40. 終幕
〈境界〉編これでおしまいです。
9/5 修正、追記しました
私と同じ様な、人間の姿にそれぞれの動物の耳や角、鱗や竜の髭、甲羅やしっぽを持った姿の幻獣たち。猫科幻獣なんて私と一緒じゃん! ちょっと心細かったからすっごく嬉しいんですけど!
そして彼ら全て普通か普通以上の顔つき。神様効果スゴくない?!
「どうかした?」
ボサボサツンツン髪の少年は玄武か、前のゴツい姿はどーした。めっちゃチャラいよ?
つかさ、これみんな麻服なのがもったいないよ。なんかちゃんとしたのの方が絶対良い!
「いや、仲間が増えたなって」
「はい! これで我らもユイナ様と同じですね」
うん。そうだね一緒だ。
「くきゅうううん」
「きゅう」
ムーンたちはそのままなのか。<境界>にいたのになんで?
「きゅっ」「きゅーん」
私を見た後にぽふぽふと白い毛を指す2匹。それから 嫌々 のバッテンポーズ。
「むきゅうう」
ルーンがムーンに抱きつく。
あ、わかった!
「もふもふのままでずっといたいってことね」
「「きゅうん!」」
私が2匹に抱きつくのが好きなことを考えてたのか・・・・・ほんっと良い相棒っ!
そのままぎゅうううっっとムーンに埋まる。癒されるもふもふ具合だよ・・・・・・。
「ユイナ様、魔王はどうします? 気絶しているようですが」
「ああ、面倒だから意識奪っておいたの」
「流石・・・・」
四守護獣の中で最年長は・・・青龍か。
「ねぇ、こいつどうする?」
キリッとした青年の青龍。1拍置いてから
「魔王は魔国の主だ、殺すのは不味い。醜態にして魔国に放ってしまえ」
「さいですか....」
醜態って。青龍恐ろしいね....。玄武も若干引いてるじゃん。
冗談じゃなく真顔で言ってるとこ凄い。
「じゃ、任せていい?」
「分かった。前回の分、殺さないが死ぬほどの羞恥を曝してやるか」
「あ、ハイ」
青龍から呪いが飛んで来そう....。さっさとここから離れよ。
「怪我したのいる?」
「いえ、皆傷も少ないです」
おー、よかった! まぁでも一応治癒空間、それと、体力の回復の回復空間展開。
緑と黄色のエフェクトが立ち上ぼり、幻獣たちの疲労も取れ、表情が柔らかくなった。うん、上手くいったね。
「「「「感謝します、ユイナ様」」」
「....あのさ、さっきからユイナ様ってやめない? なんか慣れないんだよね、もっと砕けて良いよ玄武とかみたいにさ」
「俺?」
「そう。1番硬そうなのに」
「....仕方ねぇじゃん」
「こんな感じね、砕けてるって、おっけー?」
「「「....はい」」」」
さて、もう〈境界〉はひとまず大丈夫かな? 私のメインはオリジナだし、出来たら戻りたいんだけど。
「それでしたら、マルピチャをお連れ下さい。空間魔法でユイナ様のお部屋とここを繋ぐことが出来ますから」
「帰って良いの?」
「マルピチャと一緒に行動して貰えればです」
「マルピチャ? でも空間魔法も自分の縄張りじゃないと転移は出来ないって言ってなかった?」
そこにぴょこっと現れたマルピチャ。
「ユイにゃの持つ土地は〈境界〉の一部になるのにゃ。だからユイにゃが土地を借りただけでも一時的に空間接続可能にゃん!」
誇らしげなマルピチャ。
そっか、私〈境界〉の魔王なんだった。なんか変化ないし、あんまり自覚無いんだよね。
「それって宿屋でも出来るの?」
「勿論にゃ! ただし、魔力が足りないからユイにゃのヘルプが必要不可欠にゃ」
はいはい。やっぱりね。
これでもし<境界>に何かあっても対処は出来るようになった。こうしてもらえれば私もいつもどおりに暮せるしね。君主、君臨すれども統治せずってやつ。イギリスには失礼だけど、ニート君主にはぴったりな政治体制だ。
と、言うわけでマルピチャが私たちのパーティーに加わった!
ムーンとルーンのもふもふ歓迎ハグに埋もれていく。
ルーンほどじゃないけどさらさらぽかぽかなマルピチャも加入、大歓迎だよ!
「よろしくね、マルピチャ」
「ムーン気持ちいにゃん! よろしくにゃ二人とも!」
って、聞いてないし。
ヤバイにゃ・・・・と青ざめたマルピチャ。話を強引に変えて。
「もう今日は祝うにゃー!!!」
の一言に周りの幻獣が賛同し歓声が沸いた。昼から始まった<境界>の宴会は夜中まで続き、<境界>に自生する植物や珍しい果実、なんてことのある昔話などを語りあっているうちに夜は更け、気がついたらムーンに潜り込んで眠っていた。
少し日が昇った昼前、昨日中途半端になってしまったから皆にねぎらいの言葉を添えて<境界>を出発。別れ際、幻獣たちに盛大に見送られ、マルピチャを新たに加えた私たちはオリジナへと帰途についた。
◆
柔らかくなり始めた夏の日差しから、もうすぐ秋になるのかとふと思った。異世界でも四季があるんだね~。それでも暑い空気を風が流し、木陰の快適さが増す。
隣に腰掛けるシーアに「それでそれで?」と続きを促され、少しショートカットして聴かせる。
なにをっていうと、〈境界〉への旅の話。
行って帰って来るまでの話をシーアに話している間、日差しの中でも元気なムーンとルーンは丘陵地帯を駆け回って遊んでいる。マルピチャは黒毛だからか、私たちに混じってにゃんにゃん相づちをうちながら微睡んでいる。
そんなのどかな風景に異様な小山がひとつ。
「それで、帰り道にいたっていう赤角蜥蜴の群れがあれなの?」
「そう」
そんな赤角蜥蜴の小山に取り付いて鑑定していたギルド職員のイラミシア、愛称イラさんが息を乱しながらこちらに帰って来た。
「ごめんね急で」
「全く..もうっ..!」
木陰に倒れ混むように入ったイラさんは渡した果実水をあっという間に飲み干した。すいません。
「赤角蜥蜴18匹の鑑定結果は、状態良好で銀貨50枚ね。ちょうど綺麗な状態のがそのまま欲しいって依頼した人がいたから、依頼受理しておいたから銀貨6枚追加ね」
「うん、ありがと」
やっぱりイラさんは優秀だ。急にギルドから引っ張ってきてもしっかり仕事してくれる。
「にゃ...」
若干呆れたようにマルピチャがしっぽを払った。
「きゅうう~?」
いつの間にかムーンたちは遊びをやめていたらしい。小山の前に立って此方に これ食べないの? と鳴いた。
言葉はわからないけど、全員に意味が伝わるほどそわそわしている様子。
「シーア、とりあえず1匹解体してくれる?」
「はーいっ」
苦笑しながらシーアがムーンに駆けていった。
適当にストレージから出して置いたから積み重なっているのをムーンが降ろす。
赤角蜥蜴は表面に日光を適度に当てると美味しく、また皮に光沢が出るそうだ。絶賛天日中なわけ。
遠目にも流れるような手捌きで、シーアと同じくらいある赤角蜥蜴が綺麗に解体された。すぐに食べられるように細かな骨も取ってくれたみたいだ。
「おねーちゃーん! 出来たよーっ!」
久しぶりでテンションの上がったシーアにこちらも叫び返して、イラさんも連れて向かう。こういう時はみんなで食べないと。
ストレージから取り出した魔力コンロでキャンプファイアさながら焼いた肉に食い付いていればあっという間に完食し、イラさんは手を降りながら帰って行った。
後で赤角蜥蜴をギルドに持っていかないと。
強かった日差しも夕方には和らいで、夜の星空が空をオレンジ色から紺色に染めるころに町を歩く白い塊と少女が1人。よく見れば白い塊は動物で、その広い背にはもっと小さな黒と白の2つの毛玉が乗っている。
更によく見てみれば、隣を歩く少女にはぴょっこりと三角の耳とすらりとしたしっぽが揺られているのも見えるだろう。
感知能力の高い彼女だ。気づかれないようにチラッと見てみよう。彼女は柔らかな笑みをたたえて、後ろを振り返った。
そんな彼女たちを隠れるように追いかけていた女の子は、イタズラがバレて誤魔化すように笑って少女の手を握った。
呆れたように笑い返して、少女は再び人気のない街中で歩を進める。
彼女は、また夕暮れにギルドに訪れるのだろう。
今度は、仲間たちと共に。
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〈境界〉からの帰りの会話
「オリジナに帰ったらシーアに今回のこと、マルピチャも〈境界〉のことちゃんと説明してよね?」
試験が終わってすぐ、〈人間界〉の端までいって〈境界〉の魔王になって帰って来たなんて、〈境界〉に向かう前にしたざっとの説明じゃあわからない。マルピチャからも説明してほしいと思ったからだ。
「それは無理にゃ」
「え? なんで?」
「この前は人間の家に緊張してたかにゃシーアと関わらなにゃかったけど、そもそもにゃーたちと人間は会話できにゃいのにゃ」
「えっ、マルピチャとか白虎とか〈境界〉のみんなは普通に私と喋ってるよね」
「それはユイにゃが特別だからにゃ。ユイにゃの何かが作用してにゃーたちとしゃべれるようにしてるにゃよ」
私の何か?
あ、もしかしてあれかな、異世界語理解。
自分が異世界の人間で、転移してこちらに来たこと、貰った能力を伝えると、驚きながらも納得したようだった。
「多分、ムーンとルーンにその能力が作用しにゃいのは〈境界〉と違って集団全員に伝わる言葉じゃ無いからにゃ。雲獣だけのコミュニケーションだったらにゃーたちには伝わらないにゃ」
「そうなんだ」
「にゃーたちは声とか動きとかで会話するにゃ。だからシーアにはただ鳴いてるようにしか聞こえにゃいにゃ」
「ふーん」
じゃあ私が全部言うのか。
「私も〈境界〉のことあんまりわからないから、教えてよ?」
「にゃーい」
読んでくれてありがとうございます!
次回から新章入ります!




