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書くとして

作者: ところてん

文章を書くのは難しいって話

 小説を書こうと思ったので、パソコンのメモ帳を取り敢えず開いた。そこで、そういえば小説の書き方を知らないと思ったのでグーグルに問い合わせてみた。色々と情報は出てくるものの、具体的にどうすればよいのか分からなかったので動画サイトを見て回った。好きなシリーズ物の続きが投稿されていたので、20分程堪能した後にメモ帳に帰った。誰かの創作物を見た後だと、何となく自分にも作り出せそうな気がして100文字程打ってみた。が、何が言いたいのかすでにこの時点で分からなくなったので居間に行き炭酸水を飲んだ。そしてその後に手洗いに行き再びキーボードを打ち込む。テーマ的な、至極ふわっとした覚束ないものであったが、描いてみたいものは浮かんできてくれたので暫く感性のままに指を動かしてみた。原稿用紙3枚分ほど描いてみた後に先程ウェブ上を漂っていた際に見かけた、文章を診断してくれるというサイトにアクセスして自分の文を貼り付けてみる。良いのか悪いのかよく分からない診断結果を見た後、ctrlとsキーを押して保存をかけてその晩は寝た。

 次の日、バイト中に次は何を書こうか考えを巡らせていたばっかりに、少し面倒くさいミスを起こしてしまった。店長にやんわりと怒りをぶつけられたが、将来小説家にさえなりすればこんな奴何時だって見返せる、と思ったのであまり気を落とす事はなかった。名案は浮かばなかったものの、まだまだ駆け出しだから、といちごオレを買って公園で飲んだ。

 夕飯中に両親に将来はどうするのか、と聞かれたので、小説家になろうかと思っている、と答えると、そうやってまた逃げるのか、と言われた。どこのどんな所が逃げになっているのかと問うたら、今のだらけた現状を可能性の限りなく少ない道に逃げ込む事で正当化しようとしている所がだ、と応えられた。腹が立ったのでサバの味噌煮を残して自室へ戻った。苛立ちが収まりそうになかったので、この日はすぐに布団に入る事にした。涙が溢れたが、拭わずそのままにしておいた。何だか自分が物語の主人公になったような気がしたからだ。

 次の日は体調が優れないように感じたのでバイトを休んだ。昨日できなかった分を、とパソコンの電源を付けて執筆しようとしている物に必要な情報を集める事にした。しかし、どうにもピンとこなかったので、今日は安息日にしようと思い、眠った。夕方に起きて、夕飯を食べて、風呂に入って、寝た。

 次の日も体調が優れないように感じたのでバイトを休んだ。病院に行ったらどうかと助言されたが、さっきネットで調べたら風邪気味だとの事だったので病院に行く必要性は感じず、図書館に行く事にした。

 久々に訪れた図書館のあまりの静けさに驚きながら、見かけた猫の漫画を読みふけった。猫が登場する小説なんか、中々面白いのではないかと思ったので早速家に帰ってテキストエディタを開いた。しかし、登場させたからといって思った程話が面白くもなかったので、今後は動物ネタは避けようと思った。以前に書いていた文章は稚拙に感じて削除した。そういえば学園ものなんか、今の流行に乗っていて良いのではないかと書き始めてみた。が、そんな巷にゴマンと溢れるものを書いたところで自らの独創性、個性とは表現しきれないのではないかと思い止めた。この日はすぐに寝る事にした。うとうとしだしたところで夕飯を食べていないのを思い出したが、まあいいか。

 次の日をバイトを休もうと思いバイト先に電話を掛けた。そうしたら、店長より来ないでいいから、と言われた。翌日にその日までの給料を取りに行く旨を伝えて電話を切った。

 気分が良かったので、久々に電車に乗り中心街へと向かった。平日というのに人で溢れかえっており何となく日本の将来が気になったが、そんな事自分には関係ないのでコーヒーショップに向かいノートパソコンでプロット、というものを書いてみる。何故だか不思議とキーボードを打つ手が早くなっていたように感じた。今なら、今なら金になりそうなものが書けると思った。

 次の日。

 そして次の日。

 次の日。

 それから次の日。

 次の日。

 そんな次の日。

 どれくらいか日が経って、パソコンを開く事はなく、新しいバイト先を見つけ、前と変わらぬ生活に身を投じていたので、涙が溢れてきたのだ。


「俺には何もなかったんだ」


 そんな事に気付くのが、悔しくて。パソコンを捨てた。


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