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少年、噂になる

 その学園では、ある噂がまことしやかに囁かれていた。


「なあ聞いたか? 親子の幽霊の噂」

「なんだよそれ。幽霊?」

「そうだよ、幽霊だよ。夜中になると三人組の幽霊がどこからともなく現れて、学校の中を歩き回ってるんだと。それが傍目には親子が連れ添って歩いているように見えるらしいから、親子の幽霊って言われてるらしいぜ」

「アホくさ。今時幽霊なんているわけないだろ?」

「それがいるんだって。夜まで残ってる教師とか、見回りに来た警備員とか、そういう連中が見たって言ってるんだよ。俺達ならともかく、教員や警備員がわざわざそんな馬鹿馬鹿しい情報流すかよ?」

「なんだよそれ。そっちが噂の出所なのかよ」

「そうなんだよ。だからさ、絶対信憑性は高いと思うんだよな、これ。なんたって教師が噂してるんだからな」


 三人組の親子の幽霊が夜中の学園を徘徊している。この噂はすぐに学園中に広がり、刺激を求める学生達の中でそこそこ流行った。噂の出所が教師や警備員であったこともまた、彼らの好奇心を刺激した。教師が、もとい大人が、そんなウソを言いふらすようには思えなかったからだ。


「だからさ、ちょっと確認してみようぜ? 夜中の学園に忍び込んでみてさ」

「嫌だよそんなの。馬鹿馬鹿しい」

「なんだよお前、ビビってんのか? 情けねえな。それでも男かよ?」

「お前こそそんなことして停学食らったらどうするんだよ? 夜の学園に無許可で入り込むなんて校則違反だぜ? そもそも四日後にテストあるのに、遊んでていいのかよ」

「うっ、それを今言うかよ……」


 昼休み時、その二人の男子生徒は自分達の教室で昼食を取りながら、件の噂で大いに盛り上がっていた。しかし夜の校舎に忍び込もうという彼らの計画は結局オシャカになり、その後は噂についてあれこれ妄想を膨らませ、あれやこれやと取り留めもない会話を交わすだけだった。

 そして彼らだけではなく、その教室の至る所で、同じ噂に関する雑談が行われていた。無論昨日見たテレビや最近の流行についての話等も交わされてはいたが、やはり全体数で見れば件の噂についての会話が大半を占めていた。


「……」


 この時、その教室にいた高雄は非常に肩身の狭い思いを味わっていた。なぜなら自分がその噂の当事者であったからだ。


「随分と有名になっているようだな」

「人気者は辛いですね」


 一方でいつものように彼の両隣に座ったコロヌスとアイビーが、それぞれ他人事のように彼に声をかける。この二人もまた、その噂の正体を知っていたのであった。


「今日も呼び出しがかかるんじゃないか?」

「あなたも断ればいいのに」

「でも、知りたいって思ってるのは事実ですし……」


 コロヌスが予想し、アイビーが呆れた表情を高雄に向ける。マナーモードになっていた彼の携帯電話が震動したのは、そんなアイビーの問いかけに対してそう答えた直後だった。


「ああ……」


 送られてきたメールの内容は、まさにコロヌスの予想通りのものであった。





「それじゃあ高雄ちゃん。今日もお願いね?」

「よろしくお願いします」


 その日の深夜。高雄の目の前でリザリスが楽しげに手を振り、ハドラムが丁寧に頭を下げた。高雄はひきつった笑みを浮かべながら、しかし拒絶することもなく「よ、よろしく」とだけ返した。

 彼らは今、学園一階にある理科室前の廊下に立っていた。


「さっそくだけど高雄ちゃん、この部屋は何をする部屋なのかしら?」

「ええと、ここは色々と実験をする場所です。中には色んな器具や薬品があって、それを使って授業をするんです」

「体験学習という奴ですか?」

「そういうことだね。目で見るより、直接体験した方がより良く身につくって感じかな」


 リザリスの問いかけに高雄が応じ、ハドラムの意見にも同じように高雄が答える。そうして高雄の解説を聞いた二人は揃って目を輝かせ、各々の知的好奇心を満たしていった。


「魔法の学習は出来ないの?」

「それは出来ません。ていうか、こっちの世界には魔法は無いです」

「何か許可をもらわないと触れない薬品とかってあるんですか?」

「もちろんあるよ。許可をもらった上で、ゴム手袋を着用しないといけないような物もあるしね。もっともそういうものは滅多に触れないけど」


 要するに「親子連れの幽霊」とは、ただの「異世界組による学園探索ツアー」であった。


「じゃあ次は一個上の階に行ってみましょう? いやあ、高雄ちゃんが居てくれて、本当に助かるわあ。ありがとうね?」

「は、はい、どうも」


 発起人はリザリスである。彼女はコロヌスが通っているという異世界の学園に興味を持ち、その案内を高雄に頼んだのである。横でそれを聞いていたペトラムも、ついでとばかりに高雄にそれの同行を求めてきた。更に言うとハドラムもそれに乗り気であった。

 高雄はそれを断れなかった。面倒とは思ったが、それでも彼は人の頼みを無碍に出来るほど薄情な人間では無かった。そして高雄が折れると同時に話はとんとん拍子に進んでいき、最終的に彼らは人気の少ない深夜に「門」を使って直接学園内に進入し、内部を探索することに決定したのであった。

 そして今に至る。


「どうしたの高雄ちゃん? 元気無いけど?」

「大丈夫ですか? どこか具合が悪いんですか?」

「い、いやその、僕達のやってる事が、結構話題になってきてまして」


 そこでいざ階段を上がろうとしたところで、高雄が浮かない顔をしていることに気づいたリザリスとハドラムが共に声をかける。高雄はそれに気づき、しかし表情は暗いまま二人に答えた。


「このままだと、いずれ僕達のこともバレると思って。もしそうなったらマズいことになると思ったんです。具体的には停学とか、もっとひどいことになるかも」

「気が気でないってことかしら?」

「は、はい」


 高雄の心配を聞いたリザリスは、しかし別段困った素振りは見せずに優しく微笑んだ。そしてじっと高雄の目を見ながら、リザリスが柔らかい口調で囁くように言った。


「大丈夫よ。もしバレたとしても、その時は私がなんとかするわ」

「ぐ、具体的には?」

「口封じすればいいのよ」

「駄目ですよ!」


 咄嗟に高雄が叫ぶ。リザリスはクスクスと笑って「冗談よ」と返したが、その目は笑っていなかった。

 高雄はますます不安になった。


「ま、まさか本当にやっちゃうつもりじゃないですよね?」

「さ、次に行きましょう? ここは広いんだから、もたもたしてたら陽が明けちゃうわ」

「質問に答えてください!」

「大丈夫、大丈夫。ちゃんとうまくやるから」

「どういう意味ですかそれ!?」


 高雄の悲鳴も虚しく、リザリスはさっさと階段を上っていった。ハドラムはそんな高雄とリザリスを交互に見やって、申し訳なさそうに高雄に言った。


「なんだか、ごめんなさい。僕と姉上の我が儘に巻き込んでしまって」

「ああいや、平気だよ。そんな迷惑には思ってないし、それに僕も、なんだかんだ言って楽しいし」


 しかし高雄はそれに対し、笑みを浮かべながらそう答えた。ハドラムは不思議そうに「そうなんですか?」と尋ね、高雄は恥ずかしげに頬を掻きながら「うん」と答えた。


「正直言って、今凄いわくわくしてるんだ」

「どうしてですか?」

「だって、夜中の学校に忍び込んでるんだよ? なんだか未知の場所を冒険してるみたいで、とても興奮するんだ」


 そして続けてそう言った高雄の目は、本当に輝いていた。ハドラムはそれを見て、「この人は本当に前向きなんだな」と素直に感じた。


「ほら二人とも? 早くしないと置いていくわよー?」


 そんな二人に、階上から声がかかる。高雄は「案内しているのは誰だと思ってるんだ」と少しムッとしつつ、それでもハドラムを見ながら親しげに彼に言った。


「さ、行こう。早くしないとリザリスさんが怒っちゃう」

「それは確かに困りますね。行きましょう」


 そうして彼らの夜の学園探索は、その後一時間は続いたのだった。





 そして時は戻ってその日の昼休み。件の男子生徒とは別の場所で、二人の女生徒がまた別の噂話に興じていた。


「ところでさ、狐が出るって話は聞いたことある?」

「狐? ああ、でっかい狐が連れと一緒に学園の中に出没するって話?」

「そうそう。保健室とか職員室とか、親子連れの幽霊とはまた違った場所に出るらしいわよ」


 狐の妖怪が校舎の中を徘徊している。そんな噂もまた、生徒達の間でまことしやかに交わされていた。その狐は臀部から九本の尻尾を生やした人間の姿に化け、従者を引き連れて夜な夜な学園内を回っているのだという。その理由については、自分を殺した相手を捜して回っているだの、この地に眠る霊的な宝物を求めているだの、単なる化物の暇潰しだの、様々な内容が飛び交っていた。


「でもそれ、親子の幽霊に比べちゃ信憑性低いよね。それ見たって言ってるの、生徒の方でしょ? 教師に比べるといまいち説得力がねえ」


 しかしその噂は、「親子連れの幽霊」に比べて盛んに語られている方では無かった。噂の出所が教師ではなく自分達と同じ生徒だったために、彼らはそれを眉唾物として軽く見ていたのである。


「でもさ、狐の妖怪の方がさ、親子連れの幽霊なんかより、よっぽどロマンあると思わない? もしかしたら超イケメンだったりして!」

「なんでイケメン扱いなのよ。そもそもそいつ、男か女かもわからないんでしょ?」

「もう、夢が無いなあ。せっかくの噂なんだからさ、好きに妄想したっていいじゃない」

「残念ながら、そいつは女なんだな」


 そんな女生徒二人の話を遠くで耳聡く聞いていたコロヌスが、声を潜めて楽しそうに言ってのけた。その隣に座っていた高雄は頬を赤らめ、気まずそうに顔を俯かせていた。

 例によって、彼女達はその噂の正体を知っていた。言ってしまえば、その「狐の妖怪」とは彼らの友人であるシュリ・ルーシェンの事であり、「従者」とはコロヌスと高雄の事であった。

 そして彼らがやっているのは、単純に言えば「不純異性交遊」であった。





「今日は保健室でお医者さんごっこじゃ。どうじゃ高雄? 興奮するかのう?」


 再びその日の深夜。空気を読んだリザリス達と別れた高雄は、そのまま一人で「今日の集合場所」である保健室へ向かった。そこでは既に噂の根源であるシュリとコロヌスが待機しており、彼女達はその身を白衣に包んでいた。出る所は出て、締まる所は締まった見事なボディラインの上から白衣を着こなしたその立ち姿は、まさに漫画に出てくるような「美人保健医」であった。


「この白衣というのは、あれだな。少し動きづらいな」

「まあ戦うために用意されたものではないからのう。窮屈に思うのも仕方ないことじゃ」


 そんなコスプレじみた格好をしたコロヌスが口を尖らせ、シュリがそれにしみじみと答える。高雄はそのモデル顔負けの二人を見やりながら、「爛れたことしてるなあ」と他人事のように思っていた。

 そもそもの事の発端はシュリだった。彼女はリザリス達が学園探索をしている事を知り、「わらわも学園の中を見て回りたい!」と駄々をこね始めたのだ。当然高雄はそれも快く引き受けたのだが、そこでコロヌスが「面白そうだから私も混ぜてくれ」と言ったところで、話が大きく変わっていった。


「せっかくだから、ただ学園を回るのではなく、わらわ達でしか出来ぬことでもしてみんか?」


 コロヌスと高雄を見ながらシュリがそう問いかける。不思議そうに首を捻る二人に、シュリは続けて腹案を語って聞かせた。

 それを聞いた二人は揃って赤面した。


「そ、そんな、いくらなんでも」

「いくらなんでもやり過ぎだ。そもそもお前、まだそんなに性欲強かったのか?」

「何を言うか。わらわはまだまだ現役、ぴちぴちの妖狐じゃぞ? 狐の魔族が精を欲して何が悪い? それになんだかんだ言って、そなたらもちょっと興奮しておるのじゃろう?」

「どういうことですか?」

「愛する者と刺激的な一夜を過ごす。それを妄想して、期待を抱いているということじゃ。図星じゃろう? わらわとならば、それが叶うのじゃぞ?」

「うっ……」


 結局騎士と少年は、その狐の誘惑に折れた。そうして元々計画されていた学園探索は、学園での密かな淫らな密会へと変わり果てたのであった。


「さあ高雄。今日も始めようじゃないか」


 そしてなんだかんだ言って、コロヌスと高雄も今の状況を楽しんでいた。背徳的な事をしているという自覚はあったが、それを認めれば認める程、逆に欲望の炎は大きく膨れ上がっていったのであった。


「ほれ高雄。いや、今は患者様というべきかな? とにかく何をぼうっとしておる。今日も目一杯、わらわ達と楽しもうではないか」

「そうだぞ高雄。時間は限られているのだ。たっぷり私と愛し合おうじゃないか」

「はい……」


 そしてその黒い炎に身を任せ、まるで光に引き寄せられる蛾のように、高雄はゆっくりとした足取りで二人の美女へと近づいていった。狐と騎士は寄ってきた少年を優しく抱き寄せ、肌を重ね、共にその身を溶かし合った。

 黒い欲望の炎が真っ赤な情熱の炎に変わるのに、そう時間はかからなかった。





「今日もなさるおつもりですか?」


 そんな教師が知ったら激怒確定な事を不定期に行っている二人に対して、アイビーが淡々と問いかける。彼女もまたその噂の正体を知っており、そして彼女は高雄が既に「親子連れの幽霊」から催促を受けている事をコロヌスに指摘した。


「遊ぶのもよろしいですが、少しは高雄様の身を案じてやってはいかがですか? 高雄様は普通の人間。連続で付き合わせてしまっては、高雄様の健康を害してしまう恐れもあります」

「大丈夫。精気も体力もあいつがちゃんと回復してくれる。アフターケアもばっちりだ。それに高雄、君もなんだかんだ言って、あれには期待しているんだろう?」


 しかしコロヌスは悪びれる様子もなくアイビーに対してそう言い切り、それから高雄に視線を移して意地の悪い笑みを浮かべた。問われた高雄は更に顔を真っ赤にして、それから小声で「嫌じゃないです」と答えた。


「気持ちよかっただろう?」

「気持ちよかったです。コロヌスさんはどうなんですか?」

「私も良かった。最高だ。君ももっとしたいだろう」

「……はい」

「程々にしてくださいね」


 コロヌスがさらに問い詰め、高雄が顔を真っ赤にして頷く。それを見たアイビーは呆れたようにため息をつき、冷めた口調でそう言った。それを聞いたコロヌスがアイビーに向けて「本当はお前も混ざりたいんだろうが」と尋ねたが、アイビーは一つ咳払いをしてから「結構です」と返した。


「私はいつも、早朝に高雄様から拝借させていただいておりますので。そこまで精に対して貪欲になってはおりません」

「なにそれ。僕知らないんだけど」


 高雄が唖然として言い返したが、その答えを彼が聞くことは叶わなかった。ちょうど始業五分前のチャイムが鳴り始めたからだ。


「さ、授業の準備を始めましょう」

「もうそんな時間か。さて、午後の授業は……」

「ちょっと待って? さっきの話どういう意味? 僕全然知らないんだけど?」


 高雄が困惑した声をあげる。しかし誰もそれには答えず、彼の声は虚しく宙に響くだけであった。





「校舎をうろつく親子連れの幽霊。神出鬼没の狐の妖怪。体育館に現れる竜。プールに生える植物。おまけに屋上で踊る双子の霊! これはもうしばらくの間、ネタには事欠きませんね!」


 そして放課後。新聞部の部室の中で、秋ヶ瀬春美がメモ帳を開きながら満面の笑みを浮かべていた。メモ帳の中にはこれまで彼女が見聞きしてきた噂話がびっしりと書き込まれており、そこには高雄のクラスで話されていなかったものまで多く含まれていた。

 なお春美も高雄も、それらの噂の大部分を把握していた。なぜならそれらは全て、自分達の知り合いである「異世界からの客人」が勝手にこの学園に訪れたがために生み出された事象であったからだ。

 ちなみに彼らの進入場所はこの新聞部の部室の中に作られた「門」であり、しかもこれは普通の人間には見えないように特殊な封印術式を施されていた。


「でもこれ、なんだかマッチポンプな気もするんだよなあ」


 一方でそんな春美の喜びの声を聞いていた康夫は、頬杖をつきながら困ったように苦笑した。彼もまた、一連の噂話がどのようにして出来上がったのかを知っていた。そして今現在、彼の目の前でその噂の根源は静かに宿題を片づけていた。


「へえ。コロヌスってば、そんな問題解いてるんだ」

「なんだか簡単すぎー。姉様つまらなくない?」

「簡単だろうがなんだろうが、学生をやるからにはこれも解かねばならんのだ。面倒といえば面倒だがな」


 そしてそのコロヌスの両脇には同じく噂の根源である彼女の姉妹が立ち、コロヌスの解いている問題用紙を興味深そうに覗いていた。コロヌスもまたそんな姉妹の問いかけに対し、頬杖をついたまま実に面倒くさげに返した。しかしその一方で手に持ったペンはまるで機械のように、スラスラとその用紙の中に解答を書き込んでいっていた。


「凄い。コロヌスさんって、それくらいの問題は楽勝なんだ」


 それを見た春美が目を輝かせる。コロヌスが春美にペンを動かしたまま視線を移して「楽勝だな」と答えると、春美はさらにその顔を輝かせた。


「いいなあ。私も頭よくなりたいなあ」

「なら四百年くらい生きてみるか? 嫌でも知識が身につくぞ」

「さすがにそれは無茶ですよ」


 すると横にいた高雄がそう言葉を返す。彼もコロヌス程ではないが、それでも順調に彼女と同じ問題を解いて行っていた。


「高雄君も頭いいんだ」


 それを見た春美が驚いた声を上げる。高雄は恥ずかしそうにしながら「特にすること無かったから勉強してただけだよ」と謙遜気味に返し、それに続いて今度はコロヌスが春美に尋ねた。


「ところで君はどうなんだ? 今の内に片づけておいた方がいいんじゃないか?」

「ええ? 私はちょっと……」


 春美は嫌そうに頬をひきつらせたが、康夫がそれを見て「教えてもらったらどうだい?」と優しく諭した。学年トップクラスの秀才からそう告げられた春美は、結局いそいそと鞄から宿題として出されたプリントを出して「教えてくださいませ」と申し訳なさそうに頭を下げた。

 それを見た康夫は楽しそうに笑った後、そして少し気まずい表情を浮かべてコロヌス達に言った。


「でも、これからは夜の探索は少し控えた方がいいかもしれないかな。今はまだ大丈夫かもしれないけど、もし噂が流行りすぎて生徒会が動き出すような事になったら、少し面倒な事になるからね」

「ああ、それはそうかもしれませんね。うちの生徒会、滅茶苦茶しつこいことで有名ですから」


 康夫の言葉に春美が頷く。問題を解き終えたコロヌスはペンを置き、康夫を見ながら彼に疑問を投げた。


「そんなにやばいのか?」

「敵に回したくは無いですね。この学園で一番強い影響力を持っている人達ですから」

「僕もそう思う。だからみんな、これからは気をつけて回ってほしい。お願いだ」


 春美と康夫の言葉を聞いた姉妹三人は、揃って神妙な面持ちになって頷いた。高雄も表情を引き締め、「僕ももっと慎重にならないと」と自分の責任であるかのように心を改めた。





 その生徒会から高雄とコロヌスに呼び出しがかけられたのは、その翌日の事だった。

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