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15. 夕暮れに届く魔物

ユイナではないですが、次でユイナの専属解体士になる女の子、シーアのお話です。


ここはギルドの裏手にある魔物の解体場。今日も数え切れないほどの量の魔物が捌かれている。



「シーアちゃん、2番なんだけど次いける?」


1日がもう終わるという頃、一仕事終え、休憩していたところに新たな仕事が回ってきた。

ナイフも磨いであるし、出来る。


「はい、2番入ります!!」


「「「おーっす(頼むわ~!)」」」


解体場で働く10歳の少女、シーアは休憩室から出ると、撥水性のある蝋が塗られたエプロンを着付け、解体用のナイフを棚から取り出す。

ナイフを布でくるみ、2番台へと駆けつけるとそこには3体の双尾狼(ツインテールウルフ)

双尾狼(ツインテールウルフ)は皮下脂肪が少なくて、倒されてから時間がたつと皮を剥ぎにくい。

時間のかかる魔物が回ってきた.......。


「はぁ.......」


力の弱いシーアには、少しキツイ肉質の硬い魔物だ。

解体は繊細さが求められる作業だ。傷ひとつでその価値が下がってしまう。


.......すう~、はぁ~


集中! と深呼吸し、ナイフを魔物の傷口に添わせる。

ナイフを当て、傾けて力を入れて剥ごうとすると、


スッ


あれ? 硬くない?

皮を持ち上げてもう一度、.......やっぱり硬くない。

慎重に剥いでいくと、いつもより圧倒的に速く皮を剥げた。

現れた肉質から、その鮮度がわかる。

いつもはもっと黒っぽいのに、赤い。シーアは驚いて、手を洗って目を擦る。

やっぱり、凄い新鮮。


これを獲ってきた冒険者さんは、ベテランなんだろうな。切り口は真っ直ぐだし、首の付け根を一撃で正確に断ってるもん。


あっという間に3体解体を済ませ、休憩室の長椅子に腰掛ける。

また、同じ人の魔物を捌きたいな.......。





次の日も、綺麗に倒された魔物は、解体場で日暮れから行われるセリの間近に入ってきた。

解体場(ここ)では、依頼のあった部位以外を商人たちに直売するセリの場も兼ねている。

大人たちはセリの準備や商人たちとの事前交渉に忙しい。とすると、必然的にセリに参加しない子供の解体士に仕事が回ってくる。


「おいおい、またこんな時に.......、誰か急いで処理頼むよ!ギルドからだから全部位セリに出しちまうからな!」


「あ、私やります!」


一目見ただけで、この前の魔物と同じ人のだとわかる。

こんな綺麗な切り口、他にいないもん。


「お、助かるわ。急いで捌いてくれ。あと、毛皮はなるべく足先まで剥いでくれ、ちょうど買いたいって店がいるんだ」


「はい!」


1番台に運ばれてきた斑山羊(マーブルゴート)、白に茶色の斑模様で革製品として人気らしい。


ナイフを水で洗い、首の切り傷から皮を剥いでいく。

やっぱり、やりやすい。

ほんの数分で蹄のギリギリまで皮を剥がし終えた。


「皮出来ました!」


「あいよ!次、肉の人がいるから一番に股肉頼む」


「わかりました!」


脂で切れ味の落ちたナイフを一旦洗い、素早く内臓を出してトレーに詰める。

筋繊維を傷付けてしまわないように、そっと筋を断って、骨との癒着を離し、これも別のトレーに、両股とも入れていく。


「サンキュー、後は角と蹄、各部位の肉、あと背骨をお願いな。残りは余りだから、肉と骨を分けて厨房にな、今日の賄いはスープだってよ」



「ありがとうディーンさん!」


母親と二人暮らしのシーアには、賄いの存在がかなり大きい。

シーアの母親は病気がちで体が弱いため、食事もスープのような喉を通りやすいものの方がありがたい。

シーアが夕方までするシフトの時の賄いがスープが多いのは、シーアの母親と幼馴染みの所長ディーンが計らってくれているからだろう。


全ての部位を解体しおえたシーアは、休憩室でエプロンを水で軽く洗ってロッカーに掛けると、「お先に失礼しますっ!」

と場に声かけをして帰途に着いた。

もちろん、外の窓口から賄いのスープが入った水袋を受け取るのも忘れない。


「また明日ね」


「さよなら、また明日」


窓口のおばさんに別れを告げ、オリジナ郊外にある家に向かった。

途中、屋台が出ていて、その香ばしい焼き串の匂いに食欲が出るがその場に踏みとどまる。

体の弱い母が、遅くまで仕事をしているシーアを心配して待っているから、早く帰らないと。

それに、貧しいシーアの家ではスープを温めるのに使う薪を買うお金すら惜しい。スープが冷めてしまわないうちに、帰ろう。

水袋の口を縛る紐を再度確認し、シーアは水袋を抱えて小走りに家に向かう。

母親には通らないでと言われている細い路地を、時間短縮のために通り、町を抜け、丘陵地帯にあるシーアの家に走っていった。






「ただいまお母さん、大丈夫だった?」


「ええ、今日はいつになく安定していたわ。お帰りシーアちゃん、お仕事お疲れ様」


シーアたちの住む小さな集落に住む近所のおばさん。いつも母親を気にしてくれている。


「ありがとマーサおばさん、ただいま」


「はいお帰り、じゃあ私はこれで。おやすみなさい」


マーサおばさんはお母さんに お大事にね と言って帰っていった。


「お母さん、今日はスープだよ、飲めそう?」


小さな家におかれたベッドに寝ている母(名前はリアーナという)はゆっくりと起き上がる。


「お帰りシーア。ごめんね、こんな遅くまで.......」


「気にしなくて良いの!もう、お母さんは心配性なんだから」


「でも.......」


水袋に積めてもらったスープはまだ温かい。木の器にそぉっと移して、お盆にのせて持っていく。


「はい、ご飯」


「ありがとね、シーア」


食事の邪魔にならないように、掛け布団を折り返してお盆を置く。えと、あとは.......


「昨日、向かいのおじさんからガレットを貰ったでしょう?シーアが食べな」


あぁ、そうだった。

葉っぱで包まれたガレットを手に取る。3つあるから明日の朝に1つとっておこう。


ほとんど寝たきりの母は食べるのもゆっくりだ。それに合わせてシーアもゆっくりゆっくりガレットを齧る。

食事の時間はお話の時間。シーアが今日あったことをお母さんに話をする時間だ。

外にいけないお母さんに、幼いシーアが決めた約束。


『お母さんの分も、シーアがいっぱいいーっぱい色んな事、見てくるの!それでね、お母さんにお話しするの!そうしたら、お母さんもシーアとおんなじ思い出ができるよ!』


何年前だったか、お母さんが起きれなくなった頃にシーアがした約束だ。今ではそれが習慣になっている。


「あのね、今日はね.......」


「うん」


シーアは昨日と今日にあった夕方に届く魔物の話をする。

昼間が稼ぎ時なはずの冒険者が、どうしてわざわざ夕方ギリギリに魔物を狩っているのか。

その魔物は切り口が綺麗で、多分ベテランのCランクかBランクだと思うのだと話す。オリジナにはまずいないAランクの人が倒したのかもねとリアーナ。


「でも、何で遅くから討伐に行くのかな?」


「もしかしたら、その冒険者さんはお寝坊さんなのかも知れないわよ?」


「じゃあ、きっと朝が弱いんだね」


お話の時間はゆっくりと、だか確実に過ぎていき、夜空には星が輝いている。

最後の一口を掬い、飲みおわったことで、お話の時間もちょうど終わった。

寒くならないようにお母さんに掛け布団を掛けると、これもまた日課の片付けをするシーア。

リアーナはそれを暖かく、少し淋しそうに見守る。

シーアは頑張り屋さんだから、明るい反面、気持ちを溜めやすい。だから心配だ。

リアーナとしては、自分がシーアの人生の足枷になってしまっていることが悔しくて情けない。本当は直ぐにでもシーアを放してあげたい。でも、自分のために純粋に頑張ってきたシーアの気持ちも裏切れない。

曖昧な気持ちの自分が不甲斐ないと思う。


カチャカチャと器を拭く音が無くなった。片付けが終わったみたいだ。

明かり取りの窓からは、真っ暗な空が覗いている。もう、こんなに遅いのか。


片付けを終えて手を拭いているシーア。


「シーア、もう寝よっか。あんまり遅くまで起きていると、お寝坊さんの冒険者さんみたいになっちゃうよ」


さっきの話で出た、夕方に届く魔物 をギルドに持ってくる冒険者さんのことだ。


「あはっ......はあぃ」


シーアは苦笑しながらも、上着を脱いで部屋着になるとリアーナの横に潜り込んだ。


明日もやりたいな。






その会話から毎日、夕方にギリギリに届く魔物の話をする。

毎日毎日、その魔物は届いて、シーアが捌いてきたからだ。何度か捌けなかった日があったが、その日の話は次は必ずやるんだと意気込んだ。


「明日は出来るよ」「明日もシーアがやろうね」


そんな話をすること半年。

ギルドから解体場に、冒険一年未満の新人冒険者の専属解体士を募集していると通達がきた。

何でもその新人冒険者は凄腕らしく、もうランクD+にまで登ったソロの冒険者だそうだ。

冒険者デビューは半年前だそうで、もしかしたらと思っていた数日後、シーアはその冒険者に出会うことになる。





読んでくれてありがとうございます!

感想、ブクマよろしくです!


次回、ユイナの話です。

やっと話が動く感じ.......

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