幕開け
中学三年生の一大イベント、修学旅行が近く、教室は賑やかだった。
転校して一ヶ月の僕は、ようやくクラスに馴染んできていた。
-4月6日-
転校初日。
教室の前に立つと、途端に緊張してきた。
中からの期待のざわめきが大きくなるにつれ、僕の不安も大きくなる。
どちらかと言えば人見知りな僕は、こうやって大勢の人の前に出るのが好きではない。
教室のドアを、なるべく音をたてないようにそっと開き、教卓の横に立った。
緊張で、胸がバクバク鳴っているのがわかった。
その時頼りにできるのは先生くらいだったが、その先生は手助けしてくれるような素振りは見せなかった。
腕を組んで顎で僕に指示を出した。
黒板に名前を書け、と。チョークを手に取り、黒板に名前を書き始める。
うまく書けなくて気にくわなかったが、僕は皆の方を見て自己紹介をした。
「ふ、藤本誠です。よろしくお願いします。」
担任はせっかちに僕を座らせた。
その日の昼休み、僕はどうすればいいのか分からず、席にじっと座っていた。
そんな中、僕に何人ものクラスメートが話しかけてくれた。
最初に声をかけてくれたのは、男の子だった。
「俺、福宮蒼也。俺も一年のときに転校してきたんだ。よろしくな。」
その後も、次々に自己紹介や質問の声が飛び交った。
「私は三倉恵。学級代表やってるから、わかんないことあったら聞いてね。」
「俺、富田幸人。よろしく。前、部活何やってたの?」
僕は少し戸惑ったが、素直に嬉しかった。
特に特徴もない、目立った特技も趣味もない、そんな普通の中学生である僕に、こんなにもたくさんの人が声をかけてくれたことが。
-4月21日-
クラスの皆のことがわかってきた頃、修学旅行の班決めが行われた。
この班は、個人的になかなかいいメンバーだと思う。
班長は、僕がこの学校に来て最初に仲良くなった、福宮蒼也。
勉強も運動もできる、頭の回転の早い優等生だ。
彼はその親しみやすい性格から、皆からの人気も高い。
副班長の宇沢奏は、誰とでも分け隔てなく接することができる優しい女の子だ。
その隣で、親友の恵と同じ班になれず、少々落ち込んでいるのが、山里美香。
明るい性格で、大胆な行動をする子だ。
しかし、根はとても優しい。
反対に、心が弾んでいるメンバーもいた。
武田智行だ。
毒舌家なため、評判は悪い。
そんな彼は、美香のことが好きらしい。
美香は智行のことを気にもとめていない様子だが、智行は美香にかなりの好意をもっているらしい。
まだ僕の不安は尽きないが、このメンバーなら楽しい修学旅行になりそうだ。
-5月9日-
修学旅行前日の夜。
僕はウキウキとドキドキで眠れなかった。
どんな修学旅行になるのだろう。
明日からの三日間、きっと楽しいものになるだろう。
そんな期待を裏切る事件が起きるなんてことを、この時の僕は知らなかった······。