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ロア・オブ・ライフ  作者: 爺々屋
極国・リドルブリゲン編
68/82

革命前夜

 久保田藍以外の日本人である佐藤、上野、岡本、堀内の四人は本拠地から近い小屋に集められていた。

 珍しく隙間風が入ってこない小屋で、暖房が無くとも肌寒くない居心地だ。

 十河は彼らにヴェネリャたちが城から持ち出した宝物のこと、音声の内容……とにかく新たな情報のほとんどを事細かに伝えた。


「それでは十河くん。話を纏めると、君の云う『武装』とやらを我々に持たせようということだね?」

「はい、その通りです。俺はこの剣の所持権を持っているので、他の『武装』は持つことができませんし」

「ふむ。では、所持権の放棄などは出来ないのかい? そうじゃなくても、さっきの説明だと貸すことも出来そうなものだが」

「試してみたんですけど何故か出来ませんでした。だから、一発勝負になると思います」

「そうか……」


『宝物庫』にあったガラクタだと思われていたものを、十河は『武装』と仮称した。

 一目で兵器や武器だと分かるのは十河のグラディウスと、手榴弾くらいのものだが、他のものにどんな効果があるのか不明だからだ。

 不安そうな表情を浮かべて戸惑っているのは岡本で、それに同意するのが堀内。


「私は武器とかは……。ちょっと怖いわぁ」

「私もー。てかなんだか一気に現実っぽくなったよねー、DNAとかさぁ」


 見憶えはあるものが多いが、未知の力を秘めているだろう出処不明の『武装』に尻込みしている女性陣だった。

 そんな彼女らに十河は穏やかに言い聞かせるように言う。


「仰々しい呼び方をしてますけど、もしかしたら他の物は補助的な要素が強いものかもしれませんし。それに、今の無力な状況よりは良くなるんじゃないかと」

「十河くんはそう言うが……こと戦闘に関してはズブのド素人の私たちが、異常な戦力を保有して大丈夫なものなのか」


 結果として、使わずとも『武装』を持つという十河の提案の総評は悪かった。

 予想外の反応に十河は表情を曇らせる。


(『武装』って呼び方が悪かったかな……でもまぁ、思慮深いってことで納得しとこう)


 女性たちへの説明は終えた。

 そしてこれで、理不尽に歯向かえられるかもしれない存在があると認識させることができた、とも言えよう。

 一方でヴェネリャは消極的な女性陣は無視しており、しつこく佐藤に絡んでいた。


「なぁ~マサムネ~。どれが強そうだと思うんだよぉ? なぁ、これか? な~はやく選べよぉ」

「す、済みません、まず、離れて……」

「ん? あぁ、もしかしてアタイのオッパイに照れてんのかにゃー?」

「お願いしますっ、やめて下さい……!」


 まるで酔っ払いがOLに言い寄っている光景だと十河は呆れた。男女逆だが。

 佐藤はヴェネリャの凶悪な笑みに青ざめたかと思えば、身体を密着させているせいで頬を赤らめたりと顔色が忙しい。

 佐藤の言質を盾にして、ヴェネリャは完全に佐藤を新たな戦力として考えている。

 佐藤は十河にその事を告げられた時は驚いていたが、覚悟は決め、革命に参加して戦うことを表明した。

 あまり『武装』の所持に乗り気でない堀内が、『武装』を眺めつつ、あたかも他人事のように言う。


「それにしても、なんだか兵器って感じじゃないのばっかだねー」

「う~ん、おばさんにはどうにもオモチャにしか見えないわぁ」


 先程からテンペストが黙々と箱から「武装」を取り出して床に並べているのだが、他に武器らしきものは見当たらない。

 水晶玉、一対の腕輪、ゴチャゴチャとした鉄の塊。

 最後にテンペストが取り出したのは、魔法少女が振っていそうなメルヘンチック極まりないステッキ。

 明らかにこの世界にはそぐわない。それが、日本人がつくったものだと確信させていた。

 これらが今、城の外にある『武装』の全てであった。


「はっはっは! なかなか個性的な『武装』じゃないか、十河くん?」

「うーん……『武装』って名前、やめますか」

「それこそ早計だろう?こんな世界なんだ。とんでもない代物かもしれない」


 そう言って、上野は並べられた「武装」に近付いていく。彼女が見据えているのは水色の水晶玉だ。

 ボサボサ髮の上野と水晶玉が十河にはやけに似合っているように思われた。


「どうせ選ばなくてはならないのなら、先に選ばせてもらうよ。まさかコレは戦闘に使うまい」

「上野さん、また勝手に……」


 上野は屈んで、水晶玉にそっと手を置いた。

 すぐに「おおっ、おお!」などと目を輝かせつつ感嘆の声を漏らし、ジッとしている。『チュートリアル』を受けているのだろう。

 それを見て、今度は岡本さんがスッと前に出ると、腕輪の前にしゃがむ。


「なら私も選ぶわぁ。この腕輪にしま~す。えいっ」

「ああ!? ちょ、岡本さんズッル! え、待って、この年齢で魔法少女のステッキは嫌っ!」


 続けて、堀内は急いで鉄の塊にひしと抱きつく。すると全員、似たようなリアクションで感動していた。

 十河は女性陣を苦笑いで眺めている。呆れが半分、一種の頼もしさが半分だ。


(……思慮深いとは何だったのだろうか)


 佐藤はオロオロとしているうちに、もはや選ぶものが無くなっていたことに気が付いてしまう。

 ゴツい手榴弾と、メルヘンなステッキ。


「さぁて、マサムネ。選択肢はもう二つになったがどっちにするんだにゃー?」

「いや、もう、決まってるようなものですよ……」


 仕方ない、といった具合に佐藤は置いてあった手榴弾を手に取り、グッと握り締める。

 これで一先ず藍ちゃん以外の日本人が何かしらの『力』を手に入れたことになった。

 正体不明の、異世界において日本人だけが扱える『力』を。


「……」


 十河は一人静かに佇みながら、小さな孤独感が薄れていくのを感じていた。

 同時に、自分が沸々と高揚していることも自覚していた。



 ▽▽▼




『武装』の動作確認をする日本人たちから離れて、十河は根城の辺りをフラフラと歩き回っていた。

 獣人や亜人たちの数は、もはや数え切れないほど膨れ上がっている。

 革命は翌日。隠れる必要など無くなっていた。

 武器や防具を点検したり、中には実戦のような激しい模擬戦をしている者まで見受けられる。

 十河がヴェネリャから聞いた城内での作戦を聞く限りだと革命はアッサリと済んでしまいそうなのに、予想以上の戦力が揃えられている為か、いよいよなのだと肌で感じる。

 城の外での彼らの作戦もまた、凄惨なものとなるのであろうと伝わってきていた。

 そんな十河に、大きな鉄槌を肩に担いだ獣人の王グラデムが歩み寄る。


「おい、黒い悪魔が不安になってキョロキョロするもんじゃない。士気に関わる」

「誰が悪魔だっつーの。……それは、鉄槌か?」

「デーボスがもっと重いのが欲しい、とのことだったからな。オレの友人の鉄槌を貸してやりに運んでいたところだ」

「軽々と持ってるように見えるけど?」

「馬鹿言え、もう肩が限界だ」


 そう言うと、グラデムは近くの壁に鉄槌を立て掛けた。

 鉄槌の柄頭は重力だけで地面の土にずぶっと埋まる。


「ソレなら、『守護機兵』にも通用しそうだな」

「ああ。奴らの膝でも壊せば追ってくることは出来ないだろう」

「……で、何か用か?」

「さっき言った通りだ。あまり無意味にウロチョロとするな。するのだったら、声を掛けるなり組手でもしてやれ」


 グラデムは大真面目だ。

 十河は軽く反論する。


「ぶらついてる俺なんか気にするかよ。大体、不安そうになんて歩いてるか?」

「語弊があったな。お前が、皆を不安そうに見ているという意味だ」


 図星とまではいかなくとも、外れてはいない指摘。

 仮にも獣人の王のグラデムに悟らせてしまった十河は、申し訳ない顔になる。


「獣人が弱いとか、そんな事は全然思ってない。本当だ。背を預けられる、頼りになる仲間だと信じている」

「そうだろうな。だが、お前の向ける目は仲間に向けるものではない」

「どういう意味だ?」

「分からないのか? 十河、お前は、何もかもを『守る』対象にしているということだ。この俺ですら、お前は守ろうとしている節がある」


 今の十河にとっての生き甲斐は紛れもなく皆を『守る』こと。

 そんなことはとっくの昔に気付いていた。


「……当たりだ」

「ふん、阿呆が」


 グラデムは不満を隠そうともしなかった。


「頼るとは、ある意味任せてしまうことだ。信じるとは、半ば放置することだ。

 お前はそのどちらも放棄して、味方を丸ごと全て庇護しようとしている。それが気に食わない。

 極端だ。もっと柔軟になれ。守るべき者と、背を預ける仲間とを峻別しろ」


 二人はほぼ同年代だった。

 お互いがお互いを同等に見て、お互いがお互いに忠告し合うような、数少ない『友人』と呼べる存在だった。

 十河は、笑って、大人しく白旗を上げる。


「済まなかった。反省する。俺は俺のことに集中して、他のことは任せる」

「ああ。それでいい」

「で?お前はどっちなんだ?」

「はっ!抜かせ」




 □□■



 深夜。根城の中。

 広々とした空間だったそこはあらゆる種族のヒトで満たされており、張り詰めた熱気に包まれていた。

 ボスであるヴェネリャと、ボスの言葉を翻訳するグラデムとデザーロトを囲っている。

 集っているのは戦う者。十河と佐藤も当然その場に居た。


「よぉし、集まったな。それじゃ革命の概要を確認する。グラデムとデザーロトの話を良ぉーく聞けよ同志諸君。

 革命は二つの班に分かれる。一つはアタイを含む少人数による城への殴り込み。もう一つが城下でのテメーらのお仕事だ」


 グラデムが力強く、デザーロトはよく通る声で同胞たちにボスの言葉を伝えていく。


「城への殴り込みに参加するアタイ、テンペスト、十河、マサムネ、デーボスの五人以外の連中は、三つの班に分かれる。

 一つ目。てめーらの同族、娼婦、指定した商人、そして混血児の保護・護衛をする班だ。ほとんど根回しはしてあるが、騒ぐやつには理由なんて説明してやるな。むしろ混乱するだろぉしな。

 二つ目。この……紙に記してある札付きの犯罪人を捕らえる班。だいたいの住処も書いてある。激しく抵抗するんだったら腕の一本、脚の一本失くしても構わねぇ。

 そして三つ目。革命が順調に進めばの話だが、いずれ『守護機兵』の活動が停止するはずだ。唯一の外への道の『地獄の出入り口』、そこを守る『守護機兵』たちも停止する。すると当然、極国から出ようとする馬鹿どもが現れる。そいつらを食い止める班だ」


 グラデムとデザーロトの通訳が終わったのを見計らってから、説明を再開する。


「保護の班はグラデムが率いる獣人ども。犯罪者を捕縛する班はデザーロト率いる戦闘の精鋭。門の防衛には残りが行け。

 良いか、ぜってぇ個人で行動するな。最低でも三人組で行動しろ。仲間が死ぬのは、己が死ぬのと同義と思え。

 どの作戦も血を流すだろうし、思わぬ事態も想定される。もとよりこの国に安全地帯なんて無いようなもんだがな。

 あぁ、そんで……前もって言っておく。アタイら、城へ行く五人が作戦をしくじれば、革命は全て終わる」


 現実を突きつけるその発言は、デザーロトとグラデムの一拍通訳を詰まらせた。

 ヴェネリャの言葉を告げられた獣人と亜人たちは動揺しまいと、ヴェネリャから視線をそらさずに受け止めている。


「第一王女に『守護機兵』をけしかけられて固かったはずの結束は引き裂かれ、かつての同胞は理性なき犯罪人どもに踏みにじられる」


 脅すように、恐れさせるように。

 鬼気迫る演説を仲間たちに染み込ませる。

 そして、静かに告げた。


「だが、このままだともっと死ぬ。何もしなければ、極国はもっと酷い地獄になる。

 傷口に生温く塩水を掛けられ続け、しばらくすると傷口をまた抉られて……その繰り返しだ」


 ヴェネリャは拳を握り、怒りを包含した語気で問うた。


「それに甘んじる腰抜けは此処に居るかぁ!?

 革命の失敗を怖れて、縮こまる臆病者は此処に居るかぁ!?

 未来は変えられないと絶望している意気地なしは此処に居るかぁ!?

 ……お前か?それともお前か!?どいつだ!」


 一人たりとも口を開かない。

 獣人や亜人の硬く結ばれた口元からは歯軋りが聴こえてくる。

 ガンッ、と床を踏みつけてヴェネリャが叫んだ。


「だったら聞くぜ!?アタイと共にこの腐った国を変えてやるという勇士は此処に居るか!?」

『オォォ!』

「何処だ何処だ!見えねぇぞ!一体何処にいやがる!!」

『オォォ!』


 立ち上がる者、拳を握りしめる者。

 武者震いする者、闘志を燃やす者。

 立ち上がる。立ち上がる。


「痛みに身が引き裂かれる覚悟は出来てるか!?この国を棺桶にする準備は出来てるか!?」

『オォォ!』

「ならば結構ッ!てめーらの意志を、イカれた王族に見せつけてやれ!!」

『ウオォォォオ!!』


 空気が燃えているようだった。

 革命の決行は、目前である。

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