48. 魔法大会予選 1
魔法大会(オリジナ予選)始まりです。
1時を告げる鐘に続いて音花火が打ち上がり、大広場のステージに用意されていた垂れ幕が下りる。
『ランヴァルシア魔法大会オリジナ予選』
光魔法のキラキラとした演出でステージに上がったのは領主ボロゼーノ、ギルド長エル。伝統的な大会故の儀礼的な開会宣言がなされた。熱狂する民衆をさらに煽るように、音楽隊の軽快な演奏
とともにステージへと上がった12人。名と異名、誰からの推薦かを順に紹介されていく。全員名前の通った冒険者の名が紹介されるたび、熱烈な応援が湧く。
トーナメントは一対一で準々決勝6組、準決勝3組と敗者が去っていく。決勝は三つ巴で順位を争う。
参加者は、ギルド、領主から推薦を受けたもの、残りの枠をギルド主催の予選会で勝ち取ったものと強者揃いだ。そんな冒険者たちのトーナメント表が明かされ、遂に準々決勝1回戦が始まる。
人々の視線や声、とくに名前を呼ばれる度に今すぐ穴に入りたい気持ちを抑えつつステージに立つ。
端の人から順に紹介されているんだけど、私的にはめっちゃハズい...!
「旋風の●●!」
ワー!!! 歓声
「大海の○○!」
ウワーっ!!! パチパチパチ! 歓声
「炎の魔女、マナリア!」
ウワーッ!!! 歓声
うわーっ嫌だぁ....!! マジでやめてっ、言わないで!
「神速のユイナ!」
ウワーッ!!! ピューピュー! 歓声
うわぁーっマジでイヤだ! こっち見ないでーっ!
めっちゃ見てる! めっちゃこっち見てる!
内心スゴい荒れていても顔に出さない私なかなかじゃない? あ、でもムーンたちには 絆 で繋がってるからか私の気持ちがわかっているみたいだ。ムーン、睨まなくていいから。
その間にも紹介が続いて、最後の一人、あのキツネだ。
「最後は死神狐ことグリムリーパー!」
ワー!!!
最後の一人が言われたとたん、出場者全員に大歓声が沸き上がった。
続いて、トーナメント表が発表される。私が当たるのは...あ、あのおじさんさんか。マナリアとキツネさんと当たるのは決勝みたい。良かった。
私は第4試合だからちょっと時間あるか。シーアのところにでも....は無理だね。人多すぎ。どこか人気のないところで観戦出来ないかな?
見回すもどこも人だらけだ。大広場に降りる階段は観客席と化し、控え室のテントはリンクにこそ近いけれど、参加者を見ようと張り込む人々で居づらいと思うんだよね。かといってステージには行けないし...。
うじうじしている間にも第1試合が始まろうとしていた。大広場中央の広いリンクに参加者2人が対峙する。複数人分の魔力でリンクをほぼ透明な結界が覆い、表面とリンクの床に魔方陣が展開された。なんか凄い手の込んだ結界だ。私の防御結界とはなんか違う。術式魔法って色々細かくて精密機械みたいだ。
っと、そうだった。どこか見やすい場所ないかな?
キョロキョロして見つけたのは、ステージの裏すぐにある高い時計塔。あの鐘のところのバルコニーならよく見えるでしょ。
早速猫ジャンプで飛び上がり、軽々と到着。おー、ほぼ真上から観れるじゃん! 下からだとちゃんと見えなかったし、いい場所確保出来た!
見下ろせばちょうどよくリンクの全体が見える。第1試合はマナリアやキツネさんではない人の試合だ。でも、半年間なにも気にもしなかった術式魔法ってのを観てみるのも良さそうだ。
どちらの冒険者もマナリアみたいな1つの魔法属性の使い手みたいだ。お姉さんの方は火属性、おじさんは光属性みたいだ。お姉さんの火球連発をおじさんは避けるのがギリギリみたい。あ、でも相殺した。あれは光の矢か。おじさんの方もなかなかやるけど、お姉さんの方が上手かな。複数の魔法を駆使するお姉さんに対しておじさんは光の矢しか使ってない。隠し玉があるのかも知れないけど避けてばっかで観客からはブーイングが起きていたりしている。
一際大きな炎が巻き上がり、おじさんを丸焼きに....と思ったのに、なんかピンピンしてる。お姉さんも驚いているみたいだ。その隙をついておじさんの反撃。炎を食らったと思っている間に詠唱していたらしい。またもや光の矢が...ってなんかめっちゃ多い!?
あっけにとられるお姉さんを容赦なく光の雨が貫いた。
おじさんに大歓声がわく。
え、お姉さん大丈夫なの!? 殺してないよね!?
私の心配をよそに、お姉さんが悔しそうに立ち上がってリンクから立ち去っていった。ちょっと意味わからないんだけど!?
こんな時にリサがいたらな...。
手すりから乗り出して辺りを見ると、....あーいた。って、なんかドレス着てないか?
向こうも見られてるのに気が付いたのか人混みを掻き分けて時計塔の下まで来てくれた。
時計塔内部に螺旋階段があるんだけど、長いし高いしショートカットで来てもらお。パッと飛び降りて着地。
「ちょっとユイナちゃん!? どうやってそんなところに!?」
鍵かかってるでしょ!? とリサ。え、そうなの見てなかった。
「高いところで見たくって」
「あーもおっ....」
なんか頭を抱えたリサを胴体から掴んで猫ジャンプっ!
「え!? キャアっ!」
人を抱えているからか、猫ジャンプ2回で到着。猫シューズの【最適変化】で爪を出すと上手く地面を蹴れることが分かってから更に動きが安定してきてる気がするんだよね。
リンクでは第2試合が丁度始まったところだった。結界の中にはマナリアと旋風の何とかさん。異名だけで判断する限り、炎VS風! って感じか?
『はじめっ!』
開始直後からラッシュをかける旋風さん。風刃を時間差で複数放つ上に思わぬところからカーブさせて的確に狙ってくる。
苦手なのにジェットコースターに乗った後の人みたいに萎れてきたリサは、渡した果実水を煽って復活した。ジリジリと手すりに近付き、観戦する。もしかして高所恐怖症?
「....あの人、旋風の●●って言って、風魔法の達人なの。東地区に風魔法の塾を開いてるのよ」
それでも魔法の決闘には興味が勝るのか、望み通り解説を始めてくれた。
へぇ、異世界にも学ぶのもは違えど塾があるのか。
リンクではマナリアが炎を放って反撃する。旋風さんは突風を吹かせて回避した様子。
「でも、なんで風魔法だけなの? 色々他にもあるのに」
マナリアもそうだけど、炎だけとかしか使わない人多くない? 魔法使いってもっとたくさんの魔法を使うイメージなんだよね。
「人それぞれに適性属性があるからよ。その属性だけなら、親とかに魔方陣を習えば魔法学校に行かなくても使えるようになれるの」
もちろん簡単には出来ないのよ とリサ。
ちょうどリンクでは、イライラしたらしいマナリアが土魔法の岩弾で一気に旋風さんを圧倒していく。
「魔法学校って?」
聞くと、えっ? っと信じられないって顔をされた。
「ユイナは例外として、魔法って術式魔法のことなのは教えたよね」
「うん」
ちょこまかと手数の多い旋風さんの攻撃に、炎を炸裂させて防ぐマナリア。
「魔法は魔法式を勉強して、すっごい練習をしてちゃんとその効果を発揮出来るの。適性属性以外は魔方陣は完璧でも初級魔法ですら出来なかったりするのよ。マナリアみたいに、自己流で自分の適性属性以外を使える人ってのは滅多にいない天才なの! ちゃんと魔法使いを目指すなら、魔法学校に行くべきね」
「マナリアが偉そうなのって、そういうことか」
「ほんと凄いのよ? 性格はあんまりだけど」
その魔法学校ってのは王都とか大会の会場のアインシュバルトとかの主要な街にあって、特に王都の魔法学校には〈人間界〉最高峰の学校があるそうだ。各街の魔法塾や中等部学校(基本的な計算や地理などを教える普通の学校)で魔法の才能を見出だされた子供や、ギルドの推薦で将来有望な冒険者入学するそうだ。
マナリアの土魔法による物理攻撃に、透明な薄緑色の丸い板みたいなもので耐える旋風さん。色的には風魔法か? 魔方陣が出てないけど、何の魔法なのかな?
リサいわく、魔力だけを使った防御魔法なのだそうだ。魔力弾の盾版みたいな感じ。多少の物体や魔法ダメージを軽減させる効果なのだそう。
「リサは中学出たの?」
「出たどころか、現役の高等魔法学校生よ」
え、マジか。 じゃあもしかしてマナリアも!?
心を読んだかのように言う前に答えが来たけど、マナリアはれっきとした冒険者だそうだ。
ちなみに、高等魔法学校は2年制だそうで、来年に卒業したら王都の魔法学校に入試する予定だそうだ。マナリアは不明。
魔力の盾も、魔力弾のように大量に魔力を消費するそうで、旋風さんはみるみる疲れていった。最後は炎の魔女らしく火炎弾が魔力の盾を破壊し、旋風さんの戦闘不能で勝利をおさめた。
読んでくれてありがとうございます!
おそらく次回くらいにユイナの試合です!




