人とも違う変なやつは他の街に行くのも一苦労ってね。
「「きゅう~」」「にゃあぉ」「ガルゥ」「シュ」
心配そうに鳴く幻獣たち。ムーンたちは奴隷紋というのがなかったからか野良扱いになって柵の中に隔離されてしまったのだ。
「みんな言うことは聞くし、暴れないし大人しいから、入場を許可してもらえませんか」
「完全に使役しているか確認する。第2隔離室へ向かう。そいつらを連れてこい」
隔離室!? なにそのヤバイやつ用みたいな部屋の名前は!? てか第2?! 私以外にもいたのかそんなやつ?!
もうその確認とやらは始まっているようだ。柵から出された幻獣たちも話を聞いていたから黙ってこちらを窺っている。
「いくよ」
「「きゅう」」「グルァ」
兵士たちについていくと、正門の横の頑丈そうな門を通るようだ。隔離室は街の中にあるのかと思いきや、目の前はすぐに高い壁。外壁にそって壁に挟まれながら横に続く道を少し行くと、壁にかなり広い等間隔で門がついている場所に着いた。
でかでかと門に第1から第5まで順に塗装されている門のうちの第2の門が開いて入るように促される。
「入れ」
入ったとたん、石壁で出来た広めの空間に驚く。壁の中なのにこんなに幅があるとか、どれだけ大きな壁なんだか。
「1匹ずつ違う命令をいっぺんにやってもらう。幻獣は右から1、リストの指令にそって使い魔に命令しろ」
渡された紙には、
1跳べ
4鳴け
3座れ
2回れ
5立て
1鳴け
3回れ
5跳べ
2座れ
1回れ
・
・
・
などと、1から5までの番号と五種類の指示がランダムに組合わさっている。数字を名前にして命令しろってことか。
今のならび順からすると、1ムーン、2マルピチャ、3ドラゴン(急遽ドラと呼ぶことにした)、4ルーン、5蛇(急遽シェルと呼ぶことにした)ってことか。
ドラゴンと蛇には人には聴こえない小声で名前を伝えておく。僅かに頷いたから大丈夫だろう。
「始めろ」
「じゃあやるよ。ムーン跳んで、ルーン鳴いて、ドラ座って、マルピチャ回って、シェル伸びて立って、ムーン鳴いて.....」
名前と動作の指示でムーンたちが跳んだり鳴いたり回ったりと、周りからすれば何かのショーのようだが、兵士たちは真剣そのもので視ている。あ、やっぱり笑いを隠してた。上官に睨まれる兵隊たち。
「....マルピチャ跳んで、ルーン鳴いて」
「きゅう!」
はぁー、やっと終わった....。
ムーンたちも見られていて緊張していたのか、終わって力を抜いた。
審査していた兵士たちからボードを受け取った軍服さん。
「いいだろう。君もオリジナギルドと本人確認が取れた。使い魔共々街への入場を許可する」
上官らしい軍服おじさんから入場許可がやっと降りて、日が沈んだ頃に初めてアインシュバルトは街に足を踏み入れた。
街の感じとしては、オリジナよりも発展した中世のヨーロッパの街並みって感じ。2・3・4階建ての家々が綺麗に並んでいる。大通りでもない普通の道でも、もう暗いのに魔道具の街灯が灯っていて人通りも多い。一軒一軒の装飾や外観から、凄い都会って感じがする。所々に宿屋はあるが、都会だからか値段は高いしそもそも空きが無い。普段からほとんど部屋は埋まるそうだが、魔法大会の観戦にどこの店も満員だそうだ。やっと空きがある宿を見つけても、5匹も連れがいる客が泊まれる部屋はない。特に、オリジナと違って馬小屋を持っている宿がないためムーンが休めるところがない。
「どうするにゃ?」「きゅ~ぅん」
「うーん、あれしかないよね」
オリジナにいたときも最初のころはよくやってたなー。
「「きゅう」」
分かってたように頷くムーンとルーン。
「なんです?」「どうすんですか?」「にゃ?」
ハテナを浮かべる〈境界〉の幻獣たち。
考えていたマルピチャが半分悲鳴をあげる。
「にゃーに全員オリジナに転移させろとかにゃ!?」
「いや違う違う。もっと簡単」
そう、すごく簡単な答えだ。
青ざめていたマルピチャがホッとした。流石にそんな大変なことさせないよ。
「行くよ皆。一回街出るから」
「「「どうする「にゃ?」んです?」」
来た道を戻り始めると、不思議がられる。
「ん? 外で野宿だよ」
場所ないんじゃ、こうするでしょ。
宿が無かったことは残念なことでもない。実は野宿って結構楽しい。私もだけど、特にムーンルーンには大評判だ。
さっき時間をかけて入場した門から出てきた私たちを不審に見つめる兵士たちも気に止めず、ムーンは颯爽と暗闇を駆けていく。アインシュバルトから近い川辺がちょうど良さそうだった。早速ストレージから取り出したのは、野宿用のテント...ではなく魔力コンロ。
「「きゅう~っ!」」
嬉しそうに鳴く2匹のテンションについていけないマルピチャとトドラ、シェル。野宿が好評、その理由は....
「さて! なんの肉から食べる?」
ストレージから、シーアに解体してもらった肉塊をこれでもか! と出していく。
ハッと目的に気が付いたマルピチャの目が輝いて、ハイテンションのムーンたちに交ざってきた。
「きゅ!」「きゅうぉっ!」「これがいいにゃ!」
「オッケー、ルーン山羊の腹肉で、ムーンが鶏丸々、マルピチャは豚の肩ね」
魔力コンロがコンロと言えないほどの火力で肉を焼いていく光景に唖然とするドラとシェル。火を吹くほどの熱量で早速焼き上がった焼肉の塊にかぶりつき始めたムーンたちを見る。
さらにお代わりを重ねていくムーンたち。ルーンとマルピチャなんて、その小さな体のどこに肉が収まっているのか。
肉の山が段々小さくなっていくのと、ムーンたちの食いっぷり、肉汁が滴り香ばしく焼けていく肉を見比べて.....
「これお願いしますっ!」「オレこれ!」
このまま見ていては食べ尽くされる! と慌てて肉を喰らい始めた。全員が脂ののった肉の塊を食いちぎっては呑み込み、またかぶりつく。
まったく、焼肉のときはいつも凄いね。
「ユイにゃだってレディーとは思えないにゃよ」
「まあね」
肉好きが遠慮なく好きなだけ食べられる。これだから野宿は大好評だ。もちろんちゃんと料理してもいいけど、何でも美味しくたくさん食べるムーンたち相手じゃ、この方が楽しくてもしょうがないよね。
野宿の日は焼き肉の日、焼き肉の日は自由な日。
宴会の肴は果実水と焼き肉、そして仲間。この3つだけで、幸せになれる。
元の世界とは違った100%の自由。
もう、向こうの世界が異世界みたいだ。
読んでくれてありがとうございます!
ちょっと物足りない感じになってしまいました。
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