27. 野外試験3
試験の続きです。
よろしくお願いします!
歩けそうなところを探して進んでいるが、石が転がっていて歩きにくい。
「キャッ!」
既にリサが5回目を転んだくらいに。
細い足場の横は、断崖絶壁と垂直な壁。掴まるところはないし、足を踏み外したりすれば一発で重傷だ。
必然的に、リサの身体を、後ろを歩く私が支えることになる。
それが意外と、体力と神経を削っている。
「ありがとユイナちゃん、助かったぁ.......」
リサは、再び壁にへばりついて安堵の息をつく。
「「あぶねーだろ!足元見ろよ!」」
言葉が荒いが、凄く心配している双子。それを分かってか、リサは言い返さなかった。
少しずつ進んでいくと、前方の双子の姿が消えた。多分曲がり角だったのか。
「「開けたとこがあった! 早く来いよ!」」
テンションの高い声に、リサが顔を上げる。そしてスピードを上げ始めたから、私もそれに続く。案の定、気が高ぶって指を滑らせて落ちかかった。
「ゆっくり行こ?」
「そうね.......」
流石に堪えたらしい。
曲がり角を慎重に曲がってみれば、2メートルほど地面が崩れている先に、広い水平な場所が広がっているのが見える。
「「跳び移れー!」」
先では双子が手を振っていた。
リサを見ると、震えて固まっている。その視線の先には、足下の暗闇。
そういえば、リサって高所恐怖症だったか。
「「リサー、こいよー!」」
脚のすくんでいるリサがまた落ちそうになるだろうから、先に後ろから腕を回す。
「ユイナちゃん.......わたしっ.......」
出来ないよぉ と泣きそうな感じ。
仕方ないなぁ........
「リサ、離さないでね?」
「へっ?」
リサの腕を引いて、猫ジャンプっ!
「!?」
思いっきり地面を蹴った勢いで、脆い足場が少し陥没する。
マジか.......。
ふわっと浮いて軽い音と共に着地した私と反対に、無理に連れてこられたリサがドサッと落ちてくる。
「きゃあっ!」
ぐてー と伸びるリサ。あ、
「ごめん、雑だったかも」
苦笑する双子に、リサが八つ当たりした。
ごめんジンたち。なんかごめん。
のろのろと立リサがち上がった丁度その時、先に見える岩山の続きの壁の向こうから爆音と砂煙が立ちこめた。
時折、拳大の岩石が飛んでくる。
「「うおわっ!?」」
「きゃっ!」
固まってもめていた3人の丁度真ん中に岩石が叩きつけられて、咄嗟に飛び退く。
「大丈夫!?」
抉れた地面を見る限り、かなりの威力だったことがわかる。
飛び散った欠片がかすったのか、ジンが腕を押さえていた。
「防御結界! からの治癒空間!」
全員を覆うサイズの防御結界を張り、更に傷が治るようにイメージを練った治癒空間を結界内部に展開する。
身体の組織が早送りで治っていく感じで、映画などのリアルなCGを元にイメージ、追加でそれっぽい緑のエフェクトをする。
と、
「おおっ、治ったぁ!?」
ジンが腕から手を離して何度も見直す。
異世界なら治癒魔法も有名かと思ったけど、この反応だと一般的ではないらしい。眼を丸くして2人も凝視していた。
傷が治ったから治癒空間を解除する。複数の範囲魔法のイメージをし続けるのって、意外と難しい。
次第に、岩石は落ちてこなくなったから、防御結界を解除する。
高く立ちこめていた砂煙が晴れ、何かが姿を現した。
「.......マズいわね」
3人の中で1番魔力感知に優れたリサにも分かったらしい。この魔物の異常さが。
ゴツゴツとした岩の鱗で覆われた、ドラゴン。
「SHUOOO!!!」
甲高い風切り音みたいな咆哮が、空気を震わせる。
ドラゴンは岩の翼を羽ばたかせ、台風のような突風が吹き荒れる。
風属性の固有魔法だったのか、吹き飛ばすみたいな効果で見事に双子が揃って宙に浮いた。
咄嗟に風魔法で相殺し、双子を岩棚の上に押し戻す。
魔法が途切れて風が止んだ。
「ジン、シン、避けて!」
半分放心状態でお互いを見あう双子。そこに追い討ちの岩石連弾が襲う。
リサの切羽詰まった悲鳴に近い声に、なんとか反応して回避出来た。だが途切れることのない岩石連弾に掠りそうになっていく。次弾から守ろうと、双子を結界で覆ろうと魔力に集中すると、双子とは別のもう反対の手から岩石連弾が襲う。
「っ!」
反射的に自分とリサを結界で守る。結界を通して観れば、シンとジンが紙一重で岩石を避けている。
結界を2つ創って維持するとなると、攻撃に意識を使えない。となると.......
「風刃!」
攻撃魔法に見なされる空気の刃が、猫神様の求める派手な範囲攻撃に変化して撃ち出される。アパートくらいある岩ドラゴンに、ビルも真っ二つに出来そうな巨大な風刃が迫っていく。
「SHUOOO!?」
岩ドラゴンは風魔法で相殺を図るが、刃先を削っただけに留まり、巨大な空気の衝撃をくらって、身体を覆う鱗が粉砕した。
爆風で舞い上がった砂煙が過ぎれば、満身創痍って感じの岩ドラゴンの姿。
岩の鱗が剥がれ落ちて、中身があらわになっている。とはいっても中身空洞みたいだけど。どうやって身体を維持してきたのかな?
まさかの外骨格だったドラゴン。ぼろぼろと岩が剥がれて崩れていく。
あと一発で倒せそう。
魔力を込めようと集中しなおし、再度撃つ!
「風刃っ!」
巨大な空気の刃に、今度は抵抗もできずに岩ドラゴンは砕け散った。
ガラガラと岩が崩れ落ち、轟く。
「「「やったぁー!」」」
わー! と3人がハイタッチ。歓喜のあまり私に全員で飛びかかって見事に団子になった。
砂ぼこりにまみれて笑う3人。
「死ぬかと思ったぁ! ユイナちゃん、凄かったよぉ!」
「「マジで良かった! サンキュな!」」
「魔法凄いよ! 無詠唱!」
「死ぬかと思ったもんな」「なぁ」
本当、助かって良かったよ。
「ジンたち避けるの上手いんだね、凄かった」
「「そうでもねぇよ、ギリだったもんな」」
わちゃわちゃする3人。
今回は守りながらだったし慣れてなくて危なかった。ほんと、あの2人、よく避けてたよ。
ガラッ.......
「?」
ガランッ、ガラガラ.......
「「「!?」」」
瓦礫が崩れていく音に見てみると、数十個の岩が宙を浮いている。
「「なんだぁ!?」」
SHUOOO!!!
どこからか岩ドラゴンの鳥肌がたつような甲高い風切り音が放たれる。
周囲の岩という岩が浮かび上がり、息をつく間もなく襲ってきた!
風魔法で少し離れたところにいた双子を引き寄せ、防御結界を張る。
鋭利に尖らされた岩が当たるたび、ギャリッ! とガラスを引っ掻くような不快な音が鼓膜を揺らす。なんと岩に回転をかけて結界を破ろうとしているらしい。岩ドラゴン、どうやら知能を持っているようだ。
結界を維持しながら考えている間にも、それは止まない。
もう何分この状態が続いているのか。
私たちのいるシールドがどんどんと岩に埋まっていく。光がさしていた最後の隙間を岩が覆い尽くすのを、全員が絶望的な顔で何も出来ずに見守っていた。
読んでくれてありがとうございます!
次回、岩ドラゴン戦part2です!
ギルド職員は影から見ているのではないか? ということを考えた人へ、ギルド職員には足場が小さすぎて、下から見守っています。
今後ともよろしくお願いします!
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