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賞金稼ぎ、内情を話す

 高雄と美佐が彼の家に戻ってきた時、時計は既に夕方の四時を指していた。


「少し遊びすぎたかしら?」

「まだまだ平気だと思いますよ。うちに門限はありませんから」

「ああ、そう言えばそうだったわね」


 高雄の家の事情を彼自身から聞いていた美佐はその事を思い出しながらドアノブを掴み、高雄より先に家の中へと入っていった。高雄もそれに対して不満を持ったりはせず、そのまま美佐に続いて中に入った。


「あ、帰ってきた」


 そうして居間へとやってきた二人に最初に声をかけたのは、金髪のツインテールを備えた白一色の女性だった。


「あなたは確か……」

「ジョゼ・モルデ。久しぶりね、藤澤高雄君」


 その女性の名前を思い出そうとした高雄に向かって、女性がそれに先んじるように自分の名前を言った。先制された高雄は口を閉ざすしか無く、そんな高雄を見たジョゼはクスクス笑いながら次に美佐を見た。


「それと綾野美佐、あなたも久しぶりね。今日学校には来なかったみたいだけど、何かあったのかしら?」

「どうしてあなたがここにいるのかしら」


 しかし美佐はそのジョゼの質問を無視して、その上自分からジョゼに質問を投げかけた。高雄は気まずい表情を浮かべたが、ジョゼは嫌な顔一つせずにため息をつきながら美佐に言った。


「私はちょっと、コロヌスに報告したい事があってね。それと美佐の様子も確認したかったし」

「私の?」

「ええ」

「どうして?」

「手の掛かる子ほど世話を焼きたくなるものなのよ」


 何でもないことのようにジョゼが言ってのける。子供扱いされた美佐は顔をしかめたが、その時部屋の奥の方からコロヌスとアイビーが姿を現した。


「おお、今帰ってきたのか」

「これは好都合ですね」


 赤髪の騎士と紫髪のメイドは、その二人を見るなりそう言った。この時コロヌスは茶菓子の入れたバスケットを、アイビーは人数分の湯飲みを載せた盆をそれぞれ持っており、そしてアイビーはそれをテーブルの上に置いた後「お二人の分も用意しますね」と言って再び奥へと引っ込んでいった。


「何の話をしようとしていたんですか?」

「それはアイビーが戻ってきてからにしましょう。大丈夫、それほど切羽詰まった話でも無いわ」


 そんなアイビーの後ろ姿を見ながら高雄が問いかける。そしてその高雄の問いにジョゼがそう答え、コロヌスもそれに同意しながらバスケットをテーブルに置いてその前に座った。


「ほら、二人も早く座るがいい」


 それからコロヌスが高雄達にそう告げる。高雄と美佐はお互いに顔を見合わせた後、やがてコロヌスの言に従うようにテーブルの前に腰を下ろした。

 アイビーが二人の分の湯飲みを持ってきたのはその直後の事だった。アイビーはすぐにテーブルにそれを置き、自分もまたそれの前に座り込む。


「さて、それじゃあ話しましょうか?」


 そうして頭数が揃ったのを確認したところで、ジョゼがゆっくりと口を開いた。





「こっちの世界の存在が、私達の世界にいる連中に漏れたのよ」


 それがジョゼの「報告したい事」であった。それを聞いた高雄は一つの疑問を抱き、すぐにそれをジョゼに尋ねた。


「そうなると、どうなるんですか?」

「向こう側の世界の住人が、こちら側の世界に続々と侵入してくるかもしれないってことよ。あっちには無駄に開拓者精神フロンティアスピリット溢れる連中も多くいるし、それに次元転移の魔法を使える人間は少なくないしね」

「それなりに混乱が起きるでしょうね」


 高雄の横でそれを聞いた美佐がぽつりと呟く。コロヌスがそれに頷き、神妙な面持ちで口を開いた。


「向こうとこちらでは色々と価値観が違うからな。人でない姿をした連中が普通に町中に出てくる可能性もゼロでは無いだろう」

「そしてこちらの世界には無い力を使って、こちらの世界で悪事を働く者もゼロでは無いはずです。いずれにしても、二つの世界が何の前触れもなく接触するのですから、全く穏便に済むことは無いでしょう」


 アイビーもまたコロヌスに続いて持論を展開する。事態が大きくなっている事を察した高雄は思わず息を呑み、未知の脅威に対して心を震わせた。しかしその気配を察したジョゼは軽く笑い声を上げ、そのまま明るい声で高雄に言った。


「大丈夫よ。別にこれで世界が滅びたりする訳じゃないんだから。ただ見慣れないお客さんが増えるだけであって、すぐに破滅する訳じゃない。それに実際にそうならないように、こっちから監視員を一人派遣することになってるしね」

「監視員?」

「そ。マシアス教団と白棗団が中心になって出来た特別対策委員会の中から、こっちに監視員スーパーバイザーを一人送ることになったの。私達の世界から来た連中が悪さしないように、そして二つの世界を繋ぐ門に異変が生じないように。こっちの世界を常に監視して、必要とあらば事前に対処する。そういう任務を帯びたエキスパートをね」


 正確に言うとその人は人間ですらないんだけどね。そこまで言ったジョゼが続けてそう言葉を漏らし、それを聞いた高雄が「魔族の人が来るんですか?」と彼女に尋ねた。


「ええ、そうよ」


 ジョゼは素直に首肯した。コロヌスがそれに続けて問いかける。


「それは誰なんだ?」

「あなた達もよく知る人よ」

「名前を教えてくれと言っているのだ」

「それは今言ったら面白く無いじゃない。明日あんたが通ってる学園に教師として来ることになってるから、その時直接会えばいいじゃない?」

「私達の学園に?」


 そこに美佐が食いつく。美佐はそのままジョゼを見ながら彼女に尋ねた。


「なぜわざわざ学園に来るのですか? 何か理由が?」

「理由は二つあるわ。一つは、世界を繋ぐ門の生まれる場所が、その学園の周囲に集中すると推測されているからよ」

「なぜ?」

「コロヌス達がそこで頻繁に転移をしてるからよ」


 高雄の自宅。学園内にある新聞部の部室。確かにコロヌス達が転移の際に使う「門」を生み出しているのは、その学園の周囲に限られていた。


「こっちの世界に転移を行おうとしている連中は、その大半がコロヌス達が門を作る際に使う次元座標を流用しようとするだろう。それが私達の推測なの。自分で一から座標を設定するより、予め設定されている座標を少しいじる方がずっと楽だからね」

「その次元座標って、そんな簡単に盗める物なんですか?」

「そりゃもう簡単よ。一度魔法を使えば、そこにはその時使った魔力の残滓が残るの。その魔力の残りカスは、その時使った魔法が強大であればあるほど、より大量にその痕跡を残すようになっているのよ」

「まして次元に穴を開けて、二つの世界を繋ぐような大規模な魔法ともなれば、その際に残る魔力の痕跡もより濃密に、より広範囲に広がるようになるのだ。まず隠蔽するのは不可能だろうな」


 ジョゼの後を引き継ぐようにコロヌスがそう言い放つ。高雄が興味深そうに「具体的な範囲は?」と尋ねると、コロヌスは難しい顔を浮かべながら「三十キロくらいかな……?」と呟いてから、アイビーに顔を向けて彼女に尋ねた。


「お前はどれくらいだと思う? 三十は行きそうか?」

「三百が妥当かと思われます」

「半径三百キロってこと?」

「そうなりますね」


 呆然とする高雄にアイビーが答える。高雄の横でそれを聞いていた美佐は「確かに隠蔽も何もあったものじゃないわね」と呟き、その呟きに頷きながらジョゼが言った。


「世界を繋ぐんですもの。それくらいの魔力が溢れ出すのも当然っちゃ当然ね。しかもあんた達は、そんなドデカい魔法を当然のようにほぼ毎日、バシバシと行使している。バレない方がおかしいわ」

「だからこれから転移を行おうとする連中は、その私達の生み出した魔力の痕跡から次元座標を読みとって、そこに飛ぼうとする訳か」

「そういうこと。研究材料には事欠かないからね」


 ジョゼがそう言い放ち、その後で「これが理由その一。わかったかしら?」と周囲に問いかける。周りの面々はそれに頷き、それからアイビーがジョゼに尋ねた。


「では、二つ目は? いったいどのような理由なのでしょうか?」

「こっちは簡単よ。ただ単にコロヌス達に会いたいから」

「私達に?」

「ええ。あんた達の近い場所にいたいっていう、要はあの人のわがままね。まあ特に問題無かったから、上の連中はそのままそれを認めたみたいだけどね」


 二つ目の理由を聞いたコロヌス達は困惑した。いったい誰が来ると言うのだろうか? まるで予想がつかなかった。


「ま、詳細は見てのお楽しみって事で」


 しかしジョゼはそんな困り果てる面々を楽しそうに見つめながら、頑なに答えを開かそうとはしなかった。





 翌日、ジョゼの言う通り、その学園に一人の教師が赴任してきた。

 その「新任教師」の姿を見た高雄達は唖然とした。


「はじめまして。今日からこのクラスの担任となります、シシルフェルトと申します。担当する教科は英語です。どうぞよろしくおねがい致します」


 青い肌、白い髪、青い瞳。

 生気の薄い、人形のような冷たい美貌。

 赤い頭にカチューシャを挿し、白い髪をうなじで束ね、黒いビジネススーツをかっちり着こなした長身の女性。

 そんなおおよそ人に見えない美人教師が、生徒達に向かって恭しく一礼する。その人間離れした美貌を持つ新任教師を前にして、そのクラスの生徒達はやにわにざわめき始めた。

 その中にあって、高雄達は呆然と口を開けたままだった。


「監視員って、まさか」


 シシルフェルト・ペル・トリスタータ。コロヌスの実母の名前が高雄の頭の中をよぎる。


「あの人が……?」

「どうしてよりによって……」


 そしてそう苦々しく呟く高雄とコロヌスの存在に気づいたシシルフェルトが、顔を上げて彼らに向かって薄く微笑む。それを見た高雄達はやや引きつった笑みを浮かべ、一方でそれが自分達に向けられたものであると誤解した他の生徒達は更にそのテンションをあげていった。

 また面倒なことになりそうだ。高雄達のテンションはそれと正比例するかのように下がっていった。

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