36. 迫る脅威
遅くなりましたm(__)m
ではどうぞ!
そのころ
〈魔界〉の端、最も〈境界〉に近い魔国ランヴァルシアの魔王城で、魔王ナーヴァギルは王座に肘をつき、配下の者の報告を聞いて口角を上げていた。
「次代の〈境界〉の魔王候補が見つかったのか...早ぇーな」
「はい。その者、見たところ魔人のような姿ですが、感知した魔力は魔人のようなものではありませんでした」
「あぁ? 幻獣は人型にはなれなかった筈だよな?」
「そうです。我らも疑問に思って何度も感知してみたのですが、その魔力は猫族のもので間違いありませんでした。ただ...」
「ただ?」
「少し、聖属性が、いや魔力自体が清んでいまして、猫族ともなにか違うようでした」
「.....んぅ?」
腕組みした魔王ナーヴァギルは、コテンと首をかしげる。
なんだそいつ?
頭の中の記憶をあさってみるも、該当するものは無し。もどかしげに黒い長いしっぽが大きく揺れる。その拍子に尖ったしっぽの先が、彼の座る王座の脚に刺さった。
あっ と、バツが悪そうに尾を抜き取ると、豪華絢爛な王座の脚が抉れていた。
鋭い視線を感じ、恐々目だけ上げてみれば、お目付け役のサラヴァが冷めた目線で咳払いをする。
あっ、これ後でしごかれるやつ...。
青ざめた顔に、無茶なポーカーフェイスを張り付けて配下の話の続きを促すも、余り頭に入って来なかった。
ナーヴァギルは〈魔界〉の悪魔:吸血鬼の魔王だ。
彼は、その種族の通り、蝙蝠のような黒いギザギザの翼に、長い犬歯、バイ菌のデフォルメのような尖った長いしっぽを持つ吸血鬼で、その真祖。真祖とは、人間から吸血鬼に何故かなり、人間と結ばれて子孫を増やした最初の純血の吸血鬼だ。しかし、彼は真祖だが、真祖同士が結ばれて産まれた家系の子孫である。
彼は、見た目は10~14歳といった容姿だが、種族が長寿なこともあって実際は120歳ほどだ。これでもまだ子供である。
そして、なぜ子供が吸血鬼の長、つまり魔王をしているかというと、単純だ。両親が亡くなった。そして、自分の他に直系の真祖がいなかった、それだけだ。
そして、このナーヴァギルが、〈境界〉を襲撃した張本人である。
「なぁ、暗黒石になにか来たか?」
「いえ、まだ何も」
暗黒石とは、魔王が魔神からの言葉を受けとる一種の魔法石板である。
「俺、ちゃんと命を実行して、ちゃんと〈境界〉の上層部倒したんだぞ? 褒美かお言葉くらいあってもいいだろ」
ムスっとする主に、配下の魔人は言葉に困った。魔神からなにか言葉がくるなど、滅多にないことだからだ。その点、命まで下ったここランヴァルシアは魔神に一目置かれている訳だ。その上、魔神よりお誉めの言葉まで戴こうとはかなり図々しいことである。
「まったく」
お目付け役のサラヴァが、呆れたように顔を微妙に歪ませる。
「なぁ、もっとやったら誉めてくれるかな? そうだよな」
そして魔王は再び〈境界〉の襲撃を命じた。
魔王に抗議を許されていない配下の魔人たちは、もどかしそうに開きかけた口をつぐんだ。
魔王への忠義は絶対である。そのため、配下の魔人たちは無条件に進軍を開始し、〈境界〉に向かっていく。
全ては魔王の仰せの通りに。
魔人たちは従う魔王の命により、2度目の悲劇を起こさんと、〈魔界〉の褐色の荒野を進む。
魔王ナーヴァギルの不満から起きたこの戦。
吸血鬼としては子供とはいえ、すでに長い時を生きてきたはずの魔王ナーヴァギルはまだ随分とお子さまのようだ。
そして、唯一、魔王以上の権限を持つ魔神からのストップは掛からなかった。
◆
一方〈境界〉では
青々とした下生えの中を、一匹の黒豹が押し進んで向かった先には、一回り大きな黒豹が、伝令役を今か今かと待ち受けていた。
伝令役の黒豹が草の間から現れると、もどかしげに問いかけた、
「どうだった?」
「不味いです。魔王軍がこちらに向かってきています!」
「なんだと?! どこの国だ?」
「またランヴァルシアですっ! 数、およそ2000です!」
「ぐうっ...!」
指揮官の黒豹は、伝令役に案内させて下生えを走り、森を抜け、崖の境界線から、下の〈魔界〉の荒野を見下ろす。
「なっ.....!」
そこには、ひしめく魔族の行軍が彼方から迫って来ていた。
視力の良い幻獣だからこそ見えたのであって、実際は何十㎞も離れている。
もうすぐ日暮れ。魔族は殆んど眠らないため、休まず行進してくるだろう。となると、合いまみえるのは明日の朝か。
今のうちに、敵の戦力が知りたい。
黒豹は目を凝らし、更に空間魔法による、望遠魔法で魔族を観察していく。
そして黒豹は驚愕した。
「これは...! 白虎様に今すぐお伝えしなければ!」
身を翻し、やってきた白亜の樹に白虎たちはいた。そして、そこには見慣れない魔人の娘?
土埃をあげながら飛び込んできた黒豹に、若干驚いた面々は、その鬼気迫る様子に何か勘づいたらしい。
「どうした」
青龍の地の底から響くような低音で少し落ち着いた様子の黒豹の報告に、場が固まる。
「魔人1000人に、上位魔物が1000頭の合計約2000だと?!」
先日の戦力を大きく上回るその数と個体の強さに、〈境界〉に戦慄が走った。
日暮れ、〈境界〉の〈魔界〉との境界沿いに、白虎率いる猫族たちが配置され、その上空には青龍率いる飛龍たちが旋回して見張りをするなか、四守護獣とその他の幻獣たちが、白亜の樹の下に集まっていた。何かと言うと、勿論、会議である。
この前の時、経験豊富な先代の四守護獣と〈境界〉の魔王が倒されたことで、皆、意気消沈しているが。
「2000を相手にするなんて....」
「〈境界〉の魔王様もいないのにどうやって護るの」
不安そうに呟く幻獣たちに、必死に白虎や朱雀が勇気づけるが、やはり根拠もないせいか、むしろ落ち込ませているようにも見える。
....ヤバくない?
この前までの〈境界〉は、過去最強とまで言われた四守護獣が居たらしいけど、500人の魔人に重傷を負わされ亡くなっているそうだ。つまり、過去最弱の今の〈境界〉じゃあ、魔人1000人には勝てない。引き分けにもならないってこと。
さらに、もともとそんなに多くない幻獣たちも、この前ので1割ほど少なくなっている。
これ、マジでヤバいじゃん。
じゃあ何で過去最強四守護獣が負けたのか。多分、それは数の違いかな。基本的に、個々の強さに関係なく、数の多いほうが有利だ。守護獣が魔人より断然強くても、絶え間なく戦ったら流石に危ういってことだろう。
幻獣たちもなかなかの固有魔法や、身体能力だけど、魔人に比べると全体的に少し劣るようで、大抵は複数で相手にしているらしい。敵が幻獣よりも多いと、もう逃げるしかないようで、結果的に、四守護獣が相手をすることになる。
そして、前回の結果になった。と。
今回も同じことをすれば、〈境界〉はマジで潰れるでしょ。
それは避けたい。
魔物とは勝てるらしい幻獣たちだけど、なんで魔人には勝てないんだろ?
「うりゃあ!」
「ガルゥッ! 甘い!」
虎と山猫? の幻獣が取っ組み合いを始めた。
山猫が虎の振りかぶった前肢をくぐり抜け、喉笛に牙を開くが、虎は素早くバックステップを踏んで、バランスを崩した山猫の首を、逆に噛み付く。
「うー、強いよーぉ」
「魔人は手加減なんてしねーからな!」
あ。ちょっとわかったかも。魔人に勝てない理由。
でもその前に.....。
「ねえ、ちょっといい?」
「にゃ?」
ムーンとルーンが、どうしたの?と首を傾げた。
「さっき、〈境界〉の魔王になるには試練があるって言ってたよね?」
「そうにゃ」
「それ、今から出来るかな」
ハッとしたマルピチャは、次の瞬間には満面の笑みを浮かべて、
「もちろんにゃ!」
と、目を輝かせた。
読んでくれてありがとうございます!
次回、ユイナがついに〈境界〉の魔王になるかもです!
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