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ロア・オブ・ライフ  作者: 爺々屋
『新たなる光』編
44/82

パルガ、冒険者となる・前編

祝日投稿。

 昼時の宿屋『満腹皿の里』は多くの冒険者たちで埋め尽くされていた。

 帝都の中では珍しく、低価格に反し大盛りの料理が自慢であるこの宿屋は大食らいの男たちにとっての憩いの場であった。

 そして最近、その宿屋のマスコットとなりかけている一人と一匹がガツガツと食事を摂りながら会話をしている。

 食事の場においては魔物や依頼などについてばかり語るむさ苦しい男の冒険者たちも、ここではその二名をニコニコとして見学する者が多い。


「パルガ殿、であるからこの場合は『申し訳ない』などと言って謝るのが良いのである」

「ウム、成ル程」

「言ってみるのである」

「申シ訳ナイ」

「いいであるな~!この調子でどんどん憶えていくのである!」


 ドワーフ族で、子どもみたいな容姿のリャーノはちゅるんとパスタと最後の一口を食べて、口を拭う。

 ほぼ同時に、パルガも大きな魔物の骨付き肉を食べ終わった。


 あの日……魔族が襲来した日。日本人を捕らえるのに躍起になる現地人から逃れて、パルガは巡り巡ってリャーノに庇護を受けるようになったのである。

 リャーノとパルガは日本人がリドルブリゲンへ送られている間に、日本人と共に行動していたパルガを知っていた教会に行っていた。

 リャーノが、この熊の魔物は自分の従魔だと……怪しい奴らを見張るために傍に置いたと言う為に。


 そして現在進行形で、リャーノによって飯代込みの宿泊料先払いしていたこの宿に二名で泊まりこんでいる。


「ふぅ、満腹である。では、パルガ殿。今日は依頼をこなそうと思っているので宿屋で留守を頼みたいのである」

「ウム、分カッタ」


 今日のスケジュールが決まったところで行動しようとした二名だが、受付に居た女将さんが声を上げる。


「リャーノちゃーん!パルガくんにお客さんだよ!」

「むむ?我輩ではなく、パルガ殿にであるか?」


 リャーノとパルガがひょこっと玄関の方に顔を出すと、走ってきた小さな影がパルガに飛び付いた。


「パルガーーーーーー!!」


 パルガは慌てることなく、微動だにしないでその者を受け止める。


「パルガっ!パルガー!会いたかったよーーーー!!」

「がぁ。我モダ。ネーレ」

「うっわー!前より喋れるようになってるー!パルガすっごーい!」

「照レル」


 虫のようにパルガに張り付いて、淡い赤色の髪を振り乱し、パルガにもふもふするのはネーレだった。

 リャーノがぽかんとしていると、後から現れたフェインとミサラに声を掛けられる。


「あんたが熊公を保護してるっていう、ドワーフ族のリャーノかぁ?」

「うむ、その通りであるが……失礼ながらどちら様であるか?」

「そのバカ娘がネーレ。俺がフェイン、そんで妻のミサラだ。昔世話になった奴の友達の熊公に、娘が会いたがってな」

「ほお……そうであったか。立ち話もなんである、さぁこちらの席に」


 宿屋の食堂の方に向かった四人と一匹はリャーノ達が元居た大きめのテーブル席につく。

 ネーレは依然としてパルガに引っ付いているが、フェインは構わず話を始める。


「急に訪ねて悪かった。俺らの目的は、熊公に会いに来るだけだったんだがな……ソゴウが居なくなっちまったから、事情が変わっちまってな」

「ちょっと待つのである。用件の前に、フェイン殿、一つ確認しても?」


 手を翳してフェインの言葉を遮ったリャーノに、ミサラが微笑む。


「うふふ♪ 誰からこの場所を聞いたか……よね?」

「……うむ」

「その点は問題無ぇ。この場所を教えてくれたのはポルだからな」

「ポル殿が、であるか……ならば大丈夫であるな!重ねて失礼したのである」


 リャーノはポルのことを信頼していた。その上「十河」の名前がサラリと出たことから、少なくとも聖霊教徒ではないと悟る。


「でだ。本題に入ると、パルガは俺らが預かりたい」

「ほほう、何故であるか?」

「まず、リャーノは帝都には来たばかりでギルドにも入りたて、だから収入もそんなに多くないはずだぁ。冒険者ってのは大体そうだしな。熊公の飯代だけでもかなり掛かるんじゃねぇか?それに、ほら。ネーレはこの通りパルガを気に入っている。どうだ、悪い話じゃねぇと思うが」


 リャーノは断る理由が見つからず、頷きを混じえながら黙って聞いてきた。

 しかしそこでパルガが口を挟む。


「我ハ、南ニハ行ケヌ」

「……おいおいおい。いや、喋れんのは知ってたが、どんだけ喋れるようになってんだよ!?ガッハッハッハッハ!」


 フェインは暫く笑った後、真面目な表情になって、真剣にパルガに訊ねる。


「なんで南に、ドバレアに来れない?」

「我ハ北二向カウ」

「ソゴウのためか?」

「ウム」

「助ける、となるとお前さんが想定する百倍は難しいぜ。熊公一匹じゃあ出来ることなんざ知れてる。それでもか?」

「勿論ダ」

「……ふぅー。難儀な性格だなぁ、どっちもよぉ」


 深く落胆の溜め息をこぼしたフェインの表情は、しかし、楽しげなものであった。


「そういう訳だ、ネーレ。パルガは残念ながらドバレアに来れないぜぇ」

「え~~~!?なんで、なんでよ!?昨日おとーさん、パルガと一緒に暮らせるって言ったのに!!」

「もしかしたらっつったろぉが。でも、どうするんだ。リャーノはずっとパルガを食わせていけるのか?」

「我輩の目的は修行であり、金を稼ぐことではないであるが……装備品や必需品などの費用は馬鹿にならないのである」


 つまり、この先はどうか判らないということだ。

 思慮するリャーノとフェインの二人。一方父に文句を言って今にも飛び掛りそうなネーレをパルガが宥めている。

 そこで、ミサラが閃いたと言わんばかりに手を打って、良い笑顔で提案した。


「そうだ!パルガちゃんが冒険者になるっていうのはどうかしら~?お金を稼げて帝都に居られるわよ!人間語も喋れるみたいだし~」

「……はぁ?」

「なんと!」


 間延びした声で、とんでもない事を言った。

 フェインは妻の発言をいまいち飲み込めないでいたが、リャーノは身を乗り出して目を爛々と輝かせる。


「ぬおおおおお!名案である!ミサラ殿、貴殿は天才であるな!」

「あらあら!私、産まれて初めて天才なんて言われたわぁ~!」


 女性二人が盛り上がっているのに対し、フェインは冷めた態度であった。


「……ギルドメンバーに魔物が居るギルドなんざ聞いたことがねぇ」

「うーむ。であるが、我輩の所属するギルド『太陽の御手』は寛大であるから、パルガ殿に実力さえあれば……」

「ほぉ、そうなのか。強いんだな、リャーノ」

「いえいえ、我輩はまだまだである。故郷の者より推薦を貰っていたに過ぎず、入団試験も受けていないのである」

「入団試験か。何匹か魔物を飼ってるから、ソレと戦わせるんだったな」

「それも凶暴なものばかりで、高いレートでBプラスはあるらしいのである」

「……つぅかよぉ。前提として、パルガ、お前さん戦えるのか?」


 いつかの日のようにネーレを腹に載せてあやしていたパルガが、ムックリと起き上がって言う。


「問題無イ。我ハ戦エル」

「……そぉか」


 ネーレにゴシゴシと頬ずりされるパルガに説得力はなかった。




 ▽▽▼




 帝都最大の冒険者ギルド『太陽の御手』。

 この帝都が数百年前に誕生した時にはあったと言われる、古くから続く大手のギルドだ。

 支部は存在せず、帝都にある本部が一つだけであるが……高名な冒険者を全ギルドの中で最も多く抱えている。

 質実剛健の鏡だったと言われる初代ギルドマスターは巨大な本部の外装は派手にせず、地味で冷たい石造りで建設した。

 比べて内装は魔法による照明の光が溢れる、暖かい木の造りとなっており、外と中のギャップにギルドに足を運んだ人は驚く。

 開放感のある中には主に女性の冒険者が勝手に古今東西の飾りを置いていき、まるで祭りのような雰囲気を醸し出していた。

 そのギルドの奥の部屋には、ギルドマスターの部屋がある。そこは特別に豪華という訳でも頑丈という訳でもない。

 何故なら中に居る人物自体がカリスマであり、砦であり、揺るがない存在だからだ。

 ギルドマスターは実力だけがある脳筋が就けるような地位ではない。

 曲がりもなにも帝都のパワーバランスを整える勢力の一角であるトップには、実力があった者の中でも知謀に長けている者が先代のギルドマスターによって選ばれていた。

 ……しかし恒例としてそれは、「比較的」知謀に長けている者と言わざるを得ない。


「んっもーー!本当に久しぶりじゃない、フェインちゃんにミサラちゃん!あらぁ、そういえばネーレちゃんはどぉこ?」

「受付のトコに置いてきた……つぅかテメぇ、オカマ野郎、何でネーレの名前を知ってんだぁ!教えてねぇはずだぞ!」

「あらやだ、私の情報網を舐めないで頂戴?ミサラちゃんは昔より大人っぽくなったわねぇ!」

「うふふ!ピークェストさんも綺麗になったわよ~」

「もぉ、私のことはピーちゃん☆で良いってぇ!」

「ごめんなさい、ピーちゃん☆」

「うっふん!良いわよぉ!」

「相変わらず気持ち悪ぃなぁ……おい」


 オカマ口調の者の名はピークェスト=ラスト。紛れもなく『太陽の御手』のギルドマスターである。

 濃い緑色の髪を短くし、中性的な顔立ちで細身のピークェスト。彼は奇妙な人格に似合わず、国民やギルド内部からの人気が高い。

 それは彼の強さに起因している。武勇伝の数だけで言うと伝説の(パーティー)『紅吽龍彗』よりも多いと言われていた。

 彼が呼吸している限り永遠に残せるという大質量の水属性魔法と、正確無比に魔物の急所を射抜く弓矢によって数多くの魔物を屠ってきた……ギルド最強の一人だ。

 しかし元同僚のフェインにとってピークェストはただの気持ち悪いオカマであり、敬意などは欠片も存在していなかった。


「そ・れ・よ・りぃ。どうしたの?古巣に帰ってきたって感じでもなさそうだし」

「あぁ、今は受付の所で待ってもらっている奴を俺とミサラの名目で推薦したい。元冒険者でも大丈夫だろぉ?」

「貴方ねぇ……自分の名前がどれ程の影響力があるか分かってないでしょぉ?帝都に居る男の子が、一度は憧れるのが貴方なのよぉ?」

「けっ、過大評価だっつぅの」


 フェインはそう返すが、ピークェストの言っている事は本当だ。

 子どもが最初に聞く冒険者の武勇伝は、かなりの確率で『紅吽龍彗』である。

 スピエルゼウク全体の危機を何度も救っている英雄達なのだから、当然であろう。


「それで、どんな子なのぉ?お弟子さんでも居たのかしらぁ?」

「俺は弟子を取る気はねぇし、ミサラが人に教えられる頭を持ってる訳ねぇだろ」


 し、失礼ねー!とぷんすか怒るミサラを無視してフェインは言った。


「言葉を喋れる魔物だ。ただの芸を仕込まれた魔物じゃねぇ。かなりの知性がある」

「ふぅん?その子は、従魔じゃ駄目なのぉ?」

「あぁ、そいつ自身が金を稼ぐ必要がある」

「そうだとしても。知性があるとしても、ねぇ……魔物が冒険者になるだなんて、聞いたことないわぁ」


 いくら旧友の頼みごととはいえ、内容が内容である為にピークェストは快諾出来そうになかった。

 するとそこで、コンコンと控え目に扉がノックされる。

 ピークェストが「入って良いわよぉ」と言うと、女性の職員が気まずそうな顔をして入ってきた。


「どうしたのミュンちゃん。ワタシぃ、お友達と喋っていたんだけどぉ」

「失礼しました。ですが、あの、お客様のお連れに言葉を話す熊の魔物がいらっしゃいますよね?」

「ああ、そうだなぁ」


 鷹揚にフェインが頷くと、女性職員が言う。


「実はその魔物がある冒険者と決闘することになってですね……訓練場に来ていただけませんか?」

「……はぁ?」




 ■■□




 フェインとミサラがギルドマスターの部屋に向かった後、リャーノとパルガとネーレの二人と一匹は仲良く談笑していた。

 主な話の内容は、ネーレがパルガについて語り始め、そこからドバレアに黒翼竜(ブラックワイバーン)が襲来した日の夜の話にまで発展していた。


「それでねっ!そこでソゴウおにーちゃんとパルガがドッカーンって扉を壊して、ズザザー!ってやって来たの!!」

「ほほう!いやはや、しかし、それはあまり表では話せない内容であるなぁ……」

「え?なんで?」

「それは聖霊教が関わっておりますし……というより我輩が聞いても良い内容ではない気が……」

「?」


 モゴモゴと言い淀むリャーノだったが、それとは別にソゴウとポルの話を聞く事が出来て少し嬉しかった。


(ポル殿はともかく、ソゴウ殿も無駄話をするような方でなかったであるからなぁ。質問などは多くされましたが)


 リャーノは、ネーレを抱きかかえるパルガをじっと見る。

 日本人や商人と共に帝都へ向かったが、魔物は全てリャーノが片付けてしまったのでパルガの強さを知らなかったのだ。


(パルガ殿は魔物であるから弱くはないと思うであるが……如何ほどなのであろう?何はともあれ、試験を受かられるか、であるが)


 ギルドマスターと面識があるというフェイン達が、パルガが試験を受かられるかどうか話をつけにいっている。今はそれを待っている段階だ。


(まぁもし駄目だったとしても、いざとなったら我輩がパルガ殿を従魔として連れ回せば……)


 リャーノは思考の海に沈んでいたが、一方ネーレの話は続いていた。


「そこで!ポルおねーちゃんが水の魔法を……きゃっ!」


 踊るように全身で過去話を表現していたネーレが、歩いてきた男の脚が激しくぶつかる。


「ネーレ殿!?大丈夫であるか!?」

「う、うん……ちょっと痛い……」

「あー邪魔なんだよ、冒険者ギルドに子どもとか。それに二人も!ギャハハハ!」


 ネーレにぶつかり、悪びれもせず下品に笑う男の名はガローン。

 中堅と言われるCランクに身を置く冒険者であり、実力はあるものの、態度や素行によって評判は最悪の男だ。

 リャーノがガローンを凛々しい目つきで見つめ、なるべく穏やかな口調で言う。


「ガローン殿。我輩への、並びにドワーフ族への侮辱はこの際見逃そう。しかし、この少女には一言謝ってもらう。貴殿の言動は度が過ぎる」

「はぁあ?謝るぅ?俺がぁ?そのガキがはしゃいでたからぶつかったんだよ。Bランクだからって調子に乗ってるんじゃねぇの、新人のリャーノちゃん?」


 俄かにザワザワとしだすギルド内。残念ながら、ガローンを止められるほどの冒険者達は出払っていた。

 ガローンの態度を改めさせることが無理なことだと理解したリャーノが二名を連れて立ち去ろうとした、その時。


「オイ、貴様」

「……あん?」

「謝ルガ良イ。ネーレニ。今、スグ」


 立ち上がったパルガが、ガローンにそう言い放った。

 まさか魔物が喋るとはネーレとリャーノ以外は思いもよらず空気が固まる。

 すると、当事者であるガローンが大笑いした。


「ギャハハハ!魔物が、魔物が喋った!面白ぇー!芸を仕込んでるとか。マジウケる」

「謝ラナイノカ?」


 パルガが首を傾げてガローンに問う。当然のようにガローンは返答した。


「誰がするかよ魔物。おーそうだ、首輪も無いし、危険だなぁ。殺してやるよ」

「……ソウカ」

「待つのである!」


 ガローンが両手剣を背中の鞘から抜こうとし、緊張が高まっていった時、リャーノが待ったを掛けた。


「ギルド内での私闘は、ギルドとは無関係な者であってもご法度である!だが、決闘ならば別である。この場に居る者共が立ち会いを務めさせてもらう。両者、宜しいであるか?」

「魔物と決闘とか。ま、私闘と見なされてギルドを退会させられても困るからな。癪だが構わないぜ」

「我モ頼ム」

「うむ!では、我輩がどちらかが負けだと判断した時が決着である!時に皆の者も宜しいであるか!」


 リャーノがぐるりと見回して言うと、手出しが出来ないでいた者も、面白がって傍観していた者も頷いた。


 リャーノが決闘を提案したのには理由がある。

 もしギルドマスターが試験の許可を出さなかったとしても、パルガがガローンを下せば登録も認めるだろうと踏んだからだ。

 パルガが弱く、殺されかけたとしてもリャーノは本気を出して守るつもりでいた。


「では、皆の者。決闘の舞台……訓練場に走るのであぁぁぁぁぁるぅ!!」


 リャーノのみが全力疾走で訓練場に向かっていった。

 その場に居た全員、走らなくても良いんじゃないかと思った。

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