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第7話 放課後クラブ

その後は、特に意識をしていたわけではなかったが、斎藤と会うこともなく、文香は文化祭の準備に追われた。そして、途中で段ボールが足りなくなり駆けずりまわったり、ペンキをこぼしたり、とそれなりにハプニングはあったが、無事文化祭の日を迎えた。


『ジャングル探検ツアー』

教室の入り口に立て看板を掛け、皆で感慨深げに眺める。


「なんとか間に合ったね〜」

「のの、お疲れ〜。最後の辺は、目が血走ってたよね〜」

「なかやんがペンキこぼしたせいだよね〜」

「沙代ちゃん、それはもう忘却の彼方に置いてこようよ・・・」

「都合のいいことだけ、忘れようとすんな、コラ」

「それも才能のひとつよ」

「・・・・」

「さ〜て、子供たちはいつくるのかなぁ?」

「子供にウケるといいね」

「でも〜ののが描いた動物、なんかすごいよね?」

「ほんと、写真みたい。・・・子供泣くかもよ?」

「確かに。よく見ると草食動物の目が死んでて怖いんだよね」

「他の子の描いた動物がかわいいだけに、なんかすごい不思議な世界だよね」

「そうそう、しかも背景は思いっきりうちらが描いたから、落書きみたいな花が能天気に咲いてて」

「そして、その横に恐ろしい顔をしたサイがこっちを死んだような目で見てんだよね」

「ある意味ホラーだよ」

「・・・ねぇ、さっきから褒められてる気がしないのは気のせいかしら?」

「そんなことないよ!芸術って凡人にはなかなか伝わりにくいもんだなって話よ?」

「せっかく可愛く描いてやったのに・・・」


恭子の発言につなぐ言葉を思いつかなかった4人は、組長が集合をかけたのをこれ幸いと教室へ戻る。


「じゃあ、この分担表の通り、各自時間どおりにこの場所に来てくれよ。受付に2人とガイド役が5人の計7人で1時間ずつ、時間厳守でよろしく。じゃあ解散」


組長のその声を合図に、ぞろぞろと教室を出て、思い思いの場所へ散っていく。


「これからどうする?」

「う〜ん、とりあえず一通り各ブースを冷やかすかな」

「舞台はなんか見る?」

「吹奏楽と、落語と、演劇は外せないな」

「なかやん、落語って渋くない?」

「そう?素人のカラオケ聞くより有意義だよ。たぶん。落語という、高校生とはかけ離れたものを、わざわざ、チョイスしてくるあたりに、ほとばしる情熱を感じるじゃん。これは一見の価値あり、と見た」

「合唱と軽音部のライブは?」

「う〜ん。行ってもいいけど、下手だったら途中で消えるからね」

「晴美を連行して、1組にも行かなきゃだったよね?」

「のの・・・よく覚えてたね。(余計なことを)」

「そうだよ!それが一番重要課題だからね。逃げんなよ」

「でもさ〜。1組って何やるの?うちのクラスみたいに分担制なら橘君いないかもよ?」

「ふっふっふ、そう思って、ジャーン!1組の分担表ゲットしてきました!」

「すごーい。晴美、どうやって手に入れたの?」

「うちの分担表をコピーするふりして、印刷室で1組の組長が来るまで張ってたのよ!」

「晴美!!どうりで仕事中にいつもいないと思ったら!」

「うわっこえ〜。ストーカー一歩手前だよ。こいつ」

「ふん、なんとでも言ってよ。おかげで効率的に出会えるってもんでしょ?だいたいなかやんのことだから、1〜2回行ってみていなかったらすぐ諦めて紹介してくれなさそうなんだもん」

「うん、そのつもりだったけど。でもその執念にはかなりビビった。で、何時なの?橘君の担当」

「えっと、11時から12時だって」

「え〜11時15分から落語なんだけど!」

「じゃあ、11時に行ってなかやんだけダッシュで会場に行けば間に合うって」

「むう、身勝手な!えっと、落語会場は・・・視聴覚室か。いい席取れなかったらどうしてくれんのよ」

「そんな渋いの見る人はぜったいマイノリティだよ、なかやん・・・」


女3人寄ればかしましい、というが5人も女子高生が集まればかしましいどころの騒ぎじゃない。騒音公害で訴えられそうな騒ぎだ。

だが、それも周囲の喧騒に紛れて、溶け込んでいる。


「じゃあ、一通り回ったら、それぞれ好きな所に行って、11時チョイ前に教室で待ち合わせね?」

「えっみんなで1組行くの?」

「うん、柱の陰から見守ってるから」

「ヒューマの姉か?おまえは!」

「アキコと呼んで?」

「野次馬根性・・・」

「まあ、いいじゃん。その方が心強いでしょ?」

「ビミョー」


どこまで本気なのか分からないようなやり取りを続けながら、文香たちはめったに足を踏み入れない上級生のフロアを適当に冷やかしながら歩く。たいして面白いものも見つからず、結局5人で古い映画を上映している体育館で時間をつぶし、11時に近くなったので教室へ引き上げる。

とりあえず自分たちの教室に引き上げると、そこで意外な盛況に出くわす。


「なんか他のブースに比べて、やったら混んでない?」

「ほんとだ」

「でもあんま子供はいないね」


その様子に訝しく思いながらも、手持無沙汰な様子で入口で立っているクラスメイトに話しかける。


「どう?いそがしそうだね?」

「う〜ん、そうでもないよ。なんか子供じゃなくて、カップルが多くってさ。ツアーガイドがいらないから、勝手に見てもらってる感じで、ガイド役は暇だよ」

「カップルで?肝試し感覚なのかな?」

「・・・朱音、それは私への嫌味なの?ケンカ売ってたりする?」

「い、いいえ、そういうわけでなく・・・そ、それで?オコチャマ達はどうしたの?」

「園児は最初の頃に幼稚園の先生の引率で大量にやってきて、ぞろぞろと見てもらって、それでおしまいだった」

「ふうん、まあ、そんなもんかもね」

「それにしても、カップルはよっぽど行く場所がないと見えるね」

「まあ、暗闇で二人きりなんて、最高のシチュエーションだもんね。のぞき穴でも作っておけば楽しかったかな」

「晴美、あんたの品性をものすっごく疑うよ。あたしゃ・・・」

「なによ?みんなのその眼は?そんなこと言って、実際にのぞき穴があったらみんなも見るに決まってるのに!」

「それを口にしない品性くらいは持ち合わせようよ・・・」


文香たちのとりとめのない会話に、クラスメイトが離れていこうとする。それを潮時と、口々にクラスメイトに挨拶して、今度は3階へ向かう。


「で?1組は何してんの?」

「風船&魚の釣り堀」

「はぁ、個人的には全く興味がないな」

「いいの!そこが目的じゃないんだから」


晴美に引きずられるように連行されていく文香と、少し距離を空けて残りの3人もぞろぞろ付いてくる。

ほんとに覗き見する気のようだ。どうやってさりげなく晴美を紹介しようか、ぐるぐる考えているうちに、あっという間に1組へ到着した。

入口から覗くと、ここは園児たちに人気のようで、子供たちが楽しそうに釣りに興じている。

しかし、肝心の橘の姿はない。


「いないね」

「うん」

「もどろっか」

「ええ?ちょっと遅れてるだけでしょ?少しは粘ってよ!」

「・・・じゃあ5分だけだよ」

「・・・けち」


結局5分待っても橘は現れず、ぶーぶー言っている晴美を皆に押し付け、一人視聴覚室へ向かった。


「・・・だれだよ。マイノリティっつったの・・・」


視聴覚室は意外に大盛況で、満席だった。それも、お年寄りで。

 ―老人クラブのお年寄りが山盛り招待されてるの忘れてた・・・

文香は、はぁとため息を吐きながら諦めて後の壁際で立ち見することにした。

スピーカーから、出囃子が聞こえてきて、どうやら落語が始まるようだ。

ふと誰かが入って来る気配を感じて、入口を見ると、なんと橘だ。

さっきまで待っていた人物と意外な場所で遭遇したことに驚きつつも、こちらに気づき近づいてくる橘に軽く手をあげて合図する。


「よお」

「やあ、こんなところで会うとは意外。落語好き?」

「いや。ツレが、出るから見に来いって言うから、仕方なく」

「そう」

「そっちは?」

「自由意思。面白そうじゃん」

「そうか?」

「私にはね」

「ふうん」


小さな声で囁き合って、すでに始まっている落語の方に意識を向ける。

文香は橘の意識が落語に向かったことを確かめると、携帯を取り出しメールを打つ。


《橘ハッケン。視聴覚室に来い》


短い文章を打ち、晴美へ送る。ちらっと橘の様子をもう一度窺うと、割と真剣に落語を聞いているようだ。

文香も橘に倣って、落語へと意識を集中させた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「で?で?どうだったの?うまくいった?」

「一応紹介はしたよね?」

「うん、紹介はしてもらった」

「そう、よかったじゃん!」

「でも、あんまりしゃべれなかった・・・」

「晴美、緊張しすぎ。借りてきた猫状態なんだもん。こっちがフォローに困ったよ」

「だってぇ〜」

「ま、これで顔見知りにはなれたんだから、今日はヨシってことにしとこう?ねっ、晴美」

「うん」


中庭でお弁当を食べつつ、結果を報告する。

それにしても、と文香は先ほどの晴美の様子を思い返す。



最初の演目が終わる頃、晴美は視聴覚室にやってきた。

橘と文香を見つけると、橘に会釈しながら文香の横に来る。

文香が気を使って、橘との間に入れてやろうとするのに、晴美は文香の陰に隠れるように、橘とは反対側に陣取った。


「何してんのよ」

「だって、いきなり隣は近すぎるでしょ。息止まって死ぬ」

「あほか。何しに来たのよ?あんたは」


などと、こそこそ話していると、橘がこちらを見ている。

それに気づき、文香は晴美を自分の陰から引っ張り出して、やはり声をひそめて話しかける。


「これ、私の友達の晴美。瀬下晴美」

「はあ」

「で、こちらが橘君。1組で弓道部」

「た、橘君。よ、よろしく、です」

「ああ、よろしく。・・・中山、なんだその紹介は?」

「簡潔でしょ?私の知りうる情報のすべてだよ」

「なるほど」


晴美は落語の最中何度か話しかけようとしては、深く息を吸い込み、いくのかと思うと息を吐き出し、というのを何度か繰り返した。

隣で緊張し続ける晴美の様子に気を取られ、文香は落語の内容なんてまったく理解できなかった。

落語が終わると、橘は落研の友人に声を掛けに行ってしまい、結局たいした会話もせずに終わってしまった。



「あんなに、晴美が内気だとは知らなかったよ。せっかく紹介したんだから、もっと楽しいトークでもかますのかと思ったのに。落語も気が散ってあんまり聞いてられなかったし。なんか損した気分」

「うん、意外だよね。いつもの晴美なら、男子とも平気で話せるのに」

「なかやん、朱音、もうその話は・・・晴美、どんまい!次、次がんばろう!」


うなだれる晴美に、沙代子が慌ててとりなそうとする。

少しかわいそうかなとは思うが、自分はやることはやったぞ、と少し肩の荷が下りたような気がして、文香はホッとした。

そんな文香を晴美がジトッと見てくる。


「なによ?その眼は」

「なかやん、橘君とすっごく仲良さそうだった・・・」

「はぁ?アンタ、この恩人サマにそんな言いがかりかけようっての?」

「だって、自然に会話してたもん」

「そりゃするでしょ。人間だもの。勝手に貝になっちゃったアンタがおかしいっつうの」

「・・・ヒドイ」

「ひどくない!もう、あとは自分でがんばりなよ?ふぅ〜、食った食った〜満腹満腹〜」

「ぶっ、なかやん、おっさんみたい〜」


無理やり話を終わらせて、弁当箱を片付ける文香を、まだ晴美は恨めしそうに見ていたが、それ以上は何も言ってこなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


しばらく晴美はご機嫌ナナメだったが、その後は滞りなく文化祭を楽しみ、残すはファイヤーストームだけとなった。

グランドの中央にはすでに丸太が組まれ、それを目印に生徒たちが集まっている。

文香はその輪に加わりたいとは思えず、教室の窓から、その様子を見ていた。


「サボり魔」

「・・・のの、アンタも?」

「私はキミを探しに来たの」

「ほんとに〜?なら、悪いけど私は参加しないから、ののは行ってきなよ」

「なんで、参加しないのよ?」

「う〜ん、なんでだろう?あんま、そういう気分じゃないというか。上から見た方がきれいかろうと思って。熱いのも煙いのも臭いのもゴメンだし」

「ほんとに、アンタ、可愛くない。強情だよね」

「いいじゃん、いいじゃん。私ひとり抜けようと、滞りなく進むんだから」

「・・・しょうがないヤツ」

「あれ、ののもサボるの?」

「今さら混ざるのも目立つでしょ?」


恭子も窓際の机に腰掛け、外を眺める。

生徒会長が何やら演説を始め、中央の井桁に組んだ丸太に火が点けられた。まだそれほど暗くないので、煙ばかりがよく見える。

環境問題が声高に叫ばれているこのご時世にいかがなものかとは思うが、日が暮れて暗くなってくると、火の粉が舞い上がる様子はやはり幻想的だ。


「キレーだね」

「そうね」

「これで、文化祭も終わりだね」

「そうね」

「・・・今日美術部の展示、見たよ」

「ああ、見たんだ」

「うん」

「どうだった?」

「みんな上手だね」

「そう?」

「ののが描いた絵は・・・よく分かんないけど、見ててドキッとしたというか、ギクッとしたというか。なんか世界から置いてきぼりにされる焦りみたいなものを感じたっていうか・・・」

「そう」

「今の明るくてキレーなグランドがなんか現実とは思えないような気がするのと同じ。同じ次元にいるはずなのに、薄い膜で隔離されているような。あっちとこっちで時間の進み方がずれてるような・・・」

「何それ?イミフメー」

「うまく言えないけど、そんな気がしたの」

「ふ〜ん。ありがと」

「?なんのありがと?」

「なんだろ?私の絵を見てくれたことへのありがと、かな?」

「なるほど。また見せてね」

「うん、いいよ」


その後も窓の外を見ながらぽつりぽつりと会話を交わしていると、グランドから大きな拍手が聞こえた。

どうやら閉会のあいさつがあったようだ。


「さてと」

「帰る?」

「ううん・・・ポチ公捕まえて引導渡してくる」

「そっか、じゃ私は帰るけど、大丈夫?」

「うん、大丈夫。ありがと」

「じゃ、またね。バイバイ」

「うん、バイバイ」


恭子が帰ってしまうと、ファイヤーストームに参加していた生徒たちが、荷物を取りにがやがやと教室に戻ってくる。

斎藤が通るかもと思い、廊下へ出て、階段を上っていく人の波を見送ったが、そこに斎藤の姿は見つけられなかった。


 ―もう帰っちゃったのかな。ポチ公

さらに階段を下りる波まで見送ってしまうと、校舎はほとんど無人になったようだ。しかたなく、文香も帰ろうと教室へカバンを取りに行く。

今朝優子は、文化祭の後、クラスの打ち上げがあると言っていた。今日は一人で帰るしかない。


昇降口で靴に履きかえ、人気のなくなった校庭を歩く。と、校門を出たところで、文香を引き留める声がした。


「ふみちゃん」

「あっ、斎藤君。まだいたんだ」

「つか待ってた。探してるかもって」

「うん、探してた。でもいないからクラスの打ち上げに行っちゃったのかと思ったよ」

「・・・ふみちゃん、ファイヤーストーム、いた?」

「へへ、サボり。教室から見てた」

「なんだ。なら教室行けばよかった」

「・・・斎藤君、電車だよね。駅まで一緒に帰ろう?ってクラスの打ち上げはいいの?」

「あー、どうせ打ち上げも駅前のカラオケ屋だから。つか、もとから行く気ねーし」

「そっか」

「ふみちゃんのクラスはやんねーの?」

「うちは明日。片付けが全部終わってから、教室でやるの」

「ふ〜ん」

「あのさ。斎藤君。例の返事しちゃって良い?」

「ああ・・・いや、やっぱ後で、駅で別れる時がいい」

「・・・うん」

「なあ、手、繋いでもいい?」

「・・・」


文香は周囲を見回し、誰もいないことを確認するが、それでも逡巡する。

だが斎藤は返事を待たず、文香の手をギュッと握ってきた。

文香は引っ張られるように、斎藤の少し後ろを歩く。


「一緒に帰ってみたかった」

「そう」

「あのさ、俺、ふみちゃんが好きだ。最初、教室で見かけて木下たちと楽しそうに笑ってるのを見て、かわいいって思った。でも俺が話しかけても笑ってくれなくて、はじめのうちはそれが悔しくて話しかけてたんだ。でもそのうち俺にも笑ってくれるようになったじゃん?それがなんか嬉しくって。最初の笑顔にやられちゃってたんだって気づいた。気づいてからは、ふみちゃんに近づきたいって、毎日放課後会いに行った。俺ってケナゲ・・・友達からでもなんでも、俺と付き合えよ。絶対楽しいって」


そこまで、一気に言うと、斎藤は歩みを止め振り返る。困った顔で見上げると、ちょっと悲しそうに笑って、また文香の手を引いて歩き出す。


「・・・ごめん。あの、そんな風に好きになってくれて、すごくうれしい。私でも斎藤君みたいな、カッコイイ男の子に好きになってもらえるんだって、ちょっと自信がついちゃうよ。ありがとう。でもね。考えたけど、やっぱ付き合えない。ごめんなさい」


斎藤は歩きながら、ちらっと文香を振り返り、「シマッタ」と苦笑する。


「駅まで待ってって言ったのに。もう返事言わせちゃったよ。せっかく初めて手を繋いで帰ってるってのに、俺ってバカ?」

「・・・ゴメンナサイ」

「もう、謝んなくていいよ。今まで付き合ってくれてありがと。すごく楽しかった」

「こちらこそ、ありがとう。私も楽しかったよ」

「もう、これからは、放課後、行かないから」

「うん」

「声もかけない。でも挨拶くらいはしても、いいよな」

「うん。挨拶くらいしたい」


それから駅までは2人とも無言で歩いた。

前を歩く斎藤の表情は分からなかったが、ギュッと握られたままの手からはずっと熱が伝わってきた。


「あ〜あ、もう着いちゃった。今日くらいはもっと駅が遠ければ良かったよ」

「・・・」

「じゃあ、これで、放課後クラブは解散」


斎藤は文香の顔を見て、ニカッと笑い、繋いでいた手を最後に強く握ってから、離した。

急速に熱を失っていく手に寂しさを感じつつ、文香も少し笑い返す。


「じゃあな」

「うん」

「気をつけて帰れよ」

「ありがと」


手を振って斎藤と別れる。もうこれで、斎藤とはバイバイだ。

 ―ポチ公、バイバイ。ポチ公のいない、放課後はきっと、さびしいよね・・・

文香は泣きたいような気持ちを押し殺し、ただただ家を目指していつもよりも早足で家路をたどった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


文化祭が終わってしまうと、すぐに期末テスト週間に入る。

文香の放課後は、友人たちとの試験勉強のため、賑やかに、あわただしく過ぎて行った。

友人たちは何も聞かないが、文香の口から「ポチ公」の名を聞かなくなったことに何か感づいてはいるのだろう。

ただ軽く挨拶を交わすだけの仲になった斎藤とのことは、話題にも上らなかった。


テストが終わり、久々に文香は一人きりの放課後を取り戻した。

さて、と宿題のプリントを取り出して広げる。

取りかかろうとして、ふと思いつき、紙飛行機を折ってみる。

白い紙飛行機をもてあそびながらポチ公を思い出す。

「私の耳は貝の殻 海の響きを懐かしむ」

ふいに有名な詩が浮かび、この気持ちは幼い頃の楽しかった日を懐かしむような気持ちに近い、と思いいたる。

 ―あ〜あ、これじゃ浸りすぎでしょ。らしくないなぁ・・・こんなロマンチックな詩、趣味じゃないのに!

今は寂しさの方が強いけど、いつか懐かしく思い出す時がやってくるんだろうと漠然と考える。


ようやく捕まえた前向きな気持ちで、空を振り仰げば、どこまでも青く高い空が広がっている。思わず紙飛行機を飛ばしたくなる手に苦笑いがもれる。

「さてと、やるか」

文香は紙飛行機をほどき、両手でしわをのばして広げ、ギュッとシャープペンシルを握りしめた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 放課後クラブ―初恋プロローグ― 了

拙文に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

生まれて初めて書く小説を、勢いで一気に書いてしまったため、矛盾点が随所に見受けられたのではないでしょうか。もう少しクールダウンしてから推敲すべきだったのかな、と少々反省しています。(後々、改稿する可能性大です)


でも文香の放課後クラブは、シリーズとして続きを書きたいと思っています。

ポチ公と離れてからの文香の行動に、もしご興味があれば、少しだけお待ちください。

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