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ロア・オブ・ライフ  作者: 爺々屋
密林編
5/82

小さな難関

「いやー、笑った笑った!」


 しばらくの間笑い続けた志村さんは涙の浮かんでいる目をこすると、俺に向き直る。

 一方俺はどんよりとした雰囲気で志村さんを睨む。

 自分一人でするのも恥ずかしい「ぼくのかんがえた詠唱」を繰り返しやらされたのだ、そりゃ怒るわ。


「あー、いやー、十河くんを見てると弟を思い出してね?ついついお姉さんとしてはからかいたくなったというか、あの、そんなに睨まないで~……」

「まぁ、別に? そこまでは怒ってませんけどね」


 嘘である。むっちゃ怒ってます。

 でも異世界に来てから最初に出会った人ということもあり、多少なりとも緊張していたが、いい具合にほぐれたようだ。そこだけは良かったと思いたい。

 大人の俺はそれらの内心を出さずに対応したが、志村さんはまだこちらの反応を伺っている。

 その仕草がなんだか子供っぽくて肩の力が抜けた。


「あのー、大丈夫です。ほんと怒ってませんよ」

「いやー君、睨むと凄く怖かったからさー、まだ怒ってんだと思って」


 昔から俺は老け顔と言われ、素で怒っていると思われる一重まぶたに、人を舐めてると思われてる虚ろな目を持つせいで疎まれたものだ。


「この顔は生まれつきです。すみませんね。それで、聞きたい事があるんですが」


 気になっているのは彼女が言った「角が生えたウサギ」ってやつだ。

 もしデカいのならそう表現するに違いないので、ふつうのウサギサイズってことだろう。

 それならば俺でも狩れるかもしれない。

 つまり食料を得ることが出来るかもしれないからだ。

 だが志村さんは恥ずかしいそうに苦笑しながらお腹に手を当てて言った。


「あーごめ、それよりお腹減ったんだけど、なんか食べ物無い?」


 なんともマイペースな人のようだ。それよりって。

 自分としてはまさにその事について話そうとしたのに。


「あ~残念ながら、俺は木の実一個見つけてません。というより食えるのがどれかがわかりませんし。強いて言うなら、これ、ですかね」


 大蛇をぺちぺちと叩く。


「それ怖くないの? いいけど。焼いて食べればいいんじゃないの?」

「それをする為に火の精霊に呼びかけてたんですけどね」

「うふふ、成る程ね。じゃあコレがあればいい?」


 妙に似合っているウインクをした志村さんがジーンズの尻のポケットから出したのは、薄い水色のプラスチックの百円ライターだった。


 ……文明、万歳。




 ▽▽▼




 火を起こす為に使っていた棒を湧き水で洗ってから肉にぶっ刺して豪快に焼いて食べた。

 かなり筋肉質だったため、噛み切るのが困難なほど固かったが、問題は無かった。食べれるという意味では。

 味に関してだが、塩か胡椒が欲しいと切に思う。美味しいわけがなかった。

 火の心配が無くなったので、残っている肉も燻製みたいな感じにしてみたかったが、志村さんもやり方は良くわからないらしい。

 取り敢えず煙に当てておけば?ってことで他に切り取った肉を牙に刺し、それを空いた眼孔の奥に突き刺す。

 そして火をつけた木をぽいぽい眼孔の中に入れて、折った枝葉を蓋がわりにしてみる。


「は~、食べた食べた。一安心だね」

「そうですね。それで、これからどうしますか?」


 俺としては、共に行動して欲しい。

 理由としては火のことは勿論だし、やはり味方がいるというのは頼もしいだろう。

 志村さんは頬をかきながら苦笑いしなが答える。


「私は十河くんと一緒に行動したいかな?お肉貰ったしぃ、一人じゃ生きていける気がしないというか……」

「良かったー、俺もちょっと初日から心折れそうだったんですよね……」


 俺も苦笑いを返し、いまだ紫色をしてる左足をプラプラさせる。ジンジンと痛むが、この痛みにはだいぶ慣れてきた自分がいることに驚く。


「うっわなにそれキモ! 大丈夫なのそれ!?」

「ムカデみたいなのに噛まれたんですよ、命からがらここの湧き水を見つけて、冷やすことが出来て、痛みはだいぶ取れました」


 昨日までは太い針が何本も突き刺さっていると錯覚するほどの痛みだったので、まぁ嘘ではない。

 ただ色がそのままというのが怖い。このまま腐り落ちたりすることが無いのを祈るばかりだ。


「へー、良かったね。……ねえ、十河くん」

「はい?なんでしょう」


「あ~……そのー。敬語、やめない?私まだ22だからそんなに年上じゃないと思うし、あまり敬語とか好きじゃないっていうかー。肩肘張っちゃうというか」


 フランクな口調で話せということか。女とはまともに会話したことの無い俺に。

 コミュニケーション障害のつもりはなかったが、進んで女子と喋るほうでもなかった。

 ましてや年上の女性となると勝手がよくわからず、距離を測りかねていた。


「……わかった。気を悪くさせてたんなら、ごめん。こんな感じでいいっすかね。えと、志村さんって呼び方のままが良い?」

「うん、バッチシ。ミキさんって呼んでもいいよー。ところで十河くん、靴、無いの?」


 そう言われ、志村…ミキさんの足を見ると丈夫そうなトレッキングシューズを履いていた。外で眠るようなことがあったのだろうか?


「ああ、俺は部屋の中で寝てて、起きたら例の場所に」


「私は電車でウトウトしてたら、ね。どうする?靴下だけでも貸そうか?」


 ミキさんからの魅力ある提案ではあるが、靴下無しの靴というのも色々苦労するだろう。


「いや、いらない。葉っぱを使って靴を作るつもりだったから」

「あはは、たくましいねぇ」


 ミキさんの顔を見るとかなり疲れが溜まっているようで、目を凝らすと目の下にくまが出来てる。寝ずにここまで歩いていたのだろうか。


「ミキさん、あの辺りの木を登ったら良い感じの寝床になってるよ。昨日は俺そこで寝てて」

「あ、マジ? 助かるー、私全然寝てなくてさぁ。十河くんが寝たってのはどれ?」


 あれ、と俺が寝た木に指差すと、ミキさんはそれに隣にあるやや俺が寝た木より低いのにひょいひょいと登りはじめた。


「わあ凄いねこれ!じゃあ私寝るから見回り宜しくぅ~」


 それから五分もしないうちに静かな寝息が聞こえてきた。よほど疲れてたんだろう。

 ウサギのことを詳しく聞きたかったが、それはミキさんが起きてからでいいだろう。


「さて、まずは靴作りからだな」


 まだ俺としては足の腫れが気になるが、もしも魔物に襲われでもしたら逃げられるとは思えない。簡素な物でも靴まがいの物を作るべきだろう。


「葉っぱを足に巻きます!」


 細長い葉っぱを適当にチョイスして、ぐるぐると足に巻く。


「手で抑えながら、選別した木の枝を何本か足の下に敷きます!」


これが、靴底の代わりのつもり。


「そしてそれに更に葉っぱを巻きつけ、最後に紐のようなツタでこれらを固定します!」


 出来ました。

 製作時間およそ五分強。

 見栄えは悪いが、出来栄えはどうだろうか、歩いてみると。


「痛ぇっ!」


 枝が足に刺さって仕方ない。

 今度は枝を抜いた、葉っぱだけで出来た靴下の延長みたいなのを作る。

 今度は大丈夫だろうかと恐る恐る足を踏み出す。


「……おお、歩ける、歩けるぞ!」


 葉とツタだけで出来たそれは非常に不格好だったが、素足では歩くと危険のあった地面を歩くことができるのが嬉しい。靴というより足袋に近いが、目的は普通に歩ければだから大丈夫。

 使い捨てにはなるだろうが、しばらくはこの靴まがいを使おう。


「お次は燻製肉の出来栄えですが……」


 大蛇の眼孔に蓋をしていた枝葉を取り払うと、中から煙がむわっと出てくる。

 それにむせながらも、肉の刺さっている牙を引き抜いてみると、元の色は残しつつも少しだけ黒ずんだような印象の肉になっていた。


「これは、出来てるのか……?」


 燻製とは、乾燥させ水分を飛ばすというのは聞いたことがある。

 だが完成品がどのようなものかは見たことが無い。これでいいのだろうか。

 叩いてみると、生の肉よりは俄然硬くなってるようだが、まだ柔らかい。


「もうちょっとしとくか」


 再び牙に肉を刺し、火が消えかかっている木から火をもらい、別の木に火を移す。

 武器と宣言した牙が燻製肉をつくる用具となってしまっているのがなんとも情けない。


「これでよしと。お次は、武器だな」


 外敵が襲ってきた場合に武器が大蛇の牙だけというのは心細い。なのでミキさんでも使えるような武器防具を作っておきたい。

 というのは建前で、男としてはこういう異世界で自前の武器防具で獲物を仕留め、立ち向かいたいからである。


「思いつく武器は槍、弓?防具は盾とかー、ガントレッドみたいなのかな?」


 簡単そうな槍から作ってみよう。

 ベースは木だろう。

 長めの木の枝の先端を削ったら完成。

 ……だと思ったのだが。

 中々長くて槍に出来そうなものが無い。

 捜索範囲を湧き水からおよそ五十メートル以内にしてるので見つからないのもあるかもしれないが、これ以上遠くに出向くと魔物に遭遇してしまうかもしれないのでしない。

 この辺の木の特徴として多くあるのが、長くてしなやかということだ。しなかなであるため突きを主体とする槍には向かない。

 仕方なく湧き水の所、拠点に戻る。


 拠点にありました、槍に出来そうな木の枝。

 大蛇の口を開けるために使った木の枝は長くて硬かったのだ。

 どうして探索の前に気づかなかったのかと無駄な体力を使ったことを後悔したが、後にたたないだろう。

 先端を削る方法は、石にゴリゴリと当てていくことと、大蛇の鱗を使うこと。

 まず石に押し当てるようゴリゴリこすると細く固まってはいくが、鋭くはならない。

 そこで目をつけたのが、大蛇の鱗だ。

 かなり硬質なこの鱗で力を入れてやすれば木を容易に削れた。


 完成、木の槍。


 長さは百五十センチほどで俺の胸辺りまである。

 ただ、重い。俺は問題が無いはずだが、ミキさんは使えないだろう。

 というかミキさんを戦力として数えてる時点で皮算用なのか?

 いやいや、ミキさんは喜々として魔物と戦うよきっと。姉御肌っぽいし、魔物に臆してる姿が想像出来ない。

 ミキさん用に異世界ではオーソドックスな弓を作ろうとしたが、問題に気付く。弦にあたる糸が無いと。

 弓をつくるのってかなり重労働な予感。


 予定を変更し、投石機を作る。

 投石機、と言っても石をツタでぐるぐる巻き、それを投げるといったものだ。

 原始的なものだから簡単に出来るだろうと思ってました。

 石は巻きつけるまでは良かったが、石を巻きつけた状態で回すと三回転ほどでブチっと切れてしまう。

 これは駄目だ。


 だがどうしてもミキさんに武器を作ってあげたかった俺は苦肉の策を思いつく。

 まず、大蛇の皮をベリベリ剝く。

 そこで大きな音が出てしまい、慌てて周りとミキさんの方を見るが、変化は無い。良かった。


 大体三十×百センチの大蛇の皮が取れる。

 これで振り回しても落ちないように拳大の石を包む。


 完成、打撲武器。


 投げないという。

 気休め程度にしかならないだろうが、無いよりはマシかと。


 さてさて防具作製に移ろうか。

 材料は勿論、大蛇の鱗。

 大熊の爪の一撃を受けて無傷だったということは、防具に使えば相当の防御力を持ちうる逸品になるはずだ。


 まずは鱗を取る作業から始める。鱗は取れるだけ取りたいのでどんどん剥がしていこう。

 どうやら、頭に近くなるほど厚く、硬くなっていくようだ。

 なので贅沢に頭の鱗を中心に剥ぐ。

 頭部の鱗の大きさは瓦ぐらい、厚さは瓦の半分といったところだろう。硬度は確実に瓦より上だろうが。

 軽い、ということはなく大蛇の巨体に見合う重さがある。二枚で一キロはあるのではないだろうか。


 しかし、どう使おう。

 加工技術など持ち合わせていないので、この鱗は素で使わなければならない。

 だが防具にするにしても服にくっ付けたりは出来ない。

 悩んだ結果、頭部の鱗は使わないことにする。

 確かに頭部の鱗は丈夫で、衝撃力を抜いて考えると無敵だとは思う。だけど大きく、重く、厚い。

 仕方なく、胴部の薄い鱗を使うことにする。とはいってもこちらもそこそこ硬いので十分だろう。


「あ、これ靴の底に使えるかな……でも靴は消耗品のつもりだし……いやでも俺の体重程度で壊れるとは思えないし……」


 思考が逸れたが、胴部の鱗に穴を開けようと試みる。もし穴が開けることが出来たら紐を通して簡素な防具になるのではと考えたからだ。

 先の尖った石を使って鱗に穴を開けようとしたが、砕けてしまった。つまり失敗。

 どうしようもない、どうしよう。

 困り果てた俺が錯乱して鱗に火をあててみても全く変化しない。火の弾を吐く蛇の鱗に火なんて効くわけ無いか……


「あ~、やめだやめ!」


 作業を中断する。

 木の根っこにどさっと腰掛けながら、鱗を剥がされ裸になった大蛇に目を向ける。俺の足下には大量の鱗。


 丁度正午のようで、一対の太陽は真上で爛々として、日光を放っている。

 憎らしいほど晴れた空を眺めながら頬に流れた汗を拭う。

 生温い風が癇に障るが、作業で火照った身体は緩やかに冷めていった。


「防具が作れねぇ……折角いい素材があるのになぁ~」


 もどかしい。


 パーツは有る。だがそれらを組み合わせる接着剤がない。

 溜息をつく。

 ここは異世界だ、なにもかも上手くいくわけじゃない。

 武器や防具に関しては焦る必要は無い。

 それだけど胸のあたりのわだかまりは溶けない。


 ……どうしようか。


 変色してる足を包む頼りない葉を覆う日の光を見つめる。

 異世界、か。

 俺はなんとなく、目を閉じる。

 目を閉じるのは危険なことという自覚はある。

 ただ、なんとなくだ。

 黙想を「自己の中に意識を向けず外を感じる」という意識で行う。


 目の前の大蛇。

 背を預けている木。

 足下の鱗。

 寝てるミキさん。

 虫。

 鳥。

 空気。


 こんなこと、現代日本じゃやらなかっただろう。

 死と隣合わせにあるこの世界だからこそするのだ。

 ああ、心で感じるって意味。わかる気がする。

 生きてるって感じ。


「我ながら臭いなぁ、おい」


 自嘲しながら目を開ける。

 視界の端には、ウサギ。

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