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008:屋上養蜂

 町子が甲高い声を上げ、突進して行く。


「あら、あなたたち、駄目よ!

こっちに来ちゃ駄目! 危ないから!」


 もうミツバチはいないはずなのに。

 野乃花は網越しに、テレビ局が一社、規制線を越えて、こちらに来ようとしているのを見た。思わず網の端を掴んで引っ張る。

 リポーターは押しの強そうな中年女性の登場に困ったものの、取材を敢行する。


「そのミツバチをどうするんですかー?」


 立ち塞がる町子を避け、リポーターは叫ぶように問いかけた。

 太郎は野乃花に「南東側の出入り口に行って。うちの車があるから」と囁くと、町子の代わりに質問に答えるべく、駆け出した。


「私共のビルの屋上で飼う予定です」

「屋上でハチを? この街中で?

危なくないんですか?」 

「街の中で養蜂を試みている自治体や団体は最近、増えてきているんですよ。ビルの上という都会のデットスペースの活用になりますし、ミツバチにとっては外敵であるクマに襲われ難い場所です。

この街は藩政時代、藩祖公がいざという時や家計を助ける食用の為にと武家屋敷に植えるように勧めた古い梅や柿の木が残っています。寺社町の境内にも緑に溢れています。戦後に整えられた街路樹に、広い公園もありますし、少し行けば、原生林が残る山もある。そこには季節によって様々な花が咲きます。

ミツバチは小さい身体ですが半径二キロ程度は集蜜……蜜を集める為に移動するので、意外にも街は養蜂に適している面があるんです。

勿論、巣箱を置く場所は学校の近くを避ける、近隣の理解を求めるなど、様々な方面で気を付けることが前提となっています」


 太郎が饒舌に説明をしている間、野乃花は自分がどちらに行くべきか悩んだ。

 一人、北西側の出入り口を使ってもいい。

 そんな彼女の白いジャケットに、ミツバチが止まった。偵察から戻って来たのだ。

 それをそっと手で包む。このままでは“巣”に帰れなくなる。

 一緒に行こうか。

 彼女はミツバチに導かれてここに来た。だから、今度もミツバチに従うのが正解なのだ。

 野乃花が動いたのを見て、太郎は穏やかでありながら、きっぱりと話を締めに入った。


「すみませんが、なるべく早くミツバチを新居に入れたいので、これで失礼させて頂きます。私共の詳しい活動はインターネットで公開しているだけでなく、『ミツバチ太陽銀行』の本店・支店などで冊子も配布しています。郵送にも対応しておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください」


 言い終わると、町子が引き取った。


「すごいわねぇ。ミツバチって。あなたたち、東様の話を聞きまして――?」


 派手な外見の上、身ぶりも大袈裟な町子にまぎれて、太郎はこっそりと離脱し、野乃花に追いついた。

 南西側の小さな出入り口には『ミツバチ太陽銀行』の社用車が停まっており、真人が待っていた。保護したミツバチは逃げ出さないようにしっかりと処置されていたので、野乃花が連れて来た一匹は、予備の容器に入れさせてもらう。“彼女”は明らかに落ち着かない様子を見せた。


「ごめんね。少し辛抱して。すぐにみんなと一緒になれるから。……本店に行くの?」

「いや、この子たちは二×四ニシビルの巣箱に入居してもらう。本店の屋上はもういっぱいなんでね」


 太郎は防護服を脱ぎ、野乃花から帽子を受け取った。


「小野寺課長も二×四ビルに同行を願います」

「はい。……野乃花さんもいらっしゃるのですか?」


 野乃花が頷くと、真人はほっとしたような顔になった。


「ご迷惑でなければ」

「迷惑なんて、とんでもないです。

自分も野乃花さんに久しぶりに会えて、いろいろお話したいです」


 気持ちが変わらないうちに、真人と太郎は野乃花を車に乗せた。「ミツバチの負担にならないように、急がないと」

 社用車は静かに発進する。車内にブンブンという音が響くが、それが心地良い。

 車は大通りに出るために、公園の北側の出入り口付近に姿を現した。


「……東先生、どうしましたか?」


 一瞬、動きが止まった東に、付添の若手地方議員が声を上げる。


「お疲れですか? あんなことがあったんです。ご無理なさらずに」

「いえ、なんでもありません。ありがとう」


 東は何事もなかったように、自分の仕事に戻った。

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