17. 冒険無しの1週間
今回はあんまり面白くないです。
次回、ちょっと頑張って書きますよ!
今回、解体士シーアのお母さんが出てきます!
「ムーン、今!」
草原を割らんばかりの勢いで爆走する毛玉、否、毛玉水牛の群れに、斜め後方からムーンに乗って攻める。
合図で高く跳んだムーンが、群れを飛び越す合間に、投擲用のバーを投げ、眼下の毛玉水牛の頭部や首に突き刺さると同時に着地。
毛玉水牛の群れが去ったあとには三頭の毛玉水牛の屍が取り残された。
「すっ、凄い.......! ユイナさん、凄いですね!」
パチパチと拍手を送ってくれているのは、昨日、専属解体士になってくれたシーアだ。
どうやら 夕暮れに届く魔物 の元凶である私にずっと会いたかったそうだ。その夢が叶ってなお信じられないようで、午前中で良いから戦っているところを早く見せてほしいと頼まれた。
「毛玉水牛は初めてだったんだけど、これでよかった? いつもの方が信憑性があったんじゃない?」
「いえ! 毛玉水牛の群れに突っ込んで、しかも3頭同時に急所で倒せる冒険者さんは他に居ませんから!」
褒めてくれるのがなんかこそ痒いな.......。
「きゅうう?」
これ食べないの? と首を傾げるルーン。
「シーア、この後用事ある?」
出来れば早速食べたいけど、3頭も捌くのは時間が掛かるよね、なにか用事があったら大変だ。
「えと、家に一度帰りたい.......です」
「そう」
お昼は家族で食べるのかな? でも、何で 言いにくそうなんだろ?
シーアの感情の波が、いつになく沈んでいる。
「専属って言っても、シーアの用事は優先だし、休みたい日はいってくれれば良いよ?」
それに、ある程度お金が貯まったから、暫くは狩りには行かないつもりだと伝えると、シーアは困ったような顔をする。
そんなに解体したかったのかな?
シーアが押し黙ってしまったから、とりあえず毛玉水牛をストレージに収納。
生物は鮮度が一番だもんね。
街に戻りながら話す。
「うち、家が貧しくて.......だから仕事がないと.......」
! そんな事考えてなかった.......。
日本とは違って、ここは貧富の差が激しい異世界だ、そこを忘れちゃいけない。1日仕事がなかっただけで、どれだけの影響がでるのか。
「じゃあ、冒険には行かないけど、毎日、ストレージの中の魔物を1匹、解体してもらうよ。その時にお金は支払うから」
「!」
よかった と息をつくシーア。
シーアの家はだいぶ貧しいみたいだな。両親はどうしているのかな?
「お父さんとかは?」
なんとなく聞いてみると、シーアの脳波が激しく暴れだす。
シーアが激しく動揺している。
「.......お父さんは、いないです。お母さんと二人っきりで.......」
なるほどね。
あ、そうだ。
「家に帰るならさ、一緒に行っても良いかな? シーアはまだ子供だし、親もシーアがどんな人の専属解体士になったのか知ってた方が良いでしょ?」
「それは、そうですけど.......、家にはお客さんをもてなせるほどのものはないんです。それでも良ければどうぞ」
「大丈夫だよ、人のうちに訪ねるんだから、私こそ何か持っていくべきだから。食べ物がいいかな?」
手持ち無沙汰では失礼だしね。
「はぁ.......」
シーアはよくわからなそうにしている。
どうやら、この世界にはそんな風習は無いみたいだ。でも、私が気持ちよくないから何か持っていこう。
日本だったらお菓子とかだよね。でも、そんなの見たことないし、何がいいのかな?
「シーアのお母さんは、何が一番ほしいかな?」
人に聞くのが一番無難かな。
「お母さんなら、何でも喜ぶと思います」
うーん、期待した回答じゃないな。
シーア自体、まだ私に畏まってるし、聞いても なんでも って言うよね.......。
よし、何か果物にでもしようかな。お菓子の代わりになるか微妙だけど、甘いものなら手を出しやすいだろうし。
ちょうど街門をくぐって、出店が沢山あるし、ここで買ってこよう。
「シーア、急ぎじゃないなら、少し待っていてくれる? 買ってくるから」
「えっ!? いや、いいですよ、気を使わなくて!」
「いいから、ちょっと待ってて」
子供なんだから、もっと欲を出しても良いのに.......。
直ぐだから とムーンと待たせて、私は鼻の利くルーンとところ狭しと並ぶ出店に駆け込んでいった。
「ルーン、甘くて美味しそうな果物の匂いがあったら案内してくれる?」
「きゅう!」
早速見つけたらしいルーンのあとを追って、高速で果物を買い集める。
とんぼ返りで直ぐに戻るとシーアに驚かれた。
シーアの家は郊外の丘の上にあるようだ。
なだらかだけど長い坂道を歩く。しばらくして、木製の家々が十数件まばらに並ぶ集落についた。
一番奥がシーアの家だそうだ。
「ただいま、お母さん」
「おかえり。あら? 後ろの子はだれ?」
シーアのお母さんは病気なのかベッドに寝ていた。なるほど、シーアがしっかりしているわけだ。
「専属解体士をシーアにお願いした冒険者のユイナです。報告を兼ねて、顔合わせに来ました」
「まあ、あなたが夕暮れの冒険者さん? 随分とかわいいのね」
昨日、シーアに聞いたのだろう。
シーアのお母さんはふふっと笑う。しかし、直ぐに咳き込んでしまった。
「お母さん?! 大丈夫?」
すかさず背を撫でるシーア。
これは、生活が困窮するわけだ。
「シーア、食事はどうしてるの?」
これじゃあ、作る暇は無いんじゃないかな?
まさか、買うしかないからお金が貧しいとか? 外食って意外と高くついたりするし。
「ギルドで賄いを貰ったり、集落の皆から分けてもらっていたりしてました。私は作れないから.......」
「!」
そこまでなのか.......、やっぱり、異世界は違うな.......。
日本では、社会保障が機能していて、明日もわからないなんてことは殆んどないだろう。そんな、力強いバックアップのない異世界だ。
冒険にはシーアに着いてきてもらうし、危険は伴うし、そのせいでシーアのお母さんも心配すると思うし、なにかお礼ができないかな?
生活が楽になるとか.......、あ。
閃いた。
シーアの家で料理すれば良いんだ。そうしたら、私もシーアも美味しく食べられるし、シーアたちが食いっぱぐれることもない!
「シーア、私が料理しても良いかな?」
「「えっ?」」
いきなりの提案に困惑する二人。そりゃそうか。
私はシーアたちに、冒険での危険は解体料以外でお礼がしたいこと、これから冒険で組むのだから、関係は良好にしたいことを説明した。
「でも、ユイナさんにご迷惑がかかってしまうわ?」
「私は料理したいだけだから。しばらく何もしないつもりだったし、まずはいきなり専属解体士になってもらったお礼ってことで、どうかな?」
日本にいたとき、中学の家庭基礎でやった調理実習の授業は先生から最高点を貰ったほどだ。料理は得意なほうなんだよ!
シーアとシーアのお母さんは顔を見合わせると、
「お礼は受け取らなければバチが当たりますね」
と、二人は了承してくれたのだった。
戦闘も少なければ、対して事も起こらない話でしたね。
次回、ユイナのお礼と称したご飯たちが卓上を彩る予定!です!




