46. 魔法が違う?!
ユイナの魔法は本当はマズイものだった!? って話です。
魔法大会に向けての練習がてらリサとマナリアと魔物を討伐していると、マナリアが不思議そうに私を見ていた。正確には私の魔法を。
「どうかしたのマナリア?」
倒しきったところでリサも気が付いて寄る。
なにか変だったかな? 一応攻撃系の魔法は威力が上がらないようにちゃんと気をつけてる。
「ユイナって私と同じ無詠唱魔法使いだったわよね」
うん? まぁ詠唱してないね。
「でもなんで魔方陣すらないの? 術式魔法は魔方陣で制御するのよ?」
「あ、確かに言われてみれば!」
術式魔法? なにそれ?
「...魔法って魔方陣ないと出ないの?」
「当たり前じゃない! えっ、まさか無意識!?」
何を言ってるんだと2人。
「魔法は詠唱をすることで魔力で魔法式を魔方陣に書き込んで起こすものなのよ。マナリアのは詠唱を頭の中でやってるのね」
要は無詠唱魔法も詠唱魔法も同じだそうだ。
「じゃあ私のはなに?」
魔方陣なんて出ないし、詠唱文句すら知らないんですけど?
「さあ、わからないわ。ね、どんな風に魔法を使ってるの?」
「えと、イメージして魔力を出してる感じ」
「「なにそれ」」
え....。
リサもマナリアも分からないと言う。
「細かくイメージして魔力を動かす感じなんだけど」
魔法関係に詳しいリサすらもさっぱりな私の魔法。
「ユイナが異常なのかも。魔法大会では細かく観られるから使うのは危険かもしれないわ」
「そうね。イメージして魔力を制御できる、それに魔方陣が出ないなんて魔法の決闘じゃ目立つよ。魔法大会に出る人は皆魔法に詳しいから使わない方が変なことにはならないと思うよ」
頷く2人。
「じゃあ私魔法使えないよ? 大会どうすればいいの?」
術式魔法? なんて知らないし。
結果、2人が提案したのは、
「「それっぽく見せて誤魔化せ!」」
だそうだ。
という訳で、それっぽい魔方陣を光で見せることになった。早速マナリアたちに教えてもらう。
「魔法使いとは言っても全ての属性を使える人はそういないわ。私みたいに得意な魔法を主に極める人がほとんどなのよ。だからユイナもなにか1つか2つくらいに属性を絞るのもアリよ」
そういって肩掛けバックから取り出した紙に何かを書いていく。
「これは?」
紙には魔方陣が何個も書かれた。
「このいちばん上に並べて書いたのが、各属性の魔方陣なの。これはその属性を出す魔方陣の原型なのね。これだけでも魔法は起きるわ、火ならこんな感じに」
手のひらに小さく展開された火の魔方陣から火が立ち上がった。
「そして、この原型に魔法式を加えると...」
魔方陣の輪の中に意味不明な文字が現れた。
「ここに書かれたのが魔法式。これを上手く刻むために詠唱するの」
「へぇ」
「これが...」「これが術式魔法。火をどうしたいのかを命令して、最後にその魔法名を言う事で魔法が起きるの」
割り込んで説明したリサにムッとするも、ようはそうゆうことよ! と火の矢が放たれた。なんか今、若干リサ狙ってなかった?
「でも私、魔法式知らないけど?」
全く意味不明な文字の列。私の固有能力の異世界語理解 でもわからないなんて、じゃあ何語なのか。
「魔法式は昔から伝わる文字なのよ。だからこれはこういう意味なんだって勉強してからじゃないと扱えないから仕方ないわ」
「そっか」
ちょっと安心した。私の能力がバグってたわけじゃないのか。
意味をちゃんと知らないと込めた魔力が暴走することがあるみたいで、とりあえず2つ魔方陣を教えてもらった。
「ユイナちゃんは何の属性が得意なの?」
「得意とかは別にないけど、好きなのは風とか水かな」
もし猫神様の気まぐれ威力増大がでても、被害は最小限に収まりそうだし。対人戦で火とか光とか使ったら丸焼きを通り越して消し炭になりかねない。
「じゃあこの2つを覚えなさい。こっちが風、これが水の原型よ。魔法式は適当に書き加えて、さっさと魔法を使えば良いのよ」
速く魔法を使えば、魔方陣の展開から消えるまでが早く終わるから相手が魔法式を読み解けないそうだ。
試しにリサが光の矢を、打ち出しの速度に違いをつけてやってくれた。魔方陣は回転して展開されて、魔法が使われると霧散するみたいだ。確かに、普通の速さだとなにか書いてあるのがわかるけど、速くされると回転が速くて見づらい。
「ね? こうすれば魔方陣だってのはわかっても、文字は見えないでしょ」
「うん。そうしてみる」
魔法使いの2人に細かく指導してもらって、自然に魔方陣の展開から魔法を放つタイミング、消えるエフェクトを徹底的にチェックして貰った。
「風刃」
本命の魔法の他に、魔力を緑色に発色させた魔方陣が素早く展開、試験の時のような巨大なものではなく、刃渡り30㎝もない空気の刃が、標的の葉っぱを真っ二つに切り裂いた。
「うん、最初に比べたら良くなってきたんじゃない? 」
「うまく出来てるよ、ユイナちゃん!」
と、やっと2人が及第点を出したのは夕方を過ぎ、暗くなり始めたころだった。
ほんっと、この2人魔法のことに関しては厳しい。ま、でもこれで魔法大会はなんとかなるかな。
さて、シーアたちが心配しないように早く帰らないと。
◆
カリカリ...カリ...キィー..カリカリ...
目覚ましはルーンじゃなくて、このちょっと不快な音だった。黒板とかに爪を立てたみたいなやつ。
シーアたちのほうからじゃなくて窓?
「きゅうぅ」
窓の向こう、干し草から身を乗り出してムーンが爪で窓を叩いていた。
「どうしたの?」
窓を開けると、ムーンの返事よりも速く飛び込んできたのは伝書鳩。そっか、教えてくれたのね。お礼を言いつつ撫で撫で。気持ち良さそうに間延びした鳴き声が可愛い。
片手で手紙を外して引っ張り出すと、これは領主のボロゼーノさんからかな?
「きゅ?」
気になったのか、スルッと肩にルーンが登り、覗きこむ。
『至急、領主邸に来てほしい』
はい?
この前も思ったけどさ、当日にしかも時限ギリギリに呼び出すよね。前も今も、結局はすぐ来いってか。
しかも、今回のは字が結構焦ってる早書きした感じ。何かあったのかな?
「悪いけどムーン、送ってくれる? 早く来なかったとかで牢屋やだし」
「きゅう~」
ムーンは 何てことないよ~ って感じで軽やかに立ち上がって承諾した。ほんっと助かるよ。
領主邸に戻っていく伝書鳩をも追い越して、ムーンはスタッと門の前に着地した。この表面積で砂ぼこりも立たないんだから凄いよね、ムーン。
行きなり現れた私たちにビックリしながらも、槍を突きつける警備員さん。
「冒険者のユイナ。すぐ来るように言われたから来たけど、連絡入ってない?」
警備係の1人が確認をとりに走っていった。残りの1人は依然として槍を構えている。が、突然その首を捻った。
「もしかして...しんそくか?」
しんそく? えっ、誰?
「はい?」
ジーっと私とムーン、そして連れてきた覚えのないルーンとマルピチャをガン見して、なるほどと頷いた警備員さん。
いや、なんなの?
「あのー、しんそくって?」
「あれ? そういう異名が付いてるの知らなかったのか? この街じゃあ有名人だぜ、お前」
しんそく は神速と書くらしい。意味はそのまんまチョー速いやつだそうだ。
この警備員のお兄さんは普段は冒険者だそうで、今はバイト中らしい。
「神速は、いつも不規則な時間に現れては、俺らじゃ1日一件が限界のレベルの高い依頼を幾つもかっさらって夕方にキッチリ全部クリアしている謎の猫の冒険者。しかもその狩る量がおかしい。
実際にその戦闘の様子を観てみれば、一瞬で魔物が次々と倒れていくってな」
冒険者の間じゃ知らない奴はいねぇよ とお兄さん。
マジか。だからひそひそ言われてたのか?
「で、その神速は領主にも気に入られてるのか。魔法大会とか出たりして?」
ニヤニヤとからかいが止まらないお兄さん。ちょっとムッとする。
「まあね。それと、私の名前は神速じゃなくてユイナだから」
「そうか、ユイナって言うのか。遠くからしか見たことなかったから知らなかったけど、案外ちっちゃくて可愛いのな」
「....」
ニシシシと笑うお兄さん。
そうこうしているうちに確認が取れたらしく、いそいそと警備員さんが戻ってきた。
顔が煩いお兄さんにムーンたちを任せようとしたら、ルーンとマルピチャが着いてきてしまったけど、なんか急かされてるからしょうがない。そのままメイドさんに屋敷へと案内された。
今回は執務室じゃなく、食事の間に行くみたいだ。何でだろ?
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