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57. 集会クエスト

閑話の続きです。

人の気配を感じたのか、奥の森からも樹木蜥蜴(トレントリザード)の集団が現れる。


「急いで陣形を整えろ! 持ち場につけ!」


一直線に向かってくる群れを囲うように冒険者たちが並び、武器をとる。

巨木の枝のような見た目のとおり、硬い表皮に葉を茂らせた枝の尾を靡かせながら駆けてくる樹木蜥蜴(トレントリザード)たち。体調2メートルをゆうに越す樹木蜥蜴(トレントリザード)の群れが、地鳴りのような轟音をたてて突進してくる。


「魔法撃て!」


リーダーさんの合図で、遠距離魔法を使える冒険者たちが樹木蜥蜴(トレントリザード)の群れの突進を妨げる。直撃した樹木蜥蜴(トレントリザード)もいたが、流石の防御力、倒れることはなかった。

群れの足が止まったとたんに、冒険者たちが雄叫びをあげながら攻めかかる。興奮して群れを離れて襲いかかる樹木蜥蜴(トレントリザード)を、外側の冒険者たちが対処していく。

個々で戦っていくのかと思えば、パーティーでそれぞれ固まって対戦しているみたいだ。わらわらと広がっていた冒険者たちが、幾つものグループで別れて戦い始めた。


「うぐあっ!」


近くで樹木蜥蜴(トレントリザード)と戦っていたソロの1人が押されて吹き飛ばされた。追撃をかけようとする樹木蜥蜴(トレントリザード)を、シーアを乗せたムーンが咆哮(ボイスカノン)で吹き飛ばす。


「グギャアアッ!?」


すぐさまルーンの風魔法が樹木蜥蜴(トレントリザード)を行動不能にした。


「たっ、助かった」


「気をつけて」


治癒魔法(ヒール)で目を覚ました冒険者にそれだけ言って戦闘に戻る。案外樹木蜥蜴(トレントリザード)の群れが大きくて、囲いを突破してくるヤツが増えてきた。

群れに正面から挑んでいるBランク上位の冒険者たちの討伐スピードが落ちてきているからか。疲労回復の念を込めて回復空間(リカバリーエリア)を展開する。

不思議がられたが、樹木蜥蜴(トレントリザード)の数が再び順調に減り始めた。

樹木蜥蜴(トレントリザード)が機関銃のように打ち出す枝も、熟練の彼らは上手く盾や魔法盾で減速、受け流し、防御とダメージも最小限だ。パーティーと連携して着実に1頭ずつ倒していく。


「きゅおおっ!」「きゃあぁ!?」


森の際を駆け回りながらムーンがシーアを乗せて駆ける。パッと観ただけでは、ムーンが樹木蜥蜴(トレントリザード)に体当たりして昏倒させているかのように見えるが、そんな単純なムーンじゃない。

撃ち出される枝はもふもふの毛にすべて阻まれ、鋭い前足の爪が樹木蜥蜴(トレントリザード)を引き裂き、掬い上げて戦闘とは関係のないところに投げ捨てられている。ついでに、持たせた猫アップリケ付きの麻の布切れを結んで、自分が狩ったアピールも万全だ。それでいてシーアを揺らさない。流石ムーンだよ。


「きゅううんっ」


魔物が瞬時に地に倒れて素材(ごはん)に早変わりしていく。

終わったら速攻焼き肉パーティー決定だね! シーアもいるし!


「きゅうーっ!」


負けてらんない! とばかりに、ルーンも果敢に樹木蜥蜴(トレントリザード)に挑んでいく。ムーンより少しかかるものの、上級冒険者たちより早く倒せるのだから凄い。

風魔法で加速させた魔力弾が、数発で樹木蜥蜴(トレントリザード)の硬い表皮を砕き、頭を穿つ。いそいそとアップリケをくくりつけて再び乱戦に飛び込んでいった。


「やべぇ! 樹木大蜥蜴(トレントデミドラゴン)だ!」


あらかた樹木蜥蜴(トレントリザード)を一掃し終えた頃、森側を守る冒険者の一団から悲鳴に近い声があがった。

重く威圧感を振り撒きながら森から現れた巨木。体長10メートル超えの巨体が吼える。


「ギェアァァァァ!!!」


見えない何かに弾き飛ばされ、冒険者たちを有無を言わさずに空中に吹き飛ばす。なかには、落ちたところが悪くて戦闘不能に陥るものも。

近くに落ちてきたさっきの牛人族(ブル)を治癒魔法で回復させる。


「しっ、神速か...。治癒できるなら、他のやつらを頼む...! 俺はもういい..!」


傷は治ったが打撲、酷ければ骨折しているであろう体で立ち上がった。巨大な大剣を拾い上げて、腰のバックパックから体力回復薬(ポーション)を引き抜いてイッキ飲みする。

だいぶ楽になったのか冒険者の意地なのか、再び 樹木大蜥蜴(トレントデミドラゴン)に挑みに向かった。

樹木大蜥蜴(トレントデミドラゴン)咆哮(ボイスカノン)と長い鞭のような尾に吹き飛ばされて、沢山いた冒険者たちもバラバラに個々で向かっていく。

だが返り討ちにあって、その数もじわじわと減ってきた。動けるようになった者は離脱していく。

自己責任。その言葉通り、倒れている冒険者には目もくれず、仲間や知り合いのみ助け起こして足早に森の際まで下がっていく。


「...ムーン! あの蜥蜴の相手をお願い!」


「きゅう!」


「シーアとルーンは冒険者をはしっこに避難させてあげて! 後でまとめて回復させる!」


「わかった!」「きゅうーっ!」


ほぼ同じ体格のムーンと 樹木大蜥蜴(トレントデミドラゴン)の取っ組み合いはなかなか勝敗がつかない。魔法は冒険者たちを巻き込んでしまうから使えないムーン。組伏せて押さえ付けようとするも、体重が軽いムーンでは力の強い 樹木大蜥蜴(トレントデミドラゴン)にすぐに逃げられてしまう。

逆に、 樹木大蜥蜴(トレントデミドラゴン)の攻撃は素早いムーンにかわされる。

その間に冒険者たちを森の縁まで引っ張っていく。反対方向からはシーアとルーンが同じように運んでいる。

セインの指示で逃げた冒険者たちも加わって、至るところで倒れていた冒険者たちの避難は完了した。ナイスだよセイン!

一ヶ所に纏められた冒険者たちに回復空間(リカバリーエリア)治癒空間(ヒーリングエリア)を展開、体力と傷を回復させると、徐々に目を覚まし出した。


「あれ? 俺...」「やられた傷が!?」「疲れがとれてる!? どーなってんだ!?」「なんかラッキー!」「....!?」


さまざまな反応があるものの、みんな意識を取り戻した。良かったー。

今度は誰も駆け抜けしない。

集団は上級冒険者らしく、最も効率的な協同戦に践みきった。これなら必ず少しは報酬がくる。自分たちのパーティーのみで手柄をあげたい彼らだったが、しぶしぶリーダーに従う。


「魔法使いは森の縁から部隊ごとに撃て。3部隊全てで一気に樹木大蜥蜴(トレントデミドラゴン)を最低でも怯ませる。その隙に、力自慢の男どもは首、四肢、尾の付け根を絶て! その他は眼、耳穴、感覚器を潰す! 余裕ができ次第枝を取り払え! 以上!」


「「「「「おおっ!」」」」


「「「「「おっしゃー!やるぞオラァ!」」」」」


ランクBの冒険者ともなれば、経験豊富ゆえ共闘もすんなりと受け入れられる。

素早く動き、役割に最適なポイントへ移る冒険者たち。彼ら全員が自分らに最も効率のいい動きをし、最短で被害少なく敵を倒そうとする。その結果、活躍にみあった報酬を確実に手に入れられると知っている。


「ギャアゥアァァ!!??」


樹木大蜥蜴(トレントデミドラゴン)の全身を穿たんと畳み掛ける魔法の雨。振り下ろされる剣。

樹木大蜥蜴(トレントデミドラゴン)は激しい抵抗の末、その巨体を力なく横たえた。















運べないほどの巨体なため、樹木大蜥蜴(トレントデミドラゴン)の鑑定にギルドからディオさんが数人の解体士と共に駆けつけた。


「ディーンおじさん!」


「おう、シーア! お前もいたのか」


猫の専属解体士だもんな とディーンさん。

シーアとディーンさんが昔話に花を咲かせているのを聞いているうちに、ディオさんが樹木大蜥蜴(トレントデミドラゴン)の値段を弾き出した。過去の記録より少し高くなりそうだと言う。


「....以上になります」


ギルドの観察員のとった戦闘記録から報酬が発表された。それぞれ紙を手渡される。


「ディオさん、報酬って魔物の部位でもいいんだよね?」


「ああ、お前ならそうするだろうと思ってた」


報酬を上回る部位は報酬に追加で支払えばいいらしい。

早速、値段表を借りてムーンたちと相談開始。解体はシーアがやってくれる。


「ちなみにディオさん、樹木大蜥蜴(こいつ)で1番美味しいとこってどこ?」


しばらく考えたあと、オススメはレバーだと教えてくれた。


「こいつらの主食は回復薬(ポーション)の材料の草だったりするからな。香りがいい。だが、お前らは旨い肉が喰いたいんだろう? なら脚か腹だな」


胸肉(スペアリブ)も旨いぞと冒険者の一言。


「ムーンたちはどこがいい?」


「「きゅう!」」


ピッと指し示したのは脚。やっぱり太い肉塊にガッツきたいのね。


「えーと、脚は...太ももでいいよね?」


「「きゅう!」」


リストをめくると...あった。この値段なら持ってる。最近かなり儲かってるし、奮発するか!


結局、樹木大蜥蜴(トレントデミドラゴン)の脚2本とスペアリブ、腹をブロックで購入した。勿論報酬はすべて使いきったし、手持ちもかなり減ったけど。


参加者全ての換金、取引が終わる頃には夕方。まぁ、だいぶ移動に時間掛かったもんね。

魔物は先ほどギルドが回収していった。もちろん費用は全員の報酬から均等に落とされている。残ったディオさんの主張料金は物がいいらしいけど、なんだろ?


「きゅー! きゅうぅん」「きゅう~ん?」


ぐきゅるるる 2匹してお腹を鳴らす。お昼はやかったからね、お腹すいたみたいだ。


「じゃあここで食べよっか! シーア、お肉切ってくれる?」


「うん!」


ストレージから、野外用の大きなまな板を取り出し、買ったばかりの肉がその上にでかでかと鎮座する。脂が程よくのったお腹の部分だ。さっぱりしつつちょうどいい歯応えの斑山羊(マーブルゴート)の肩ロースも捌いてもらう。

どちらも火が入りやすいように塊じゃなくステーキ状に切ってもらう。

一部サイコロ状に切ってもらって、それを脇でフライパンへ。魔力コンロをもう二つ並べて、そっちには大きな鍋をセット。大量ストックしてある玉ねぎ、ニンジン、じゃがいもに似た野菜を投入し、ルーンに手伝って貰いながら炒める。あらかた火が通ったら、軽く焼いた肉を加え、ストレージの水袋から水を注ぐ。


「出来たよ。あと何すればいい?」


「じゃあ網出すから焼いてくれる?」


「うん」


バーベキューとか焼き肉に使う網の広いやつの下に魔力コンロを縦に2つ並べる。魔力を込め、いつものように焚き火のように燃え上がらせる。

周りの冒険者たちが眼を剥くようなことだが、シーアはもう慣れたようで平然と肉を焼き始めた。


「きゅ!」


おっ、煮えてきた。

ストレージから取り出したのは木の容器に入った白っぽい粉。実はこれ、めっちゃ頑張って作り上げたシチューのルーだ。

味を調えるように牛乳とその他もろもろを加える。

味見の結果は....?


「きゅうぅん!」


オッケーだそうだ。

私もしてみる。うん、いいんじゃない?

早速、それぞれの専用の器によそう。見張りを頼んでいたムーンも、匂いにつられて戻ってきた。


「きゅ...」


調理中は食べに来たいのを我慢してたようだ。えらい。

シーアも第1段の肉を焼き終え、シチューがよそい終わったところでみんなで早速食べる。うん、美味しい。


「「きゅうぅぅん」」


何回か作ってシチューが気に入ったようだ。早々に2杯目を求めてきた。はいはい。

よそっている間に肉が数枚ペロッとお腹に収まった。


「「「「「じゅるり」」」」」


外野からなにやら視線が。


「旨そうだな。そこの解体士、俺の肉はレアで頼む」


ずんずんと現れたディオさん。どかっと割り込んでシーアに早速注文し始めた。

主張料金は物が良いって、このことかよ。

成り行きが分からなくて戸惑うシーアに代わって肉を丁度良く焼く。

獅子人族(ライオン)らしく噛みきった肉から鮮血が垂れる。ディオさん、お好みの肉はレアじゃなくて、それはもう生肉なのでは?


「な、なあ! 金払うから俺も食っていいか?」


そういって輪に入ってきたのはセイン。


「...今度白パン奢ってくれればそれでいい」


最近売り切れててストックが尽きたんだよね。また食べたいし、丁度いい。


「もちろんいいぜ! おっしゃ、俺にもその白いのくれ!」


セインが割り込んだのをきっかけに、ほかの冒険者たちにも振る舞うことになった。そのなかには牛人族(ブル)の人も。

大食いばかりで作り直したり、シーアにもまた解体させちゃったりで大変になったけど、大人数でこうしてワイワイ食べるのも悪くはないな。



すっかり暗くなって、帰り道は大変だった。

でもまぁ、今日は良い思い出になったんじゃないかな?







次回はまだ未定です。

これからもよろしくお願いします(^^)

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