28. 野外試験4
前回の続きの戦闘シーンと〈境界〉のお話です
参考にしたいので感想とかお願いしますっ!
「お前はこれがわかっていたのか?」
白亜の樹の中で、初めに口を開いたのは白虎だった。その口調は鋭い。
リアルタイムで空間越しに送られてくる映像は、地面が横倒しに傾いている。その先で、無数の岩が1ヶ所を集中的に襲い、水色に煌めく結界が遂に一筋の光も残さずに埋もれきった。
浮かんでいた無数の岩が瓦礫の上に集まり、その瓦礫も集まって再度ドラゴンを象った姿を模す。
「いや? 空間先の魔力だけで魔物の特定をするなど、出来るのは先代の四獣くらいであろう。我にはまだ不可能だ」
しかし、まさか竜種の姿をとるなど.......と
眉をひそめる青龍。
〈魔界〉落ちしたものを毛嫌いするほど〈境界〉の護り手であることに誇りを持つ彼らには、たかが上位魔物ごときが竜種の姿を模すなど心穏やかではいられないことだ。
その偽竜が勝ち誇ったように咆哮する。
ギリッ! と牙が擦れる音に向けば、青龍が憎々しげに空間魔法越しの偽竜を睨んでいる。
だが、その他にも殺気を滲み出しているのは四獣の1頭、白虎だ。
その原因は偽竜などではなく、優秀な配下に起こったことだった。もちろん、予想外の偽竜の強さに仲間を庇うことでおされている同族の力を持つユイナのことも一理あるが。
それは先ほど起こった。
ユイナが偽竜を1度倒したあと、偽竜はなお岩を操った。戦闘経験のまだ浅い四獣たち、特に真面目な青龍はその理由を確かめたいと岩場に隠れて観察をしているマルピチャに前に出てもっとよく見せろと命令したことに原因の発端はある。
空間接続魔法というのはかなりの集中力が必要な魔法であり、そのため、空間接続をしている間、術者は無防備となる。その魔法を行使しながら周囲を警戒するなど、空間魔法が得意である竜種のごく一部にしか出来ない芸当だ。だが、青龍が少しだけでいいから前に出ろと強く命令を下した。
マルピチャは猫族の中でも1番空間魔法にたけた猫だったから、青龍も可能だと思ったのだろう。しかし、前に出た瞬間、岩石連弾の一部がマルピチャを襲い、マルピチャが重傷を負ってしまった。
今見えている映像は、マルピチャが息も絶え絶えながら空間接続魔法を持続しているものだった。
仲間思いの白虎には、1匹も仲間が欠けることは耐えられないことだった。現に、先日の〈魔界〉との戦いで、地上の戦力として戦った彼らの仲間が一番犠牲になった。その事で、群れを率いていた白虎は特に自分を責めていたほどだ。
その仲間が、また1匹命を落とそうとしている。
白虎からすれば、マルピチャを失いかけている原因を作ったのは青龍だ。
「お前が.......!」
「猫族は敏捷な種族だろう? そしてかの猫は空間魔法にたけていたと言うではないか、避けれないはずはない」
皆もわかっていることだろう? と青龍。
白虎がキッと青龍を睨む。
「そんな、決めつけちゃダメよ青龍! マルピチャはずっと空間接続をしていたのよ!?」
睨み合う2頭に、朱雀が纏う炎を置き去りにする勢いで割り込む。しかし、2頭は見向きもせずに睨み合っている。
ふん、と鼻で嗤う青龍。
「猫族もこんな甘っちょろいヤツが頭主とは、落ちぶれたな。だからこんなことになったのだ! 全ては、頭主であるお前のせいだ!」
青龍が非難するような眼で白虎を見据える。そしてもう一度、お前のせいなのだ と白虎の耳元で囁く。
「っ!?」
先日の戦いを思い出したのか、白虎の眼に動揺が走る。
自分の未熟さから仲間を失ったことをまざまざと思い起こされて白虎の体がビクッと震えた。
「おい青龍! 言い過ぎたぞ!」
青龍を治めようと玄武が叫ぶ。
「煩い!」
牙を剥いて罵声を放った青龍に、朱雀が萎縮する。
玄武が甲蛇で青龍を止めようとするも、長い青龍の尾が甲蛇を叩いて払った。
玄武の尾に痛みが走る。
「青龍.......」
四獣が分裂してしまえば、目的の〈境界〉を護ることも叶わなくなる。それを心配して止めに入った原因は、良縁であるはずの甲蛇を撥ね付けたことに、信じられないと眼を剥く。
「貴様の教育が悪い。あの猫のことははお前のミスだ」
再度放たれたその言葉に、辛うじて威嚇の体勢をとっていた白虎が力無く項垂れる。
「気になったからと命令したのは青龍! お前だぞ!?」
反論した玄武を青龍の一睨みが黙らせた。だが、勇ましくも反論を続ける玄武。
ビリビリと白亜の樹を揺らす青龍の覇気。
玄武が青龍を叱るも、青龍は白虎に咎めるような視線で睨み、反応すらしない。
睨まれている白虎というと、再び自分を責めているのか、すっかり沈黙してしまった。
そんな状態に、元来気弱な方の朱雀はすっかり縮みこまってしまっていた。
◆
岩と岩の細い隙間を、水色の水飴のようなものがスルスルと抜けていく。それはかなりの長さのようで、遂に岩ドラゴンの目前に到達した。
それを待っていたかのように、突然瓦礫の山から水色の光が弾け、岩々が吹き飛んだ。
不意の事に、岩ドラゴンの反応が遅れる。
跳ね上げられた岩がいきなり岩ドラゴンの方向に向かい、その巨体に岩の弾が着弾する。その大きさ故に避けられなかった岩ドラゴンは、体表のほとんどに岩を被弾し、再び体を形成する岩がひび割れる。
次弾を避けようとする岩ドラゴンの動きは、先程と打って変わって素早い。しかし、岩ドラゴンは岩を回避できなかった。
先ほど岩ドラゴンの前にユイナが配置した結界の一部が硬化し、岩ドラゴンを貫いて地面に縫い止めたからだ。
二度目の不意を突かれた岩ドラゴンに岩弾が炸裂し、表面の岩か大破してドラゴンの姿を失った。
岩の体を失った魔物は、対戦中にドラゴンの形を再構築するのは無意味だと判断し、身に纏う岩を捨てて態勢を整えようと浮遊する。
が、
「聖域結界!」
時間をかけてイメージした聖域が、水色の槍状の防御結界の内部から展開され、空間を大きく結界で包み込む。
防御結界よりも輝く水色の光の球の内部に、なにか黒い影が暴れるが、結界が阻む。
「「おっしゃー!」」
「やったねユイナちゃん! 大成功!」
1つだけ残しておいた大岩の陰から出て来たのは〔花ノ木〕の3人。この作戦は3人の知識があってこそだった。
先程、岩に閉じ込められたとき、結界の中で岩ドラゴンの正体を推測した。
体を潰したのに復活した岩ドラゴン。リサ曰く、このような魔物の姿は偽物で、本体は別な場合が多いらしい。今回の場合、この岩を削り弾丸状にしたことでこの魔物は知能を持つ上位魔物だと推測された。
そして、魔物が使った魔法は、念動力。
「これを使える魔物はごく僅かよ、制御が難しいそうなの」
「念動力っていうとアレかな?」「おそらくな」
3人には予想がついたらしい。
「なんなの? あいつ」
念動力が使えて、姿が見えない魔物。
「「「それは、幽霊だよ」」」
えっ、お化け?
「そんな魔物がいたんだ.......」
知らなかった。いつも脳内、肉のことばっかりだったし。
「幽霊は物に憑依する習性がある魔物なの。物理攻撃も魔法攻撃も効かないのよ」
へぇ、骨も肉も無いってか。私たちには一生縁の無い魔物だね。
「じゃあどうやって討伐するの?」
「聖碑で浄化するのが一般的なの。私たちも使うわ」
「これだぜ」
シンが腰に着けていたポーチから、青色の水晶の板みたいなのを取り出した。受け取って眺めると、なんだか清い空気のなかにいるみたいに感じる。
「じゃあ.......」
これで浄化すればいいんじゃない? という言葉はすぐに引っ込んだ。この聖碑じゃ.......
「そう、あの上位魔物には効かないの」
やっぱり。
「この聖碑は下位魔物用。聖碑は元々、強い魔物には効かないのよ。強い魔物は主に教会が対処するのよ。教会とかがするのは聖域結界っていう何十人もの聖職者や魔法使いが詠唱して行う強力なのがあるけど、そのくらいじゃないとあの幽霊は倒せないと思う」
「今さらだけどリサって物知りだよね」
「「そりゃあだって「煩いわよ」.......」」
リサの睨みで、双子が黙る。
リサは本をよく読むから、それで色々知っているらしい。
にしても、聖域結界か。
手の中の聖碑の魔力を感じてみると、やっぱり心が洗われるっていうか、清々しいっていうか。気持ちいい。
こんなところが何処かにあったような.......、何処だったかな?
.......。
..............んー?
.....................あ!
思い出したのは、高校にあがる春休みのこと。
親に予習しておけだの、クラメイトと知り合っておけだの言われて嫌になって家を飛び出したあのときだ。
悪態をつきながら適当に歩き続けて、くたくたになった先にあった山の中の神社。
苔むしていて古かったけど、なんだか心が癒された神社だ。石に刻まれた社名はすでに風化して読めなくてわからなかった。
ただ、凄く神秘的な、清い空間。
町で、家で、学校で、吸うことも嫌だった場の空気が、あの神社では全く違った。吸い込むと少し冷たくて軽かったことをよく覚えてる。
聖碑から感じられるのは、あの感じだ。
ってことは.......あ、閃いたかも。
「あのドラゴン、倒せるかもしれない。やってみてもいいかな?」
「「マジ?」」「本当?」
「わからないけどね」
「どっちにしろこのままじゃ危ないし、やれることなら何だってやりましょ!」
「「おー!」」
3人には、聖碑を少しずつ発動してもらって、私がその魔力を感じる。そして、あの神社の空気をイメージしながら魔力を変質させ、途中でイメージの枠から外れないように防御結界を変形させて触手みたいに軟かくしたものに入れて、岩ドラゴンの前までこっそりと移動させれば.......準備完了!
「いくよ」
「「おう!」」「うん!」
岩から私たちを護っている防御結界を思いっきり膨張させ、上の岩を吹き飛ばす!
ドオオンッ!
「「おー! うまくいったな!」」
「じゃあ隠れててね」
「もちろんよ!」
1つだけ大岩を残して、他を風魔法で操り、2回に分けて岩ドラゴンに撃つ!
一回目は命中。二回目は細長くした結界を硬くして突き刺し、固定して命中させる!
岩が崩されて思った通り、岩を捨てる選択をとった幽霊に、槍状結界から出した聖域結界の元のイメージの私の魔力に私が更に干渉して.......
「聖域結界!」
見事に幽霊を閉じ込めた。
そして、3人の歓声の中、幽霊は溶けるように浄化され、消えていった。
突然の幽霊の強襲は、こうして終結したのだった。
最後、ちょっと呆気なかったですかね?
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