三十五話 絡み始める運命
今日は珍しく迷宮には行かず、自由な日となっていた。
そのため、現在は家に女性がいない。
三人とも皆買い物に行ったようだ。
特にすることのなかった俺は家に残り、ウォルと遊ぶことにした。
そこら辺の木の棒を拾い、思いっきり投げる。
すると、ウォルはそれを追いかけ、拾い、戻ってくる。
よくわからないがこういう遊びが前の世界ではあったからやっている。
犬の本能なのか、こういう遊びをウォルも好きらしく、喜んでやっている。
そうやってしばらく遊ぶとウォルが泥んこになってしまったので、家の前に作ってある風呂にお湯をはる。
この風呂は当初は俺だけが使用していたのだが、マリー達も入りたいとのことで使用させてみると、ハマったようで、今はマリー達も使用している。
エルミアだけは今でも少し遠慮がちだが。
俺は風呂に張られたお湯をウォルにかけて泥を洗い流す。
途中でウォルがブルブルと体を震わせるので俺にもお湯がかかってしまった。
「ウォル、それをやめろ。」
「クゥゥゥン。」
そう言ってしかると、ウォルはそんな声を出してビショビショの顔を俺に擦り付けてくる。
「だから、やめろと言ってるだろう。」
そんなこんなで俺もビショビショになってしまったので、風呂に入った。
こんな昼間から風呂に入るのは新鮮な気分だ。
そうして風呂に入り終わり、俺は昼飯をとり、しばらく庭で座り込む。
前の世界の日課というわけではないが、待機中はこうやって何もせずに座っていることが多かった。
こうしていると何も考えず、時間が過ぎるのを待つことができるのだ。
ウォルも俺の雰囲気を察してか、近寄ってこないようだった。
そうした静寂はウォルの
「ガルルル」
という声で破られた。
ウォルがどうやら何かに感づいたようだ。
俺もウォルが視線を向けている方に目を向ける。
すると1人の老人が立っていた。
老人といっても腰が曲がっているような老人ではない。
ちゃんとした正装をした老人だ。
そして、その老人は俺の仕掛けた罠をくぐり抜けてここに来たということだ。
「何の用だ?爺さん。」
「ガナード卿の使いの者として参りました。」
俺は現在武装していないので戦闘になれば少し不利かもしれない。
「俺は貴族の犬になるつもりなどない。帰ってくれ。」
「そんな事を言わずに一度会ってみてくれませんか?」
「その気はない。貴族なんか関わっても面倒なだけだからな。それに、話があるなら本人を連れてこい。俺から向かうことなどありはしない。」
「どうしてもダメでございますか?」
「ああ。貴族など俺たちの邪魔にしかならない。」
「そうですか。では、少し手合わせしてみませんか?」
「手合わせ?爺さんとか?」
「はい。私とでございます。」
少し意外な返答だった。
以前にもこういう誘いを受けたことがある。
オーク戦で目立ってしまったため、俺を取り入れようという貴族も少なくはないようだ。
しかし、そういう連中は大概どこか見下している様子だったり、金をちらつかせれば動くと思っているようだった。
この爺さんはそういう様子がないあたり、とても良く躾けられているようだ。
しかし、それだけで貴族などと関わろうとは思えない。
だが、俺の罠をかいくぐれた爺さんの実力を観ておきたかった。
次は敵になるかもしれないのだから。
「いいだろう。」
俺はそう短く答えると、武器無しで構えた。
「武器は無くてよろしいのですか?」
「問題ない。」
俺は通常の風魔法を発動させる。
「ほう、無詠唱ですか。」
爺さんは少し驚いたように呟く。
風魔法は鋭利なナイフのような形で爺さんの方に飛んでいく。
爺さんはそれを危なげなく避ける。
年寄りだからといってのろまであるわけではないようだ。
そして、動きからして相当の手練れである。
あまり出し惜しみはできないかもしれない。
この爺さんが貴族からの使いである以上、殺すことは面倒なことになる。
なら、殺さずに無力化する必要があるのだが、これがなかなか難しいのだ。
通常の魔法ではらちがあかないので、銃魔法に切り替えた。
指を爺さんに向け、銃魔法を放つ。
しかし、爺さんは驚くべきことに指先だけをみて、軌道を予測し、銃魔法を避けたのだ。
本来、ピストルの弾を避けることくらいならわけないが、銃魔法は弾自体も見えないし、ましてや発射音すらしないのだ。
それを避けるというのは技術だけでは無く、経験も必要となる。
この爺さんはもしかしたらどこかで俺の魔法を見ていたのかもしれない。
初見で銃魔法を避けられるとは思えないのでそう考えるのが妥当だろう。
何度も撃ってみるが、全て避けられる。
本物だ。
この爺さんは本当に強いのだ。
俺は少し深く集中する。
武器は持っていないが近接戦をすることにする。
そして、確実に銃魔法が当たる距離まで近づくことにした。
「おや?もう魔法は良いのですか?」
「爺さん、死なないでくれよ。」
俺はその場から一気に爺さんの方に向け走り出す。
「今度は近接戦闘ですか?」
爺さんの杖は仕込み杖だったようで杖の先には刃物が出ている。
俺は武器を持っていないが、ステータス的には当たれば腕の骨を砕くくらいの破壊力は持っているので充分だろう。
拳を振り、爺さんはそれを慎重に避けていく。
だが、爺さんのどこか奇妙な避け方に違和感を感じた。
必ず右側に避けるのだ。
「おや?ソラ様。目が悪いのではないのですか?」
俺は爺さんの言葉を無視し、爺さんが必ず右側に避けるタイミングで、逆側の手で銃魔法を起動させ、即座に放つ。
この距離なら反応速度など問題ではない。
しかし、必中の弾丸はそのまま後ろの木に突き当たっていた。
「爺さん、あんた認識をずらしてるな?」
「おやおや、気づかれてしまいましたか。」
爺さんから感じる違和感はこういう事だったのだ。
爺さんは俺が感じる認識を何らかの方法で左にずらしていた。
そのため、確実に爺さんを捉えたはずの弾丸は空をきったのだ。
「……。」
俺は攻撃の手を止める。
「どうしたのですか?もうおしまいですか?」
「ああ、終わりだ。爺さんの実力に免じて話は聞いてやる。ただし、お前の主人をここに連れてこい。さもなければ聞きはしない。」
「わかりました。またここに連れてきます。」
そう言って爺さんは去っていった。
ああいう方法で避けられることを予想していなかった。
ステータスを見てみても魔法は増えていないのでおそらくスキルで認識をずらされたのだろう。
なかなか危険な爺さんだ。
あのまま戦っていればこちらの手の内を晒されていただろう。
敵に回すにしろ、味方にするにしろ、少し考えさせられる人物だった。
ーーーーーー マリー ーーーーーー
私は今、エルミアとリアと一緒に買い物に来ている。
リアとはよく買い物に出かけるのだが、普段家事をしているエルミアと買い物に行くのは実はあまり機会がなかったりする。
エルミアもちゃんと女の子でオシャレはしたいようだけど、自分の奴隷という立場を理解して、あまり正直になれないようだった。
でも、ソラはそんな事を気にしないし、私もエルミアには幸せになってほしいから今日は主にエルミアの服装や生活必需品を買っていたのだ。
「マリー、そのネックレスどうしたの?この間まで持ってなかったよね?」
リアが私の首にかかっているネックレスを指差して言う。
「あ、これはね。ソラに貰ったんだ。」
「ソラに?」
「そう、ソラから。」
「前から思ってたけど、ソラはマリーにはすごく優しい。」
「そんな事ないよ。ソラはみんなに優しいよ?」
「いいえ、マリー様。確かにご主人様はみなさんに優しいですが、マリー様には特別優しいですよ?この間もマリー様の好物だからと自分は食べないのにお菓子を買って来てたんですから。」
「そうなの?」
「そう。ソラはマリーには特に優しい。私なんか未だにプレゼントなんて貰った事ない。」
リアが少し膨れたように拗ねる。
「ご主人様とマリー様はどうやって出会ったのですか?」
「たまたまソラに助けて貰ったのがソラと出会ったきっかけなんだけど、思えばその頃からソラは優しかったなぁ。」
「もしかしたら、ご主人様は一目惚れだったのかもしれませんよ?」
「そ、そんな事ないよ〜!」
私は少し顔を赤くして、首を振る。
しかし、その動作が前方への不注意を招き、人にぶつかり、転んでしまった。
「あっ!すいません!」
私は咄嗟に謝る。
私がぶつかったのはフードを被った男だった。
「いやいや、こちらこそすまないね。お嬢さん。どこか怪我はないかい?」
フードの奥に見える目は青色の虹彩をしており、服の上からでもわかる筋肉が目立つ印象だった。
そう言った男は私に手を差し出してきた。
「はい。大丈夫です。」
私はその男の手を掴み立ち上がろうとすると、男は勢いよく私の手を引き、私の耳元に口を近づけ、小声で呟いた。
「ソラを長く使いたいなら、彼をよく見ておく事だよ。」
そう言って男は私を立ち上がらせた。
その一瞬の出来事に2人は気づいていないようで、私も男の言っている言葉の意味を深く理解はできなかった。
そうこうしているうちに男はそのまま私たちの横を通って行き、人混みの中に消えていった。
前回投稿からかなり時間が空いてしまいました。
なかなか書く時間とアイデアが思い浮かばなかったため時間がかかってしまいましたが、これからは少し早めのペースで投稿していけると思います。
さて、話の内容の方ですが、題名がいかにも仰々しいですが、今回は序章といった話です。
次回は新たな登場人物が出現する予定です。
また名前を考えるのが大変になります。
次回もお楽しみに。




