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三十八話 本来の殺気

俺は腰の抜けたマリーにしばらく付き添い休憩をしていた。

すると、黒鉄の女豹の面々が近づいてきた。


「ソラ、あんたに一つ質問なんだが、8匹すべてを一人でやったのかい?」

「ああ。」

「嘘つくなよ!」

「……。嘘だと思うなら、あっちに行ってみろ、」


俺は森の奥のほうに指をさす。

リンが頷き、アリンを森の奥に向かわせた。

しばらくして、アリンが帰ってくると、いつも無表情なアリンが少し驚いた顔をしていた。


「ゴブリンの死体が5体ほどあった。」

「5体?8体じゃなくて?」

「うん。だけど、ほかに不自然なくぼみが3つあった。」

「くぼみ?」

「うん。大きいくぼみ。」

「どういうことなんだい?」


リンがこちらを見て聞いてくる。


「おそらく俺の魔法でやったものだ。」

「あれほどのくぼみができる魔法を使ったの?」


アリンが追及してくる。

普通の魔法であれば、あれほどのくぼみを作るのにはかなりのMPを消費するので気になるのも当たり前かもしれない。


「急ぎで倒さなければならなかったからな。」


適当に理由をつけていれば、追及はしてこないだろう。


「そう。」


予想通りアリンは深く追及はしてこなかった。

それからしばらくしてようやくマリーも落ち着き、出発しようとした瞬間、何者かの気配を感じた。




リンはソラの力のことを考えていた。

普通に考えればソラの力がソラの歳で会得できる可能性などゼロに等しい。

もちろんゼロに近いというだけで絶対にゼロとは言い切れないが、まず普通の方法でソラが鍛えられていることはないだろう。

それはソラのあの態度からでもわかる。

普通の常識人に育てられていれば、ソラはあのような態度にはなっていないだろう。

ソラはどのように育てられればあのような強さと警戒心を得るのかが理解できなかった。

そんなことを考えながら、目的の場所のために歩を進めようと立ち上がり、一歩踏み出した瞬間、足が止まった。

いや、正確には足は動いている、小刻みに震えてはいるが。

人生で一度だけ経験したことがある。

これは死の恐怖だ。

リンの後ろから恐ろしいほどに濃い殺気が放たれている。

ほかのレギオンメンバーも同じように足が止まり、手や足が震え、息が詰まっている。

しかし、この殺気はリンたちに向けられたものではなかった。

それでもリンの体に纏わりつくかのような殺気は『黒い殺気』とでも表現するべきだろうか?

それほど重く、どす黒い殺気だった。

その殺気が放たれているほうを恐る恐る向くと、ソラが指を虚空に向けていた。




俺は気配を感じたほうを向いて立ち止まっていた。

俺の感じた気配はただの気配ではなかったのだ。

どこか懐かしい気配だった。


(この気配は……)


少しだけ気配の主に思い当たる人間がいた。

しかし、その人はこの世界にいるはずがない。

だが、俺は殺気を向けた。

それが俺の知るその人本人であったなら、あいさつ代わりに、違ったのなら、牽制になるだろう。

俺はそのまま指を向け、銃魔法を構える。

今回は回転の効果もつけ、本気の魔法を作り上げる。

リンたちに手の内を見せてしまうのは癪だが、今回は仕方ない。

俺はそのまま作り上げた魔法を放った。

放った魔法は木々の葉を大きく巻き込みながらまっすぐ突き進んでいく。

そのまま天へと突き進んでいった。


「誰もいないか……。」


あの気配は勘違いだったのだろうか。




ソラの殺気が消えたことによって、リンたちは息を吐くのとともにソラのほうに振り返った。

リンたちは何も言わなかった。

リンたちはいっても熟練の冒険者だ。

そんなリンたちを恐怖させるほどの殺気を放てるソラはいったいどれほどの経験をしてきているのだろうとリンは思っていた。


「ソラ?」


マリーがソラに聞く。


「すまない。少しな……。」


ソラが言葉を濁した。

マリーは事情を理解しているようで、何も追求しないようだった。

リンは自分が何かを聞いてもソラが答えることがないことはわかっているため、リンはあえて何も言わなかった。

こういう時にうるさいリーリスも黙っていた。

ソラはそのまま何も言わずに歩きだした。

マリーも何かをわかったような顔をして、歩き出した。

リンたちもそれを見て、追及することはなく、歩き出した。

リンはソラの強さの秘密にはおそらくそういうことが関わっていることを予測した。




―――――???—————

「さすが空だな。この距離でも気づくのか。」

「あれがお気に入りなんですか?」


木の上には3人いた。

一人は筋骨隆々の人間。

一人は枝に座っている子供。

そしてもう一人は翼を出して・・・・・飛んでいた。


「なるほど、なかなか楽しめそうだ。」

「私の空を壊さないでくれよ。」

「ふん、壊れたならそれまでもことだ。」

「まあ、君ごときにはソラは倒せないとは思うがね。」

「なかなか言ってくれるな。」


飛んでいる男は腕を組み、どこか挑戦的な男の言葉に反応する。


「時間です。」


座っていた子供が懐に入れていたこの世界にはないはずの時計を取り出し、男に告げる。


「そうか、では、行こうか、イムカ。」

「わかりました。」


そうして3人は姿を消した。




―――――ソラ―――――

おそらく最後になるであろう夜を迎えた。

俺たちはいつも通り、獲物をしとめ、その場で料理をしていた。

料理をしているのはマリーとエルミアだが。

俺はその間に土魔法を使い、あるものを作っていた。

そうして作っていると後ろから、リアとリンが近づいてきた。

いつのまにか話すようになっていたようで、一緒に来た。


「ソラ、何を作っているの?」

「風呂だ。」

「風呂?なんでまたそんなものを作っているんだい?」

「体を洗うためだ。これから迷宮に入るからな。体を洗うなら今しかない。それに女はそういうのを気にするものだろう?」

「私たちはそんなの気にしやしないよ。」

「当たり前だ。これは俺たちが入るように作っている。」

「随分あの子には優しいんだね。」

「彼女は俺にとってなくてはならない存在だ。」

「本当にそれだけかねぇ?」


リンが訝しんでくる。


「どういう意味だ?」

「さあね。私たちも使っていいのかい?」

「ああ。好きに使え。一応協力関係だ。このくらいはいいさ。」

「ありがとさん。」

「ソラ、私一番風呂がいい。」

「好きにしろ。」


俺はそういって土魔法で作った土台に水魔法を使い、そして炎魔法でお湯にしてその場を立ち去った。

それからしばらくして、リアが風呂から上がってきた。

そのタイミングでマリー達とともに夕食を食べた。


「ソラ、私先に入ってくるね。」


食事を終えるとマリーはすぐに風呂へと向かった。

匂いが気になっていたのだろう。

俺は焚火の火を絶やさないように見張りつつ、ナイフの手入れをする。

その間、女豹の者たちは何人かが風呂へと向かったようで、おそらくだがマリーと交流を深めに行ったのだろう。

リンだけは荷物番をしているようで残っていたがこちらに近づいてくる様子はなかった。

俺がナイフを研ぎながら、持ち手を回したりして調整をしていると、食器の片づけが終わったエルミアが話しかけてきた。


「ご主人様、マリー様と一緒に入らなくてよいのですか?」

「お前も冗談を言うんだな。」


普段まじめなエルミアが冗談を言うのはかなり珍しいことだった。


「ふふ、半分冗談ですが、半分本気ですよ?」

「半分?」

「はい、ソラ様はマリー様をとても気にかけていらっしゃいます。いつものソラ様なら女豹の方々がマリー様と一緒にお風呂に入られるのは警戒するのではないかと思いまして。」

「俺もそのくらいはあいつらを買っているいうことだ。おそらくあいつらはマリーを殺さないし、殺せない。」

「殺せない……ですか?」

「ああ、殺せない。きっとあいつらにはな。リンとかいうやつはおそらく人を殺すこともあったのだろうが、ほかのやつらはおそらく人を殺したことがない奴らだ。どいつもこいつも目が殺しの目をしていない。もちろん魔物を殺すのにはそれで十分なんだろうがな。」

「そんなことがわかるのですか……。」

「それがわからなければ生きては来られなかっただろうな。戦場で戦闘員か非戦闘員化を即座に見分けられなければ死ぬ。そうやって見分けられずに死んでいった者たちを何度も見てきた。」

「ソラ様……。」

「ソラ、あがったよ~。」


そうこう話しているうちにマリーが風呂から上がった。

俺が立ち上がり、風呂へ向かおうとすると、エルミアもついてきた。


「お前とは一緒に入らんぞ。」

「わかっています。ご主人様の体をふく布を持っておこうと思いまして。」

「……わかった。」


エルミアの目は本気だったので特段拒否する意味もないだろう。

俺は風呂場まで行き、服を脱いでいく。


「っ!」


エルミアの驚いたような息遣いが聞こえる。


「どうした?」

「い、いえ、なんでも。」


この反応は前に見たことがある。

どういう顔をすればいいかわからない時だ。

そういえば俺の裸を見た人はみんなこんな顔をしている気がする。


「言いたいことがあるなら言っておいたほうがいいぞ。」

「では、二つほど。その傷はどこでつけられたのですか?ソラ様ほどの人がそう簡単に傷をつけられるとは思えないのですが。」

「覚えていない。強いて言うならだが、俺を”使った”人間はみな、俺に何らかの印をつけていった。そうやってつけられた印がこれだ。」

「ソラ様は誰かの所有物だったんですか?私と同じように……。」

「だったではない。今も俺はきっと所有物だ。」


きっと俺は人ではない。

まだ物なのだろう。


「ではもう一つ。ソラ様の白魔法なら。その傷の多くを治せるはずです。何故お治しにならないのですか?」

「俺はすでに完成形らしいからだ。」


俺は下を脱ぎながら言う。

その間、エルミアは後ろを向いていた。


「完成形?」

「あの人が言うには俺はもう完成しているらしい。だから俺はこれ以上自分を変えない。」

「……。」


エルミアは何かを言おうとしたが飲み込んだようだった。

俺はそのまま体を洗い始めた。


「背中お流しします。」


そういってエルミアは体を洗うための布をもって、俺の体を洗おうと適当に木を切り倒して作った切り株に座っていた俺の後ろにしゃがむ。

俺はあまり気乗りはしなかったが、エルミアがやりたそうなので任せることにした。


「失礼します。」


エルミアは布を濡らし、石鹸を出して、布にこすり合わせて泡を出す。

この石鹸は街で売っているものなのだが、植物の油から作られた石鹸でそこまで匂いの強くないものだ。

最近街で売られ始めたもので、特に女性に売れている。

俺は別に動物性の石鹸でもよかったのだが、うちの女性陣も匂いが気になっていたらしく、少し高いが石鹸を変えていた。

最近では花の香りをつけた石鹸なども作られており女性にさらに人気になっている。

エルミアはある程度泡を出した後、俺の背中に恐る恐る触れた。

ここまでボロボロだとほとんど痛みを感じないのだが洗うほうは気を使わざる負えないのかもしれない。


「このくらいで痛みはないですか?」

「もう少し強くてもいいぞ。」

「このくらいですか?」

「ああ、それでいい。」


エルミアの弱めの体を洗う行為が終わり、俺はほかの部分を洗ってから泡を流し、風呂に入る。

俺が風呂に入るとエルミアは少し離れた場所に移動した。

俺は風呂に入りながら空を見上げる。

正直星になど全く興味はないがこうやって星を見ていたりすると落ち着く気がする。


「星が好きなのかい?」


声のしたほうを向くとそこには一糸纏わぬ状態のリンが立っていた。


「……。」

「なんだい?こんなおばさんの裸を見ても楽しくないだろう?」


リンはそういいながら体を洗う。

リンの体つきは昔見たアリアの体とは似つきもせず、女というよりは男らしい体つきをしていた。

しばらくリンが体を洗うのを風呂に入りながら見、そして、飽きたので魔法の練習にいそしむ。

指先で小さな火の玉を回転させたり、白魔法を無駄にかけたりして魔法の練習をする。


「魔法の練習かい?」


リンが体を洗い終えたようで風呂につかりながら言う。


「見ればわかるだろう。」

「それは炎魔法かい?そんなに自由に操れるものなのかね。」

「練習しだいだ。ほとんど魔法に無知だった俺にも使えるようになったんだ。仕方によれば俺よりもすごい魔法が使えるかもしれない。」

「どんな練習をしていたんだい?」

「それは秘密だ。部外者に教えるほど俺はお人好しにはなれない。」

「まあ、あんたはそういう奴だろうね。まあ、そのくらいのほうがいいのかもしれないと思うよ。私の目から見てだけど、あの子たちは基本的に人を信用しすぎだね。エルミアって子はそこまででもないけどね。ほかの二人は信用しすぎだよ。」

「エルミアは奴隷だった。だから、他人を信じるという感覚が薄いんだろう。ほかの二人の分は俺が警戒する。彼女たちはあのままでいい。特にマリーはな。」

「ずっと気になっていたんだが、どうしてあの子に固執するんだい?」

「彼女は俺のだ。」


そう言い放つと立ち上がり、風呂を出ていこうとする。

リンも俺の体を見て顔をしかめる。


「最後に一つ聞きたいんだが、あんたはその傷をつけたやつらを恨んでいないのかい?」

「恨んでいない。誰もが所有物に名前を書いたり、自分だけのものという証をつける。それはどこも当たり前のことのはずだ。」


リンはそういうソラの目に本当に何の感情も込められていないのを見た。

前回の投稿からかなり長めの期間が空いてしまい、申し訳ありません。

理由としては書く時間とやる気がなかったためです。

すみません。

少しずつ書いていたのですが、思うところがあり、消して直すという行為を繰り返しているとそのうち停滞してしまいました。

さて、今回は結構ちりばめられたと思います。

ソラの内面をかけた回だったと思ってます。

もう書き始めてから1年以上経つので、忘れている設定とかもあるのですが一生懸命思い出して書いてます。

次回からはついに迷宮編です。

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