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35. 〈境界〉の入口

投稿遅くなりました!

次も遅くなってしまいますが、どうぞブクマはそのままでお願いします!

見渡す限り緑の草原を、真っ白な塊が突っ切っていく。

よくよく見れば、その塊はふわふわとした尾を波打たせながら、その体にしては短い脚をテンポよく繰り出している。

そして、さらに目を凝らせば、その背に人が寝そべっているのが見えるだろう。

そして、出来ることなら近寄って見ると良い。

その人間には黒い猫耳と先端のみ白い長いしっぽが、風に靡いているのが分かるだろう。

青みを帯びた灰色の髪も、白い動物の速度を体現するかのように忙しなく風に揺られている。

そして、さらに寄ってみれば、その少女が小さな白い塊を枕に寝息をたてているのが分かるだろう。

そして、さらに見てみれば、その枕にされている小さな白い塊が動物であることと、その表情さえ見えることだろう。

よく耳を澄ましてみると、風の音にかき消された、動物の声も聴こえるだろう。


「むきゅう.......」


ほら、聴こえた? この愛らしい動物の不満げな声が。


と、ムーンの背に揺られ続けて頭が混濁しだしたマルピチャは何故かそんなことを考えていた。


「きゅっ!」


「んにゃあ・・・・」


ルーンのいらついた声も耳を通り抜けて、酒ではなくムーンに酔いつぶれたマルピチャは、再びやわらかな真っ白い毛並みにたおれ伏した。


オリジナ出発から2日、目的地はもうすぐだ。







                     ♦






3日目ともなると流石にムーンの早さにも慣れてきて、マルピチャも当のユイナも移動を楽しめるくらいにはなった。しかし、一行は<境界>の目前にまで来ていた。


ことは1日目に遡る。

一般の馬車はそこそこの速さだが、早馬と呼ばれる馬は、馬車の2倍近い速さを誇る。しかし、それよりも速く移動出来、なおかつ激しい動きで安全面がヤバイ使い魔の馬車を、そうとは知らずにムーンが並走していたことが発端だ。

ユイナとマルピチャはもちろん馬車に乗ったこともないし、森で暮らしていたムーンとルーンには無縁のものだ。そして、ユイナは特に人の少ない時間に町を出入りするため、まず見たことがなかったことも原因だ。だから、これが異世界の普通かとユイナは思ったわけで、ムーンをそのまま並走させていた。そして、道幅が狭くなってきたことで、「抜かしていいよ」といったところ、焦れていたムーンがギアを上げたのだった。


「ムーンってさ、本気だしたらどのくらい速い?」


後方に小さくなった馬車を眺めながらユイナが言ったその言葉で、ムーンは乗っているユイナたちが落ちない範囲でフルスピードを出した。その結果、慣れているルーン以外車酔いではなくムーン酔いして、ずっと気絶してここまできたわけだ。

今はやっと慣れて、全員が前を向いて<境界>を見据えている。

<境界>の入口には特別何もなく、ファンタジーな結界があるわけでもなく、すこし雰囲気の違う森になっている。

一歩、踏み込んでわかった。すこしじゃなくて、全く違うと。

<人間界>には感じられない木々の生命力というか、緑の美しさというか・・・・・・。

ゆっくりとマルピチャに従って歩を進める。

足元を見れば、マッシュルームを彷彿とさせるキノコが木々から生え、光の粒子を放って、くるぶしあたりまでを微かに隠している。なんか、ドライアイスみたい。


「ここが、にゃーたちの護る<境界>にゃ!」


誇らしげに語っていたマルピチャの気持ちが、よくわかる。

ここ、私好きかもしれない。

結構進んだところで急に視界が開けて、広い空間に出た。

そこに座っているのは・・・・


「待ってたよ、マルピチャ、ユイナさんたち」


白虎だ。

その隣にいる紅い鳥は、どなたさま?


「私は空を護る 朱雀 よ。はじめまして、ユイナさん」


「あ、はい」


白虎と朱雀とくれば、残りは2匹か。

地球では、東西南北を守護する存在だったけれど、異世界では違うみたい。


「青龍と玄武もいるんだよね?」


「はい。でも今は防衛中なので」


ぱたた・・・・と朱雀が降りてきて、白虎の隣にたつ。と、


「「お願いします! <境界>の魔王になってくれませんか?」」


まさかの土下座?!

いや、白虎は香箱座りだし、朱雀はもはや倒れているのか?! ってくらいの格好の平身低頭・・・・・。


「そんなことしなくていいから・・・顔あげてよ」


やられているこっちが恥ずかしくなるというか、<境界>の現在のトップたちにこんなことをさせてる罪悪感というか・・・・。とにかくそれやめてくれ。


「それに、まだ<境界>の魔王になるってきめたわけじゃないし」


「お願いします・・・。最近、<魔界>の勢力が再び集結しつつあるのです。この前のこともあって、みんな怯えてしまっていて収拾がきかないのです。ここはやはり<境界>の魔王に場を纏めてもらえるのが一番なのです」


朱雀に続いて、白虎も、


「代替わりしたての俺達ではなんていうか、みんなへの信用が薄いって言うかで・・・」


「いや、それってわたしもなんじゃない? なりたての、どこのやつかもわからない人にいきなり従える? それこそ信用ゼロでしょ」


「「それは大丈夫です(よ)」」


なぜ?


「<境界>の魔王になるための儀式で、信用に値するかのいくつかの試練をするので、<境界>の魔王となった場合はみんな従うのですよ」


「へえ。あ、<境界>から出られないってことはないよね?」


「きゅううん?」


「もちろん出来ます。それと、<境界>は雲獣などの幻獣の暮らす所なので、そちらの二方も歓迎しますよ。安心してくださいね」


あーよかった。シーアと二度とあえませんなんて、いやだし。


「きゅー!」「きゅうん」


安心したようにムーンとルーンがもふもふと擦り寄る。わたしが<境界>の魔王になったら、会えないのではと、こちらも同じ考えだったらしい。

うん、ムーンたちとお別れとか、絶対やだよ~。

魔王は〈人間界〉に行けませんとか、ほんっと、無くてよかった。そんな縛りあったら、絶対ならないし、魔王。


「まあ、ちょっと考えさせてね」


「「はい」」



一応、保留ってことで、白虎と朱雀とはここでいったん別れた。守護獣は忙しいそうだから、私のために時間を割いていたってことか、ちょっと悪かったかな?

その後、マルピチャの案内で〈境界〉を少し見て回った。

白亜の樹と呼ばれる〈境界〉の中心である巨大な白い樹の渦巻くように張り巡らされた根の起伏と地面の間の広い空間に、〈境界〉の住人たちが暮らしているらしい。

何匹かすれ違ったりしたが、一見すると地球にいる猫科動物たち(この辺りは主に白虎たち猫科動物が守護しているそうだ)だが、れっきとした幻獣(魔力を持ちながら、魔物化していない動物)だ。

マルピチャも、黒猫ではなく幻獣:猫 の黒猫らしい。

白虎と配下である猫科動物は地上を守護し、朱雀とその配下の鳥類は地上の空、青龍は鳥類よりも上空と空間、玄武は地上と海をそれぞれ主に守護しているそうだ。

そんな話を聞きながら、マルピチャに連れられて来たのは、丘?


「ここは?」


マルピチャは、丘を登って行き、頂上の白い岩の前に座った。


「きゅうん」


ルーンが真似して座る。

ここはなに?


「この前の〈魔界〉の侵略で亡くなった仲間の墓にゃ」


マルピチャの伸ばした前足の下の地面が魔力に干渉され、植物が急激に伸び始める。


「にゃーも、白虎様も、最前線で戦ったのにゃ。朱雀様たちも加勢してくれて、ちゃんと護ってたのにゃ。でも、魔族は強くて、だんだんおされて....」


青々と葉を伸ばす植物は、どうやら一種類だけらしい。マルピチャの猫背の後ろで、次々と葉を増やしていく。


「みんな、倒れたにゃ。にゃーの目の前で。にゃーたちを庇って....」


掠れて消えそうな声が、苦しそうに紡がれていく。


「〈境界〉の魔王様と四守護獣様たちが、体を張って〈魔界〉の魔族たちを退けてくれたにゃ。それで、みんな死んじゃったのにゃ」


肩を震わせながら振り返ったマルピチャの目には、大粒の涙が浮かんで、落ちて、また溜まってを繰り返していた。


「みんな、『あとは頼んだ』って言ったのにゃ。にゃーが最期を看たみんな、そう言ったのにゃ。でもっ!」


植物は成長を止め、枝先を脹らませ始める。


「みんな逝っちゃった後の〈境界〉で、にゃーたちは何が出来るのにゃ.....」


植物の脹らみがいっそう大きくなったかと思うと、パッと鮮やかな色が現れる。

項垂れて泣くマルピチャの気持ちを表すかのように、咲いた花たちも、深い青色をしていた。





読んでくれてありがとうございます!

またよろしくお願いいたします!

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