閑話 アリアとソラ 前編
アリア・ディーリアス。
彼女は齢20にして数々の賞を取るほどの天才だった。
彼女は博士号も取り、世間に注目される科学者の一人だった。
しかし、そんな彼女が突如として姿を消したのだ。
彼女の親は捜索願を出し、警察も探したが、彼女は見つからなかった。
ーーーーーアリアーーーーー
私はある部屋の中で目覚めた。
ここはどこだろう?
昨日は確か、同僚達とパーティーやって、帰って……。
いや、違う。
帰りの途中で誰かに何かを嗅がされて意識が遠のいたんだ。
私は多分拉致されたんだと思う。
そうやって、自分の置かれた状況を確認していると前の扉がウィーーンと音を立てて開かれる。
すると、一人の男が入ってきた。
男は金髪の短髪で、筋肉が目立つ30台後半くらいの人間だった。
「やあ、君がアリア・ディーリアスだね?」
「そうですけど貴方は?」
「私はザドク・イービルと言うんだ。気軽にザドクと呼んでくれ。君には私たちの実験体になってもらいたい。」
「嫌って言ったら?」
「残念だが君に拒否権はない。」
私はこの男が嫌いだ。
自分の傲慢を人に押し付けるような人間などいてはならないのだ。
「不服そうだね。君の住居はこの部屋になる。ここには、トイレもシャワールームもあるし、キッチンだってある。悪いようにはしないさ。君はただ一日一回の検査をしてくれればいいんだからね。」
「へえ。それだけでいいの?」
「ああ、当分はね。」
男はそう言って部屋を去って行った。
それから男は一週間に一度程この部屋に来るようになる。
私が今日もあの男が来るのかと暗い気持ちになっていたある日男は小さな男の子を連れてきた。
私は驚いた。
9歳くらいの男の子が頭に包帯を巻いて、ボロボロの状態でいるのだ。
なにより、この子の瞳には感情が感じられない。
「ザドクさん。この人誰?」
「この人はね、今日から君のパートナーになる人だ。名はアリアと言うんだよ。」
じゃあ、と言って男は男の子を残して出ていく。
途端に流れる沈黙。
男の子は、何も喋らなかった。
私はこの施設の人は嫌いだが、流石にこんな小さな子まで嫌いにはならなかったので、男の子に話しかける。
しかし、この子は肌の色からしてアジア人の子供なので、取り敢えず中国語で話しかけてみるが、返事がない。
私はほとんどの国の言語を話せるので色々な国の言葉で名前を聞いてみる。
そして、色々試しているうちに日本語を出した時、この子に反応があった。
「お名前は?」
「……空。」
「空か。私はね、アリアって言うの。アリア・ディーリアス。アリアって呼んで良いわよ。」
「アリア。」
「そうそう、その発音で合ってるわ。空は幾つなの?」
「9」
「9歳なのね。」
そんな風に二人の会話は始まった。
空は最初は聞かれた質問に答えるだけだった。
しかし、1ヶ月も経つと子供特有の好奇心が出てくるようになった。
ただし、まだまだ心は壊れているようだったが、
「ねえ、空。文字を覚えてみない?」
「文字?」
「そう。あなた文字が読めないでしょう?」
そう。
空は文字が読めないことが私にはわかったのだ。
空は小さな頃からあいつの下に居たようだし、文字を覚える前に連れ去られてしまったのだろう。
「まずは、貴方の母国語から教えてあげるわ。私は日本語だってできるんだから!」
そうして空に文字を教えていく。
空は地頭は賢いのか教えるとすぐに覚えていく。
私は空に教えるのが楽しくて日本語をどんどん教えていった。
3ヶ月もする内に空は日常で使うほとんどの日本語を覚えた。
そして、私は空にテストをした。
「うん!全問正解!」
「やった!」
空が私の前で初めて笑ってくれた。
私はそれが嬉しくて少し涙ぐんでしまった。
「アリア、どうしたの?」
「ううん、なんでもないの。」
「本当に?」
「本当に。」
私は誤魔化して空に微笑んだ。
それに安心したのか空は追及をやめた。
私と空が会ってから早半年が経った。
空は今まで一週間に一回あいつと一緒に来て居たのだけれど、私にとって嬉しい知らせが入ったのだ。
空の住居がこれからここになるらしい。
あいつは空との親睦をもっと深めて貰うためだと言っていた。
どんな理由でも良い、空といる時間が増えるんだから!
「アリアなんか嬉しそう。」
「ふふん。だって、空が一緒に住むのよ。これ以上嬉しいことなんて今の私にはないわ!」
そう言いながら空に抱きつく。
「アリア苦しい。」
私の胸に埋もれていた空がもがく。
最初の頃は空は話しかけられても素っ気なく返されていたので、抱きつく事ができる今はとても進歩したようだ。
「空!一緒にお風呂に入らない?」
「え?一人で入れるよ。」
「そうじゃなくて、私が一緒に入りたいの!」
「アリアがしたいなら俺は良い。」
「なら決まりね!」
私は空と一緒にお風呂場に行く。
私は当初はシャワーだけで済ましていたのだけれど、日本には温泉に入るという文化があるので、空とやってみたいと思っていたのだ。
ま、温泉じゃなく部屋の風呂なのだけど。
そこは気分でどうにかすればいいのよ!
私が服を脱ぎ始めると空も一緒に服を脱ぎ始める。
そして私は初めて見る空の裸に驚愕した。
空の体には暴行の痕がいくつもあり、刃物で刺された痕がある。
なにより最も目立つのが火傷の痕だ。
鎖骨より少し下の方から腹に至るまで大きな火傷の痕が続いており、背中には何かが押し付けられたような火傷の痕があった。
「……。」
「?どうしたのアリア。」
「いや、なんでもないわ。」
「?」
私は少しお風呂に誘ったことを後悔した。
空は気にしていないが私は気にしてしまうのだ。
気を取り直し空の体を洗ってあげる。
普通ここまで酷い火傷の痕を触れば痛いと思うのだが空は苦悶の声さえあげなかった。
「……その、痛くない?」
「うん。ちょうどいい感じ。アリアは洗うのが上手いね。」
「ハハ。」
そして、私は空の全身を洗い終えお湯をかけて泡を落とす。
つづいて私は自分の身体を洗い出す。
「アリア、俺が背中を洗うよ。」
「え?」
「ほら貸して。」
そう言ってボディタオルを取って私の背中を擦ってくる。
少し強かったが空から私に触れようとしてくれたのはこれが初めてだったので少し嬉しかった。
そして私も全身を洗い終えて泡を流し、空と一緒にお風呂に入る。
浴槽は家庭用なので流石に向かい合う程のスペースはなく、空が私の股の間に座る形で入る。
私は思い切って聞いて見ることにした。
「空。」
「何?」
「その……その身体の怪我はどこでしたの?」
緊張して聞いたので声が震えていた。
「アリア、やっぱり怖い?」
「え?」
「だって、声が震えてるし、俺の身体は傷だらけだから怖いんじゃないかと思って。」
「そうじゃないの。デリケートな問題だから緊張しちゃって。」
「そうなのか。この怪我はわからないや。強いて言うならずっとかな?」
「どういう意味?」
「そういえばアリアの身体には傷がないね。アリアはお父さんに殴られたりしなかったの?」
「どういう……事?」
「子供は使い捨てられたり、殴られたりするのが普通じゃないか。」
私は黙ってしまった。
違うと否定することはできなかった。
空の中では殴られる事は常識なのだ。
大人は子供を守らなければならないという世界の常識はないのだ。
空はそういう世界を生きてきたのだ。
だから、空に違うと言ってしまっても何の意味も無いだろう。
私は話を変えることにした。
そして、暫くしてから私は
「そろそろ上がろうか。」
「そうだね。」
そして、夜幾らか空に英語の文字を教えて、空と一緒のベッドで寝る。
空はこんなまともなベッドで寝たこと無いと少し寝づらそうにしていたが私は空の頭を撫でて寝かしつけた。
私は少し寝る前に考える。
(空の傷、重傷なものだけでも8つもあった。軽傷なんて数え切れないくらいだわ。空はきっと生まれてから一度も優しさを味わっていないのね。せめて私だけでも空に優しくしてあげなくちゃ。)
私はそう決意して眠りについた。
今回は少し短めです。
前編と後編の二話構成になるので許してください。
本当は閑話を一話で終わらす予定でしたが想定より長くなるのがわかったので、分けることにしました。
アリアの説明ですが、
イギリス人だと思ってください。
容姿などはこれから出てくる事は無いので、想像にお任せしますが、胸は空が埋もれるほどの大きさという事は書いておきます。
次回は土曜か日曜くらいになりそうです。




