39. VS魔王ナーヴァギル
遅くなりました!
魔人は悠然と降り立ち、相対する<境界>側を一匹ずつ見定めていく。
魔人の眼が向けられたとき、全身が凍りついたように身動きが取れなくなった。なにこれ?!
ニタリと笑う魔人の口から、長い犬歯が覗く。
「おまえか」
そう呟いたと思った瞬間、魔人が消えた!? 次の瞬間にはなんか目の前いる?!
「っ...!」
魔力を聖属性に強化して解き放ち、なんとか魔人をギリギリで弾き飛ばす。あっぶな!
と思ったら、浮遊して衝撃を受け流していたらしい。すぐさま追撃の赤い刃が明らかに首を狙ってくる。が、こっちも臨戦態勢だ。軽いステップで全てかわす。
魔人の両手が赤々と光ったと思ったら、さっきとは比較にならないほどの量と質の赤い残撃っていうか蝙蝠?
決まり文句と共に放たれたそれをかわすも追い掛けてきた?! 追尾するのか、これ。
なんならこっちも風刃で撃ち落とす。細々としたのは正直得意じゃないけど、カッコいい戦闘マニアの猫神様効果によって綺麗に全て相殺される。
「これ防いだの、お前が四人目だぜ。なかなかやるみたいじゃん!」
「そりゃどうもっ!」
こっちも猫爪で反撃する。猫グローブの【破壊不可】【最適変化】によって鋭く長く伸ばした猫爪で、残撃を残しながら切り裂く。が、容易にかわされてしまった。
素早くカウンターで攻めかかる魔人を、猫爪で受ける。
力こそ余りないものの、そのオーラが重くのし掛かってくる。
「っ....!」
このままじゃ負けるかも。
猫爪を斜めにカーブさせ、ずり落ちた魔人を衝撃波と共に猫パンチ! 予想外だったのか、今度はかなり吹き飛んだ。
勢いを止め、一瞬止まる時を狙って地面を隆起させる。
四方から迫る大地の槍が、オーラによって粉々に風化した。
砂塵から、禍々しい赤いオーラを放ちながら現れた魔人。ニタリと笑うと、偉そうに仁王立ちになる。
「良いじゃんお前。 名前は?」
「ユイナ」
だけど、それだけじゃない。
「〈境界〉の魔王、ユイナだよ」
威圧も籠めて告げたとたん、魔人がこれまでに1番の笑顔で眼を妖しく耀かせる。人間とは違った逆三角形の舌が口の端の血を舐めとり、長い牙が覗く。
「そうか、お前が....!」
やっぱり、あれだけ聖蒼岩が光ったから〈境界〉の魔王が新たに出現したことは分かっているらしい。
聖属性にピリピリしてる魔族なら、分かって当然か。
「そういうそっちは? 只の魔人じゃないよね」
「ふっ! そうだ、名乗るのを忘れていたが俺は魔国ランヴァルシアの国主である魔王ナーヴァギルだ! 覚えとけ!」
魔王かぁ....、強いから相当上位魔人だとは思ってたけど魔王かぁ....。めんどくさ。
つか、覚えとけ! って負け犬が吠えるやつじゃね? まぁ、いっか。
「魔王ナーヴァギルね。ちょっと心外だったよ」
特に容姿が。魔王ってあんなガキなの? 私も似たようなものだからあんまり言えないけど!
「まさか魔王と戦えるなんてな! ここでお前を倒せば今度こそ〈境界〉は俺らのものだ! とっとと潰してやる!」
「ふざけるな! 我らは決して屈しぬ! ユイナ様、ここは我らが!」
「大丈夫」
魔王ナーヴァギルとの間に白虎が入ろうとするのを止める。
魔王はチラッと乱入者を目測し、再び私を見据えて笑う。私の方が美味しそうらしい。
上空では、朱雀がオロオロしながら飛んでいた。
それを煩く思ったのか、さっきの赤い蝙蝠の攻撃が放たれる。悩んでいたらしい朱雀が反応した頃には蝙蝠は目前にまで迫っていた。
突如、眩しい光の束がそれを消し飛ばす。
青龍の雷咆哮に、魔王は振り向きもしないで私だけを獲物を狙う眼で見ている。
張り詰めた空気を破ったのは魔王だった。
先程とは桁違いの赤い蝙蝠が放たれ、その姿が見えないほどの数が押し寄せる。今度のは蝙蝠1匹であってもかなりの攻撃力を持っているみたいだ。後ろにいる味方に流れていったら危ないな。
風刃の威力じゃ今度は相殺出来ないかな。なら、止めちゃえ!
「とりゃぁ!」
気合いいれて叫んだことないから変な掛け声になっちゃった。
魔法は私のイメージ通りに展開され、聖属性に青く光る魔法の網が蝙蝠を全て包み込み、まとめて打ち消す。でも、網はこれだけで終わらない。1度丸まった網を反転させ、覆い被さった先には魔王。
攻撃魔法でもないこの網には、猫神の我儘は通らない。込めた魔力に比例して私のイメージが魔法に変わる。
かなりの魔法で創られたこの魔法の網は、そう簡単には消えない。
魔王を包み込んだら、網の口を繋いで出口を完全に塞ぐ。
出ようと暴れる魔王を抑え込めるために魔力を絶え間無く網に込める。最初の蝙蝠でかなり網の耐久度が消耗していたらしい。修復にだいぶ魔力を喰われた。
その高威力の蝙蝠たちを更に魔王は出す。今度は網もびくともしなかった。
ていうか、魔王さん、さっきから蝙蝠しか出してなくない? もしかしてこれしか無いとか?
「ユイナ様、流石です」
「めっちゃスゲー! ユイナ、ナイス!」
ちなみに最初が白虎で次のが玄武だ。硬っくるしい白虎と違って、体は1番硬いはずのゴツい玄武が1番砕けてる。
「ぐぬぬ、放せ! てんめぇこのヤロー!」
ギャーギャー何処かの魔王さんが五月蝿いけど、魔法も声も五月蝿いから網を更に縮めて、網との隙間すら無くす。ピチピチじゃん。
「おい! 聞いてんのか! 放せよっ!」
いや、するわけないでしょ。
「バカなの?」
おっと、声にでちゃった。分かりやすくお子様魔王が激昂する。
あんまり暴れられるとこっちも魔力を大量に使ってるから疲れてくるんだよね~。一回マジで黙ろっか。
「ちょっと黙ってね」
荒れまくってる魔王くんの脳波にピンポイントで脳天に撃ち込まれた魔力弾の振動で魔王くんはやっと黙って倒れてくれた。
「あー、疲れた」
特に魔王が。
魔力も威力もあるのに、攻撃に多彩さが無くて上手く生かせていなかった。そんなところがいかにもお子様魔王って感じ。
「さて、あとは崖下のだよ。良い機会だし、皆人型で戦ってみない?」
「「「「今ですか?」」」」
「そ、今あそこは魔法無効空間だから魔法は使えない。魔人だって今は8割くらい弱体化されてるから、皆が人の姿で戦闘に慣れるには良い機会じゃない?」
「「「「!」」」」
「私もルーンたちも行くから大丈夫。行こっか」
それでも不安そうな幻獣たちだったが、数名が人型になって崖に向かい始めた。
行ったのは耳とかしっぽからしてライオンと豹、あれは竜かな? 亀も続く。
早速、崖を登って来ていた魔人と交戦し、あっさり勝ったことを切っ掛けに、自信を持ったのか更に進んでいく。その様子に、他の幻獣も参戦していき、持ち前の身体能力で全勝して帰って来た。
「流石、出来るじゃん」
まんざらでも無さそうな笑顔の幻獣たち。これで自信がつけば、かなりのパワーアップになると思うんだよね。
さて、まだオヤスミ中の魔王くんはどうするかな?
「ねぇ白虎。魔王ってどうすれば....」
振り向くと、そこには1人の少年が。もちろん耳やしっぽはあるけれど。
白髪に、一筋の淡い黒のメッシュが入った髪から、ぴょこんと出た耳。麻質感の服から覗く肌も白い。スラッとした長い尾は元の姿を強く表している。
「はい。....なにか?」
ガン見されているのを不思議に思って困惑を表す大きな紫の瞳も、童顔にしっくりくる。
その異様な様子を見に来た朱雀。
「どうしたの?」
その朱雀もまた、赤に軽いパーマのかかった髪に、トレードマークの2本の長いアホ毛をそのままにして少女になっていた。長い尾羽をヒラヒラさせて駆け寄ってくる。
集まっているのか? と疑って来た玄武も、人型だった。
翡翠を思わせる髪はピンピンと跳ねていて落ち着きがない。しっぽの甲蛇も、しゅるるっとうねって少年の腕にとぐろを巻く。
後から来た青龍だけ、1番の年長者からか青年といった様子だった。ロングストレートの深い青の髪から、角と耳が覗く。その付け根からは青龍の硬質な髭がキラキラと光を反射してなびいていた。キリっとした顔なだけあって、麻の服なことが勿体無い。
執事とかやってそうな雰囲気だ。
「ユイナ様? どうかしましたか?」
「どーしたユイナ?」
その様子に、幻獣たちも集まってくる。
?を浮かべる幻獣たちを前に、
「....」
絶句した。
猫神様よ、なぜ美男美女揃いなの?
読んでくれてありがとうございます!
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