閑話 アリアとソラ 後編
今回は前回からの続きでアリア視点です
空はよく外出する。
もちろん普通の外出じゃない。
空は任務だと言っていた。
私には任務の内容を話してくれないけど、多分人を殺しているんだろう。
たまに空から違う人の匂いがするし。
そして一度任務に行ってしまうと2、3日は帰ってこない。
「アリア、暑苦しい。」
「ふふん。」
私は空に抱きついていた。
何せやっと任務から帰ってきたのだ。
この部屋には基本食材を持ってくる人以外誰もやってこないので空がいないと寂しいのだ。
そうやって抱きついていた時ガチャッとドアが開いた。
「やあ、アリア。久しぶりだね。」
ザドクだ。
「そんなにあからさまに嫌そうな顔をしないでおくれ。」
「何の用で来たの?」
「君に用は無いんだ。私は空に用があるんだ。」
そう言って空の方を向くザドク。
「空、明日任務をしてもらう。だから、ついて来てもらえるかな?」
「わかりました。」
「ちょっと!」
流石に私は止めた。
何せ空は先程帰ってきたばかりなのだ。
「空はさっき帰ってきたばかりなのよ!任務をこなして来たんだから休ませてあげてもいいんじゃない?」
私は怒気を隠さず言う。
「何を言ってるんだい? アリア。空は道具だ。空が任務をすることは当たり前じゃないか。」
「……道具ですって?」
「そうだよ。空は道具だ。私の大切なね。」
私の怒りは頂点に達していた。
私はザドクに向かってビンタをしようと手をあげる。
しかし、振り下ろした私の手はザドクの頬に辿り着くことはなく、途中で止められていた。
私の手を止めていたのは空だった。
「やめて、アリア。俺はアリアを殺したくない。」
空の私の手を止めている手とは逆側の手にはナイフが握られ私の首で寸止めされていた。
私を見る空の目からは何の感情も感じられなかった。
「やめなさい空。彼女の反応は人間としては当たり前さ。アリア、君は空を人間として見ているんだね。だけど、空は人間じゃない。」
「いいえ、人間よ。あなたが空の何を知っているの!空はちゃんと子供のように笑えるんだから!」
「君こそ空の何を知っているんだ? 君は空が親を殺した事を知っているのか?」
「え?」
「何だ知らなかったのか?空は親を殺したんだよ。自らの手で。私は感動したよ。空には才能がある。天賦の殺しの才能だ。私が壊れていた彼に存在する意味をあげたんだ。道具として使われる事をね。」
私はそのまま空を見送った。
部屋を出ていく空の顔は心なしか悲しそうな顔をしていた。
空を見送った私はベッドに寝転んでいた。
(私は勘違いをしていた。空を変えられたと思ったのに。)
そう。
私は勘違いをしていたのだ。
空が子供のようにしていられるのは私の前だけだったのだ。
よく考えてみればそうなのかもしれない。
空は殺しをしている。
子供のようにしていては確実に殺されるだろう。
だからこそ私は空の拠り所とならなければならなかったのだ。
私は後悔していた。
たとえ、空が親を殺してしまったとしても、あそこで黙ってしまってはいけなかったのだ。
それでは私が空を怖がっているように見えても仕方ない。
空に部屋を出るときのような顔をさせてはいけなかったのだ。
私は次に空にあった時に謝る事と空の為に生きる事を決めた。
数日後、空は帰って来た。
それも、かなりボロボロで。
空は左手が折れているのか、三角巾を首から吊っていた。
「空!大丈夫⁉︎」
「うん。」
何となく空との間に心の壁を感じてしまう。
私は空に向けて頭を下げた。
その様子に珍しく空が驚いたような表情をしている。
「どうしたの?」
「ごめんなさい!私は空を怖がっていたわけじゃないの!あれは空の事を何も知っていなかったんだって思ってショックを受けてたの!」
「ああ、あれのことか。いいんだよ。アリア。」
「え?いいの?」
「ああ。アリアは俺を怖がりなんてしないと思ってたから。」
「本当に?」
「いいよ。それより、大事な話がある。アリアには話しておきたいから。」
私は空から親を殺した経緯を聞いた。
父親からいつも暴行を受けていた事。
父親が急に母親を襲い出した事。
何故か母親を守ろうと思い、酒瓶で父親を殺した事。
父親に負わされた怪我で気絶して病院で起きてから、家に行った時に母親は自殺していた事。
私は途中から涙を流していた。
空は同情なんてして欲しくないだろうから何も言えないけど私は空が耐えてきた酷い仕打ちに悲しくなっていた。
この目の前にいる少年は私の生きて来た20年間より何倍も辛い経験を送ってきているのだ。
私は無意識に空を抱きしめていた。
「アリア?」
「いいのよ、泣いて。私はあなたの味方だから。ずっと味方になるから。」
私の方が泣いていた。
「俺は泣かないよ。俺に泣くことは許されていない。人間を殺すことを俺が存在理由としている限り俺は泣くことなど許されていないから。だから、俺の代わりにアリアが泣いて?」
「う゛ん゛。」
私は嗚咽を吐きながら泣いた。
空は素直に抱かれていた。
私は次の日から行動を起こし始めた。
多分、空はここから逃げることはないからここを脱出するという考えは捨てた。
そして、私が毎日受けている検査。
私はこの検査から大体のことを予測した。
私が受けている検査は脳波を検査するものが多いのだ。
断言はできないが、多分空と私の脳を繋げるものなのだろう。
出なければ空との同居の意味などない。
空と私に面識を持たせることで少しずつ脳波の同期を行うことが目的なのだろう。
私はこの計画を知り、協力する事を決めた。
私はザドクがやってくる日を待った。
「やあ、アリア。元気そうだね。」
「ええ、とっても元気よ。それで、貴方に一つお願いがあるの。」
「ほう。できる限り聞こう。」
「私をこの計画のメンバーに入れてくれないかしら?」
「この計画というのはもしかして君についての計画かい?」
「ええ、そうよ。私の脳と空の脳を繋げる計画によ。」
「驚いたな。まさか、計画を知っているとは。検査から予測したのかな?」
「ええ、そうよ。もちろん、被検体は私よ。貴方達の計画に協力してあげるわ。」
「流石、天才のアリア・ディーリアスだ。だが、そこまでわかっているならこの計画の最終目標も知っているね?それでもと言うのかい?」
「私は空のために何でもすると決めたの。それが私の命を要求するものだとしても、それが空を守っていけるなら私は協力するわ。」
「良いだろう。君の協力を歓迎するよ。」
私は空が任務でいない間を全て研究に当てた。
そして、遂にそのシステムを完成させた。
当初の名前は『人工的他者脳域接続装置』だったけれど、他の研究者達が私の名前を取って『ARIAシステム』名付けた。
このシステムは私の脳の演算に使われている部分だけを集めて、空の脳に埋め込み、私が予測した未来を空の脳に伝えると言う効果だった。
しかし、このシステムには副作用があり、使用者の脳を著しく傷つけるというものだった。
私はこれを緩和するために私の脳が空の脳から余計な思考を消し去る事で空への脳の負担を減らす事にした。
そのぶん私の負担は増えるのだが、いつも勉強で頭を使っていたのでこれくらい私の脳なら何とかしてくれるはずだ。
このシステムが完成した事により、私と空の別れが決まった。
私は他の人達に頼み、一ヶ月猶予をもらった。
「空。私の命は後一ヶ月なの。」
私は空に自分の寿命を告白した。
寿命といっても自分で決めた寿命なのだが。
「わかった。完成したんだね?」
「知ってたの?」
「うん。アリアはずっと研究してきたんだろ?」
「ええ。」
「アリアと別れるのは悲しいけど俺は泣かないよ。それに、別にアリアがいなくなるわけじゃないんだろ?」
そう言って空は自分の頭を指差す。
「ここにアリアが入るんだ。アリアと俺は一心同体になるって事だろ?」
「ふふ。そうね。私達ずっと一緒ね。」
「ああ。」
私は一ヶ月間空とベタベタした。
その間空の任務もなくしてもらった。
そして、最後の日。
「空、この姿ではお別れだね。」
「……アリア。しばらくお別れだな。」
そう言って空がベッドに横たわっている私の頬に手を当て、顔を近づけてくる。
そして、唇を重ね合わせた。
「そそそそそ、空⁉︎」
「前にアリアがいつかしたいって言ってたから。俺なんかで悪いけど今俺があげられる最大のプレゼントだ。」
「ふふっ。最高のプレゼントね。ありがとう。でも、お姉さんをからかっちゃだめよ。」
「ああ、じゃあ、さよなら、アリア。」
「ええ。さよなら、空。」
アリアはそのまま意識を切られ、アリアの脳は解体された。
そして、機械を取り付けられた。
空の脳も三分の一程使われていないと予想される部分だけを切り取り、アリアの脳と繋げていく。
少しは拒否反応がでると予想されていたが、何故か拒否反応が出なかった。
そして、手術は無事成功し、空は無事に任務に復帰した。
私が次に目覚めたのは、どこかの戦地のようだった。
銃弾が飛び交う中、私の意識は覚醒していく。
しかし、同時に強制的に脳を働かせられている様な感覚がある。
それに、体が勝手に動き、妙に目線が低いのだ。
そして、私は思い出す。
これは空の中なのだと。
私は空に予測を教えている存在なのだと。
空はそのまま戦闘をし、どんどん殺していく。
初めて見る空の戦闘。
私は空に予測を出しながら、空の戦闘に見入っていた。
そして、戦闘が終わるとだんだんと私の意識が失われていく。
システムを落とすのだろう。
薄れゆく意識の中私は
「おかえり、アリア。」
そんな声を聞いた。
前回からの続きでアリアとの話です。
空の意外な一面やシステムの少し詳しいところまで回収するのが難しい回でした。
余談ですが、空はアリアの計画を最初から知っていました。
アリアとのパートナーとなる時に聞かされていたからです。
そのため、アリアとの生活は楽しいものでしたが、空自身アリアとの別れが来ることは分かっていたので楽しみきれない気持ちもありました。
プロローグで書いた初めて楽しいと感じたというのは何の敷居も無く、純粋に楽しく感じたのが初めてという意味です。
これで閑話は終わりです。
次回からは引き続きマリー達との話に戻ります。
次回更新は火曜から木曜になると思います。




