30. 野外試験6
続きです。
マルピチャの空間接続魔法によって見えたのは白い虎。マルピチャが白虎と呼んでいたけど、白虎ってもっと威厳のある感じがポピュラーじゃないのかな?
目の前にいる白虎は、どう見ても若い。もちろん異世界だからか日本の動物園のトラよりは大きいんだけど、まだ細いってゆうか厚みがないってゆうか.......。
大人と子供の間って感じ?
「この世界には〈人間界〉と〈魔界〉があることは知っていると思う。この二つは以前は頻繁に責め合っていたんだが、一人の魔王が繰り返される死に心を痛め、二つを戦わせないために間に〈境界〉をつくったんだ。そしてどちらも滅びないように世界の均衡を保ってきた、それが俺たちの護る〈境界〉。
〈境界〉は今まで、双方と友好関係を維持して戦を避けてきたんだが、先日、いきなり〈魔界〉から侵入され〈境界〉の魔王と先代の四守護獣が亡くなってしまって〈境界〉の存続が怪しい」
しゅんと肩を落とす白虎。
「だから、〈境界〉の魔王に早くだれかなって欲しいのにゃ! 〈境界〉の魔王さえいれば皆前を向けるにゃ!」
マルピチャの前足がローブの裾を引く。その緑色の瞳は潤んでいた。
本当のことみたいだね。
「じゃあ〈境界〉の誰かになってもらえば良かったんじゃないの?」
もしくは自分がなるとか。
「素質のあるものがいなかったんだ。〈境界〉の魔王に選ばれるには聖属性があること、そして双方に対して贔屓、敵対しない性格なこと、何より単体での戦闘能力が高くなくてはならないんだ。
それに、俺たち四獣は〈境界〉の魔王になることは出来ないと決まっている」
「そんな厳しいの.......」
「そうなのにゃ!」
「で、私がその条件をクリアしてるってこと?」
白虎は頷かなかった。
「戦闘能力は、〈境界〉の町で神が測る。だからユイナは候補だ。けど、一人しかいない上に、魔力からして十分になれる可能性がある! だからお願いするっ、〈境界〉を助けて欲しい!」
白虎が箱座り、いや土下座? をしたのに習ってマルピチャもあわててした。
「そっか.......」
真実みたいだし、助けてあげたいとは思う。けど、いくらなんでも急すぎない?
「今返事をするのはちょっと無理かな。まずはこの試験に受かってからじゃないと」
イラさんから、クリアしないと捜索範囲を拡げられないみたいなこと言われてるし。それに、今はリサたちやギルド職員の目があるから迂闊に動けない。
「そうか、だがマルピチャから試験は1週間だと聞いている。無事に一般冒険者になったらマルピチャに〈境界〉まで案内させる。実際に見てくれた方が理解しやすいだろう」
はぁ、と息をつく白虎。相当張り詰めていたのか、測り間違いだと思っていた脳波のギザギザがおさまった。
「考えてくれるにゃ?」
「そうするよ」
そろそろマルピチャの集中力が限界らしい。名残惜しそうな白虎に謝りながらマルピチャは空間接続魔法を絶った。私も魔力を供給していた手を退かす。
「んにゃぁ.......」
くたくたにゃ とマルピチャ。
「病み上がりなのにごめんね?」
「いいにゃ、〈境界〉のためにゃぁ.......んにゃ.......」
ぐてっと地に伏したまま眠ってしまったマルピチャを抱っこして、結界に流していたダミー映像を解除する。
そろそろ私も眠いし、次の見張り番のリサを起こして眠りについた。もちろん、リサにマルピチャを盗られて。
◆
4日目、今日こそは斑山羊と岩蜥蜴をと、歩きまわって昼過ぎには斑山羊1匹と岩蜥蜴1匹の討伐に成功した。
草原を探索中に、食事中の斑山羊をジンが見つけて、〔花ノ木〕メンバーで倒しきった。
岩蜥蜴の方は、私が倒した。なにか泥のなかにいるなーと思って魔力弾を撃ったら倒せてしまった。
それと、それで新たにわかったことは魔力弾は魔法じゃないから猫神様の影響をうけないらしい。これは助かる。
そして、マルピチャはというと戦闘中以外ずっとリサの腕のなかだ。羨ましい。
マルピチャの毛皮も気持ちいいけど、やっぱりムーンたちの方が良いなぁとしばしば思い出す。
あの艶々ふわふわの真っ白な毛に埋まりたい.......。
早く試験期間終わんないかなぁ?
「はぁ.......」
前を歩くリサが、ん?と振りかえる。
「ため息なんかついてどうしたの? あ、もしかして疲れた!?」
「んなぁ?」
「いや、まだ平気だよ」
体力は。心がヤバい。思い出す度にもふもふズに触れない現状に精神的ダメージが溜まっていくのを感じる.......。
「はぁ.......」
「やっぱり疲れたよね!? ジン、シン! 休憩しよ!」
「いや、だからいいって.......」
「「息抜きも大切だぜ?一回リフレッシュっしょ!」」
キメ顔で振り返った双子が、早速座り込んだから仕方ない。
私の精神的ダメージのせいだとは。しょうがないなぁ......。
暫く駄弁って再び探索。
前を歩く双子が、なにか見つけたらしい。
「なぁユイナ。この前言ったこと覚えてるか?」
「この前?」
「あれだよあれ!「3人で共闘しよう!ってやつ!」」
「はぁ!? なにいってるの?! 出来るわけ無いじゃない!」
確かに、合わせたことのない人とプレーを合わせるのは難しい。
それも3人にはともなれば。
「「でもユイナなら大丈夫だろ」」
「それは.......」
双子の指す方向には2匹の岩蜥蜴。あれをやるのか。
双子の連携は上手いし、息もあってる。そこに私が入るのか。
「まあやってみようぜ!」「やろやろ!」
そう言って双子が走り出してしまった。あーもぉ!
双子がまず1匹に斬りかかって2匹を分断させるらしい。さながら双剣の斬りあげのように、クロスで剣を振るう双子。
浮いた岩蜥蜴の上半身を、ピッタリのタイミングで蹴りとばす!
力が合わさって数メートル飛ばされた1匹とは反対に、猛突進してくる岩蜥蜴を双子が受け止める。
押し合いになるのを避けて左右に分かれる双子と入れ換えに、双子の後ろの死角から私が斬り込む。
直前まで私に気づけなかった岩蜥蜴は、脳天を突かれて絶命した。
すぐさま次に備えて足元の岩蜥蜴をストレージに突っ込む。と、リサの詠唱が聞こえる。
「〈輝く光よ、我の元に集まり放たれよ〉サンライトアロー!」
次に迫ったもう1匹の顔面に光魔法が当たり、視界を潰された岩蜥蜴が闇雲に突っ込んでくる。
それを余裕でいなし、首の後ろに回し蹴りを入れて強制的に地面に頭から倒す。すかさず双子のクロス斬りが岩蜥蜴を仕留めた。
パンッ!パアンッ!パアンッ! と小気味良い音。
「「「イェーイ!!」」」
「ユイナちゃんも、イェーイ!」「「イェーイ!」」
満面の笑みの3人と、順にハイタッチ!
「「上手くいったな!」」
「そうだね」
「面白かった! またやろ!」
「「次もやろーぜ!」」
「んにゃあ!」
たたたっ! と走ってきたマルピチャが、その勢いのまま飛び付く。
「おっ? クロもイェーイ!」
ジンがマルピチャを抱き上げる。シンの出した手に、マルピチャが猫パンチ(?)
ぺしっ と肉球と手の平の音が微かにした。
その後の戦闘も、連携プレーで倒していき、新たに3つの依頼をクリア出来た。その頃には日は暮れ、その日はおしまい。
いつもどおり焼き肉とスープの夕食を食べて、眠りについた。
あまり進みませんでしたm(__)m
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