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第5話 ガラガラ迷子

翌日、登校した文香は気持ちを切り替えて、別のことを考えようと思ったがうまくいかず、思考停止状態でぼんやりしていると、後ろからど突かれた。

びっくりして見上げると、恭子が眉をひそめて覗き込んでる。


「おーい、入ってますかぁ?どこにトリップしてるんだぁ?」

「いたいなあ」と文香が睨むと、

「アンタが呼んでも返事しないから、とうとう幽体離脱までやらかしてんのかと思って」ニヒヒと笑いながら目は心配そうに文香を眺めている。

「あーごめん。幽体離脱か〜それも楽しそうだね〜」と力なく笑うと、

「いつもにまして、壊れてるな。ほらほら、もっと生への執着を持ちなよ〜」なんて、後ろから首を絞めてくる。

「やめれ〜〜ほんとにしぬる〜」文香もちょっと気がそれてバタバタとふざけてみせる。


ひとしきりじゃれあい、落ち着くと、恭子も隣の席に座り、改めて文香の顔を覗き込む。

「どーした?なんかあったんでしょ?」

「のの〜。ありがと。・・・でも、なんでもないのちょっと寝不足・・・」文香はすがるような目で恭子を見て、だが何があったかは話す気になれずに最後にはうなだれる。

「ありゃ〜。ほんとになんかあったんだ?ふ〜ん。まあ言いたくないならいいよ。相談したくなったら聞くしね?」

恭子は文香のほっぺを人差し指で突っつきながら微笑む。バレバレだったようだ。

「・・・うん。ほんと、ありがと。さっさとやなことは忘れて、文化祭に集中するよ」文香はふやけた微笑みを返した。

「さっさと忘れて、ねぇ〜。はぁ。なかやん、そうやってやなことを後回しにしてると、ドカンとまとめて後からたまりたまった厄介事が降ってくるってわかってる?自分のツケは自分で支払うことになるって忘れないようにね」

頬杖をつきながら、横目でメッ、と文香を睨む。

いつもよりワンランク優しい恭子だが、その言葉には思い当たる節がありすぎる。そうか、これは今までのツケなのかもしれないと漠然と考えるが、文香の思考は停滞したまま、気分もふさがったままだ。とりあえず直近の危険を回避しようと、文香は口を開く。


「ねぇ、のの。今日、放課後に美術室行ってもいい?どんな絵描いてるのか見せてよ」

「うん?ま、いいけど。なるほど「ポチ公」氏と何かあったわけだ?」

「ええっ!?いやいや、そこは関係ないから。ただ前にシュルレアリスムとかなんとか言ってたから、興味があるだけ。他意はないよ」

「ほぉ。君にそんな趣味があったとは初耳だ。なかやんは写実的な絵がお好みだったと思ったけど?」

「そう?自分では写実的な絵しか描かないけど、見るのは結構好きなのよ?」

「へぇ〜」

「なによ?」

「いやいや、来るのは大歓迎ですよ。邪魔さえしなければ、何時間でもいてくれてオッケーだし?」

「じゃ、じゃあ、放課後一緒に美術室行くから!邪魔はしないのでよろしく」


ふふんと笑う恭子に焦りながらも、とりあえず放課後の避難場所を確保した文香は少し心に余裕ができた。今日をしのげれば、来週からは文化祭準備だ。教室で一人ということもない。時間がたてばなんとかなるだろう。


その日一日は、斎藤と出会うことのないように細心の注意を払って行動し、なんとか放課後まで乗りきった。

美術室でも、恭子は文香の不審な行動を見逃してくれるつもりらしく何も聞かずに、放っておいてくれた。

おかげでずいぶんと落ち着きを取り戻すことができた。


恭子の絵は、文香にはなんだかよく分からなかったが、なんとなく恭子らしい絵だった。

「へえ、これ文化祭の展示用の絵?」

「そうよ。あっ、なかやん、何も感想言わなくていいから」

「へっ、なんで?」

「完成するまで聞きたくないの。今は人の意見に影響を受けずに、自分が感じたありのままを作品にしたいから」


その言葉に文香は一瞬意外なことを聞いたような気持ちがした。

いつも、誰にも、何にも、揺るがない強い意志を持っているように見える恭子なのに、と。だがよくよく考えてみれば、恭子は周囲をよく見ているし、冷たいようで実は優しい。

表面的には分かりにくいが、それは感受性の高さを示しているように思えた。

「うん、わかった」

なぜだか嬉しくなった文香は、素直にうなずき、沈黙のままその日の放課後を美術室で送った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


月曜日、週末をだらだらと過ごした文香は、重い足取りで誰もいない早朝の教室へと向かう。

カバンを机の脇にひっかけると、持っていた紙袋から、今朝母に手渡された花を取り出した。今日の花はアジサイだ。

バケツと花瓶を手に手洗い場へ向かう。バケツに溜めた水の中で適当な長さに茎を切り落とし、一本ずつ花瓶に挿していく。

 ―うん、こんなもんでしょ!

それなりにきれいに活けることができたと満足の笑みをもらしてから、バケツにゴミと残りの花を入れ片手に持ち、もう一方の手で花瓶を持って、教室へ戻る。

花瓶とゴミを置き、残った花を持って、今度は女子トイレへ、そこの花も差し替え、再び教室に戻る。

先ほどバケツごと放置しておいたゴミを捨てようとゴミ箱を開けると、先週の掃除当番がサボったのかゴミが満杯のテンコモリだ。

 ―げげっ。あ〜もう、仕方ないなあ・・・

腹を立てながらも、持っていたゴミを詰め込んでから、ゴミの詰まったビニル袋を引っ張り出す。新しい袋をゴミ箱にセットしてから、重たい袋を引きずるようにして集積所へ向かった。

 ―くっそ〜。重い。誰だ?先週の週番は!絶対シメてやる!

むかむかしながら、ドスドスと音が聞こえそうな歩調で集積所に到着し、ゴミの山の上へ「うおりゃ〜!」と怒りのままゴミ袋を放り投げる。

ちょっとすっきりして、パンパンと手をはたいていると、「ぶっ」と誰かが噴き出す声が後ろから聞こえた。


恐る恐る振り返ると、そこにはジャージ姿の橘がいた。

 ―げげっ。何笑ってるの?私?私のこと?今、乙女らしからぬ怒声とか聞かれちゃった?

とたんに頬が熱くなるのを感じたが、特に話しかけられているわけでもないので、無視して教室に戻ろうと踵を返す。


「おいっ」

「・・・」

「おいって!」

「ん?あっ私のことでしょうか?」

呼びかけを無視しようとしたが、無視しきれず白々しいセリフで足を止め振り返る。

 ―何よ?人を呼びとめて、辱めようってワケ?

「で?何よ?」

「いや何ってわけじゃないけど・・・まあ、あれだ。顔見知りにあったから、朝の挨拶だ。おはよう」

「・・・おはよ」

「なんだ、朝から元気だなと思ったんだけど、そうでもないのか?」

「いや普通に元気ですけど?言っとくけど、さっきのアレは怒りの発露であって、別に私の地ではないからね。空耳だと思って、お忘れください」

「なんだそりゃ?変なヤツ。まあ、かなりおもしろかったけど、気にするな」


けんか腰の文香の様子を気にもせず、橘は愉快そうに笑った。そこに馬鹿にするような色はないことを知り、文香もつられて笑う。

 ―確かに、客観的に見て、ちょっと変な女だったかも。

「あんた、朝から何やってんだ?部活は?」

「え?部活は入ってないよ。橘君こそ朝錬の最中じゃないの?」

「ああ、朝は体育館で筋トレなんだけど、部室にタオルを取りにな」

「へぇ、そう」

「ああ」

「え〜と、それじゃ私はそろそろ教室に戻ろうかな」

「ああ、じゃあな」

「うん、ではでは」

そそくさと教室に戻ろうとする文香に、ふと思い出したように橘が声をかける。


「そういえば、あんた、名前は?」

「えっ?」

「こっちのことは知ってるんだろ?俺はあんたの名前を知らんぞ」

「あ〜、橘君は結構有名だったらしく、自然と私の耳にも名前が聞こえてきまして・・・」

「で?あんたの名前は?」

「・・・ナカヤマ、中山文香」

「中山、クラスは?」

「・・・7組」

「そうか、じゃあな、中山」

「・・・うん、じゃあね」

橘は少しだけ目もとと口もとに笑顔を滲ませ、颯爽と走っていった。

遠ざかっていく、広い背中を見送りつつ、文香は緊張から解放され、はぁっと息を吐き出した。

 ―橘君はやっぱ「若殿」だな・・・。立派な家庭でまっすぐ育ちましたって感じだよ。ひねくれものの私にはちょっと眩しいよ・・・

なんだかちっぽけな自分を哀れに思いつつ、そういえばと晴美に説明をするのを忘れていたことを思い出し、文香はまっすぐに教室を目指して歩きだした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


文化祭週間中は、授業は午前中で終わる。午後がすべて文化祭の準備に充てられるのだ。

昼休みになり、机を適当に寄せて、いつもの5人で弁当を食べ始める。


「ねぇ。晴美」

「ん?なに、なかやん」

「私、橘君がどの人かわかっちゃった」

「え?なに、突然?」

「いや〜、名前も知らなかったんだけど、前にちょっと話したことがあった人がいて。最近そいつが橘って人だと知ったんだよね」

「えーっ?なかやん、橘君と話したことあるの??ズルイ・・・」

「なに?ズルイって」

むくれる晴美をなだめつつ、なんとかなんでもないことを強調しながら、これまでの経緯を話す。今朝、「偶然」会ったことも加え、都合の悪そうな会話はいくつか省略しつつ。


「なにそれ。なかやん、ズルイ。うらやましすぎる。私も橘君と知り合いになりたい・・・」


文香は他の3人に助けを求めるような視線を送る。


「えっと、しょうがないよ、こればっかりは。わざと会いに行ったわけじゃないんだから、なかやんは橘君の顔も知らなかったわけだし」

「沙代ちゃん!私だってそんなこと分かってるよ!それでも腹が立つじゃん!」

「まぁまぁ、え〜と。あっそうだ!晴美も弓道場をのぞきに行けばいいじゃん!」

「・・・朱音、あんた私に部活をサボれと?一年生がそんなことできると思うの?」

「仮病とか・・?」

「結構マネージャーって忙しいんだよ?それぞれ仕事が決まってんだから!私がサボれば確実に先輩たちの仕事が増えて迷惑かけるの!」

「・・・スイマセン」


それまで静観していた恭子が、しょうがないなといった感じで軽くため息をついた。

「晴美、視点を変えればこれはチャンスかもよ?」

「え?どういう意味」

「今まで、橘と接触もできてないんでしょ?なかやんが橘とつながりができたってことは、なかやんの友達であるアンタともつながりができたっていうことでしょうが」

「えぇ〜」

「つまり、さりげな〜く、なかやんを通じて橘に接触を図るのよ。ほら、一緒に廊下を歩いてすれ違うとか?」

「う〜ん」

晴美は恭子のその提案について、少し考えているようだ。文香はそんなことできそうもないと焦りながらも、これで晴美が引き下がってくれないかとなんとも言えない面持ちで見守る。


「うん!そうだね。なかやん、そういうわけだからヨロシクね!」

「う、うん、分かった。分かったけど、私と橘なんて2〜3回しゃべったことがあるだけで、すっごい細いつながりしかないんだからね?あんまり過度な期待はかけないでね?そこんとこ分かってるよね?ね?」

なんとか収まったらしい晴美の怒りにホッとしつつも、先行きが非常に不安な文香は、情けない顔で友人たちの顔を見回す。

恭子は面白そうに見てるし、沙代子と朱音はホッとした顔で、さらに晴美の期待を煽るようなことを言って励ましている。

自分に味方してくれそうな顔を見つけられず、さらに不安が募る文香だった。


晴美が沙代子と朱音を連れだって、トイレへ席を立つと、文香は恭子を恨めしそうにジトッと見る。

「なによ、その眼は」

「なんか、のの、面白がってたでしょ?人の窮地に、塩を送るどころかさらに重荷を乗っけてきちゃってさ」

「何言ってるのよ?橘に晴美を紹介するぐらい、顔見知り程度でも、大したことじゃないでしょう?」

「ええ〜。そおか〜?そりゃ晴美が橘に気があるってばればれでもいいなら、「この子あんたのこと好きみたい。よろしくね」って簡単だけど、違うでしょう?どうすれば不自然じゃないように紹介するのよ?ぜんぜん思いつかないんだけど?橘君との会話なんて、挨拶と社交辞令くらいしか思いつかないよ。だいたい単なる顔見知りレベルだし・・・」

「それならそれで、しょうがないじゃない。努力はしたが、うまくいかなかったってことで、晴美も納得するでしょ?」

「そうかな〜。なんか無理難題言ってきそうで、正直怖いんですけど」

「大丈夫だって、3階の廊下を二人で連れ添って行ったり来たりを何度か繰り返せば、晴美も満足するでしょ?」

「はあ」


3階の廊下・・・と考えて、はたと気づく、上のフロアは斎藤を避けるために近づかないようにしていた危険ゾーンではないか。

 ―そんなことしたらは若殿に会うより先にポチ公に会いかねないじゃん・・・あ・あ・あ・ありえないよ!

このままでは、なぜ3階に行きたくないのか説明を求められかねない、ということに気づき文香はワタワタする。


「あんた何キョドってんの?・・・ああ、ポチ公にまだ会いたくないわけだ」

「は?」 ―おまえはエスパーか??!!

「ばかだね。幸い文化祭なんだから、3階に行かなくても、向こうから会いに来るって!」

バシッと文香の背中をたたきながら、恐ろしいことを告げる。

「・・・お願い、のの様。助けて。ワケを話すから何とか私をポチ公からかくまって!!!」と追い詰められた文香は恭子にすべてを話して、頼るしかないと覚悟を決めた。


文化祭の準備に皆が気を取られている隙をついて、文香と恭子は教室を抜け出し裏庭へ向かう。

そして斎藤との顛末をしどろもどろ説明する。最後まで黙って聞いていた恭子は、話が終わると溜息をついた。


「あんたね、それが自分の自業自得だってことは自覚してるんでしょうね?」

「・・・」

「言っとくけど、ポチ公の行動にはそれほど非はないよ?」

「え〜!」

「だいたい、あんなに分かりやすい行動をとってる男を放置したあんたが悪い!」

「・・・」

「ポチ公の行動があんたへの恋愛表現だってことは薄々感ずいてたんでしょ?そりゃ、そうよね。いくら暇だからって、飽きもせずあんたのところに日参してさ。ふみちゃん、ふみちゃんって、気づかない人間がいたらお目にかかりたいね」

「ででででででも!すっすきとはいわれてません!」

「あんたがのらりくらりとはぐらかしてたんでしょ、どうせ。それで、ポチ公が爆発しちゃったわけだ?」

「・・・・・・」

「あんたはポチ公が懐いて来た時点で、なんらしかの行動を起こさなきゃならなかったの。追っ払うか、受け入れるか。それを覚悟もないまま、流されるように飼いならしてるような気でいるからこうなったんだからね。わかった?」

「・・・・ううう、理解しました」

「分かったならよろしい。で?ここからは、これからの話だけど、あんたポチ公のことどう思ってるの?」

「どうって?ポチ公はポチ公であって、単なる・・・なんだろ?友達とも違うし、今まではよその家のワンコぐらいにしか思ってなかったんだけど・・・」

「で、今は?かわいいワンコじゃないって分かったんでしょ?」

「・・・・わかんない・・・」

「じゃあ、考えな。でもその前に逃げるんじゃなくて斎藤と今の自分の気持ちを話してきなさい」

「わかんないのに?」

「わかんなくても!「斎藤のことどう思ってるか分かんないので、斎藤の気持ちに応えることはできません。ごめんなさい」って言えば、あとは向こうで考えるでしょ」

「でも、告白もされてないし、なんでキスしたか分かんないよ?」

「分かるの!もし斎藤が好きでもないのにあんな行動とったって言うなら、そんなロクデナシノことなんか一切考える必要ないんだから、いいでしょ?」

「う・・・ハイ」

「分かればヨロシイ。んじゃ、戻るよ」


ざっざっと教室に戻る恭子のすらりとした背中に、とぼとぼと文香は付いていく。

 ―ポチ公が私を好き?・・・私はポチ公のこと、どう思ってるんだろう・・・そりゃかわいいと思ってたし、それなりに愛着わいてたけど・・・恋とはかけ離れてるような?


教室に戻ると、文香と恭子を見つけて朱音が走ってきた。

「二人ともどこ行ってたの?ほらののさんはデザイン班でしょ。もうみんな集まってるよ。なかやんは資材班なんだから、分担して買い出しに行くよ!」

「はいはい、じゃあね、なかやん、朱音」

恭子が去ってしまうと、文香は朱音に引っ張られながら、資材班の打ち合わせに合流した。


「じゃあ、中山さんたちは、一番近くのショッピングモールに段ボールもらって来て。早くいかないと他のクラスに先を越されちゃうかもしれないから急いでね」

班長の太田に言われて、文香たちは倉庫から台車を借りて、近所のモールまで台車をガラガラと押しながらのんびり歩く。


「ねえ、晴美」

「なに、なかやん」

「好きってどんな気持ち?」

「はあ?何恥ずいこと真顔で聞いてるのよ」

「沙代ちゃんでも、朱音でもいいけど、どんな気持ち?」

「「「・・・」」」

「なによ、3人とも黙り込んで」

「なんで、なかやんがそんなこと聞いてくるのかなって、不思議なんですけど」

「なによ、晴美、あんた橘が好きだから私に協力させようとしてるんでしょ?あんたには私に説明する義務があるよ」

「どんな屁理屈よ?」

「なによ、言えないの?」

「・・・そうだな〜。私の場合は、見てるだけで心拍数が上がって、いろんなしぐさに目が行っちゃうっていう感じなんだけど」

「見てるだけでねぇ・・・」

「そんな真剣に聞かれると恥ずいじゃん。沙代ちゃんはどうなのよ〜」

「えっ!う〜ん、私はなんかその人だけが特別っていうか。話しかけられるとうれしいって思うし、もっと話したい、もっと仲良くなりたい、いろんなことが知りたいって思うよ」

「なあるほどね〜。で朱音は?2人とも言ったんだからあんたも白状しなさいよ」

「エエ〜・・・・実はよくわかんないけど、う〜ん。なんか大勢いるのに、なぜかその子だけすぐに見つけられちゃうんだよね。目が追っちゃうっていうか。それで何かと構いたくなっちゃうんだな。喧嘩してばっかだけど」

「ふむふむ、そんなもんかねえ」

「って、なかやん、あんた人にばっか聞いてないで、自分の話もしなさいよ!」

「えー、だって、私、好きな人いないもん」

「はぁ?噂の斎藤君はどうしたのよ?付き合ってるんじゃないの?」

「へ?私晴美にそんな甘い話した?そもそも、その噂ってやつも、ついこの間知ったばっかだし、ってかなんでみんな教えてくれないのよ?」

「何言ってんのよ?そんな話したらうまくいくもんもいかなくなるかもしれないでしょ?」

「そうだよね。なかやんって恥ずかしがり屋さんだからね」

「そうそう、みんなで話し合ってこの話はなかやんには秘密ねってことになったんだよ」


にこやかな3人の顔にはまったく悪意がない。本気でそう思って文香には秘密にしていてくれたんだろう。おかげで私は・・・と思いかけたが、確かにそんな噂を聞いては平静でいられなかった自分がありありと想像ができたので、素直に感謝することにした。結果はともかくとしてだ。


「はぁ、それはゴメンドーをおかけしまして・・・」

「で?なかやん、斎藤君とはどうなってるの?」

「どっどうって、どうもなってないよ!」

「あっ赤くなってる!なんかあったんだ!」

「ぎゃ〜、何にもナイナイ。楽しいことは何もない!」

「そんなムキになって、よけい怪しいよ〜」

「やっぱ、つきあってるんでしょ?」

「まあまあ、晴美も、朱音もそんなに責めたらなかやんも話しづらいよ。ね?・・・それで?もしかして告白された?」

「・・・沙代ちゃん、フォローになってないよ。告白もされてないから」

「でもさ、ぜったい、斎藤君はなかやんラブだよね」

「まあ、あれだけアカラサマだからね」


口々にそう言われ、文香は自分の馬鹿さ加減を骨身に沁みるほどに思い知った。

 ―分かってないのは、じゃなくて、分かろうとしなかったのは私だけなんだ。私のバカバカバカ・・・サイアク


「うん、やっぱりみんなもそう思うよね?実はさ、さっきそのことで、ののに軽く説教くらってたんだ。でも私、ポチ公が好きかどうかよく分かんないし。それで、自分の気持ちをよく考えてみろって、宿題出されてんだよね」

「えっそうなんだ。じゃあ、やっぱり付き合ってないんだ。まぁそうだよね。付き合ってる相手「ポチ公」呼ばわりしないよね」

「なんかやたら毒づいてたしね。なんか付き合ってるにしてはちっとも甘くないなとは思ってたんだよね」

「私なんか、てっきりなかやんってS子なんだって思ってたよ。あるいはツンデレ?」

「ごめん。みんなに心配させちゃって・・・って何気に最後の方シツレーじゃなかった?オイコラ、晴美〜」

「あはははは〜、ごめ〜ん。ちょっとしたオチャメだよう!おこんなって!」

「テメー!ヒキコロス!」

「きゃー、なかやんご乱心〜」


逃げる晴美を台車をガラガラしながら追いかける。

大笑いしたら、なんだかここ数日間のモヤモヤが晴れていた。

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