49. 魔法大会予選 2
本文後半からユイナの初戦です!
もうすぐ平成が終わりですね。次は令和。平成生まれなので、年号が変わるのは新鮮です。
結界からドヤ顔のマナリアが揚々と出てきた。わあっ! っと騰がる歓声に片腕を突き上げて答える。
第3試合は1時間後から始まる。大規模結界を構築、維持する魔法師団の魔力回復の為だそうだ。改めて凄い魔法だとわかる。
今のうちにシーアのところに行こうかな?
「リサはどうする?」
「私はいいわ。ここよく見えるし、歩けそうにないから」
と、留まることに決めたようだ。って言うより、高さが怖くて動けないのか。悪いことしちゃった。
果実水を半ば強引に、私にストレージから出させてから、行ってよしとゴーサインをだすリサ。自棄になってるのかな?
軽く着地。広場に急に現れた私に、応援やらコールやらのあめあられ。聴覚の鋭い猫耳にはちょっと痛い。精神面的にも。
聡いシーアがムーンから降りて、マルピチャとルーンを抱えて人混みに揉まれながらも来てくれた。人気の薄いところまで移動する。
「きゅうう?」「だいじょぶにゃ?」「平気?ユイナお姉ちゃん」
みんな私のことがわかっているから、それぞれの一言目は私を案じてくれる言葉だった。人混みと歓声で疲労していた心が潤っていく。
「うん。ありがと」
ぎゅうっとルーンたちに抱きついていたら、重い突風が石畳を打った。
「きゅうぅ~っ」
突如、全身がもふもふに覆われ、グリグリと押し付ける毛玉。ムーンだ。1人広場に残されたからか、もっふりと離れようとしない。一緒にマルピチャもルーンもシーアも1つの塊になって慰めあうと、やっとムーンは全員を解放した。
「ありがとね」
「きゅううん!」
地球では無かった気持ちだ。ちょっと照れくさい。
小腹がすいたらしいムーンたちとストレージの焼き串をかじりつつ待つ。シーアと私は小さめのにしたけど、他は大ぶりのをバクバクと咀嚼、飲み込んでいく。おいおい、一応これオヤツだっての。
「「おっ、ユイナ! 今メシ食ってるのか?」」
広場の方から双子が歩いてきた。肉にがっつくムーンたちに興味津々に近寄る。
「「ぎゅ~」」「にゃ!?」
「「ははは、取らねぇよ」」
そう言いつつも、眼は肉に向けられている。気の聞かないことに、双子の腹の虫が鳴き出した。
「...ぎゅ」
やらないから とルーンは串を抱える。あー、脂べっとりじゃん。
ムーンは速攻で食べ終え、マルピチャも続こうとして喉につかえてる。オヤツ1つでなんでこうなった?
このままにしておくとさらに何か起きそうだし、双子に焼き串を渡す。案の定、すぐに双子のお腹に消えた。
「シンたちも観戦?」
「「そうそう」」
そっくり同じな双子は声音もタイミングもぴったりだ。
あれ? いつもの服じゃない? いつもはもっとラフなチョッキとチェーンがじゃらじゃらついたズボンなのに。ピシッとした制服を着ているのに、ピンク髪にピアスしてちゃチャラ男感が半端ない。
「言ってもいいのかな?」「一応やめとく?」
「?」
ここに居るのになにか訳があるのか?
「俺ら、今護衛任務中なんだけど、はぐれちまってさ」「探してたらユイナがいたってわけ」
「それまずくない?」
「「まあまあ」」
いやいや、かなりヤバめでしょ。
観戦にくるくらいってことは、イベント好きの依頼者みたい。どんどん行っちゃったみたいだし、なかなかアクティブな人みたいだ。
手伝おうかと言おうとした時、鐘が3時の音を鳴らした。3試合めが始まる。行かなくちゃ。
「時間だから行くよ。見つかるといいね」
「「おう。ユイナもガンバ」」
大広場までムーンで移動。シーアたちと別れて、猫ジャンプ2連発で時計塔に帰る。リサはまだ手すりに掴まっていて、腰が引けて立てないでいた。
「ユイナちゃ....」
若干涙目。高いところに一人にしたの、まずかったかな?
第3試合は獣人の冒険者と大海のなんとかさんの激突から始まった。しかも、両者とも無詠唱だ。見た目パワー系鹿人族と、全身真っ青のお兄さん。鹿さんの方は土魔法の適性者みたいだ。かなり熟練した鋭い地の槍がいきなり広場の石畳の隙間から飛び出してくる。〈境界〉で見た玄武たち亀の幻獣のよりも粗いけど、かなりの強度だ。魔法効果が切れても、その質量で崩れずにフィールドに残り続けている。
対して大海さんは、異名の通り水属性魔法の使い手だ。魔力をそのまま魔法式で変換する術式魔法で、大量の水を魔方陣から放水、鹿さんを攻撃しながら水分をフィールドの地面一帯に含ませる。
「上手いわね。魔力の水を地面に吸わせて、それに土魔法で干渉するオニキス(鹿さん)の魔力を多く使わせてるのよ。地面に働くオニキスの魔力を自分の魔力で相殺してるの。あ、ほらオニキスも魔法発動できないことに気が付いたみたい!」
魔法の事となるとすぐに調子を取り戻すリサ。そういう習性?
1発当たれば勝てる強さを持つ地の槍を、大海さんは使用不可能にした。鹿さんは土魔法を封じられ、今までで最短で試合は終了した。
水は魔法効果が無くなり消えたが、物理に働く土魔法の後は散々なもので、フィールドの整備がされた。なんか凄そうなおじさんが土を逆再生のように石畳に戻す。更に、石畳を綺麗に磨きあげた。なんだあの魔法!?
「ああいう魔法が出来るっていうのが術式魔法の利点なのよ。もちろん魔法式の意味とかちゃんと知らないと出来ないけどね」
「なるほど」
機械に魔法式を入力したのを機械がその人のある程度の実力にあわせて作動するのが術式魔法らしい。ただ、見よう見まねではなく、ちゃんと魔法式の1文字1文字を理解しないと効果は薄いらしいけど。
おそらくあのおじさんがしたのは土魔法の高位魔法かなにかの研磨。そういう魔法式を描けるってことは、かなりすごい人かな。
「あ、ユイナちゃん次でしょ!? いかないと!」
「あー、忘れてた」
そうだ、次じゃん。
「ちょっと!」
リサに急かされて、急いで時計塔から跳ぶ。さっきは人目につくからただ降りただけだったけど、対戦相手がフィールドに上がろうとしているんじゃなりふり構っていられない。ショッピングモールで迷子放送されるみたいなことになったらマジで嫌だ。
着地地点は結界のすぐ外。いきなり現れた私に驚いた係員さんだったけど、すぐに私によく分からないバッジを付けて結界へと行けと案内された。
バッジは魔法道具のようで、付けるとさっきまでの抵抗が無くなりすんなりと入れる。
相手もすでに立ち位置にいた。ラインに立つ。
「第4試合、はじめ!」
パッと見、かわいい系お姉さん。目付き鋭いな。
「〈魔力よ水となり集え、私に大いなる力を与えよ〉! 来て水の化身!」
「トゲちゃん?」
なんだそれ?
かわいい詠唱文句と反対に、現れた魔方陣は巨大かつ大量の魔法式で埋まっている。なんかヤバい!?
総魔力を全て注ぎ込んだ巨大な水の球の中心に、お姉さんが浮かんでいる。フィールドの半分近くを埋める水の塊に長いトゲが全方向に生えてきた。その姿はまるで....
「ウニじゃん!」
トゲちゃんってこれかよ!
猛スピードで転がってくるウニ。デカい上にトゲも邪魔して逃げ場が余り無い。
「こんのっ!」
無詠唱術式魔法(仮)の風魔法を放つも、削れた表面をすぐに水が埋めてしまう。迫ってくるウニ。本気は出せないから、ジャンプにあわせて魔方陣を出し、風で更に高く跳ぶ。すぐ下を、ウニのトゲが通過していった。
「逃がさないわ!」
どこかくぐもったお姉さんの声にあわせて、ウニがトゲを伸ばしてくる! 細くなった水のトゲを風で吹き飛ばし回避。が、しつこくトゲが生えてくる。ちょっとイラッと来て、威力のコントロールをミスった暴風が、ウニの一部を消し飛ばした。
しかしすぐさま再生し、転がって体当たりを試みてくる。
ウザい、適当に沸騰させたりとかしたい。....ダメだよね、お姉さんボイルされちゃう。
お姉さんも、私に避けられるし水が有効打にならないのがわかったようだ。ウニが更にウニらしく、表面が氷に覆われる。
あのお姉さん、めっちゃ魔力量多い。まだ余裕があったなんて。
氷のせいでガツガツと音を立てながら迫るウニ。当たったら死ぬんじゃない?
風刃も傷をつけるだけで、その傷すら出てきた水滴で直る。
これ、風じゃキツくない? 他に手は....。
「あら、どうしたの? 逃げるだけなら降参しなさい」
ジリジリと下がっていたのを、逃げ腰だと思ったようだけど違う。
ドフッ!
加減して石畳の下の地面に突風を送り込み、風で土埃をたてて、フィールド内に充満させる!
「えっ!?」
いきなり視界が土色に染まり、驚いて進行を止めたお姉さん。ウニの装甲に体を置いているからか、手探りで進み出す。
待ってたよ、それを。
視界が妨げられているのは私も同じ。だけど、違うのは私が猫耳族だってこと。結界の効果で観衆の声は聞こえないし、今フィールドで聞こえる音は、敵の動く音だけ。そして音を探るのは、私の十八番だ。
猫耳を澄ませ、歩く。
ブラインドがかかった今なら、もうわざわざ光で魔方陣を描く必要は無い。手加減も、ある程度しなくていい。
目を閉じても、耳だけは自信を持って音を拾う。疑うことなく進む。空を切る氷のトゲも、頭上から迫る巨体も、意味をなさない。
「卑怯ね! 出てきなさい!」
そこか。お姉さん、見つけた。
イメージする。ウニがどういるか。そのなかでお姉さんの位置。邪魔になるトゲ。音で。
「風刃」
氷の斬れる音、落ちる水。お姉さんの驚く悲鳴。ウニが崩壊する音。
「チェックメイト」
砂ぼこりがおさまり、目が見えるようになる。
「あっ、えっ!?」
未発動の魔方陣を向けられ、お姉さんは身動き出来ずに降参した。
「だ、第4試合、勝者は神速のユイナ!」
読んでくれて有り難うございます。
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