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賞金稼ぎ、化けの皮を剥がされる

「それにしてもあんた、酔狂なことしてるわね」


 美佐との対面を終え、生徒会室から出た三人は、そのまま新聞部室へ向かった。そして何事もなかったように席に着き、そこでいつものように雑談を始めた。そしてそこには当たり前のようにジョゼもいたが、コロヌスが「私の知り合いだ」と言うと、元々の新聞部員である春美と康夫はそれに納得し、それ以上の追求はしなかった。

 一方でジョゼもまた、この部屋にある「門」の存在に気づいていたが、それについて特別追求するような事はしなかった。コロヌスのことだ、悪いことには使わないだろう。彼女はそう考えて、それ以上の思考を放棄した。


「なんでわざわざ学生なんかしてるのよ。騎士がすることじゃないでしょうに」


 そうしてちゃっかり自分の席を確保したジョゼは、そのままコロヌスに声をかけた。その時コロヌスは途中で買った缶ジュースを開けてそれに口を付けていたが、ジョゼからそう聞かれるなりそれから口を離し、彼女の方を向いてそれに答えた。


「フィアンセと一緒にいたいからだ。最初は教師でもいいかと思ったが、やはり一番身近にいられるのは生徒だと判断してな。だからここにいるというわけだ」


 コロヌスは全く恥じらいを見せなかった。春美と康夫は呆気に取られ、高雄は赤面し、ジョゼは「はあ?」と目を点にした。


「フィアンセって、誰?」


 そしてジョゼが呆然としたまま問いかける。コロヌスは横に座っていた高雄を手で指し示し、「彼が私の伴侶だ」と言ってのけた。


「へえ、この子が」


 それを聞いたジョゼがまっすぐ高雄を見つめる。高雄は気恥ずかしさを覚えながらも、しかし逃げることなくその視線を正面から受け止めた。自分だってコロヌスを好いている。ここで逃げて、彼女を失望させる訳にはいかない。高雄は謎の使命感に駆られるまま、ジョゼの瞳を見つめ返した。

 最初に目を離したのはジョゼの方だった。彼女は視線を高雄から逸らし、そのまま目線の対象をコロヌスへ移し替えて彼女に言った。


「なるほどね。年下ショタ好きは相変わらずってわけ」

「年下が好きで何が悪い。人の性癖を笑うのは感心しないぞ」

「笑ってないわよ。ただ相変わらずのコロヌスで安心したってだけ」

「お前も何も変わってないようだがな。成長したのは背丈だけか」


 ジョゼにそう言い返しながら、コロヌスが彼女のある一点をじっと見つめる。そして相手が自分の「平地」を見つめている事に気づいたジョゼは咄嗟に腕でその部分を隠し、途端に涙目になりながら「努力はしてるんだからね!」と叫んだ。


「あんたこそ何よ! 人のコンプレックス嘲笑ってそんなに楽しい!?」

「笑ってないだろう。お前がいつも通りで安心しただけだ」

「何よそれ! 慰めのつもり!?」

「貧乳がそんなに嫌か?」

「貧乳言うな! 人よりちょっと足りてないだけじゃ!」


 ジョゼが立ち上がり、声を大にして叫ぶ。そしてこの時、感情を爆発させた拍子で胸を隠していた腕が外へと振り解かれる。

 なるほど、平地だ。そこにあるものを見た三人の人間は揃って同じ感想を抱いた。春美に至っては一度自分の胸を触り、そしてそこから相手のあまりの「無さ」を再確認し、そのまま憐れみすら覚えた。


「悲しいなあ」

「何か言った!?」


 そしてあまりの無常さに思わず呟いた春美の言葉に、ジョゼが耳聡く反応する。春美は慌てて首を横に振り、それから「ああ、はい! 実は!」と何か思いついたように口を開いた。


「お二人はとっても仲がいいなあって思っただけなんです! 向こうの世界で何かあったんですか?」


 逆境ピンチ好機チャンスに変えるとはまさにこのことであった。春美の質問を受けたジョゼは、彼女の本心を知らぬままそれまで抱いていた憤りを抑えつつ席に戻り、そして春美を見たままその質問に答えた。


「まあ腐れ縁って奴よ。アタシはいわゆる、白棗直属の賞金稼バウンティハンターぎってやつでね。凶悪犯とか凶暴なモンスターの退治とか、白棗団が指定した対象を排除する依頼をこなしているのよ。でも、時々一人じゃ手に負えない奴が出てきたりしてね。そんな奴と戦うってなった時に、ヘルプとしてコロヌスの手を借りてるってわけ」


 ジョゼが淡々と説明する。一方でそれを聞いた康夫は「白棗って?」と疑問を口にし、それに対して春美が「ハンターギルドみたいなものです」と簡潔に説明した。康夫はそれを聞いて納得したように顔から憂いを消したが、今度はコロヌスが「ハンターギルドってなんだ?」と言いたげな顔をした。


「そういうのが出てくるゲームがあるんです。やってることは白棗団と一緒ですよ」


 それに高雄が答える。コロヌスはそれを聞いて「ああ、なるほど」と頷き、そしてそんな外野を見て、ジョゼが「話を続けていいかしら?」と言った。

 場が静まりかえるのを確認した後、ジョゼが再度口を開いた。


「ま、そうやって何度も顔を合わせてる内に、次第に仲良くなっていってね。今では無二の親友ってわけよ」

「どうしてコロヌスさんに救援を頼もうと思ったんですか?」

「それはもちろん強いからよ。せっかく一緒に戦うなら、強い人の方がいいでしょう?」

「タダ飯にありつけるから私のところに押し掛けているだけだ」


 高雄の質問に答えたジョゼに対して、コロヌスが横から口を挟む。それを聞いた高雄は素直に「そうなんですか?」とジョゼに尋ね、再度問われたジョゼは「そこまでバラさなくていいじゃないの」と頭を抱えた。

 だがコロヌスは容赦しなかった。彼女はそんなジョゼを視界の端に捉えながら、再び口を開いて続きを話し始めた。


「最初にこいつと組んで依頼をこなした後、せっかくだからと夕飯に誘ってみたら、その後も何かにつけては私の元に飯をたかりに来るようになってな。私に協働をもちかけてくるのも、本当はうちで飯を食いたいからだったりするんだ」

「だって他の人にご飯食べさせてって頼んでも門前払いされるんだもん。仕方ないじゃない」


 普通はそうだよ。真相を暴露されて開き直ったジョゼを見ながら、高雄はひきつった笑みを浮かべた。すると今度は春美がジョゼに質問をした。


「自分で作らないんですか?」

「作れるわけ無いじゃない」

「……外食は?」

「お金出すの勿体ない」


 ジョゼは胸を張って言い切った。今度は春美がひきつった笑みを浮かべる番だった。ジョゼは構うことなく言葉を続けた。


「まあそういうわけで、私はご飯を用意してくれる心優しいコロヌスに親しみを感じて、そのまま友人同士になったというわけよ。わかったかしら?」

「それ餌付けされてるっていうんじゃ」

「普通に駄目な人だ……」


 そんなジョゼを見ながら、高雄と春美は揃って呆れ返った表情を浮かべた。コロヌスはその二人の心情に同意して「正確には駄目魔族だな」と言い放った。一方で散々言われたジョゼは悔い改めるどころか完全に開き直っており、それらの発言に対して「だから?」と言わんばかりに澄まし顔を見せていた。

 本当に駄目な人だった。


「ところで、三人は今までどこに?」


 そんな場の空気を変えようと、康夫がコロヌス達に尋ねる。それに対してはコロヌスが三人を代表して、今まで自分達がどこで何をしていたのかを説明した。

 それを聞いた春美と康夫は揃って顔をしかめた。


「それはまた、面倒な事に巻き込まれましたね」

「そうなの?」


 そして顔を渋らせる康夫の言葉にジョゼが反応する。康夫はそれに対して静かに頷き、すると横にいた春美が康夫に替わって口を開いた。


「生徒会の人達、一度狙いを付けたら絶対諦めない事で有名なんですよ。それが排除であれスカウトであれ、向こうが折れるまで食い下がり続けるんです。だからコロヌスさんのことも、簡単には諦めないと思いますよ」

「そうなの? 僕は初めて聞いたんだけど」

「それなりに広まってる話だよ。高雄君ももっとアンテナ高くしないと」


 首を傾げた高雄にそう答えた後、春美はコロヌスを見て表情を深刻な物へと変えながら言った。


「そういう訳ですから、あなたも十分気をつけてくださいね。生徒会は目的のためなら手段は選ばない連中ですから」

「ああ、わかってる。警戒しておこう」


 奴らが「無慈悲」な連中であることは、コロヌスも既に承知していた。彼女は春美の忠告を素直に受け止め、そして確かに首を縦に振った。一方でそれを聞いたジョゼも顔をしかめ、「一応私からも釘を刺しておこうかしら」と爪を噛みながら呟いた。

 それに反応したのはコロヌスだった。その「獄炎」の女騎士は友人である「氷華」を見据え、真剣な口調で彼女に言った。


「頼めるか?」

「任せておいて」


 ジョゼは即座にそれを了承した。


「ああいう連中は、つけあがらせるとどこまでも止まらなくなるからね。誰かが手綱を持っておかないと」

「自滅しないように?」

「そういうこと」


 そしてジョゼの言葉にコロヌスが返し、それを聞いたジョゼは同意するように頷いた。しかし端からそれを聞いていた康夫は、「彼らが人の話を聞くとは思えませんが」と渋い声を上げた。


「それでもやることはやっておかないとね。見て見ぬ振りはさすがに出来ないわよ」


 そんな康夫の発言に対して、ジョゼはそう答えた。駄目だけど優しい人なんだ、とその姿を見た高雄は素直にそう思った。


「ところで、アイビーさんはどこですか? 今日は姿が見えないですけど」


 その時、唐突に思い出したように春美が口を開く。高雄が周囲を見回してみると、なるほど確かに、あのメイド魔族の姿がどこにも見えなかった。


「そう言えばいないな。あいつはと私達が生徒会に呼ばれた時に別れたきりなんだが」

「自分は呼ばれてないから先に部室で待ってますって言ってましたよね」

「言っていたな。なのにいないとは、これいかに」


 コロヌスもそれに気づき、辺りを見渡して不思議そうに顔をしかめる。そして彼女は途中の高雄からの問いにも同意し、ますますその表情に疑念の色を強めていった。

 康夫はそんなコロヌスに「僕が部屋に来た時は誰もいませんでした」と答え、春美もそれに同意するように首を縦に振った。


「どこで道草食ってるんだ?」

「トイレですかね?」

「それにしちゃ長すぎるでしょ。いや、腹壊して出るに出れなくなってるとか?」


 それからコロヌスと高雄とジョゼは言葉を交わし合い、春美と康夫もその議論に加わった。「門」は珍しく沈黙しており、異世界からの客が来る気配は無かった。


「まあ、あいつのことだ。その内ひょっこり出てくるだろう」


 しかし何分か会話をした後、コロヌスはそれに対しての思考を放棄するようにそう言った。高雄達人間組は怪訝な顔をしたが、一方でジョゼもまたそれに同意した。


「あいつが人間に遅れを取るとは思えないしね」

「そういうことだ。気長に待つとしよう」


 コロヌスとジョゼはすっかり落ち着きを取り戻していた。高雄達はまだ不安から脱しきれずにいたが、それでもコロヌス達を信用してアイビーを待つことにした。

 しかしどれだけ待っても、アイビーが姿を見せることは無かった。

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