三十三話 グリモア
「これが魔導書だ。」
俺はアイテムポーチの中から魔導書を取り出し、リアに見せる。
リアは目を輝かせながら俺が取り出した本を俺の手から奪い取る。
「これってなんの本?」
「分からん。俺も中身は見てないからな。」
「じゃ、早速読んでみる。」
リアが本を開く。
すると、リアが本の中身を見た瞬間、書いてあった文字が消えていった。
「ソ、ソラ。これってどこで?」
「Cランクの迷宮の宝箱の中だ。」
「……。」
「どうした?」
「これ、グリモアだ。」
「グリモア?」
俺はマリーの方を見る。
すると、マリーも驚いた顔をしていた。
「グリモアって何だ?」
「え、あ、えーっとね。グリモアっていうのは伝説級の本で、それを読んだものは特別な魔法が覚えられるんだけど、読むと文字が消えるっていう不思議な本のことよ。」
「ソラ!」
リアが俺に飛びついてくる。
「これ、これすごい!ありがとう!本当にありがとう!」
普段落ち着いているリアのこの驚きようからして、かなり貴重なものなのだろう。
しばらく待っていると、リアはグリモアを読み終えたようで、目を輝かせながら魔法の試射をしようとしている。
「どんな魔法だったの?」
「ふふ。それは見てからのお楽しみ。」
リアが杖を持ち、集中しだす。
「じゃあ、いく。『グラヴィス』!」
リアがそう唱えると、リアの目の前の小石が地面にめり込んだ。
「リア、これは?」
「これは重力魔法。今はLVが低いから2倍までしかかけられない。」
マリーが色々聞いているうちに俺は先ほどの小石の元に行って、観察する。
小石は地面にめり込んでいる。
本当に重力を操ったようだ。
次に自分のステータスプレートも見て見るが、そこには重力魔法の文字はなかった。
『読解』のスキルでも、重力魔法をコピーすることはできないようだ。
あとでリアのステータスプレートを見せてもらうことにしよう。
だが、この魔法はあまりにも強力だ。
今のままの範囲や重力でも、要所要所で使うことができれば、相手の動きを遅れさせること、ないしは相手を完璧に封殺することができる。
これは近接戦が苦手なリアからすれば相当なアドバンテージになるだろう。
もし範囲が広がるなら、自分以外の空間などの指定をしてしまえば、近接戦をしなくても相手を倒すことも出来る。
色々応用の効く魔法のようだ。
「とりあえず、エルミアのところに戻るぞ。そろそろ弓の準備もできたはずだ。」
「そうだね。ソラ、休憩しなくてもいいの?」
「ああ、あのくらいなら平気だ。」
「私は結構疲れた。」
リアが座り込む。
まあ、模擬戦をして、重力魔法までも使ったのだ疲れて当然かもしれない。
「2人は休んでていい、俺がエルミアを連れてくる。」
「ん。」
「ありがとう。ソラ。」
俺は2人を残して、エルミアのもとに行く。
しばらく歩くと、エルミアを発見した。
「エルミア。」
「は、はい!」
急に声をかけてしまったので驚いたようだ。
俺はエルミアが練習用に使った木を見てみると、ほとんど同じ場所に矢が刺さっていた。
「これは全部ここから狙ったのか?」
「はい。」
エルミアの狙撃の腕はなかなかのものだった。
エルミアの撃っていた位置から的まではゆうに200mはあったのだ。
女の子の細腕でこの距離を正確に射ぬけるのはなかなかすごい。
「何かスキルを持ってるのか?」
「はい。射撃スキルと、精霊魔法を少し。」
「精霊魔法?」
「はい。精霊に話しかけることによって発動させられる魔法です。」
「精霊とは?」
「私たちダークエルフ族とエルフ族のみに見える存在です。大地の意思って言った方が伝わりやすいかもしれません。」
なんとも漠然とした存在のようだ。
「見せましょうか?」
「いや、いい。これから俺と模擬戦だ。手の内は晒さずにいた方が幾分か優位に戦えるはずだ。」
「わかりました。」
「じゃあ、ついてこい。」
俺はマリー達のもとにエルミアを連れて戻った。
彼女の短剣の腕は見ていないが、あれだけ正確な狙撃ができるのだ。
そこそこな勝負にはなるだろう。
エルミアを定位置に立たせて、俺はいつもより多めに距離を取る。
「ソラ、離れすぎじゃない?」
「いや、これでいい。エルミア、いつでも始めていいぞ。」
「で……ですが。」
「構わない。殺す気でこい。でなければ本当に死ぬ。」
「わかりました。いかせてもらいます!」
エルミアが弓の弦を大きく引く。
元の世界では弓を使ってくる敵などいなかったので軌道を確認しておきたい。
エルミアが指を離すと、矢は大きく孤を描きながら、俺の頭に向かって飛んでくる。
正確な射撃だ。
俺はそれをかわし、前に走り始める。
エルミアは外れたのを確認してから、弓を構え、何発も放ってくる。
接近すればするほど回避するスペースは無くなって行くのだが、やはりここは古代兵器だ。
銃の連射速度に慣れてしまっている俺からすればこの程度の矢をかわすことは造作も無かった。
エルミアまで残り数歩というところまで近づくとエルミアは最後の一本を撃ち終えた瞬間に弓を手放し、バックステップして、一気に距離を取る。
そして、呪文を詠唱しながら、手を前に突き出し、魔法を放つ準備をしているようだ。
「大地の精霊よ。我が呼び声に応え、聖なる光で我が敵を撃ち果たせ、『ライトニングアロー』!」
詠唱を終えたエルミアは空間に光の矢を現出させる。
ただし、光の矢といっても、光の速さで攻撃されるわけではなく、あくまで実体のない、光でできた矢であるというだけだ。
だから、今まで通り避けられる。
そんなことはエルミアも分かっているはずだ。
だから、もう一つ手があるのだろう。
しかし、警戒して突っ込まないのもこちらとしてはあまり意味がない。
今回の戦いはエルミアの実力を見るためなのだからエルミアの策にのってやるほうが得策だろう。
俺は立て続けに発射される光の矢を避け、エルミアに突っ込んで行く。
そしてまたもや残り数歩になったところで、エルミアはバックステップで離れようとする。
先程と違うのはバックステップしながら、俺が渡した短剣を投げてきていることだ。
俺はそれを自らのナイフで弾く。
しかし、その瞬間
「現出せよ!『レッドバインド』!」
周りから炎が立ち込め、俺を囲むように円を作り、どんどんと狭まってくる。
どうやら、これが精霊魔法のようだ。
炎が意思を持つように動いてくる。
俺は銃魔法を起動させ、炎を撃ち抜くが、穴が開くだけで消える気配はない。
そうこうしているうちにも炎の円はどんどんと狭まってきている。
「まさか、エルミアに使わされることになるとはな。」
俺は新たな魔法の実験をここでやることにした。
銃魔法に『吸収』の効果を付与する。
これは『回転』を付与できた時に思いついた魔法だ。
そして、完全誘導弾という本来存在するはずのない魔法を使えることから銃魔法の応用性は異常に高い。
だから、物理法則を無視した効果を付与することにしたのだ。
名前は『吸収する王』。
命名はアリアだ。
ARIAシステムの中でもアリアには意思があるのでたまに話しかけてくる。
その声を聞くことは誰にもできないが、俺だけにわかる声で話しかけてくる。
実際、この魔法もアリアの影響が大半なのだ。
俺一人ではこんなぶっ飛んだ魔法を考えることなどできない。
さすがはアリアといったところだろう。
俺は完成した魔法を炎に放つ。
すると、炎は何かに巻き込まれるように急激に小さくなっていき、消えた。
「なっ⁉︎」
「自分の魔法が破られたからといって隙を晒すのは良くない。」
俺は驚きで固まっているエルミアに一気に近づき、ナイフを振り下ろす。
エルミアも途中で気づき、抵抗しようとするが、短剣は投げてしまっているし、弓や魔法は間に合わないのでなす術なく、ナイフを喉元に突きつけられた。
「完敗です。」
「エルミア、お前は合格だ。これからは一緒に迷宮まで来てもらう。」
「はい。」
「ソラ!あれなんて魔法?」
リアが駆け寄って来て聞いてくる。
魔法に疎いマリーには悟られなかったが、リアには悟られてしまったらしい。
極力バラしたくはないのだが、見えてしまったものは仕方ない。
「魔法を吸収する魔法だ。」
「……は?どういうこと?」
「言葉通りの魔法だ。」
「……。」
固まるリアを置いて俺は家に入っていった。
明日からはエルミアも連れて迷宮だろう。
正直、エルミアの強さには驚いた。
近距離戦は得意ではないようだが、遠距離戦ではかなり強い。
威力こそリアの方が高いものの、エルミアの魔法や弓は的確に相手の部位を狙えるので、遠距離戦では活躍する場多いだろう。
自分の予想が良い方に外れてくれた。
これはなかなかの買い物だったかもしれない。
今回はグリモアとエルミアの実力。
そして、ソラの新魔法がでました。
ソラの新魔法の名前のことですが、何故王なのかは後々説明させてもらいます。
一応私の作品にも色々考えている設定があるので、これから少しずつ明らかになって行く予定です。




