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47. 前夜そして朝

魔法大会予選の朝です。次回開会!

食事の間に待っていたのは領主のボロゼーノさんと奥さんのタミアさん、娘のクレアと兄のマレー、座ってるのはライオスか!?

ライオス君、結構重症だったよね?


「ユイナさん! 兄さん、あれがユイナさんだよ」


「ゆいな~! あっ、猫ちゃんがいる!」


ダーッとクレアが早速マルピチャに飛び付いた。


「にゃにゃあ!?」


この前のことを覚えていたのか、力一杯抱き締めずにマルピチャを抱え込んだ。スリスリと頬擦りされ、固まるマルピチャの様子に、ルーンが私の後ろに隠れる。


「こんなに直ぐに来てくれたなんて、ちょっと驚きました」


おとなしいマレーもルーンに興味津々なのか、しゃがんで接触を試みている。

ルーンも、無害だとわかったのかちょっと顔を覗かせた。


「噂通り速いのね。ライオス、彼女がユイナさんよ。標本の魔物を倒した冒険者さん」


タミアさんに支えられて、ライオス君が立ち上がった。ケガ大丈夫なのかな?

後ろに控えていたメイドさんが、支えに進み出る。


「ライオス様に回復の魔法を掛けてくださいましたよね。お陰でライオス様の足も回復に向かいました。感謝します」


すれ違いざまに、小声でメイドさんが私に聞こえるくらいに呟いて行った。あのメイドさん、すっごい目利きだね。

目の前までメイドさんに支えられて来たライオスくん。えーっと、なに?


「ユイナさん、俺、ずっと物語の英雄とか勇者に憧れてて、あんな風に成りたいって思ってたんです。でもこんなことになっちゃって、諦めかけたときにユイナさんの倒した剥製を貰ったんです。俺もこんな戦いをしたいって、強くなりたいって思いました! だから、そのっ....えっと.......弟子にしてください!」


ほあっ!?

なにその急展開!


「あら、良いわね。頑張りなさい」


えっ!? ちょっタミアさん?


「おお、良いんじゃないか? キッチリ教えてもらえ」


ボロゼーノさんまで!?


「兄さん.....っ」


マレー、なに感極まりました風に泣いてんの!?


「おー、にぃにがんばれぇ!」


深々頭を下げたライオスくん。えっ、ちょっ、良いの!? ってか、また勝手に話が進んでない!?

んもう、こんな一家一団としてやる気なんじゃ断れないじゃん....。


「まぁ、いいよ」


「...!!!」


パアァァ!!! っと漫画ならつきそうな満面の笑みのライオスくん。


「ちゃんと傷が治って、全快したらね」


今すぐ弟子をやりそうなライオスくんに、しっかりと釘をさしておく。


「はいっ! 有難うございます師匠!」


師匠だって....! 地球じゃあり得なかった展開!


「ライオス、明日の魔法大会予選に彼女は出る予定だ。師匠の勇姿を観たくはないか?」


「行きます!」


ボロゼーノさんの言葉に即効で食い付いたライオスくん。これは...直ぐに弟子入りになりそうな元気だ。

というか、さっぱり忘れてたけど魔法大会のオリジナ予選って明日だったのか....!

領主一家からプレッシャーの籠った激励を貰って、さらにはムーン、マルピチャも巻き込まれてのちびっ子クレアの相手に、新弟子ライオスにせがまれて今までの冒険談(自分で言うのもなんだけど、仕方なく)などなど。

ムーンに体を投げ出して帰る頃には、未だかつてないほどの無気力感でそのまま寝てしまった。









「お姉ちゃん! ユイナお姉ちゃんっ!」


ユサユサと強引に敷き布団を揺らされたと思ったら、ぼふっと複数の枕が飛んできた。あ、この感じはクッションかな?


「ぎゅ!?」


枕もといルーンも不意打ちにだったのか、投げられたことに驚愕の様子。


「あっ間違えちゃった、ごめんねルーン」


シーア....見間違えないでね? ルーンってもふもふだけど生き物だから。

ルーンは驚きはしたものの気にしてないみたいだ。


「で、どうかしたの?」


シーアにしてはアグレッシブな起こし方だったけど。


「今日、魔法大会だよ! 時間ないって、お姉ちゃん出るんでしょ!?」


あっそうだった。


「...何時から?」


えぇーっ っとげんなりするシーア。


「お姉ちゃん...1時から開催式だよ。ほら、お昼ごはん出来てるから食べたら行こう?」


朝ごはんではなくお昼ごはんなの?

窓を見れば納得、確かに日が真上近くまで昇ってる。


「.....はぁ」


何でこう時間ってすぐ経つのかな。もうちょっとゆっくりしててもいいのに...。

シーアとリアーナさんに急かされて、パンをスープで飲み込むように食べ終わる。ルーン、マルピチャ、ムーンも、ストレージから取り出した丸焼きと煮干しの最後の一口をちょうど飲み込んだところだった。

呆れた様子の集落の皆に送り出されて大広場についた頃には、大広場は人混みに溢れ、今か今かと開会式を待ち遠しげにステージに視線が集まっている。


「シーア、ムーンたちを宜しくね。ムーン、シーアを守ってあげるんだよ」


「うん!」「きゅっ!」


あっちにギルドの人たちがいる。行ってみるか?

足を向けたところ、係員の人が私に気が付いて、出場者控え室に案内をしてくれた。あのテントがそうか。

キャーキャーワーワー騒ぐ人混みを掻き分けて進む。


「おい猫だ!」


「猫のおねーちゃんも出るのか! 俺、銀貨3枚賭けるからな!」


「あれ神速じゃねぇか!?」「ホントだ!」


「おー、猫だ。神速って異名にぴったりな闘いを観てみたいぜ」


「何でも魔物の群れでも瞬殺しちまうんだとか」


「群れって狼系(ウルフ)とか?」


「いや、そんな雑魚じゃねぇよ。もっと高ランクのをあっさり倒しきったらしいぜ!」


などなど。ギャーギャーとあることないことを騒ぐ民衆。

まさかこんなに目立っていたとは思わなかった.....。でもこれだけ有名になってたら誰かしら絡んできても良かったんじゃないかな?


ピタリ

ザワザワと煩かった人たちが一瞬で口をつぐんだ。え、なに?


「....」


民衆の目線の先には、不機嫌そうに目を細めたムーン。不快オーラ全開で赤い瞳で人々を見下ろしていた。

背中に座っていたシーアたちも若干怯えるほどの威圧だ。

ムーンがガン飛ばしてたからか....! 強いなームーンは。


「白い獣....、ねぇあれ雲獣でしょ? キミのか?」


ねぇねぇと話しかけてきたのは、


「キツネ!?」


出場者用の控え室の入り口にキツネが1匹。

何でこんなところにキツネが!? しかもこの大きさ(サイズ)、魔物じゃんっ! 魔物のキツネって喋れるの!?

って、よくよく見れば皮か、このキツネ。大きなキツネの毛皮ですっぽりと全身を覆っていた。下の服は麻かなにかで粗末だし、なんか狩人みたい。


「悪い、驚かせたか? 俺は 死神狐(グリムリーパー)。当たったらよろしくな 神速」


声音は明るく人懐っこい感じだけど、キツネの頭で表情が見えない。口元がにんまりと笑い、キツネみたいに長いギザギザの歯が顕になった。

死神狐(グリムリーパー)って異名を表すようにその背には死神の大鎌が。高い位置からの太陽光で、キラリと光る。

....あの鎌、もしかして魔結晶で出来てるのか!?

魔結晶は希少な鉱石の1つで、かなりの強度に加え魔力伝達も抵抗ほぼゼロという結晶だ。化石と同じように太古の世界の魔素が圧力で結晶化したものだと、前にリサに聞いた気がする。

小石サイズでも珍しいのに、あれはどうみても一枚岩の大鎌だ。今回は魔法しか使えないから予測しか出来ないけど、普段は物理、魔法の両方を使う戦い方をするんだろう。

杖の代わりにもなる魔結晶の武器か。トーナメントで当たったら厄介そう。

キツネの剥製の虚ろな瞳と反対に、その毛皮の陰から爛々と金眼が光り、私と死神狐(グリムリーパー)の間に緊張が走った。


「あっ、ユイナ! ここにいたの!」


それを破ったのは、テントの奥から出てきたマナリア。見知った顔がいることに少し安心した。

視線を正面に戻すと、キツネの死神にさっきの気迫は無く、狩人のように気配を出さずにテントの中へと去っていった。

....強そうだな。


「ちょっと、なにぼうっとしてるのよ! あの声聞こえないの?」


声?


現実に戻ってみれば大量の神速コール。マナリアを応援する声もなかなかだ。

恥ずかしっ!

マナリアに引っ張られていたのにマナリアを引っ張ってテントに駆け込めば、グワッ! っと押し寄せるようなテント内の空気。合計12人が出揃い、視線が交わる。ピリッとどころかバチバチとした緊張感で物凄いプレッシャーだ。


「ユイナ、当たったら全力でいくから」


それはマナリアも同様だ。いつもの偉そうなマナリアはいない。


テントの外が静かになり、拡声されたボロゼーノさん、エルさんの開会宣言が放たれ、会場は更に熱気に包まれた。




読んでくれてありがとうございます!

次回から魔法大会スタートです!

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