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ロア・オブ・ライフ  作者: 爺々屋
『新たなる光』編
57/82

巻き込み逃走劇・Ⅱ

 ジェイク=ヴァリアスは近頃の週末は決まって家で寝泊まりしていなかった。

 多忙の父は休日であろうと関わってくることは殆どなく、母は面倒なくらい構ってきて、教育係の爺やもまた喧しかったからだ。

 大将軍の息子という立場を濫用して、帝都の中央にある貴族街から見て東に位置する練兵場に居た。

 ポルに出会う前のジェイクならば考えられないことだが、自分に対する特別扱いを極力やめさせて、一般兵に混ざって鍛錬をしていた。

 練兵場に来るようになった始めの頃は兵士たちも腫れ物を扱うようにしていたが、今ではすっかり仲間、というよりも可愛い弟分のように見られている。

 朝の軽い鍛錬を終えてから、兵士たちと同じように水汲み場で涼んでいた。この後すぐに家から迎えの馬車が来て、そのまま学園に向かう予定だ。

 水を飲むジェイクの横には剣の手入れをする赤色の短髪の南の大門の門兵を仕切る大尉が座る。ジェイクの近くに居ると質問攻めにされるので、彼くらいしか側に座ろうとしない。

 ジェイクが「うーん」と唸ると、大尉はまた質問が来るなと察した。


「なぁ、昨日の模擬戦の最後は何が悪かったんだ?どう考えても反応出来ない角度で斬り込んだと思ったんだけど」

「単純なことだ。ジェイクの剣の振りが遅くて、俺の方が経験豊富だったからだ」

「はぁ……納得いかない」

「あのなぁ、ジェイク。お前さんはまだ子どもだぞ? 俺からすれば魔法も無しでここまで付いてこれてる時点でおかしいくらいなんだが」

「駄目だ。魔法無しでもあいつに勝てるくらいじゃなきゃ駄目なんだ」

「はは……そうかい。さすが大将軍の息子さん。んで、『闘気(オーラ)』はどうだ?」

「……滲む気配すら」

「はっはっは!まぁ、そりゃそうだろうな。俺だって真剣に六年鍛錬してほんのちょっと使えるくらいになったくらいだしなぁ。簡単な魔法をつい使っちまって、全部パァになる奴も少なくねぇし」

「『闘気』も魔法も使っている人は居ると聞くが?」

「そういうのは本当に一部の化け物連中だよ。どんな理屈なんだか……ま、聞いたところで俺には無理だろうよ」

「『闘気』って使うとどんな感覚なんだ?身体が軽くなったりするのか?」

「んー。使おうっつー時は、そうだなぁ……めちゃくちゃ硬い外皮の果実を丸ごと手で搾って果汁を出す感じ。俺くらいじゃ限界まで搾ってやっと一滴垂れたって具合だな。で、身体の方は血とか筋肉が熱くなる。やけに動き回りたくなるというか」

「硬い果実を搾る、か……」

「あくまで俺の意見だぜ?感覚なんざ人によりけりさ」

「あんたの剣の腕は尊敬してる。聞いておいて損はない」

「ほぉ、そいつぁ光栄だな。けど、俺より強い奴なんて冒険者には特にゴロゴロいるぞ」

「そうだな」

「そこは否定しとけよ!」

「……比べて、俺は弱過ぎる。『紅吽龍彗』の『龍』みたいな英雄なら、俺ぐらいの年齢の時には『闘気』くらい使えたはずだ……」


 ぼやくジェイクは真剣だが、大尉は苦笑いするしかなかった。貴族のお坊っちゃまらしく夢見がちだが、それ以上にあまりにストイックだからだ。

 今の時点でジェイクは子どもとは思えないくらい、戦闘における勘が鋭い。実際、一本取られてしまう兵士も少なくない。


(このままジェイクの身体が大きくなったら、今の俺でも絶対勝てないだろうな)

「……悔しい。やはりもっと死に掛けなきゃ駄目か……」

「おいおい、冗談でもやめてくれ。ここに居る時に大貴族の御曹司様が死んじまったらクビ、最悪死刑になっちまう。それと、将軍様になるには確かに腕があるに越したことはないが…….ジェイクはもっと頭の方を鍛えるべきだな」

「なんだとぉ!?」

「あー、別に馬鹿にしてる訳じゃないだぞ」


 睨みつけてくるジェイクの頭をポンポンと軽く叩いて宥めていると、軍服を着こなした少佐が現れる。

 その少佐は音にきこえた人格者であり、熱心な聖霊教徒であるとこで知られている人物だ。兵士の間では人気が高い。

 少佐は厳しい顔で「大尉は居るか」と言うと、大尉はさっと立ち上がり「はっ!」と返事をする。

 少佐は忘れずにジェイクに頭を下げてから、近寄ってきた大尉に耳打ちをする。


「……黒づくめが現れた。巡回組には既に伝わっている。だが、逃げられてしまったらしい。運悪く、商人のキャラバンが通る北の大門に向かっている」

「被害は出ているのですか?」

「いや、司教様らのお陰で出ていない。数人で良い、確保に向かってくれ。抵抗するようなら殺しても構わない」

「はっ」

「それと、これは別件なんだが……その黒づくめと接触していた疑いのある貴族の令嬢も逃走している。桃色の髪の、アンミュ=トスオルト嬢だ。彼女も必ず捕えよ」

「……なにっ、アンミュがだと!?」


 大尉が頷いた途端、ジェイクが慌てたようにそう叫んだ。

 まさか耳打ちを聴き取られるとはと両者がギョッとしていると、ジェイクは荷物を抱えて脇目も振らず走り出す。


「おいっ、何処へ行く気だジェイク!」

「北だ!爺やは適当に誤魔化しといてくれ!」


 ジェイクは兵士たちの間を縫うように走り、練兵場を出た。荷物の袋からショートソードと家紋が刻まれたナイフだけを取り出して、袋を道端に捨てる。

 ジェイクの表情は不安と興奮とが合わさった、奇妙なものだった。


(黒づくめってあの時の……いや、それは熊が食ったはずだ。くそっ、魔族め!民を混乱させる気か!)


 頭の中では、なんとしてでも魔族を討とうと。そう考える。

 けれども、そこではないと心は叫ぶ。自分が動き出した理由はそこではないと。

 西から来るヴァリアス家の迎えの馬車が見えたが、無視して走った。


「くっ……間に合えば、良いんだが……!」


 違和感を拭えずにイライラとしたまま、あまり思考を働かせないようにして、ジェイクは北を目指す。

 兵士たちが普段よりも慌ただしく、大人数で行き交っていて、不安は増していく。


(どうなってるんだ……なんで、アンミュまでもが!)


 不安なのはジェイクだけではない。兵士の様子に感化されるように街の人にも緊張感が広がっているようだった。

 中央の貴族街から離れれば離れるほど、帝都の治安は悪い。

 そんなことを知らないジェイクではないが、知り合いの兵士に見つかり追い返されるなんてことを避けるために、細く暗い道を行く。

 北の大門の巨大さがよく分かるほどの場所に、ジェイクは早くも到着していた。

 頭と体が分離しているかのように、走るジェイクは頭の中で疑問を繰り返す。


(アンミュは、もしかして、俺がポルが何処に行っているかを探らせたせいで……?いや、まさか。ポルが異端な訳が……)


 すると、人影が横道から現れる。


「ここは、通行止めだぁ……!綺麗なシャツを着たお坊ちゃんがここに居るんだぁ!?あひっ!」


 ジェイクの行く道を塞いだのは、オンボロな剣を手に持つ薄汚れた浮浪者だった。


「ちっ……!邪魔だ!失せろ!」

「あひっ、兵士が居ねぇから盗みでもやろうかと思ったが……こいつぁ運が良い!たんまり身代金でも貰おうかねぇ!」


 この浮浪者は帝都の混乱に乗じて悪さをしようとしていたようだった。

 そんな中、貴族らしい格好のジェイクが現れたので人質にしようと企んだのだ。

 けれど、相手が悪かった。


「失せろと言っただろうが愚民がッ……!」

「ひぃぇ……」


 浮浪者の男の剣がジェイクに向いた時には、その男の腕はショートソードによって斬り落とされていた。

 ジェイクは初めて人を斬ったが、今の彼にはそんな事を女々しく考えている暇などない。

 のたうち回る浮浪者を乗り越えて、また走り出した。走りながらジェイクはどうすべきかを思考して、目的地を定める。


「……よし、中門の前まで行くか。逃げるんだったら、そこまで行くだろ」

(行ってもらわなければ、困る)


 ジェイクの脚の速さならば、そう時間も掛からずに大門に到着することであろう。




 □□◆




「居たぞぉ!こっちだぁ!」

「……ッ!真里谷ッ、しっかり掴まれ!」

「ぎゃぁ!?腕、辛ぁ!」


 撹乱するように回り道をしたはずだったが、真里谷を背に乗せて走るパルガは先回りされているのに気付く。

 摩擦熱が硬い肉球を焼くのを気にも止めず急停止し、反転。近くの民家の塀を登り、乗り越える。驚く住民を見もせずパルガはひたすらに駆ける。

 北に向かっているのが露見しているせいで、パルガたちの逃走経路はことごとく潰されていた。

 着実に追い詰められているとパルガには分かっていた。北に向かうにつれて包囲網が狭まっているのを感じている。


(だが我は諦める訳にはいかぬ……!)

「うぉ……!おいっ、止ま」

「邪魔だッ」


 裏道を猛然と駆けていると、兵士が一人居たが仲間を呼ばれる前に頭で突き飛ばす。殺さない程度に手加減してだ。


「パルガ!モう、人が居なイ道、無い!前の、広場だケ!」

「突き抜けるッ!速度を上げるぞ!」

『ふぁっ!?まだ速くなれるんでせう!?』か


 言った通りパルガはぐんと走る速度を上げた。鼻から空気を吸い込む。


「ガッラァァア!!」

「なっ、うわぁぁあぁ!魔物だぁぁあ!」

「きゃーっ!?」


 パルガが開けた広場に出てた途端に唸り声を上げると、人々は驚愕して蜘蛛の子を散らすように逃げ、自然と北への道が出来ていく。

 必死にパルガの首に掴まる真里谷が前を指差した。


「ホらっ、パルガ!あっチ、細い道ガ!」

「ウム!」


 北に続く裏路地にまた入ろうとしたところで、広場にやって来た兵士の何人かが苦し紛れに槍を投げてきた。

 パルガは咄嗟に致命傷になりかねない槍だけを蛇行して避ける。

 だが、避ける時に真里谷の体勢までは考慮に入れることが出来なかった。

 槍こそ当たらなかったが、揺れ動いたせいで真里谷はバランスを崩し、パルガから落ちそうになる。


「わっ、わっ!落チ、そう……!」

「堪えるのだ!もう少しで道に入る!」


 放たれた一本の槍が、風切り音と共に真里谷の至近距離を通り過ぎった。

 真里谷の視界の端で小さな血飛沫が散り、頬に温かな血が掛かる。

 ……それはカイの血だった。


「びぃ……ッ」

「カイぃ!あっ……」

「真里谷ッ!!」


 思わず手を伸ばした真里谷はパルガの背から転がり落ちた。石畳に容赦なく身体が叩きつけられる。


「痛……ッ」


 身を走る痛みに蹲る。それでも、カイのことはしっかりと掴んでいた。


「カ……イ」


 開いた手の中には、最初に逢った時よりも怪我の深いカイが居た。

 真里谷の手の平が全て赤く塗られ、カイの灰色の毛も赤く染まっていた。

 少しも濁っていない鮮やかな赤だった。


「……ぁ……」


 パルガが走る勢いを殺して止まり、急ぎ戻る。兵士たちも好機と見たのか、真里谷に向かってきている。


「真里谷ッ!立て!」

「あの魔族を殺せぇ!」


 兵士に捕らえられれば死ぬというのに、真里谷はパルガを見もしないで緩慢に立ち上がる。


「ふふ……」


 立ち上がったかと思うと、空を見上げて笑い出した。


「……ふぁーはっはっはっはー!ひゃっは、ひーはっはっはー!あーっはっはっはー!ひゃーっはっはっはっはっは!へゃ、ふひゃっひゃっひゃ!!」


 突然の狂ったような哄笑に、兵士は気味悪がって脚を止めた。もしかしたら洗脳の魔法の詠唱かもしれないと思って、耳を塞ぐ者もいる。

 パルガも聞いたことのない声音。他の者たちとは違った意味で、耳が痛くなる。


「どうヤらぁ、ここマでのヨうだなァ!逃亡に、魔物を使っテみたガ……フん、実に役ニ立たナい!」


 そう声を振り立てた真里谷は頭巾を取ってしまう。

 見せつけるように靡かせた長過ぎる黒髪は、この世界に来たばかりの時よりも艶を失っていた。


「多くノ人間ヲ、洗脳シてはミたが、どいツもこイつも……ゴミばかり!役に立タん!この国ヲ乗っ取ルのも、嫌になっテしまッタ!」


 兵士たちは真里谷の迫力に気圧されていた……訳ではなかった。

 あまりにも弱々しそうな黒髪の少女が叫んでいるのを、黙って眺めているだけだった。槍を持つ手が、どうしたことか、ぐらついていた。

 パルガは一度脚を止めるが、再び真里谷の方に歩いていく。


「何も出来なイ、阿呆な人間ドも!この魔物を含めテ、数々の人間に掛ケた洗脳、解いテやる!私の気紛レに、感謝スるがイい!はーはっはっはっは!」

「……真里谷」

「おやァ?見たマえ!兵士諸君!この熊ときたラ、洗脳ハ解いタといウのに、まだ忠誠心ガ……」

「真里谷ッ!!」


 ビクッと身体を縮こませた真里谷は、パルガに背を向けている。

 真里谷の手には依然としてカイが居た。指の隙間から血が滴っている。

 生きようと、死に抵抗するカイが真里谷には無力に見えていた。

 パルガは二本脚で、真里谷のすぐ後ろに立つ。

 小さな声が真里谷の口から漏れる。


「……パルガ、殺しテよ」

「駄目だ」

「もウ良いよ。洗脳サれていた、ことニしてよ。こコで、パルガが、私ヲ殺せバ、全部、丸く、収マる」

「……」

「まダ、大門まであんナに距離があルのに、兵士は、こンなに沢山いるンだよ?逃ゲるは、無理ダよ」


 パルガは真里谷の震える身体の正面を自分に向けて、両手で真里谷の細い身体をガッチリと挟み、持ち上げる。

 パルガの鼻先が真里谷の額に当たりそうなほど近い。

 魔物への生贄のような光景に、その場に居た兵士も逃げ遅れた民も動けないでいた。


「そうだ……パルガ。私、楽しカッたよ。嬉シかった。助けラれテ、良かっタ。ありがトう」

「……」

「ポルにも、リャーノにも、アンミュちゃんにも。お礼、伝えテ?」

「……」

「あっチの世界は、私にハ辛くテ、苦しかッタのに、この世界ハ、怖いとコともあっタけど、

 楽しカッた。生まレ変わレるなら、コの世界デ、黒髪以外で生マれたい。そシたら、パルガに会いにいクね!」

「……」


 ゆっくりと大きなパルガの口が開いていく。

 パルガがそのまま数十センチ前に顔を出して、口を閉ざせば、いとも容易く真里谷は死ぬ。


「苦しめタら、嫌だよ?」


 涙をポロポロと溢し、引きつった笑顔で、カチカチと歯を鳴らしながら言う真里谷。

 パルガは大きく開けていた口を閉じた。

 鼻から深く息を吸い込んで、口から深く吐く。


「……愚か者」


 パルガは優しく、そう言った。

 胸が疼く。角が脈動する。

 パルガは真里谷を『選ぶ』。

 角から、光が溢れだす。


 ……パルガの本能が、自分にはまだ早いと言っている。


 ……パルガの頭部の痛みが、無茶をしてはいけないと訴える。


 ……パルガの魂が、彼女では相応しくないと嘆く。


 だけど。


 ーーパルガの心は「助けたい」と叫んでいた。


 パルガの額に生える水晶のような角が、煌々と白く輝く。

 鮮烈な光は周りを圧倒し、それは次第に太陽よりも存在感を放っていく。


「ガァァァア……!!」


 パルガの咆哮に比例して光度は増していき、広場の誰もが目も開けられなくなっていた。

 しかし、光の中心に居た真里谷は目を開けていた。光は目を覆う前髪を通過している。

 金色の瞳と黒色の瞳が真っ直ぐに向かい合う。


「……生きるのだ。真里谷」




 □□■




 王の私室、兼執務室。


「……ということで、その黒づくめを保護するのはもう難しいでしょう。普段は慎重な奴らの行動が迅速でした。まさか、まだ黒づくめが帝都に居たとは。助けられないのが歯痒いですね」

「……」

「……国王様?どうなされたのですか?」


 将軍アルス=ヴァリアスが怪訝そうに、固まっている国王に訪ねる。国王は黒づくめの報告を聞いて、北の窓から外を眺めていた。

 かと思ったら、国王はくつくつと笑い出す。徐々にその笑い声は大きくなっていた。


「なんたる事だ!これほど、これほど愉快な事があろうか……!ふっはっはっはっは!」

「あの、一体どうしたのですか?外でなにか……なっ!?」


 アルスも窓に近付いて帝都の街並みを見下ろして、目を丸くする。

 北の広場あたりから、神々しい光が放たれていたからだ。その光量は半端ではない。


(あの規模でしたら、魔力の波動を少しくらい感じるものですが……)

「不思議そうな顔をしているな、アルスよ。あれが何なのか分からんのか?」

「魔法、ではないですね」


 いつになく興奮する国王は眩しさにも構わず、穴が開くほどにその光を見つめたまま話す。


「よいか、あれは『加護』の光だ。国王にのみ引き継がれる記憶にも、あの光は色濃く映し出されている」

「……まさか」

「そのまさかだ。あれは選ばれし者が授かる『加護』。つまり、勇者が現れたのだ!」


 光が収束すると、国王はアルスに向かって叫ぶ。


「光の中心が見えるか!?」

「分かっていますっ……『望遠の瞳』っ!」


 アルスが若くして将軍になり得たのは、数多くの無属性魔法を習得しているという異常さに依るものが大きかった。

 無属性魔法は決まった形は一つとしてなく、詠唱というのものも存在しない。完全に独自による、才能に左右される魔法だ。なにか一つでも使えれば、魔法使いとしては優秀とされる。

 アルスの扱う無属性魔法の数は十二。卓越した魔法使いであっても三つ程度が限度と言えば、その凄さが分かるだろう。

 その中の一つ『望遠の瞳』。

 遠くを見ることが可能という極めて単純な魔法だが……その視界距離は制限がない。

 アルスは確かに、一匹の熊と黒づくめの少女を視認した。


「あれが、聖獣だったのか……!光の中心に居たのは……勇者に選ばれたのは例の黒づくめの少女です!」

「なん、だとぉ……!おお、創主よ、それが貴女の選択か……!今すぐに『天聖騎士団』から数人を北へ向かわせよ!何としてでも黒づくめを聖霊教から守るのだ!」

「はっ!」


 礼儀を省略して、アルスは走って王の部屋を退出した。

 残された王は、昇りだしている一対の太陽を視界に入れて、神に祈る。


「創主様、どうか黒づくめを、我々をお救い下さい……!」

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