4.もふもふな獣
森の中、背の高い草むらを掻き分けて二時間くらいたった。森は全然開けない。
.......まずい。
これはもしかしたらアレになったんじゃ?いや、違う、違うと信じるっ!
更に二時間くらいたった。景色は相変わらず森一色だ。
んん、認めたくはない.......けどこれは.......。
「遭難者ってやつ.......だよね。」
異世界初日、スタート位置の森から一歩も出れてない説。
うわぁぁぁ.......。出口どこぉ~?!
発狂しても状況が変わるわけもなく、ウルフが2匹出現する。やっべ。
2方向から襲い掛かってきたウルフを、長剣を素早く引いて突くの2連撃で頚椎を切断して倒す。
このとき、血管に切っ先を当てないようにすると血が出なくて見た目が良い。
スプラッタは回避だよ。私、これでも女子高生だもん、生々しいのはおことわりですよっと。
ウルフをストレージに仕舞い、再びあるきだすと、前方でなにか話し声が聞こえてきた。もしかして、人?
いきなり私が出ていっても変だから、猫耳を澄まして聞き入ることにする。
森を歩いてわかったことがいくつかある。猫耳と猫しっぽが外せないこと。しかも、神経が通っていて、私から生えていること。それで、耳がとてもよくなった。風で葉っぱどうしが擦れる小さな音も拾える。今だって、普通の耳ならまず聞こえない位置から話を聞けている。
ここに来て、私の人間の耳は何処かに行ってしまったみたいだ。
状況は良く分からないけど、今の私は人間に猫耳&しっぽが生えたネコっこだ。
ファンタジー世界によくいる猫耳族とかって人種になってる。こういうキャラにはゲームでなったことがあるから、別に嫌とかはない。
1度、水溜まりで見てみたら、私のシルバーの髪色と黒い猫耳はよくマッチしていたし、かわいいと思う。しっぽも黒だった。
色の感じだと、シャム猫って感じかな?
あ、1つだけリアルの私と違うところがあった。猫耳&しっぽを除いて、見た目は同じなのに、そこだけ違う。
瞳の色が黒じゃなかった。何故かオレンジ色になってた。
ネコ効果なのか、神経が鋭くなって、耳も目も身体能力も、ゲームキャラ以上によくなったから文句は無いけどね。
でも、シャム猫なら瞳は青でしょ。いまいちわからない。
がさがさと下生えが揺れる音がする。
やっぱり誰かいるよね。何の話をしてるんだろ。
猫耳を前方に傾け、聞き耳を立てる。
「上手くやれよ?やっと見つけただぁーいじな獣なんだ。慎重にそっちから追い込め。」
「オーケー!引っ張るぜ!」
がさがさっ!
下生えの中を移動しているみたいだ。
獣を捕まえに来た人たちだから猟師さんかな?
「今だ!被せろぉっ!一攫千金はもう夢じゃないぜ!」
がさがさっ!がさがさがさっ!!
猟師さんたちが追い込みを始めたみたい。どんな動物なんだろ?
「きゅーっ!」
のわっ、かわいい鳴き声。なんだろう?地球にはいなそうな感じの鳴き声だ。
猟師さんたちは捕まえて売るのかな?一攫千金っていっていたし。
結構レアな動物なんだろうね。
猟師さんたちは上手くいって笑いながらごそごそと作業している。檻にいれたとかしているみたいだ。
猟師さんたちは、いざ、撤退。というところで、空から降ってきた何かに吹き飛ばされた。
ドオオオンッ!!!
「「「うわ?!」」」
「?!」
衝撃で地面が振動する。この感じ、ゲームのボス出現と同じ展開になってる?!何かは分かんないけど!
「くそっ!あと少しだったのにっ!」
「おいっ!逃げるぞ、ずらかれ!」
アワアワと逃げ始める猟師たち。そのうち一人はさっきのかわいい獣を入れているのだろう膨れてもぞもぞ動くずだ袋を担いで、私のそばの茂みから飛び出してきた。
一瞬、こちらを見た気がするけど、脱兎のごとく三人は逃げ去っていく。
逃げ去った森の奥から響く、憤怒丸出しの足音が、高速で向かってくる。
やられた、多分モンスターを私に押し付けたんだ。私はしなかったけど、ソロプレイヤーが、モンスターの大群や強大な相手に襲われたとき、一番生存率が高くなる方法。
さて、どうしよう?
歩き回っている間に倒したウルフや猪で、この世界での身体には慣れてきた。順応はある程度出来たし、この身体は身体能力が高いみたいだからなんとかなるかな?
猟師三人が逃げるほどのモンスターとどれだけ渡り合えるかな?
出来れば逃げたいけど、もう叶わない。
背の低い木々からモンスターが飛び出し、唸り声をあげる。
目の前に現れたのは凶悪なモンスター.......?
「きゅるるるっ!!」
ではなく、さっきのより少し低いかわいい声で唸るもふもふ。
大きな白い毛玉だった。
「.......。」
「きゅるるるっ!!きゅうーっ!」
もふもふな獣は更に威嚇し、唸る。しかし、どんなに体勢低く2本の角を向けて構えて睨み、唸っても.......
「か、かわいい.......っ!」
抱きつきたいほどふわふわな毛並みと、丸っこい体、大きくてふさふさなしっぽ、それに、のほほんとした顔付きに小さな赤い目では、怖くない。
「きゅうっ!きゅううっ!」
私が呆然として動かないのに焦れて、牙を向けるも、白い毛並みにかわいいピンクの口ではかわいさ倍増なだけだ。
なにこの生物、可愛すぎでしょ?!
もふもふな毛玉はしばらく威嚇アピールをするも、微動だにしない私に疲れたようで、脱力したように伏せになった。
「きゅるる.......。」
顔を地面につけた状態から私を精一杯睨んでくるも、いくら大きな毛玉...もとい獣でも、立っている私のお腹くらいに頭があるため、赤い目が上目遣いに見上げているようにしか見えない。
じぃーっ
じぃーっ
もふもふは睨み続ける。ううっ、そんなに見られると.......!
もふもふボディを見た瞬間からその衝動に駆られていたが我慢していた。けど......っ!
「触っても良い?」
「きゅ?」
もふもふは顔に ? を浮かべる。けど、私がうじうじしているのに気付いたようで立ち上がった。
「きゅう~。」
言葉は伝わったようだか、触らせても良いものか思案しているみたいだ。
「大丈夫、私、何にもしないよ?ただギュッとしたいだけだよ?」
「きゅう?!」
私がハグするみたいなに腕を動かしてみると、もふもふは何かと勘違いしたのか後ずさる。
でも、私に敵意がないことが分かったのか、ゆっくりと近付いてきた。
そして、
もふっ
「......!!!」
これは、ヤバい!めっちゃ柔らかい!気持ちいい!
何回も撫でるうちに、最終的には抱き付いていた。
もふもふも、気持ち良かったのか寝そべっている。ふぁぁ、良いわぁ~。
もふもふに埋まりながらしばらく過ごしたことで、打ち解けた。
モンスターって本能だけで生きている感じだけど、もふもふはなんだか理性があるみたいだ。よほど知能が高い動物なんだろうね。
ぬくぬくしていたら、視界の隅に通知が届いた。
見てみると、
〔雲獣:ムーン と 絆 が結ばれました〕
との通知が。
刹那、私の中で変化が起きた。なんだろ、心の中にもふもふがイメージされたみたいな?心が繋がった感じ、これが 絆 ?
というか、このもふもふ、ムーンって言うんだ。
絆がどんなのか今一分からないけど、ムーンは仲間になったくれたようだ。めっちゃ嬉しい!!
「きゅるる。」
ムーンがお座り状態から見つめている。ムーンにも分かっているみたいだ。
「きゅう。」
ムーンは立ち上がると私にぐりぐりと頭を擦り付ける。私がいまいち分かっていないまま撫でていると、唐突に顔を上げ、大きな長い耳を立てた。じっと一点を見ている。
ムーンの見つめる先にはやはり深い森。私には何が気になっているのか分からない。
猫耳を澄まして、集中するが、木葉が揺れる音のほかはしない。
どうしたんだろう?
ーざわざわ、ざわざわざわ
ん?
ーざわざわざわざわ
なんか、今の音、変だった?
私が何か感じ取ったときには、ムーンは下生えの中に飛び出していた。
ちょっ、どうしたの?!
訳もわからないままムーンに続いて下生えを走る。
足元に石が転がってきたところで、猫耳が声を拾った。
この声、さっきの.......!
どうやらモンスターに襲われているらしく、慌てている。
微かにさっきの可愛らしい鳴き声が聞こえてくる。おそらく、ムーンの仲間なんだろう。
森の中を突っ切り、ムーンが飛び出す。
敵は複数いるみたいだ。
面倒事は嫌いだけど、絆 が結ばれるくらい仲良しのムーンが飛び込んでいったんだから、私も!
岩に囲まれた窪地に、私も飛び込む。
ムーンの仲間なんだから、助けないと!
え?危ないって?でもね、もふもふに悪いやつはいないっ!と思うっ!
窪地にはウルフ3体に、ボア1体、それと、大きな熊がいる。
ムーンは前に立ち、構える。
複数対もふもふ。どうなる?!