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040:接客技術

「すごい。本当に、味が違うのね……香りも」

「そうなんですよ。季節や産地で、同じ蜂蜜でも印象が変わってくるので、時間がある時は味見されるといいですよ。

今日食べて苦手だと思った蜂蜜も、また試してみて欲しいので、どうぞご遠慮なくお申し付け下さいね。

気に入ったものがありましたら、上の『はちみつmoon』で取り扱っていますので、お買い求め出来ますよ。種類も豊富ですから是非、足を運んでみて下さい」


 単価が知りたければ、そこで見ればいいのだ。試食も常識の範囲内で無制限だ。

 名取の対応に、客は落としどころを見つけたこともあって、落ち着いて矛を収めた。「ええ、そうさせてもらうわ。ありがとう」


 それは「また来る」という宣言でもあった。


「では、本日のご注文は……えーっと」


 野乃花の手元をちらりと見ると名取は言った。「モーニング・パンケーキセット。蜂蜜はリンゴ。お飲物はコーヒーですね。承りました」

 それから、客が野乃花の存在を思い出す前に、奥に引っ張って行った。


***


「助かりました」


 野乃花は感心した様子だ。

 ”感心”されるのは嬉しいが、それすらも上から目線に感じようとすれば、そうとも取れる。『あなたにそんな手腕があったとは思いませんでしたわ』というところだろうか。

 そう思うと、名取は光に倣い、段々と笑えてきた。そして、罪悪感を持つに至った。

 中鉢野乃花は接客が不得手だ。あの大好きな蜂蜜の説明ですら、難しい顔になっていたのだろう。そうでなければ、あの客だって、あそこまで反発しなかったはずだ。ニッコリ笑えば、大抵の人間は言うことを聞くような顔をしているのに、彼女にはそれが出来ない。

 だからこそ、野乃花は手伝いたいと思いつつも腰を上げられずにいたのだ。それを名取は無理やり引っ張った。野乃花は断らなかった。そして、この結果だ。

 客も面白くない気分になっただろうが、野乃花だって同じだ。こんなに人の役に立ちたいと思っている働き者に、申し訳ないことをした。


「お礼は不要です。たまに、あるの。

だから私だって対応出来るようになったわ。野乃花さんもその内、慣れますよ。

さ、忙しいのはもう少し。頑張りましょう!」


 こうなったら、野乃花と一緒にやって行こう。この人からは学ぶことも多い。逆に教えてあげられることもあるようだ。

 そんな覚悟を決めた名取は、これからのことを考えて、野乃花を励ました。

 しかし野乃花は、あっさりと『ティースプーン』の店主、片平光によって引導を渡された。


「野乃花さん、昨日と今日は手伝ってくれてありがとう。

でも、明日からはいいわ」


 『ティースプーン』は比較的客の少ない時間となり、光は野乃花を事務所に呼んでいた。気になった名取は、バイトの梅田がくるなり、後を任せて休憩に入るふりをして、様子を窺っていた。

 なので、いきなりの光の宣言に、野乃花よりも先に反応する。

 「私は盗み聞きをしていました!」と宣言するように、それまで耳を付けていたドアを開けて叫んだ。


「待ってください! さっきの件は私も悪いんです。いきなりホールをお願いして……」


 てっきり客と揉めたことが問題視されたと思ったのだ。野乃花もそうだ。

 だが、光は「そうではない」と首を振った。

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