42. 新しい依頼
方向としては冒険者生活に戻ります
朝ごはんを食べ、皆でギルドを訪れると待ち構えていたかのようにイラさんが奥から飛び出してきた。
「どうしたの?」
大きなウサギ耳をピンと立てて、イラさんが私を奥の客室に連れ込んだ。いったい何?
あとから追ってきたシーアとルーン、マルピチャ(ムーンは今回は外で待っている)も困惑顔だ。
イラさんは「ちゃんと待っていて下さい」とだけ言ってまた走り去っていってしまった。
出された水をチビチビ飲んでいたら入ってきたのは黄犬人族の....確かエルさん? とイラさん。
向かいのソファーにどさりと座ったエルさん。うわ、近くで見るとやっぱり凄い筋肉。
「久しいなユイナ。試験以来か」
声は大きくないがお腹に響いてくるような低音だ。
「あ、はい。そうですねお久しぶりです。で、なんです?」
チラッとイラさんを見たが、イラさんはエルさんにガン見中だ。そういえばイラさん、エルさんの大ファンだっけ。
「突然だか、ついこの間中位魔物の赤角蜥蜴を複数体こちらに持ってきたな。イラミシアから聞いていると思うが、まるまる1体を依頼していた人が実はこの街の領主で、その息子の見聞を広めるためだったそうだ。領主がお前が倒したのを知ると、傷が無く見事だからこれからも贔屓にしたいとのことだ」
「へぇ」
オリジナの領主の依頼だったんだ。だからなかなかの値段だったのかな?
「それで、早速数体お願いしたいとの依頼が来たんですよ。対象は中位魔物です。珍しい魔物が特にいいとのことですよ」
報酬は銀貨150枚。やらない理由がないね。
「了解。いつまで?」
「今月中とのことです。解体は剥製職人が行うとのことなので、倒したその日にギルドに持ってきて下さい」
「わかった」
ストレージにあるやつも渡すか。食べきれないほどあるし、何より時間経過がないから倒したてホヤホヤだもん。
「きゅ?」
あれ? なんかエルさんがルーンをガン見してる?
「あぁ、雲獣は珍しいからな。幻獣ってのはこの世界の各所に住んでいるとされるがお目にかかれることはまずないからな」
口調は穏やかだが、ギラギラとした眼が 欲しい と訴えている。
「ムーンとルーンは私の相棒...絶対手なんか出させないからね?」
ちょっと威圧してドスを効かせたのに、流石は英雄。エルさんはほとんどどうじなかった。
その後、イラさんに何件か依頼を用意してもらって、皆でちゃちゃっと討伐。鳥系の機動力のある魔物を担当したルーン、マルピチャの空間魔法と風・水魔法のコンビネーションがとても良くて、ガンガン魔物を狩っていった。なにかと子供じみたことでケンカしている2匹だけど、案外仲が良いみたい。
私、ムーン、シーアも、大型のB~Aランクとその上のSランクの中位魔物をおもに狩った。早速かなりの数の魔物を領主さんに献上できるかな。
ムーンたちのお陰で美味しそうな魔物が沢山とれたし、その日の昼食は早速シーアに解体してもらって丸焼きになった。
家と外との調理法の雑さの違いにシーアはまだ慣れていないようで、この昼食の度に苦笑いだ。私は基本的にめんどくさがりだからね。
そんな乱暴な調理でも、美味しいものは文句なく美味しいのだから構わない。
その日の夕方、いつものように人気がなくなってきてからギルドに行って依頼完了と、領主宛の魔物十数体を持っていくとエルさんがカウンターに立っていた。
「珍しいねエルさんがいるなんて」
「そうなの?」
と、シーア。シーアはあんまりギルドに入ったことがないからそ分からないのは当然か。
実際、私もイラさんばっかに対応してもらってるからあんまり知らないんだけどね。それでも、ギルドマスター自ら受付やってるのはまずないでしょ。
「実は、今日は書類が少なかったのでな、ちょっと冒険しに行ったら速攻で職員にバレてお仕置き中なわけだ」
なんだその子供みたいなの。
しっかり者だし仕事は優秀でなんだか権力もあると聞いてるけど、中身は意外と子供みたいなのかな?
後で聞いたけど、ディオさんはエルさんの昔のパーティーメンバーだったらしく、ちょっとの暇さえ見つければ冒険に行ってしまうという。ディオさんも堅固な人だと思ったのに中身は違ったのか。
「きゅ~」
ルーンが お疲れ様です とばかりに同情して鳴いた。エルさん、しっぽが項垂れてるよ。
数人の冒険者に混じって魔物を受け渡すと、やっぱり目線を感じる。人気がないとは言っても、誰かしらはいるものだ。食堂でやけ酒をしているやつとか、彷徨いてるのとか諸々。
冒険に心残りを感じているのかぼーっとしているエルさんを、いつか見た受付のお姉さんが遠慮なく叱咤する。仮にもギルドマスターを叱って良いのか微妙なところだが早く帰らないとリアーナさんが心配しちゃう。
ギルマスを、眉を吊り上げて早口に説教していたお姉さんに笑顔で見送られ、外で待ってもらっていたムーンに乗って来た道を戻る。
風の音に微かに、お姉さんの怒号が聞こえた。
アクアパッツァ擬きを食べ終えベッドに入ると、マルピチャが枕元にやってきた。ちょっと深刻そうに真面目な話のみたい。
「ユイにゃ、〈境界〉から連絡が来たにゃ。青龍様が、〈魔界〉の上位魔人数人がどうやってか〈境界〉を抜けて〈人間界〉に来たみたいにゃ。朱雀様の下の鳥たちが調査してるってことにゃ」
一応気を付けておくにゃ とマルピチャ。
「あれ? 魔人って魔素が薄いこっちじゃまともにいられないんじゃなかったっけ?」
「普通は無理にゃ。でも定期的に魔物で魔素を摂っていればかなり居られるみたいにゃ」
そんな...マジかー。ならもっと魔人ってこっちにいるんじゃ?
「大丈夫にゃ。魔素を外部から摂れる程の魔人はほとんどいないにゃ。実際、1人以外はすぐに魔素が無くなったみたいでもう消えたにゃ。実質1人が潜伏中にゃ」
じゃあ、大群が潜んでたってことはないのね?
「でも、その1人はかなりの実力ってわけ?」
「そうにゃ。かなり高位の上位魔人と考えた方がいいにゃ」
ぶるりと身体を震わせるマルピチャ。やっぱり、高位だとかなり強いのかな。
「そいつ高位なんでしょ? 魔王ってことは無いの?」
マルピチャらふるふると首を振る。
「それは無いにゃ。魔王レベルの魔力反応なら〈境界〉を秘密裏には抜けられないにゃ。それに、魔王が〈人間界〉に出現すれば聖教会から勇者が派遣されて、もっと騒がれるはずにゃ」
あー、良かった。やっぱり勇者って魔王退治するんだね。
あ、でも待てよ...。
「魔王がいることがバレるなら、私も魔王だし勇者来るんじゃない?」
私、一応〈境界〉の魔王だし。仕事してないけど。
「まあ、あり得るにゃ」
おい。
「いざとにゃったら、にゃーが空間接続で逃がすから大丈夫にゃ!」
そのためにいるにゃん! と胸を張るマルピチャ。
「うん、そうだね。ありがと」
「当然にゃ!」
ちょっぴり頼もしいマルピチャを抱いて寝たら、朝、拗ねたルーンに叩き起こされた。お詫びとはなんだけど、その日いっぱい、ルーンと過ごしたらムーンに今度は拗ねられた。明日は皆で過ごさないとね。
読んでくれてありがとうございます!
次話もよろしくです。
ちょっと王道ぎみになるかもです...




