ゲームスタート
「ついに配信日か。」
Pちゃんは緊張した面持ちでヘッドマウントディスプレイを被る。
「ブロガーの坂田さんとかokozeさんとかに会えるかな。2000人だから普通に居そうだよな。」
時刻は夜の9時前。世界同時配信だからこの時間なのだそうだ。
GPS時計が9時になったのでログインする。画面には「ようこそ」という文字と「接続中」の文字。
少しすると映像が映し出され、Pちゃんは隊員宿舎の自分の部屋に居た。これはいつもの事だ。
「インステッドオブウォーを遊んで頂きありがとうございます」
いつもは出てこないポップアップウィンドウが現れた。
「あなたの職種は空軍:航空機整備員になりました!格納庫に行くと職種別チュートリアルを見ることが出来ます!」
ステータス画面を開くと今までの素っ気ない画面ではなく、いろいろな数値が入っていた。初めて画面を開いた時にも思ったのだがステータスの数値の種類がとても多い。これほど細分化されているゲームは他に無いほどにだ。
「航空機整備かぁ・・・まぁそういう系だろうなと思ってたよ。とりあえず格納庫に向かうか。」
部屋の扉を開ければ今までとは違って人がいると思うと少し緊張した。
ガチャッと音を立てて扉を開き外に出る。見慣れた廊下に他の人を見付けた。
いきなりかと驚きながらPちゃんは声をかけた。
「こんばんは。」
「こんばんは。」
見た目は特に目立たない初期アバターかと思うような青年だ。
「えっと名前は・・・」
相手の頭の上に浮かんでいる文字を読む。
「あけぴっぴさん?」
「はい。あけぴっぴです。よろしく。あなたはPちゃんさん?」
「Pちゃんでいいですよ。職種どうでした?」
「空軍の事務でした。」
あけぴっぴは口には出さないがパッとしない事務かよと思っているのが滲み出るように苦笑いでそう言った。
「うわー、微妙ですね。でもこのゲームはシステムが相当凝っているから実はめちゃくちゃ面白いポジションだったりするかもですね。」
「だといいのですが、はは。Pちゃんは?」
「空軍の航空機整備でした。」
驚いて羨ましがるようにあけぴっぴは反応した。
「いいなー。見るからに面白そうな職種じゃないですか。あ、多分同じ階ですし初めて話したよしみでフレンド登録しませんか?」
「いいですよ、是非。」
お互いに登録を済ますと配信まで何をしてたか等を話しながら階段を降りて外に出た。
辺りを見回す、いつもと違う風景だ。配信が始まったから人がいる、というよりも場所が違う。チュートリアルでは陸軍の隊員宿舎であったのにここは空軍の敷地内だ。
「ここは空軍の宿舎なんだな。」
「え?何で解るんですか?」
「ああ、自分暇でチュートリアルをやりこんでたんですよ。」
「なるほど。私は事務職なので司令部に行きたいのですがPちゃん場所知ってますか?」
「チュートリアルはどこの部屋も鍵がかかってたんで確証はないですが、多分雰囲気的に司令部っぽいのがあります。行ってみましょう。」
「お願いします。」
二人は歩き出す。
「なんだか思ったより人が居ませんね。」
あけぴっぴがそう言ったのだがPちゃんも同じように感じていた。
「確かに。でもここのマップってめちゃくちゃ広くて、それに対して2000人ならこんなものかもしれません。」
「そうなんですか。僕はチュートリアルは全然やってなかったから、どれくらい広いのだろう?」
話ながら歩いていると司令部が見えてきた。
「あれが多分司令部ですよ。」
「おー、これですか。」
司令部の入り口前まで来るとあけぴっぴは立ち止まった。
「どうしました?」
「ポップアップが出てきました。どうやらここから職種チュートリアルが始まるようです。」
「そうなんですか。じゃぁ自分は格納庫に行ってきますね。」
「はい!ありがとうございました!また話しましょう!」
Pちゃんはあけぴっぴと別れて格納庫に向かった。初めて会った人が普通に社交性のあるあけぴっぴでよかったと思う。オンラインゲームというのはだいたい変な人が現れるからだ。リアルでない空間であることに酔って無茶苦茶な行動を起こす人は少なくない。その点あけぴっぴはとても普通の人だった。
格納庫が見えてきた。
すると前に犬が歩いていることに気付いた。
「犬?」
すると犬が振り返って言った。
「呼んだ?」
「うわ!プレイヤーか!」
「そうだよ。えーとPちゃん?ん?ブロガーのPちゃん?」
「おれの事知ってるの?」
「まぁね。それで、ブログの為に散歩してんの?」
「犬に散歩してるか聞かれると気持ち悪いな。違うよ。格納庫に行くんだ。犬もか?」
「犬を名前みたいに言うな。syuyaって書いてあんだろ。おれも格納庫へ行くんだ。じゃぁPちゃんもパイロット?」
「え!犬パイロットなの?!」
犬が飛行機を操縦している姿を想像して噴き出す。
「なんだ?馬鹿にしてんのか?」
「ははは、いや、犬が操縦しているの想像したら面白くて。」
「やっぱ馬鹿にしてんじゃねえか。マーキングすんぞ?」
「ははは、やめろって。」
「それで、Pちゃんの職種は?」
「航空機整備だってさ。」
「なんだ、それでお互い格納庫なのか。まぁ行ってみようぜ。」
syuyaと並んで格納庫へ向かう。
犬を連れて歩いていると本当に散歩している気分になった。
格納庫の前に付いてもポップアップウインドウが現れない。とりあえず中に入ってみることにした。
格納庫の扉を開くと中に小さな飛行機がたくさんあるのが覗き見えた。
するとsyuyaが突然走り込む。
「うわあ!マジか!こいつはすげえや!」
「何か凄いの?」
「この飛行機はな!ゼロ戦っていうんだ!」