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ロア・オブ・ライフ  作者: 爺々屋
極国・リドルブリゲン編
60/82

頼み事

 空は例の如く曇ってはいるが、薄く明るい。大勢で移動するに適した時間帯は、やはり朝だ。

 十河たちにとっての引越しは一大事である。力ある個人が移動するのではなく、無力な者たちも引き連れて目的地に辿り着かなくてはいけない。

 道中の大半は『守護機兵』が巡回する比較的安全な表の道を歩くので問題なかったが、目的地に近付いていくにつれて襲われる危険性は増していく。

 十河とグラデム、それに他二名の男の獣人が仲間を囲み、辺りを警戒しながら新しき住処のある西へと進む。

 まだ誰も通っていないか、もしくは建物に潜んでいるかは不明だが、暗黒街へ続く道に積もる雪に大小異なる足跡をつけていく。

 音を聞くと脊髄反射のように近付いてくる頭のイカれた人間も居るので、戦えない者たちには喋らないようにお願いしている。

 静かな行軍のような光景だった。誰もが真剣な顔つきな者ばかりだ。

 しばらく歩いたのちに着いた場所でグラデムが「ここだ」と短く言った。中がガランとした背の低い建物だった。

 先行して屋内へ入った十河は、『燐光』を使って何者か潜んではいないか確かめる。

 他の者がじっと十河を見つめる。やがて、十河は振り返って言った。


「……大丈夫、この建物には誰も居ない。引越し終わり」


 緊張の糸を真っ先に切らしたのは堀内だった。


「はぁぁあぁあ……!あー。緊張したぁー!」

「藍ちゃんはちゃんと静かにできて偉かったわね~。おばさん、ドキドキしっぱなしだったわ~」

「うん!わたしも!」

「やれやれ、スリリングな引越しはもう勘弁して欲しいものだね」

「上野お姉ちゃんもドキドキしとったと?」

「うん?私かい?私は平気さ。あまり大人を舐めないことだ」

「あはは……上野さん、子供相手にそんなに威張っても……」


 早速グラデムが男の獣人に警備の指示を出す。堀内は、自身としては拙いらしい獣人の言語で、女の獣人に話しかけている。

 朝早くに行動したのが幸いしたのか、道中は十河や獣人たちの警戒網に引っかかるものは無かった。

 この国のヒトは夜行性の者ばかりなのだ。特に悪事を行う時は。

 前回の場所とは違って建物の中なので、廃材やガラクタで不要な出入り口にバリケードを形成していく。

 その指揮もしていたグラデムの背中に、十河は声を掛ける。


「グラデム。『赤ら顔』のおっさんの仕事を貰いにいくから、留守を頼む」

「む、昨日で大分稼いでいたのに今日も行くのか?」

「多いに越したことはないだろ。それに、おっさんが明日も来いって言ってたんだよ」

「引越しの直後だろ?昼頃にでも向かえばいいんじゃないか」

「何故か、朝に来いとのご指示を受けたからな。それじゃ行ってくる」


 十河は引越しを終えた身支度のまま、再び凍えるような寒さの外に出た。

 柔らかな雪を黒いトレッキングシューズがしゃくしゃくと踏みつけていく。

 先程の『燐光』による索敵で周囲に誰も居ないことはわかっていたので、十河は散歩のような心地で歩いていた。


(このトレッキングシューズも、ずっと履いてるけどまだまだ使えるなぁ……中々、丈夫なもんだ)


 そんな感傷に浸っていたが、索敵をした範囲を出てから警戒を強める。

 雪がちらほらと降ってきたのを見て、十河は布を頭から被った。視線を悟られないようにする為でもある。

 十河は極国に来たばかりの頃に受けた仕事の終えた後、執拗に追いかけ回された事があったのでこの辺りの地理はほぼ頭に入っていた。

 冗談のように暴行や強盗が横行するリドルブリゲンでは、道に座り込む人が通行人をさりげなく袋小路に追い詰めるような位置どりに居る、なんてことも常識のうちだ。

 十河は暗い道であっても、汚い道でも、正しい道だけを歩く。通せんぼするように寝たフリをした浮浪者を蹴飛ばしたりもする。

 やがて僅かな日の光が更に弱まった細道の先にある、行き止まりに行き着いた。つるっとした壁の建物に囲まれた行き止まりは特別な空間の様態を醸し出す。

 その最奥に『赤ら顔』という渾名の仕事を斡旋する人物が、酒の入った水瓶に寄りかかって座っていた。

 その禿頭の中年の人物は渾名の通り本当に顔を赤らめており、杓のようなもので酒を煽っている。

 酒臭さにどうも慣れない十河はやや離れた位置で立ち止まる。


「よぉ。言われたとおり来たぞ、おっさん」

「ひっく。おぉ、来やがった来やがった。テメェさんは時間守るから楽でいいぜ」

「こちとら引越しが終わったばかりに来たんだ。手早く終わらしてくれ。何の用事だ?」

「そうかそうか。ここから近くになったのかぁ?ひっく」

「ああ、前よりはな。それで、何の用事かって聞いてるんだが」

「せっかちは早死にするぞぉ、へっへっへ。今回の仕事……とは言えねぇかもしれねぇが、まぁ頼み事だ」

「……頼み事?」


 こういった類の言い草は面倒事が付き纏うと十河は知っていた。

 普段と変わったアプローチ、それが普段よりも簡単な事と言われれば尚更、怪しいものだ。


「ひっく、簡単簡単。不良数人と喧嘩して欲しいってだけだ。殺しはするな。殺されもするなとのことだ」

「うぉぉ、ビンゴかよ……で、不良と喧嘩?こんな犯罪者の国で不良なんか平和な生き物が居るのか?」

「へっへっへ、違ぇねぇ違ぇねぇ。ほれ、この木板に書かれてる場所に行け。愛人のように待ち焦がれてるぜ」

「はぁ……?意味のわからん頼み事だな。まぁ金くれるっていうなら、やるけど。……これもおっさんのボスとやらが?」

「そんなとこだ。ひっく、てめぇさんならさして苦戦する奴らでもないと思うぜ」

「あんま買い被んな。報酬は?」

「今回はそいつらから直接貰いな。少なくはねぇらしいぞ?」

「はいはい了解」


 十河は踵を返し、木板に文字で記された場所を確認する。随分と遠い場所だった。

 この距離だと歩いていては埒があかないと思い、建物を登って、建物から建物へと伝うように乗り移っていく。

 高く跳び上がると、整然と並ぶ薄汚れた建物群が目に入った。何とも感動しがいのない景色だと苦笑する。


「この国で秩序があるとすれば建物の並びだけだな、っと」


 十河が『燐光』によって身体能力を向上させることが出来る時間は飛躍的に伸びていた。長い時間、一流のアスリートのような動きが可能となっている。

 肉体強化に関してだけは、燐光の量は少なくなっていた。


(無駄がなくなった……みたいな感じだろう。まぁ、一番する「想像」だし。今じゃこれの反動は少ない)


 とんっ、と軽く飛ぶ。それだけで十河は数メートルの距離を跳躍していた。

 何度もその跳躍を繰り返していると、十河が思っていたより早くに木板に記された場所に到着する。

 ロの字型の建物。その中央の中庭には書かれていた通り、三人のヒトが待ち構えていた。

 十河は建物の屋根から中庭に静かに降り立つ。膝が壊れるほど高い位置から飛び降りることなど、今の十河には造作もない。

 空から降りてきた十河を見ても、待ち構えていた者たちは驚く素振りも見せなかった。

 性別すら判断しにくい者の一人が、腕を組んだまま十河に話しかける。


「黒づくめの十河だな」

「ああ。というか、こんなに亜人が集まってんの見るの初めてだわ。孤独に耐えきれなくなって暴れてるのしか見たことないし」

「……私は蟲人だ。彼らにも別の呼び名がある。亜人、という人間中心主義の蔑称はやめてもらおうか」


 その者の顔面はまるで昆虫のようで、横並びのハサミを持ち、甲虫を思わせる光沢のある皮膚だった。


「悪かった。不良だと聞いてきたんだけど、随分と丁寧な不良なんだな」

「ふっ、それはこちらも同じだ。凶悪な黒い悪魔と闘ってこいと言われ慄きつつやって来てみたが、やけに素直な悪魔ではないか」

「悪魔ってオイ……」

「私の名はデザーロトだ。好きに呼べ」

「仲良しごっこする為に来たのか?」

「顔合わせ……おいては実力を測るためにな」


 デザーロトと名乗った蟲人の他二名も、およそ人間とは言えない特徴の顔や身体の者たちがそれぞれが武器を持つ。

 ……亜人と獣人の区別は至極単純だ。獣人は動物を模した顔や身体であり、亜人はそうでないということ。

 亜人と魔族の区別もまた簡単だ。亜人は、獣人と同様に魔力を持っていない。

 しかし魔力を持っていないが故に、身体能力は人間よりも群を抜いていた。

 デザーロトは分厚い長剣を片手で構える。

 四本の太い腕を生やす男は全ての手で重厚な金槌を握る。

 一つ目の女は短弓をつがえていた。


(……やる気まんまんかよ。まぁ、喧嘩なんてそんなもんか?)


 戦意を剥き出しにして相対する彼らに応えるように、十河は眼光を鋭くし、身体から燐光を洩らした。

 そして嫌味をたっぷりと効かした悪い笑みで言い放つ。


「来いよ、亜人(・・)


 喉元目掛けて飛来した矢を、十河はあっさりと指で掴んでいた。


「なにっ!?」

(うん、殺る気まんまん……)

「余裕か?」

「っ!想像(イメージ)、『鋼鉄』!」


 人間では有り得ない速度で間合いを詰めてきたデザーロトが、長剣で軌道を描き斬り込む。

 十河は腕だけを『鋼鉄』だと想像し、長剣を外側に叩いて弾く。

 しかし力が外に逸れようが、デザーロトは強引に長剣を戻し、二撃、三撃と猛撃を続ける。

 相手はデザーロトだけではない。

 空からは四つの金槌が降り注ぎ、十河の眼はまたも的確に喉を狙う矢も捉えていた。


(……これ、手加減は無理だな)

「想像、『鋼鉄の大熊』」


 見た目には変化していないが、硬質化した拳や肘で金槌を全て殴り返し、矢は体で受け止める。

 デザーロトの長剣も体で受け止めるつもりだったが、放たれた鋭い突きが十河の脇腹に傷を入れる。


「ぐぅっ……!」

「ほぉ、硬いな!」


 ぐらりと姿勢を崩し、後退した十河にデザーロトは再び突きを、今度は目を狙って放とうとする。

 燐光が拳の周りで煌めく。十河は固めていた拳をデザーロトに向けて勢い良く開きつつ、叫んだ。


「想像……『空間の爆発』ッ」

「ぐぅっ……!?」


 デザーロトは全身に衝撃を感じたと同時に、吹き飛ばされていた。

 デザーロトは空中で体勢を直し、平然そうに長剣を構えるも、体内で暴れる衝撃のせいで動けない。


「……何をした」

「おいおい、硬いのはどっちだっつーの。山を吹き飛ばすダイナマイトの、三分の一の威力くらいの想像はしたんだけど」

「訳のわからん事を!」


 そこでデザーロトはまたひとつ異常に気付く。十河の腹に刻んだ傷が、みるみる治っていくのだ。

 十河は手を開いたり閉じたりて具合を確かめながら、デザーロトたちを見定めるように眺める。


「……ッ」

「んー、やっぱ爆発の想像は駄目だな。反動が辛いわこりゃ……一、二発が限度ってとこか」


 回復魔法の詠唱はなく、魔法の光も見えず、何より自分自身を回復しているという異常。

 数秒もしないうちに、十河の腹部の傷は無くなっていた。


「……ボスは、貴様ら黒づくめを魔族ではないと言っていたが、存外そうでもないようだな」

「俺だけの特別仕様だ」


 四本の腕の男が雄叫びと共に十河に突進する。

 四つの金槌が、四方から十河の頭蓋を破壊しようとするも、十河はそれら全てを目で見て避ける。


「んなぁ!」

「デザーロトってのと比べると遅過ぎんだよ……とぉっ」


 接近し喉を殴って終わりにしようとしたが、動き回っているはずなのに、目に矢が刺さりそうになってやむなく下がった。

 十河は一つ目の女の矢が思った以上にしつこいと感じて、足元に転がっていた瓦礫の欠片を拾う。燐光がより強く輝いた。


「想像……『カタパルト』」

「……!?はっぐぁッ」


 僅かな手首と肘の動きだけで投げられた石片は、避ける隙も与えないで、一つ目の女の腹にめり込んだ。

 四本腕の男が、僅かに、気を取られているのを見逃さない。間髪入れず獣のような俊敏さで前に跳ぶ。

 単純な前蹴りで四本腕の腹を深く抉り、壁際にまで蹴り飛ばした。


「ぐはぁッ」

「エミィ!デーボス!」

「おいおい、余裕か?」

「……はぁあ!!」


 疾走してきた十河を、デザーロトは正面から迎撃する。

 蟲人の強靭な膂力をもって、両腕で縦に振り下ろされた長剣。剣が耐えさえすれば、それは容易に鋼鉄をも断つだろう。

 十河は長剣を身体で受け止めるようなことはせず、急停止し、上体を倒して避ける。

 長剣の切先が下まで振り切られる前に、身体を捻ってより前に跳び、後ろ回し蹴りでデザーロトを蹴り飛ばした。

 十河は攻撃の後の反撃に備えようとしたが、デザーロトはそのまま奥の壁に激突してしまった。


 ……静かになった中庭。


『燐光』を収めると、反動による怠さや息苦しさが体を襲う。

 十河は、所在なさそうに頭をポリポリと掻いた。


「あー……やり過ぎたか?」


 そう呟くと、四本腕の男も、デザーロトも砂煙の中から何事も無かったように現れる。

 十河は亜人の頑丈さに呆れた。ただの人間なら、骨折以上の怪我を負っていてもおかしくない。


「痛ってて……俺の攻撃なんて一つもまともに当たってないじゃねぇか」

「相手が悪かったんだ、気にするなデーボス。……む、エミリィ?どうした?」

「わ、たし、はぁ!あんたたちみたいに丈夫じゃないんだっての……!う~、苦しいぃ……」


 一つ目の女はお腹を抑えて蹲ったままだった。四本腕の男が背が心配そうに覗き込んでいる。

 終わってしまえば、十河はこの喧嘩が茶番であるように感じて、ぶっきらぼうに言い放つ。


「で、喧嘩はもう終わりで良いのか?」

「ああ。引越しの直後にわざわざ悪かったな。さぁ、これが報酬だ、受け取れ」


 投げ渡された報酬の金はずっしりと重い。中身を覗いてみると、殆どが価値の高い銀貨であった。


「……デザーロト、だっけ。これを背負ったまま戦ってたのか?」

「そうだが?」


 たかが数キロとは言え、袋は完全に体に密着していた訳ではない。動き辛いことこの上ないはずだ。十河は改めて亜人のフィジカルに呆れるしかなかった。


「そんで、俺の実力はどうだった?」

「文句無しだ。仕事の殆どを成功させているとは聞いていたが、想像以上だったぞ」

「そらどうも。次回から報酬を増やしてくれたりするのか?」

「ふっ……どうだろうな。ボスがお前が戦力たり得るか確かめて来い、とのことだったのでな」

「戦力?俺は、お前らの仲間になる約束なんかしてねぇぞ。あくまで契約関係だ」

「ははは、そうだな。今は、な。……二人とも、帰るぞ。気の短いボスがお待ちだ」


 デザーロトが一つ目の女をおんぶする四本腕の男を連れて、その場から歩いて去っていく。反動の苦しい余韻が消えるまで、十河はそこに立ったまま見送った。


「意味深なこと言って消えんなよ……帰るか」




 □■□




 日が暮れて、極国の娼館街以外は暗闇に包まれていた。

 新たな住処での晩飯を終え、十河とグラデムは警備も兼ねて話に興じていた。

 外からは見えず、中からは外を見渡せる場所。不要なボロい木箱に腰掛けながら二人は白湯を飲んでいる。

 朝からの仕事……ではなく、頼み事の喧嘩についての話になった。


「三対一の喧嘩、か。相手は強かったのか?」

「そうでもなかったけど、デザーロトってのは強かった」

「……蟲人の女か?」

「そうそう、いや待て、女なのかあれ!?」

「性別はどちらかと聞くと自慢の剣でバラバラにされるそうだ」

「うわー聞かなくてよかったー……男だと思ってた」

「ハッハッハ!そりゃあ傑作だ!知られたら挽肉にされるな!」

「デザーロトっての、有名人なのか?」

「ああ、極国の中ではかなりな。剣の使い手で多くの人間を屠ってきたそうだ」

「ほーん。なんか誇り高そうな奴だったし、人間が嫌いなのかね」

「奴は、悪人が嫌いなだけだ」

「……そっか。確かに、悪い奴には見えなかったしな」

「人間の多くは、蟲人の見た目を嫌うと聞くが?」

「自分たちの見た目が嫌われてんのに、そんな考えなんて思いつかねぇわ」

「でも……オレは最初、ほら、黒づくめの娘に怖がられてたぞ?」

「藍ちゃんな。そりゃグラデムがデカイから怖かっただけだって。今はもう慣れてるだろ?」

「あぁ……それはそうなんだが。十河、その娘がヒゲを引っ張って遊ぶんだ、止めてくれないか?」

「めんどくせぇ」

「なんだと貴様」


 グラデムが小突き、真面目に痛がる十河。

 そんなふざけていた二人が、動きをピタリと止める。両者とも腰を落とし、息の合った動きで壁際に移動する。

 外に複数の気配を感じ取ったのだ。それも、この住処を取り囲むように。


「まるで、わざと存在を感じさせたみたいだったな」

「はしゃぎ過ぎたか?」

「まさか。にしても、割れるの早くないか……」

「文句を言ってる暇はない。十河は外に出て見てきてくれ。オレは女子供を確認してくる」

「わかった」


 白湯の入ったコップを地面に置くと、二人は迅速に動き出した。

 グラデムは階下に降りていき、十河は階段をかけ上がる。


(ったく、なんなんだよ。また報復しにきた連中か……?)


 十河は布を纏って、扉の取れた穴を抜けて屋上に出た。

 屋上の真ん中に立つ。冷たい風に打たれながら、目を閉じ、息を吐いて、索敵を行う。


(……『肉体は飾りとなり、意識は世界に溶けて消える』……)


 十河の肉体の感覚が消え、円心状に意識が広がっていく。

 およそ半径百メートル。その範囲内の、大きな生物に限定して知覚していった。

 その数は増えていく。数人、十数人……二、三十人は潜んでいた。

 冷や汗を流したい気分になる。十河は溜め息も呑み込んで、位置を正確に把握していく。


(クソ、不味い、思ったよりも多いな。数人ならぶっ飛ばしてやろうと思ったけど……これは、籠城か一点突破で脱出しかない)


 そう考え、下に居るグラデムに告げに行こうと振り返ったその時。

 十河は感じたことのある悪寒と共に、背後で風の乱れを感じる。

 咄嗟に、横に跳んだ。

 元居た場所に建物が崩壊しそうな程の衝撃が頭上から襲い、深い亀裂が刻まれる。

 その亀裂の中心に聳えていたのは、十河の身丈ほどはある漆黒の大斧。

 そしてその大斧の柄を握るのは、暗い闇に溶け込みそうな黒一色の巨大な鎧だった。

 兜の間から覗く人工的な紅い瞳が、十河をギロリと見やる。


「……何だ、コイツは」


 疑問を口にしながらも十河は戦闘体勢に入る。たちまち、十河の周囲に火の粉のような燐光が舞った。

 十河は大斧を軽々と担ぎ直した鎧と睨み合う。

 本来ならば白で統一されていて、城下においては門を守るか、巡回しかしていないはずである……守護機兵(ハイ・ゴーレム)と。

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