16. 解体場で
だいぶ寒くなってきましたね。
16話更新します!
今回はいつもより2000文字近く長いです。
感想お願いします!
ふらふらゆっくり歩いていたら、小川があって遊んでいたら夕方に街に着いてしまった。
時間があるからって遊びすぎた.......。
もう閉まっちゃったかな?
急いで解体場に向かう。
ギルドの裏手にある大きな建物、一見工場みたいな(富岡製糸場のもう少し大きなイメージ)見た目の解体場。
血の臭いがするかなと思ったけど、全くそんな不快な臭いはしない。
建物を支える柱全部に魔法陣が刻まれて赤く光っているのとなにか関係あるのかな?
外周をぐるっと歩くと、入口はギルドの左奥にあったみたいだ。反対から回ってきてた.......。
窓口があるけど、ここから頼むのかな?
「いらっしゃい、ここにくるのは初めてかしら?ギルドカードを出して、奥の入り口から入ってね」
ふっくらとした受付のおばさんに促され、ギルドカードをストレージから取り出して渡す。
「あら、若いのに初心者って訳では無いのね」
ギルドカードをみたおばさんは意外そうに呟いた。
「冒険者になって半年はたつよ、皆このくらいじゃないの?」
「そんなわけないでしょう!ランク1つ上がるのに速くても半年よ?あなたは2つ半も上がっているのだから物凄い成長ね。魔物も期待してるわ」
ポンと背中を押され、先に進まされるとそこには8畳くらいの大きな台。
「これは?」
「はかり台よ。これで魔物の重さを計るの。さあ、上に置いてちょうだい」
地蜥蜴の方が断然大きい。確実にはみ出すよね?
「絶対入らないんだけど.......?」
「同じ魔物なら1匹だけ計るのよ。ほら、早くしないと解体時間が終わっちゃうわ」
ほらほら、とせかされても困る.......。
と、その時、横の壁もとい大きな扉がスライドして、男の人が出てきた。エプロンをしてるから、ここの解体士なんだろう。
「まだいたのか?もうセリ始まっちまうから早くこい」
くいくいっと手招きされて中に入れば、ずらーっと奥まで巨大な解体台が並んだ広い空間。
30人ほどの解体士は今は台を拭いているようだ。
「お前ら、悪りいけど1番台使うぞ!ほら、嬢ちゃん魔物出して」
.......乗らないっての。
「地蜥蜴だから乗らないんだけど、どこに出せば良い?」
そのとたん、聞こえたらしい解体士全員がピシリと硬直した。
後ろに着いてきていた受付のおばさんも同様に。
えっ、なにどうしたの?
「お嬢ちゃん、今なんて.......?」
自分の耳が信じられなかったようだ。
「だから、地蜥蜴。今から解体出来る?肉以外は私要らないから」
またも数秒の沈黙。
「「「「「はあああ??!!」」」」」
そして揃って硬直が解けた解体士たち。
地蜥蜴ってAランクだよね? 狩ってくる冒険者もいるでしょ? 何を驚いているんだろ?
「っ.......、おい! 1番から16番の台を集めろ!全員でとっとと捌くぞ!!!」
「「「「マジっすか?!(セリ始まりますよ?!)」」」」
「仲買人には一時間くらい待ってもらえ!なんならこれの解体を見せろ!そうしたら逆に儲かる!」
「「はいっ!」」 「わかりました!」
それからの事の展開は早かった。
巨大な解体台が、横列4つ、縦列4つずつ移動され、1つの更に巨大な台になり、そこにストレージから取り出した地蜥蜴が乗るや否やわらわらと解体士が集まって解体を始めた。
「鱗に気を付けろ!傷付けるなよ!」
「「「「「おっす!(はい!)」」」」」
解体台の側から指示を出していた男の人、所長のディーンさんが寄ってきた。
「あんた、王都かどこかの名の知れた冒険者さんかい?あんな、前肢の脇から心臓を一撃で倒すなんて芸当、こんな時に田舎の街いないだろ」
いや、この前冒険者になったばかりです。
「成り立てだよ。たまたまいたから狩っただけ」
ディーンさんは苦笑しながら次々と指示を出していく。
「バカ言うなよ、そんな訳あるか。あれか? 御忍びで来たのか?」
解体はどんどん進み、身体中を覆っていた鱗が取り払われ、あとから来た他の解体士たちによって奥へと運ばれていく。
それを待ち構えていたように、運ばれた先のセリの会場を取り巻く。
「所長!牙はどうしますか? 顎ごとにしますか?」
「仲買人に聞いてからだ! 嬢ちゃん、頭の肉はいるのか?」
「身体だけでいいよ。細かいのは要らないから」
細切れがあっても今の調理法じゃ使えないからね。
「そうか.......、おい!聞いたな?!とっとと捌いて肉以外を売り出すんだ!多分今月分はボーナス付くぞ!」
「「「「「おおっ!」」」」」
30分後、皮、肉、骨、内臓 と、地蜥蜴は全て解体し尽くされ、種類ごとに分けられた。
仲買人たちが集まって、セリが一時間ほど遅れて開かれる。
「おい、誰か嬢ちゃんの会計を頼む!」
白熱した仲買人と解体士の交渉の合間、ディーンが片付けをしている解体士たちに呼び掛けるも、皆片付けに手一杯みたいだ。
「シーアちゃん、シフト外だけどお願いできる?」
解体場の中程に設けられた休憩室から呼ばれて来たのは、まだ小さい少女。さっき、地蜥蜴の前肢の爪の処理をしていた子だ。随分と傷口を見ていた.......。
「はい!すぐ行きますっ!」
ボブカットの茶髪に、左側のみ髪を結んだところが、少女の小走りに合わせて ぴょこぴょこ と揺れる。
身長は120㎝くらいだろうか。少女の体格に不釣り合いな大きめなエプロンを手早く畳んで、カウンターに入り、置かれた料金表を手に取った。
ふと、目が合う。
「猫さん.......?」
シーアと呼ばれた少女がじっと猫耳を見ている。
なんか、そのうち穴が開きそう.......。
「どうしたの?」
「あっ、ごめんなさい! えと、解体料は銀貨35枚で、お肉以外は売却とのことなので、解体料を引くと.......689枚です!不正確認のために、秤をご覧下さい」
カウンターから取り出された大きな鉄板、否、あれは魔道具の秤か。
シーアはその上に大きな袋を載せると、手をのせて魔力を込めた。ポッと描かれた魔法陣が光る。
「では数えます。銀貨は1枚4gですので、えーっと.......2756gになります。じゃあ入れていきますね」
おそらく100枚ずつに分けて入れてあると思われる袋の中の銀貨を
7袋分いれると、袋から11枚取り出していく。
「これで銀貨689枚、2756gで全てです!確認お願いします」
うん、合ってる。こう言う数えかたをするんだね。
そして、これで1週間分多く稼げた! 暫くは冒険者業はやめて、だらだらしよう!
「ありがとう、肉はどこで受けとれば良い?」
ストレージに仕舞って聞くと、案内してくれるらしい。
「保存庫に入れてあるんです。収納魔法が使えるみたいなので、直接渡しますね」
「重いもんね」
保存庫は休憩室の反対側の扉から入った。
ここも柱に魔法陣が刻まれている。そして、天井と床に、紫の魔法陣。
薄暗くて、魔法陣の光が唯一の灯りになっている独特の雰囲気の場所だ。
そこに置かれた白いシートの上に並べられた肉塊。
物凄い量.......。
「売らなくても大丈夫ですか?」
「うん、ムーンたちが、あ、入口にいた雲獣がね、たくさん食べるから問題ないよ」
たぶん2週間くらいで食べきっちゃうと思うんだよね。
「あ、いえ、収納魔法に限度があるのは知っているんですけど、こんな量、入るんですか?」
魔力不足で倒れちゃいますよ とシーア。
あ、そっち?
「大丈夫じゃない? これ以上に収納してあるけど、何ともないから」
「そっ、そうなんだ.......」
なんか、信じられない! って顔をされてるな。
というか、ストレージに出し入れするのに魔力使うんだ。分からなかった。
シートの上の肉は全部私のらしいから、手をかざしてまとめて収納した。
薄暗い室内を、収納エフェクトが漂う。
「今日は急に頼んでごめんね。夕食に間に合って助かったよ」
「大丈夫です.......!このくらいの時間にギルドから仕事がくることもザラなので!」
パタパタと顔の前で手を降るシーア。大人びた子だなと思っていたけど、こう言うところは年相応だね。
って、なんか私、婆くさかった。まだピチピチの15歳だよー!
「ありがとね、じゃあ」
行くね と出口に向かおうとすると、シーアが戸惑うように手を私に伸ばしていた。
まだ何かあるのかな?
「なに?」
「あっ、えっと.......」
「?」
シーアは暫く押し黙って、意を決したように顔をあげた。
「あの、お姉さんは.......」
「ユイナだよ。どうしたの?」
「え、えと、ユイナさんは、夕方にギルドに完了報告をする腕利きの冒険者さんを知っていますか? BランクとかCランクの魔物を狩ってくる.......」
夕方にギルドに完了報告する冒険者?
「この前なんて、火炎蜥蜴を狩っていたんですよ」
「私、いつも夕方にギルドに行ってるけど、いるのは初心者たちばっかりだよ?魔物も、角兎とか跳栗鼠とかだったよ?」
BとかCランクのを狩ってくる夕方ギルドに行く冒険者なんて私くらいじゃない?
「.......そう、ですか」
なんだかよくわからないんだけど、シーアは落ち込んでしまった。その冒険者になにかあるのかな?
「あ、ごめんね、力になれなくて」
「いえ、すいませんでした」
保存庫の空気が気まずくなり始めた。
えーっと、どう声をかければ良いんだろ?
静まり返った保存庫とは反対に、解体場のほうはなんだか騒がしい。
「なにかあったのかもしれないので、解体場の方に行きましょう」
シーアに続いて、解体場に戻ると、そこにいたのは.......。
「イラさん?!」
「あっ、ユイナさん!居たんですか!」
私の信頼する専属サポーター、兎人族のイラミシアさんだった。
なにやらセリが終わったらしいディーンさんたち解体士の人たちと話をしていたらしい。
あ、もしかして?
「皆さん、専属解体士を探しているユイナさんです。ここにいるということは、直接解体を頼まれたのではないでしょうか?」
やっぱり、募集に来てたんだ。
「依頼人って、お嬢ちゃんなのか!」
「「まじか?!」 「あの地蜥蜴の猫ちゃんかよ!」
「えっ? 地蜥蜴?」
イラさんから 聞いてませんよ、どういうことですか? と目線が届く。
「今日はギルドに寄ってかなかったから.......、どんなところか気にはなってたから、行ってみようってことで.......」
「そうですか.......」
地蜥蜴って、Aランクですよ?とイラさんのあきれた声。
「この嬢ちゃん、前肢の脇の防御の低いとこから、心臓をピンポイントで仕留めてたんだぜ?なあ、嬢ちゃんって何者なんだ?」
「猫耳あるけど人だよ?」
「ユイナさん、なんか違います.......何者とはそう言うことではないです」
あ、そっか
「半年前に冒険者になった、ランクD+のただの冒険者だよ」
「「「「「「そんな訳ねーだろ!!!」」」」」」
「ホントです! 今までそんな人いなかったんですよ! ユイナさんくらいですよ、初日からスライムの魔核を大量に持ってきたり、草原一帯の狼をまるごと狩ったり、この間なんてランクAの火炎蜥蜴を 「なんかいたから」 なんて平気に持ってきたし、異常過ぎます!」
息継ぎせずに言い切って荒く肩で息をするイラさん。
「さっき、ギルドマスターからユイナさんのランクをBにしろって言われちゃいましたよ!!」
「「「「「「.......」」」」」」
完全に頭がショートした解体士たちが、無言で突っ立っている奇妙な絵面。そこに、幼い声が通った。
「あの、お姉さんがもしかして.......」
背の高い男たちの壁を抜けて、私の目の前にきたシーア。
その言いたいことに真っ先に気付いたらしいディーンさんが、「たぶんな」と頷いてシーアの頭に手のひらを乗せる。
そのとたん、シーアは満面の笑みを浮かべた。
(このひとが、あの 夕暮れに届く魔物 を狩った冒険者さんなんだ!)
「私、ユイナさんの専属解体士やります!やらせてください!」
「「!!」」
まさかのシーアちゃんが!
地蜥蜴の時の捌きも上手だったし、速かった。幼いながら優秀な解体士なんだろう。これは嬉しい。
イラさんと顔を見合わせると、OKと言うことらしい、頷いてくれた。
「うん。よろしくね、シーア」
少し膝を折って、目線を合わせて手を差し出す。
「.......!!!」
シーアは感極まった様子で、涙目を擦ると、私の手に自分の手を置いた。
差し出された私の手を、シーアの小さな手が握り、繋がれる。
解体場の皆が見守るなか、私とシーアの契約が成された。
解体士のシーアが仲間入りです!
シーアとはこれから一緒に過ごすことが増えていきます。
ブクマ、感想、お願いします! m(__)m




