三十七話 運命の力
俺たちが移動を開始してから早1日が経っていた。
迷宮までの距離はおよそ半分くらい進んだだろうか?
「大丈夫か。マリー?」
「大丈夫だよ。私だって冒険者なんだから。」
マリーが冒険者になってから半年以上になった。
体力は大分ついてきているようだ。
「敵。」
アリンと呼ばれていた女がこちらに告げる。
「みんな戦闘準備だよ!」
リンがいうと黒鉄の女豹たちは一斉に武器に手をかけ、戦闘態勢に入る。
「マリー、リア、エルミア、お前たちも戦闘の準備をしておけ。エルミアは後ろを警戒つつ、援護しろ。」
「わかりました。」
「リアは後ろから敵の数を減らせ。」
「わかった。」
「マリーは俺とついてこい。」
「うん。」
俺とマリーは前進して敵と相対する。
この辺の敵はすでにEランクの迷宮よりも出る敵が強い。
今回の敵は、ゴブリンが狼型の魔物にのっている敵だった。
しかも数が多い。
見た感じだと15体はいるだろう。
「あいつはゴブリンライダーという魔物だ。素早くてなかなか倒しにくい魔物だ。何よりゴブリン本体より下のブラストウルフのほうが手ごわい。」
「ブラストウルフですか?」
「ああ、見たことないかい?」
「はい、あの種類のものは見たことないです。」
「後ろには回り込まれないように気を付けるんだよ。あいつらは連携して後ろをとろうとしてくるからね。」
「わかりました。」
「ソラも大丈夫かい?」
「ああ、気にするな。あれくらいの相手はよくしてる。」
「そうなのかい?」
「ああ、よくダイヤウルフを狩ってるからな。」
「ダイヤウルフ?ダイヤウルフってあのCランクの魔物かい?」
「そうだが?」
「一人でかい?」
「当たり前だ。まだマリーをあそこまで危険な場所に連れて行く気はない。」
「今回のはいいのかい?」
「今回は俺がつきっきりでマリーを守るからな。」
「……そうかい。ほら、来るよ!」
リンが言った瞬間、ゴブリンたちが見えた。
ゴブリンたちは木々をうまく潜り抜けながら、こちらに急激に接近している。
「こちらでできるだけ倒す。お前たちは残りをやってくれ。」
「は!?お前何勝手にーーー」
俺はリーリスの言葉を無視して、ゴブリンに向かっていく。
「おいおい、あれはいいのかい?」
「大丈夫ですよ、ソラなら。それより私たちのほうが心配ですね。」
「……そうかい。ほら、お前たち!私達もソラに続くよ。」
「っち!あいつやられても知らねえからな!」
そういってリンたちも戦いを始めた。
「私も頑張らなくちゃ。」
マリーも気合を出す。
俺はゴブリンライダーの走ってくるほうに真正面から対峙し、横に走っていく。
ゴブリンライダーたちは数体がこちらに来るが、多くはそのまま進路を変えず、そのまま直進していく。
どうやら向こうもこちらを感知していたようだ。
俺は直進していくゴブリンライダーたちに指を向け銃魔法で先頭を走っているゴブリンを撃ちぬいた。
「ギシャァァァ!」
そんな声をあげながらゴブリンはブラストウルフから落ちる。
あれが断末魔というものだろう。
「ギギギ?」
後ろにいたゴブリンたちは混乱し、少しして俺からの攻撃だということが分かったようだ。
「ギギギギギ、キシャ。」
「ギギ。」
司令官っぽいゴブリンが他のゴブリンに指示をだし、ゴブリンたちは二手に分かれた。
こちらには今俺のほうにいるゴブリンと合わせて7体来た。
もう7体はマリーたちのほうに向かったようだ。
7体ほどであればあちらのパーティでも対処できるだろう。
俺は少しその場から離れて、止まった。
思った以上にゴブリンライダーの機動力が高く。
すぐに追いつかれた。
「まあ、この辺でいいか。」
俺が立ち止まると、ゴブリンたちは俺を囲むように回りながら、一定の距離を保つように円を描いて俺を囲んでいる。
俺の周りをまわっているゴブリンたちは距離を置きながら、攻撃の機会を狙っている。
どの時でも俺の前に3体がおり、俺の死角に4体が入り込むように回っている。
かなり連携の取れた動きだ。
すると、いきなり後ろに回ったゴブリンライダーが飛び込んできた。
俺の死角から飛びついてくる。
ゴブリンたちは俺が反応できないと思っているのだろう。
俺は降りかかるゴブリンの剣を横にずれてかわし、とびかかってきたゴブリンはかわされたことによって勢いを殺せず、俺の前に飛び出すことになる。
俺はそのままゴブリンに指を向け、銃魔法を起動し、撃ちぬく。
「ギヤァァァ!」
ゴブリンは死に、下のブラストウルフはそのままかけていく。
命の危険を感じたのだろう。
死んだゴブリンを乗せたまま走るので、ゴブリンの死体は大きく後ろに倒れ、走っているブラストウルフの後ろ脚に大きく蹴られ、背中から落ちる。
死角からの攻撃をよけられたのがよほど予想外だったのかゴブリンたちは少し唖然としている。
それでも戦い慣れしているためか、隙を見せることはなかった。
ゴブリンは唖然としても、下のブラストウルフは俺の死角をとろうと回っている。
下位の冒険者よりはるかに強いだろう。
ゴブリンたちも唖然としていたのは数瞬で、すぐに次の手を考えているようだった。
「ウガァァァ!」
「ギギギギ!」
ゴブリンの隊長のようなものが指示を出し、俺の前にいたゴブリンが俺に向かって走りかかってくる。
それと同時に俺の後ろのゴブリンも走ってくる。
さらには、ほかのゴブリンたちもタイミングをずらして、俺に向かって走ってきている。
俺はゴブリンが自分に到達する前に、ARIAを起動する。
「ARIA、仕事だよ。」
ARIAが久しぶりに起動する。
ARIAが最善の未来を見せてくれる。
俺は前から走ってくるゴブリンに向けて走りながら左手に握っているナイフを、構える。
ゴブリンも俺の動きに即座に反応し、剣を振り上げる。
俺はそのままの速度で、前のゴブリンと対峙する。
後ろのゴブリンも追っては来ているが、俺が前に走り出したがために、少しタイミングがずれ、同時に攻撃することにはならないだろう。
前のゴブリンが振り上げた剣を振り下ろす瞬間、俺は右手で銃魔法を構え、ゴブリンの剣に向けて放つ。
ゴブリンの剣は大きくはじかれ、ゴブリンが剣を離さなかったために、ゴブリンは大きく手を挙げる形で勢いを逃がす。
しかし、そうして勢いを逃そうとしたことで、懐ががら空きになった。
俺はそのまま左手のナイフでゴブリンの首の動脈を切り、通り過ぎる。
総脈を切られたゴブリンは首を抑えるがすでに遅く、すぐに意識をなくし、ブラストウルフから落ちた。
後ろから追ってきているゴブリンたちは、仲間の死体を気にすることなく、俺に突っ込んでくる。
やはりこいつらは統率が取れている。
ARIAが次の未来を見せ、俺は銃魔法を構え、橋のゴブリンに向けて、指を向ける。
しかし、ゴブリンは俺の魔法に気づき、俺の指の先、つまり顔を剣で防御する。
学習能力も高いようだ。
俺は銃魔法を完全誘導弾に切り替え、端の2体に向けて放つ。
今回は俺が操るのではなく、自動的に追尾するようにしているので、俺は端の2体から意識を外し、残りの3体を殺しにかかる。
俺はナイフを右手に持ち替え、走ってくるゴブリンたちに備える。
ゴブリンたちも剣を構え、俺に応戦しようとする。
さらに、ブラストウルフたちが口を開け、何かを放とうとしているのが見えた。
ブラストウルフは
「ガウ!」
という鳴き声とともに風の球を発射してきた。
その球はかなりのエネルギーを有しており、俺の体を巻き込むように回転していた。
引き寄せられる体を支えながら、近づいてくるゴブリンたちに県政射撃として銃魔法を放つ。
当然ゴブリンたちは剣でガードする。
俺はそのまま前に進み、噛みつこうとしてくるブラストウルフを避けながら、上にのっているゴブリンを右手のナイフで腹部を刺し、ブラストウルフから引きずり落とす。
俺はそのまま次のゴブリンのもとに行き、銃魔法を使い、ブラストウルフを撃ち殺す。
「キャン!」
と高い声をあげて、下のブラストウルフが死んだことでゴブリンの頭の位置が下がり、そのままナイフで刺し殺す。
残り1体となったゴブリンは全力で逃げようとしたが、ブラストウルフの足を撃ちぬき動きを止めた後、ゴブリンが反応できない速度まで銃魔法を時空魔法で速め、心臓を撃ちぬく。
少しの間、暴れていたゴブリンだが、完全に静かになったのを確認し、俺はその場を立ち去る。
ちなみにほかの2体はというと、クレーターのように二つ地面に穴が開いていたので確実に死んでいるだろう。
ブラストウルフの素早さではおそらくよけきることは不可能だっただろう。
俺は急いでマリーたちの元へ向かった。
ーーーーー マリー ーーーーー
「私たちが前に出るあんたらを狙ってくるやつもいるだろうから、あんたらはそいつらをやって頂戴。私らで、できるだけやるからね。緊張せず落ち着いてやりな。」
「わかりました。」
リンさんが優しい声音で言ってくれる。
そうしてしばらくしないうちに、
「ほら、来たよ!」
とリンさんが言うと木々の奥からゴブリンライダーたちが高速で接近してきていた。
「おかしい。敵が7体しかいない。」
アリンさんが言う。
「ほかの全部をソラが持って行ったていうのかい?」
「そんなわけないぜ、リンさん!あんな弱っちそうなやつがゴブリンを8体も相手できるわけねじゃん!」
リンさんの言ったことをリーリスさんが否定する。
そして、アリンさんが口を挟む。
「でも実際にいない。」
「そうね。ソラちゃんが持って行ったとしたとしか考えられないわね。」
レシルさんが優しい声音で言う。
「そういうことは、いいんだよ!さっさとやるよ!」
5体のゴブリンをリンさんたちが止めておいてくれる。
しかし、残りの2体が私たちの元へ来る。
「リア、エルミア!私たちもやるよ!」
「うん。」
「はい!」
ゴブリンライダーたちはかなりの速度で私たちに近づいてくる。
まず、エルミアが弓を引き、矢を放つ。
これでゴブリンライダーの動きが少しでも止まればよかったのだが、ゴブリンはその矢を難なく避け、そのままの勢いでこちらに突っ込んでくる。
「リア!」
「ライトニング!」
リアが最も発動と弾速の早い雷魔法で攻撃する。
この攻撃はさすがに体をひねるだけでは避けられないと判断したのか、大きく左に飛んで魔法を回避する。
しかし、もう1体が私のほうに急激接近してきていた。
リアとエルミアの援護が間に合わない距離まで近寄られていた。
「ギシャァァァ!」
ゴブリンが大きく剣を振り上げ、ブラストウルフの上から剣を振り下ろしてくる。
私はとっさに剣で防御したが、勢いの乗ったゴブリンの剣を受けきれず、大きく飛ばされた。
「マリー!」
リアの叫び声が聞こえる。
少し体が浮き上がる浮遊感を少し感じ、すぐに後ろの木にぶつかった。
木にぶつかった衝撃で肺の空気がすべて押し出されたが、すぐに息を吸って顔をあげる。
すぐ目の前までゴブリンが追い打ちをしに来ていた。
しかし、走ってくるゴブリンに火の玉が当たる、
「マリー、大丈夫?」
リアがどうやら遠くから当ててくれたようだ。
火の玉が当たったゴブリンは衝撃でブラストウルフから落ちている。
ブラストウルフはというと尻尾に炎が燃え移り、そのまま火を消そうと走り去っていった。
吹き飛ばされたゴブリンはすぐに起き上がり、私のもとへかけてきていた。
私は剣を拾い、ゴブリンと剣を交える。
先ほどは加速の勢いで吹き飛ばされたが、ゴブリンの身長は低く、撃ち合うだけなら、力の部分ではどうにかなりそうだった。
「リア、エルミア!私がこいつを抑えるからもう1体を倒して!」
「わかった。」
「わかりました。」
リアはまだ移動を続けているもう一体の敵に目を向ける。
「エルミア、私があいつの動きを止めるから、あいつに精霊魔法でとどめを刺して。」
「わかりました。でもどうやって足止めを?」
「アレを試す。ぶっつけ本番だけどやるしかない。」
リアはかなり集中を高める。
雰囲気の変わったリアの行動に気づいたのか、移動しながら攻撃の機会を狙っていたゴブリンは一気にリアのもとへブラストウルフを走らせていた。
エルミアはリアの射線の邪魔にならないように、横に走りながら、リアの様子を見ていた。
リアが閉じていた眼をカッと開いたかと思うと、
「『グラヴィティ・バインド』!」
と叫び、手を天高く上げ、一気に手を振り下ろす。
するとゴブリンの右足付近の落ち葉や地面、そしてゴブリンの右足が大きくくぼんだ。
「ギヤァァァァ!」
足が重さにとらわれて身動きが取れなくなったゴブリンが大きく悲鳴を上げる。
「は……や……く。これ……結構……きつい。」
「『アイスエッジ』!」
エルミアが魔法を唱える。
氷の刃が空中で回転しながらゴブリンに飛んでいき、ゴブリンの頭と胴体を切り離した。
リアたちがゴブリンを倒しているころ、私はゴブリンと1対1で剣を交えていた。
キンッ!と剣の交わる音が響く。
「ギギギギ。」
ただのゴブリンだが私が戦ってきたようなゴブリンとは違いかなり知性が高いようで、剣も流派というほどではないがかなりの手練れである。
私が剣を振りかぶるとすぐに間合いを詰めてきて、私の剣に打ち込み決して私に決定打を撃たせまいとしてくる。
しかし、こちらが攻めているおかげかゴブリンもこちらにとどめを刺しきれずにいる。
そんな状態にしびれを切らしたのか、ゴブリンは
「ギシャァァァ!」
という奇声を上げ、剣を強く握りしめ、思いっきり振りかざしてくる。
突然の行動だったため剣で防御するが、防御した剣が弾き飛ばされてしまった。
「ギギヒヒ」
ゴブリンがにやりと笑う。
急いでゴブリンと距離をとるが、少しずつ距離を縮めてくる。
死を初めて感じた気がした。
足が震え、視界が暗くなる。
「ころ……される。」
そう思った瞬間いつにもまして、ゴブリンの動きが良く見えた気がした。
私はゴブリンが剣を振り上げたのを見て、先ほどゴブリンがやったようにゴブリンの懐に飛び込む、ゴブリンの肘をつかみ、剣を振り下ろさせないようにしてから、ゴブリンの足払いをし、ゴブリンの上にのる。
ゴブリンは必死に抵抗し、剣を私に突き刺そうとしてくる。
私はそれがわかっていたかのようにゴブリンの手首をつかみ、剣を振り落とさせる。
そのまま、もう一方の手でゴブリンの顔を殴る。
「ギギャァァ!」
ゴブリンが苦しそうな声を上げる。
ゴブリンは足を大きく上げる形で私を振り落とし、そのまま一回転し、私の振り落とした剣を拾う。
私もそのまま距離をとり、弾き飛ばされた剣を拾い、ゴブリンと相対する。
ゴブリンが走り出してくる。
ゴブリンの動きはゆっくりとなり、さらにはゴブリンのこれからする行動がなんとなくわかる気がした。
私もゴブリンのほうに走り、ゴブリンと交わる瞬間、剣を地面に引きずるくらい剣を下げ、ゴブリンに接近する。
ゴブリンが剣を振り上げ、私に振り下ろしてきた瞬間、私は剣を思いっきり振り上げ、ゴブリンの剣を弾き飛ばす。
そのまま剣を弾き飛ばされ大きく状態が後ろにそれたゴブリンに蹴りを入れて仰向けに転ばせる。
私はそのまま剣を両手に持ち、ゴブリンの上で思いっきり突き刺す。
ゴブリンは一瞬ビクッとなり、動かなくなった。
私はそこで腰が抜け、その場に座り込んでしまった。
それからしばらくして、リアたちがこちらに来た。
「マリー!」
座り込んでいる私を見て、リアが心配して走ってこちらに駆けてくる。
エルミアも私の体を見て怪我がないことを確認しているようだ。
「マリー、大丈夫?」
「だ、いじょう、ぶだよ。」
私は声を出してみて初めて自分の息が荒げているのを自覚した。
エルミアが背中をさすりながら言う。
「すみません。一人で戦わせてしまって。」
エルミアがも追う仕分けなさそうに謝ると、ちょうど戦いを終えたのか黒鉄の女豹の人たちとソラがやってきた。
「あんたら、なかなかやるじゃないか。心配だったんだけど、これだけやれるなら安心だね。」
「はい、ありがとうございます。」
大分落ち着いてきていた私はリンさんに返事をする。
「マリー、大丈夫か?」
ソラが急いで近づいてくる。
「大丈夫だよ。」
私はそういうがソラは心配なのか私の体をじっくりと見まわしている。
「マリー、お前怪我してるじゃないか。」
「え?」
そういわれてみてみると、手の甲から少し血が流れていた。
「動くなよ。」
「うん。」
ソラが傷口に手を当て、白魔法を使い、私の傷を治す。
「このくらいの傷なら、気にしなくていいのに。」
「俺が気にするんだ。俺は傷ついてもいいがマリーは傷ついちゃいけない。」
「ソラも傷ついちゃだめだからね。」
「ああ。……?」
急にソラが私に顔を近づけてくる。
「え?え?ソラ!?」
スンスンと私の匂いをかいでいるようだった。
「ちょ、ちょっとソラ?」
「マリー、やはりお前は……。」
「え?」
「いや、何でもない。すまなかったな。」
「え?う、うん。」
ソラの顔が一瞬暗くなったような気がしたがすぐに普段のソラに戻った。
それを不思議に感じながら私は立ち上がった。
今回はそこまで話の展開がないくせに長めの話になってしまいました。
ソラの戦いは控えてもいいかなとも思いましたが、女豹の人たちがソラの強さを疑うポジションでしたので、一応その描写を入れました。
女豹のみんなの活躍はもう少し後になります。
結構更新遅くなりましたがこれからも書いていく所存ですのでよろしくお願いします。




