四十話 ソラの意味
しばらくトレントを狩った後、マリー達のもとへ合流した。
「ソラ!どうしたの?その怪我!」
マリーは俺の破れた服を見て驚いているようだった。
「大したことはない。もう血も止まっている。」
「ふん!どうせドジ踏んだんだろ。」
うるさいのは無視して、進捗状況を聞く。
「どのくらい進んだ?」
「あんまりだね。敵が意外と強くてあまり進めてないね。」
リンは肩をすくめながら現状報告をしてくれる。
確かに先ほどの場所からそれほど移動してはいないようだった。
あたりには数体のトレントの死体が倒れている。
「今からは俺も加わる。休憩は大丈夫か?」
「もう少し休ませておくれ。レシルのMPが回復するまで少し待っておくれ。」
「わかった。」
レシルのほうを見ると、こちらに気づき、手を振ってきた。
反応はせず、マリーたちのもとに戻る。
「ソラ、ほんとに大丈夫?」
「心配し過ぎだ。少し腕が取れただけだ。」
「それは少しの範疇を超えてますよ?」
エルミアは少し怒り気味で水を器に注いで、注意をしてくる。
「俺にとっては少しだ。」
元の世界であれば少しでは済まなかったが、現在は魔法で何とかなる。
まあ、腕が取れるほど戦闘をしなければいけない状況になっている時点で駄目なことなのだが、本来ならあの程度の敵は無傷で倒さねばならないのだ。
「一人で戦ってみて何かあった?」
リアが聞いてくる。
「収穫はない。ただトレントがわんさかいただけだ。」
「そう。」
リアは何か宝物を期待していたかもしれないが、残念ながら何も得られなかった。
しばらく休憩した後、再び奥に進み始めた。
俺は最後尾からついていく。
しばらく進むと上へと続く階段が現れた。
あまり入り口から進んでないはずだが、もしかしたら上の階層のほうが広いのかもしれない。
「上るか?」
「そうだねぇ。上らないことにはわからないからね。まだ休憩をとってからそんなに経ってないし、上ってみようかね。」
リンが一段目を踏み出すと、ほかの者たちもそれぞれ階段に足を踏み入れ始めた。
2階に上がると1階よりも広い道幅が広がっていた。
10人くらい横に並んでも歩けるくらい広い。
一階はただの通路だったということだろうか?
結局迷宮というものはなぜ発生するのか、そして誰が作ったのかがわからない。
もちろん自然にできたいうものもあるだろうが、ここの迷宮は自然にできたというにはあまりに道がちゃんとしている。
これが幾年も探索されてきた迷宮というのであれば、人々が踏み鳴らし整備して、こういう道になるのはわからなくもない。
だが、ここはそういうものとは違いあまり人が手を入れていないものだ。
その道がこうも平らになっているということは、おそらくだが人が作ったものということなのだろう。
誰かが作ったということになれば、罠や何かしらの思惑があってもおかしくはない。
それを知ることがこの迷宮での目的なのだろうか?
「うお!なんだこれ!?」
リーリスの驚いた声が聞こえる。
その先を見ると、十数メートルはあろうかという扉があった。
ここまでは一本道だったのだが、まさかここに招き入れるために、2階に上がらせたのだろうか?
「とりあえず、今日はここで休みませんか?」
部屋の前の空間は少し広く、敵を相対するにも少しだけ楽な配置だった。
「そうだねぇ。休んでおこうか。とりあえずみんな交代で、ひと眠りしようじゃないか。」
「……。」
あまりこういうところで寝るのは、好きではない。
別にあまり眠らなくても活動できるようになっているし、こういう敵意の塊のような場所で寝ることができないのだ。
「うちから一人、あんたらから一人見張りに出そうじゃないか?」
「俺は眠らなくてもいい。マリー達は眠っておいてくれ。」
「駄目よ!」
「そうですよ。ご主人様とて体力が無限にあるわけではないでしょう?これから何があるかわからない扉の向こうに行くんですよ?体力を養っておくにかなうことはないですよね?」
「そうそう。」
三人の反対により俺も眠らなければならないことになった。
その後の順番決めによって、俺とリーリス、リアとアリン、エルミアとレシル、マリーとリンになった。
俺は最も過酷であろう最初の見張りを請け負った。
リーリスとの見張りというのが気がかりだが、そこまで気にするほどのことはないだろう。
リンの言い分だともっとも馬が合う組み合わせにしたとのことだった。
リンやマリーが人数分の毛布を出し、地べたに寝そべっていた。
エルミアとマリー、リア、レシルは、数枚の毛布を下にひき、また数枚の毛布を4人で分け合いながら、固まって寝ていた。
リンは座りながら、アリンは毛布にくるまって寝ていた。
俺とリーリスは入り口に座っている。
位置は入り口の両端に座っていた。
「ったく、なんでオレがお前なんかと一緒に見張らなきゃいけないんだ。」
「お前たちのリーダーに聞いてくれ。」
「っふん!」
あまり仲良くする気はないようだ。
座り始めてから20分ほどどちらも話すことなく静かな時間が続いていた。
リーリスはしびれを切らしたのか声を上げた。
「んあ!もう!つまんねえ見張りだな!なんか話せよ!」
こういう状況には慣れていないのかもしれない。
「お前はなぜあのレギオンに入ったんだ?それになぜ女性だけの必要がある?」
俺が質問したことに少し驚いたのか、少しきょとんとしていたが、少しだけ機嫌を直したのか、話し出した。
「お前に話すのもなんだけど、話すこともないから話してやる。オレがリンさんに会ったのはかなり前なんだ。年は一番下なんだけど、あそこに入ったのはレシルの次で、2番目なんだ。リンさんが路頭に迷っていたオレを助けてくれたのが、きっかけなんだ。」
そういってから彼女は少し暗い顔になった。
昔を思い出したのだろう。
「オレ、もともとはそこそこの家の人だったんだ。」
そこから少し間をおいて、彼女は話し出した。
「オレの家は弱小貴族で、そこまで大金持ちってわけじゃなかったけど、不自由な暮らしはしてなかった。でも、ある時、オレの親父が騙されて、家も金も地位も全部なくなっちまったんだ。」
彼女はすこし茶化して話すが、その心の奥は笑っていない。
彼女の話はその後も続いた。
彼女の話を要約すると、
彼女たちは最初は家族全員で暮らしを再興できることを目指していた。
しかし、父親はそうすることができなかった。
もちろん父親は努力していたが、一度潰れてしまった家を再興するのは難しく、やがてそのいら立ちを母親にぶつけるようになったらしい。
彼女は母親とともに、逃げ出したが、その途中で母親とともに奴隷商につかまってしまった。
彼女は奴隷の紋章をつけられる前に母親に逃がされ、母親はそのことがばれて殺されてしまった。
彼女を襲ったのも、彼女の人生を狂わせたのも男だった。
彼女はそういうことがあったから男を毛嫌いしているのかもしれない。
路頭に暮れていた彼女の引き取り人となったのがリンだったそうだ。
「何か感想はないのかよ?」
彼女が話し終わっても俺が黙っていたことに不満を漏らしてきた。
「何か感想が欲しいか?」
「いや、いい。オレの話は終わりだ。お前も何か話せよ。」
「そういう質問は話すことに困る。」
「……じゃあなんでお前はマリーとかと一緒にいるんだ?お前はどう見てもひとりで行動するタイプじゃないか。」
リーリスは単純な疑問をぶつけてきた。
俺にとっては重い質問だが。
「理由が必要だった。」
「理由?」
「彼女とはもともと直ぐに別れるつもりだった。俺のようなものに彼女が関わることはあってはならないし、俺自身も彼女に与えられるものはないと思っていた。だが、彼女と接していくうちに、彼女に必要なものがわかっていった。その中には俺という道具があれば、解決するものもいくつかあった。俺にも生きる意味として彼女が必要だった。道具は使われなければ価値はない。」
「自分を道具だと思っているのか?」
「あの人がつけてくれた俺の価値だ。俺はここまで来てもあの人からは逃れられない。あの人がくれた俺の意味を今は彼女に尽くすことでしか満たせない。」
「マリーが別れたいと言ったらどうするんだよ?」
「また探す。探せる間に死ぬも良しとしてな。」
なぜかこいつに普段あまり口にしないことを話してしまった。
境遇が似ているからだろうか?
「あの人って誰のことだ?」
「もう交代の時間だ。起こしに行くぞ。」
「なんだよ。教えてくれてもいいだろ?」
少しだけ彼女と打ち解けられたのかもしれない。
今回はかなり短めになっています。
更新速度が遅いくせに短いとはどういうことだと思いますが、キリのいいところで終わったのお許しください。
次回は、もう少し早くできるよう頑張ります。




