11. 初日の終わり
遅くなりました、ユイナじゃない別視点です!
1/28 訂正しました
放たれたファイヤアローは、スライムに突き刺さり爆炎を噴き上げた。
その炎は蒼く、水色の魔力が炎を変質したものということをユイナもマナリアも分からなかった。
眩しさに目を瞑って、開くまでの間に、炎を変質させた魔力は尽きて、炎は本来の色を取り戻したから。
そして、大質量の炎が放たれた結果.......
「えっ?はい?」
マナリアが混乱して私を見てくるが、私にも説明が出来ない。
マナリアのファイヤアローをみて、真似して魔力を放ったら、スライムどころか地面をも、溶かしてマグマみたいになってるなんて.......。
これ、どうすればいいの?
「きゅうう?」
もそもそとムーンが横に来た。
暫くじっと、冷めて硬化してきた地面を見つめると、いきなり「きゅう!」と鳴いた。
風が動いた。そして、目の前に吹き荒れる竜巻。
「なっ、なによもぉ!」
マナリアは混乱して状況に追い付いていないみたいだ。まぁ、私もムーンが魔法を使えるなんて知らなかったけど。
竜巻は直ぐに消え、そのあとにはかき混ぜられ、ちょっと周りよりこんもりした普通の地面が広がっている。
竜巻を起こして、マグマ化した地面を冷ました上でわからないように細工をしてくれたみたいだ。
「ありがと、ムーン。助かったよ」
「きゅううぅっ!」
ムーンがしっぽをバサバサさせて降っていた間、何も出来なかったルーンが「きゅうぅ....」と可愛く唸っていた。
予想外に強力なファイヤアローだったけど、更に魔力を少なくすれば普通のが出来るだろう。
攻撃手段は出来た。あとは、スライム残り2体にぶつけるだけだ。
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夕方、薄暗くなり始めた頃にギルドを訪れる冒険者は意外と多い。
大抵は、初心者が丸1日駆け回って、やっと依頼を終わらせて、くたくたになって依頼完了、または期限に間に合わず失敗報告をするか。どちらにしても、喜びもなんの感情もわいてこない、ただ考えるのは惰眠への異常なほどの欲求だ。
今晩も、初心者冒険者達が数十人訪れ、足を引き摺って僅かな報酬を手に帰っていく。
初依頼を完了させて歓喜を浮かべる者も、いたたまれない空気に押し黙って、夕暮れを過ぎた頃のギルドには昼間の騒々しさの面影は無い。ただ、非常に居づらい空間と化す。
また冒険者が来たようだ。
ギルドの窓口の1つを預かるイラミシアは、疲れと陰鬱な空気に垂れるトレードマークの耳を気力を振り絞ってピンと立たせる。
夕暮れを過ぎ、夜の窓口は1人で行う。今晩のシフトであるからには、冒険者の対応をイラミシア全てに任されていると言うこと。
上司も帰ってしまって、残っているのは数人の警備員と、併設されている食堂の人たちだ。ギルド職員はイラミシアただ1人。
イラミシアはギルドで唯一の兎人族だ。獣人の職員は数人居るものの、皆、獅子人族や黄犬人族など、大型で冒険者にナメられることはない。
人族よりも数が少なく、動物が人型になったような姿の獣人は、今はあまり無いものの偏見が酷かった時代があった。その名残からか、小動物の獣人は、容姿を言われることがある。つまりは、ひ弱な格下だから虐めちまえ!ということだ。
兎など、見た目が弱そうだから余計に、だ。
イラミシアがこのギルドに勤めることにしたのには理由がある。
獣人にしてギルド長に就任している黄犬人族のエルの存在だ。エルは剣技に格闘技に魔法と、なんでも出来る冒険者だった。そして、イラミシアのような獣人に限らず人族にまでも慕われるそのカリスマ性を買われ、見事、オリジナのギルド長に就任し、政経に獣人の隠れ差別を無くすため、働いている、獣人達からすれば英雄的存在だ。
そんな獣の下で働いてみたい。そう思ってやって来たのだ。
エル様が獣人への差別を無くそうと、毎週のように、役所を訪れていることを、イラミシアは知っていた。そしてその成果が実るのがそう遠くではないことも。
小心者だか、強い使命感を持つイラミシアは思った。エル様は獣人と人族を対等にしようとしている。なら、今、獣人が差別に屈しないと意思を示さないと。堂々として、ナメられることは無いようにしなければ!と。
イラミシアは少しよれた襟を整え、冒険者を見据えた。
やって来たのは、1人の少女と白い大きなもふもふ。いや、少女は2人だ。1人はもふもふの上に乗せられている。魔力切れだろうか?
「こんばんは、依頼報告ってここであってる?」
長い髪をストレートに下ろした少女が、依頼完了を告げ、何処からかスライムの赤い魔核を取り出した。
1つ、2つ 3つ、4つ、5つ? 6つ? 7つ?? 8つ、えっ?幾つ在るの?え、えと、依頼内容は3つなんですけど.......???
わたわたしているうちにスライムの魔核が山積みになっていく。
えっ、チョォッ???
「ちょっ、ちょぉっと待ってくらはいっ?!いったい幾つあるんですかっ?!」
可愛らしい猫耳の少女は、ピタッと動きを止め、暫く黙ったあと、
「あと20個あるけど、依頼とは別に換金出来る?」
「ひゃいっ!できまふよ!」
うわぁぁぁぁっ!!!噛んでしまいましたーっ!
「じゃあ御願いしてもいい?」
「わっ、わかりゅましたっ!」
また噛んでしまいました.......!!
うぅ、こんなんじゃ駄目なのに、私のバカぁ、ポンコツ兎ーっ!
うぐうっ......冒険者さんが待ってる...早く精算しなきゃ..。
えーっと、
「スライムの魔核、48個、ボーナス付きで銀貨65枚ですっ」
銀貨の入った袋を渡すとき、私の毛深い手と猫耳さんの白くてほっそりした小さな手が触れた。
「あっ」
やってしまいました.......何か言われてしまいます!
猫耳さんは、急いで長袖を引っ張って隠した私の手を、耳を興味深げに見ています。デスクに寝そべっていたとき、寝癖で毛並みが変わっているのでしょうか?だとしたら大問題っ.......!
「もふもふ.......」
冒険者さんが、何か呟きました。
えっ?今、何て?
「もふもふしてて好きだよ。お姉さんの毛並み」
へっ.......?
「他の人がお姉さんにどう言うかは知らないけど、私は兎、かわいいと思うよ。私にだったら、自信もっていいと思う」
!!!
この冒険者さんは、私に偏見を持っていない.......かわいいって言ってくれています!
営業スマイルだった表情が、自然に笑顔になっていく。
「その方が、お姉さん良いよ」
猫耳さんは、銀貨の入った袋を持つと、一瞬で消してしまいました。すごいけど、どんな魔法なのでしょう?
ポイントを入れるために二人分の冒険者カードを受け取り、専用の魔道具に通します。
倒しづらいスライムを大量に倒したからか、ランクDにまで上がっていた。
ありがと、そう言って猫耳さんは、使い魔でしょうか、もふもふな大きな獣たちと一緒に帰っていきました。
「ありがとうはこちらの台詞です.......」
初めて、兎人族であることに文句を言われず、かわいいと言ってくれた。
読み取りをしたあとの魔道具の画面には、使用履歴が残っている。
あの人は、ユイナさんと言うらしい。
ユイナさん、ありがとうございました。心の重りが、少し軽くなりました。
ギルドの閉店時間も近いからか、食堂にも広間にも冒険者はいなかった。
ギルドの扉が閉まった音がする。ユイナさんが出ていったのでしょう。
広間の、扉の向こうのユイナさんに、一礼していた。
思わず、口角が上がる。
ユイナさん、またお会いしたいです。
閉店準備に取り掛かり、窓をひとつひとつ閉めていく。
窓に映ったウサギ耳を見て、ふと思う。
猫耳族とはどんな種族なのでしょう?
.......分かりませんね。
あ、また会ったとき聞けばいいのです!
イラミシアは、また会えますように と1人、褪せ始めた夕日色に染まったギルドで、祈った。
読んでくれてありがとうございました!
今回は新キャラ、兎人族のイラミシアの話でした!
理由は無かったんですがやってみました。
感想、おねがいします!




