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ロア・オブ・ライフ  作者: 爺々屋
『新たなる光』編
43/82

とある家族の旅行・後編

 トラウム学園の前で偶然にも合流出来たフェイン、ミサラ、ネーレの三人が学園長室にお邪魔している。

 だだっ広い学園長室の中央の向かい合うソファの片方にフェインたち一家が座り、もう片方には学園長であるニルマが寝そべっていた。


「……なぁニルマ、子どもの前だからもうちっとビシッとしてくれねぇか?つぅかお前、一応は教師だろぉが」

「怠い、ので拒否。私はお飾り学園長だって言ってんでしょ」

「ネーレ、こんな大人になっちゃ駄目よ~」

「うん!わかった!」

「……ミサラも言うようになったじゃない」

「母親だからね~」


 旧友であり、(パーティー)の仲間だった三人は、数年ぶりに会うというのに昔と同じ調子で会話をしていた。


「ネーレ、色んな所が大きくなっても頭だけは緩い大人にはなっちゃ駄目って、ぽわぽわお母さんに言ってやりなさい」

「……ぽわぽわ?」

「ゆ、緩いって何よー!」

「おいおい……変な教育をすんじゃねぇよ」


 ニルマはネーレの事を見たことがあったが、それは産まれたばかりの時であり、こうして大きくなった姿を見るのは始めてだった。


「ふぅん、ネーレ……よく似てるわね」

「あん?どっちにだよ」

「両方によ。あんた達がやっとくっついたと思ったら、子どもの一人も産みやしないから私とザンガスも心配したのよ。コレでも」

「るせぇ、余計なお世話だっつぅの」

「ザン爺ってまだ帝都に居るの?」

「居ないわ。あんた達がドバレアに行ったすぐ後に愛弟子ちゃんが『天聖騎士団』に就いたから、どっかに行っちゃった」

「あら~そうなの、残念。会いたかったわ~……」

「ジジイなら修行でもしてんだろぉ。心配しなくともありゃ龍人族並みに長生きするぜ」


 フェインの言葉にミサラはニコっと笑い、ニルマはふっと笑みを浮かべた。

 ネーレは話がわからずにボーッとしていたが、体をムズムズとさせてから、ソファを降りると扉に向かって走り出した。


「おいッ、ネーレ!」

「ポルおねーちゃんに会いたい!あと探検したい!お願いおとーさん!」

「お前、ドバレアで怖い目にあったのも忘れたのか?」


 厳しいフェインの言葉にハッとしたネーレは明らかに肩を落とす。

 すると、寝転がっていたニルマが首をコキリと鳴らしてむくりと起き上がった。


「……そのポルって、ボルボ族の女の子?」

「ん、なんだ知ってんのか?」

「知ってるわよ。全ての属性魔法を無詠唱でしてみせた超大型新入生だもの」

「あらあら……!ポルちゃん、強いとは思っていたけどそんなに凄かったの!うふふ、光属性だけでも教えてあげようかしら?」

「その必要は無いと思うわよ。あの子はいずれ全てを自分で知るわ」

「……そんなに凄ぇのか?」

「ええ。将来私を超えられる人間が居るとすれば、あの子だけね。とんでもない才能を秘めている」


 その言葉に、フェインとミサラは思わず息を呑む。

 ニルマの実力と性格を良く知っている二人からすれば、ニルマがそんな事を言うなど想像だに出来なかったからだ。


「ねー、おとーさん。行っちゃだめかな?」


 ネーレがフェインにそう縋ると、ニルマはわざとらしく大きな溜め息をついてから無言で魔法を発動した。


 《あー、あー。一年生のポル。至急、学園長室の前に来て客人をもてなすように。以上》


 校舎全体に響く、風属性の音響魔法によってニルマがぶっきらぼうにそう言った。


「へっ、だってよネーレ。この部屋の前に待ってりゃポルが案内してくれるぞ」

「……やったぁ!おねーさん、ありがとう!」

「はいはいどうも」


 ネーレは嬉しそうにしながら、走って学園長室を後にした。

 ニルマはまた横になると、真剣な表情に変わったフェインに尋ねた。


「……で?わざわざ会いに来たんだから、他にも何か理由があんでしょ?」

「あぁ、それなんだが……ニルマ、お前魔法具にも詳しかったよな?コイツをどぉ思う」


 フェインが脇に置いてあった袋から取り出したのは、何かを布で包めた物。

 布を広げながら中身を机の上にゴロリと転がした。

 それは金や銀で装飾されている割れた紅い宝玉だった。


「これは何処で見つけたの?」

「『聖霊教』の神父が持っていたもんだ。で、どんな魔法具なのかわかるか?」


 ニルマが雑にそれを掴み、すぐにぱっと手を離した。すると今にも怠い、と言いかねない表情となる。


「うっわぁ……怠ぅ」

「どうなんだニルマ」

「……効果は一回限り。一種類の中型以上の魔物を多数、支配下に置いて簡単な命令が出来るってとこね」

「あぁ、大当たりだぁ。ドバレアに十数匹の黒翼竜(ブラックワイバーン)が襲来した」

「これは中級冒険者が保険として持つには最高ね。至って普通の、極めて上質な魔法具……だったら良かったんだけど」


 ニルマが遠慮無しに魔法を使って金銀の装飾を剥がし取り、机の上に放り投げる。

 金銀の装飾の裏側には複雑な言葉や記号が彫られていた。


「本来は大したことのない魔法具でしょうね。でも、魔業機構が組み込まれてるから数倍にも効果が跳ね上がってる」

「魔業……か。厄介だなぁおい」

「んー?何が厄介なの?」


 フェインの隣で聞いていた三皿がキョトンとして、二人に訊ねる。

 フェインは呆れた顔をミサラに向ける。


「お前なぁ……一応昔は『聖霊教』の僧侶だったろぉが。魔業機構の技術は『聖霊教』のやつらが殆どの部分を握っている……魔業が使われているって事は『聖霊教』の本元がモロに関係してるって事だ、アホ」

「あ、アホじゃないわよー!」

「私もこれでも五大勢力のトップだから、これ以上この魔法具の件に関わるのは無理ね」


 ニルマの言う五大勢力とは、『王家』、『聖霊教』、『冒険者ギルド』、『商業ギルド』、そして『トラウム学園』だ。

 互いが互いの分野で監視しており、現在のところは上手くバランスを保っている。

 異様にも見えるトラウム学園という勢力は、教職員が曰く付きな者も含めた選りすぐりの人材たちであり、卒業生なども含むとその人脈は王家にも及ぶとも言われている。

 人を動かせる力を持つ者が集まった組織が勢力となるのだ。


「……そうか。悪かったな、ニルマ」

「別に。というかフェイン、貴方また首を突っ込む気?」

「へっ、セフタの奴にも言われたぜ。関わらねぇよ。ネーレとポルが危険な目に遭った案件だったから、気になっただけだ」

「ポルとネーレが?」

「あぁ。クソ神父に誘拐されて、危うく殺されかけたんだ」

「それもどうせあんた達が速攻で解決したんでしょ?」

「馬鹿言え、ソゴウのボウズが居なかったらどうなっていたか……」

「ソゴウ?」


 寝転がっていたニルマが反応を示す。


「ん、どうした」

「ソイツって……黒づくめで、目つきが悪くて、熊のお友達が居る?」

「おいおい……ソゴウも知ってんのかよ!今じゃ黒づくめ全員がお尋ね者になっちまってるが、ソゴウのボウズは大恩人なんだぜ?」

「……ソイツ、知ってるわ。魔族の攻撃を受けてもギリギリ生きてた黒づくめ。只者じゃないわよ」

「何だとぉ!?おい、ボウズは生きてんのか!?」

「少なくとも私が嫌いな光魔法で出来る最高の回復魔法を掛けてやった時は生きてたわ。魔族認定で地獄に行くはめになったから、死んでた方が良かったかもだけど」


 ニルマがそう言うと、フェインは机を叩いて腰を上げ、ニルマに詰め寄る。


「ボウズは……ソゴウは、黒づくめは!魔族じゃねぇ!!」

「あーあー、怠い。そのくらい分かってるわよ。ソイツを除いたら、あんな貧弱な種族から魔族が産まれる訳ないでしょ」


 ニルマが嫌な顔をしながらフェインに「しっしっ」とした。

 フェインは渋々ソファに座ると、不精髭を撫でて唸る。


「それにも関わらず、だ。黒づくめを魔族と認定したのは『聖霊教』だったな?」

「正確に言うと、教会と王家じゃなかったかしらー?」

「そうね。魔族が襲来した次の日の聖戦とやらでリドルブリゲン行きが決まってたわ。見に行けなかったけど」

「いくらなんでも、次の日っつぅのは速過ぎじゃねぇか?」

「まるで予定通りと言わんばかりに、どんどん事が進んでいったらしいわ」

「ちなみに、その聖戦ってのは何だぁ?」

「黒づくめと、態度に問題のある獣人奴隷との数を揃えて殺し合いをさせたらしいわ。結果としては意外にも引き分け。互いに大人の男は全滅……ああいや、黒づくめは一人残ったんだっけ」

「……それがソゴウか?」

「さぁ?それと聖戦をするように仕向けたのは教皇で、リドルブリゲン行きを決めたのは国王ね。殺し合いをさせる意味はあったのか、生かす理由があったのか……ま、どちらの意図を考えてもしょうがないわね。教皇はともかく、あの王だし」

「ちょっと。ニルマ」

「おいおい、気にすんなよ。俺が気にしてねぇからな。俺だって『聖霊教』を散々に言ってるだろ?」

「うん……」


 学園長室に気まずい空気が流れたのも僅かな時間で、すぐにニルマが「とりあえず」と切り出した。


「これからどうするの?まさか本当に観光するんじゃないでしょう?」

「そのまさかだ。俺たちはもう冒険者じゃねぇからな。ネーレを色んな場所に連れ回す予定だぁ」

「久しぶりの帝都、楽しみね~♪」

「はぁ!?この……羨ましい」

「お前もお飾り学園長なんだろぉ?」

「そうだけど、意外と多い仕事が怠いのよ。判子を異常な数押したりしなくちゃいけないし……まさか教職が肉体労働だとは思わなかったわ」


 そう愚痴を零すニルマを見て笑う夫婦の二人は、ニルマからすれば数年前と全く変わってないように見えた。


「うふふふふ♪……あ、そういえば。ネーレったら、トラウム学園に入る!って意気込んでるわよ~」

「あん?そぉなのか。なんでまた急に」

「『天聖騎士団』を見て、空竜(ドラグーン)にどうやったら乗れるの?って団長さんに突撃して聞いたら、ここ入るのが良いって言われたらしいわー」

「釘を刺しておくけど、ウチは裏入学だけは一切出来ないから」

「そんなことすると思ってんのかぁ?ネーレは実力で入るに決まってんだろ」

「……どうだかね」


 親バカ二人がネーレの将来についてあれこれ語り始めたので、ニルマは寝そべり直す。


(最強の剣士と最高の僧侶の子……ね。さて、どうなるかしら?)


 あまり期待しないでおこう、と誰にも聞こえない小声で寝そべるニルマが呟いた。




 □■■




 学園長に呼び出されたポルは、鼻歌混じりのネーレと手を繋いで校舎内を歩いていた。

 決闘を申し込んでいる途中だったジェイクから「お前を捕らえる役人でも来たんじゃないのか?」と言われ、そんな事は無いだろうと思いながら学園長室の前に行くとネーレがソワソワとしながら待っていたのだ。

 興奮したネーレに飛びつかれたポルだったが、パルガではないので一緒になって倒れてしまって後頭部が痛い。


「ポルおねーちゃん、どこに連れていってくれるの?」

「魔物。飼育。場所」

「ほんと!?楽しみー!」


 パルガが好きなネーレなら魔物が好きかもしれない、というポルの予想は当たりのようだった。

 トラウム学園では野生ほど強くない小さな魔物を多く飼っている。

 用途は様々であるが、愛玩用の魔物は少しだけで、殆どが実践訓練用の魔物ばかりだ。


 ポルが自身の選択を心の中で褒めていると、不機嫌を顔に貼り付けたジェイクが二人の前に立ち塞がった。


「おい、ポル。その子どもが俺たちの決闘の邪魔をした客人か?」

「.......。是」

「ネーレだよ!よろしくね!」

「ふん……貴族の俺が、庶民の子どもなんぞに名乗る名は無い!」


 その言葉にネーレは固まった。

 ジェイクはネーレが泣くか、気後れするものかと予想した。実際にジェイクの周りの人間はそんな反応ばかりだった。

 しかしネーレは違った。ジト目でジェイクを見ると、ポルの制服の裾を引っ張って聞いた。


「『きぞく』って言葉を使う人は『こもの』だっておとーさんが言ってたんだけど、ポルおねーちゃん、この人『こもの』?」

「……。肯定」

「は、はぁ!?誰に向かって口をきいてんだ!」

「『こもの』でしょ?宜しくね『こもの』」

「俺の名はジェイク=ヴァリアスだ!叩っ斬るぞガキ!」


 そう叫んだジェイクが懐からナイフを取り出そうとする。

 だがその瞬間、ポルが今までの「決闘」では見せた事のない魔力をジェイクに向けて放出した。

 とんでもない魔力の重圧によりジェイクは顔を蒼ざめる。

 ポルを見やると、いつもの無表情のまま、じっとジェイクを睨みつけていた。瞳の奥から真意は読めない。


「……な、なーんてな。一々子どもの言葉に腹を立てるもんか。はっはっは」

「ネーレ。彼。ジェイク」

「むー……わかった、ポルおねーちゃんが言うなら。よろしくねジェイク」

「様を付けッ……くっ、宜しくな、ネーレ」

「うん!」


 再び襲いかかった重圧に耐えながら無理に笑顔をつくるジェイクを見て、ネーレは満足そうに笑った。


「……で、何処に行くつもりなんだ?もうちょっとで次の授業始まるぞ」

「学園長。命令。授業。不足」

「偉い人のお願いだからネーレの案内が優先だよね!それに、授業って簡単なんだ~。じゃあ出ることもないね」

「是」

「なんで今ので分かるんだ……あーあー、じゃあ俺もネーレの案内に付き合ってやるよ」

「えー」

「なんだよ、文句あるのか?」

「別にー。あ、そうだ!ネーレね、もうちょっと大きくなったらトラウム学園に入るんだ!えと、特進クラス?に、入るの!」

「はぁ?お前が?無理に……い、いや。頑張れよ」

「え? うん」


 ネーレはポルと腕を組んで歩き、ポルは時々ジェイクを睨みながら、三人で校舎内を歩いて回る。

 魔物が居る魔物舎までの道のりは遠かったので、道中にあった場所も案内していくことになった。


「わー!大っきい図書館だね!こんなに沢山本があるの、初めて見たー!」

「ネーレ。静寂。希望」

「ハーッハッハー!驚いたかネーレ!良いか!ここの蔵書量は世界でもグエェェエェエッ……!!」

「ぽ、ポルおねーちゃん。それ以上は死ぬよきっと……!」

「無問題」


 ポルはネーレに甘くジェイクに厳しくする。そこには親密度が顕著に表れていた。


「うっわぁ!見て、ポルおねーちゃん!ちっちゃいドラゴンだよ!」

「違うぞ。コレはただの蜥蜴の魔物だ」

「ジェイクには言ってない!」

「なんだと!」

「蜥蜴。変貌。竜。稀」

「へー、たまにドラゴンに変わったりするんだー」

「いやいや、だから、なんで単語で分かるんだよ……」


 まともに言葉を返さないポルに堪忍袋の緒が切れたジェイクがポルの頭をはたくと、ネーレが文字通りジェイクに噛み付いたのは余談でしかない。




 ▽▽▼




 夕暮れ時。聖霊の目に例えられる一対の太陽は地平線の向こうに隠れようとしていた。

 オレンジ色に染まる大きな校門の前には、フェイン一家とポルとジェイクが向かい合っていた。

 ポルはジェイクの強い要望によって、あと少し学園に残ることにしたので、ここでネーレとお別れである。


「ポルちゃん、ネーレを案内してくれてありがとうね!言い忘れてたけど、合格おめでとう♪」

「祝辞。感謝」

「しかも特進たぁ凄いよな。ニルマも褒めてたぜ?」


 フェインとミサラがポルを褒めちぎる。

 頭を撫でられるポルは僅かながら頬を赤らめて喜んでいるが、親しい人間しかわからない程微妙な変化だ。


「それで、この宿屋のとこにパルガが居るんだな?」

「是」

「ねぇねぇ、早くパルガに会いに行こうよ!」

「ゴメンね~、ネーレ。今日はもう遅いから、また明日行きましょ?」

「えー!?」

「お前がいつまでもポルに学園を案内させるからだろぉが。悪かったな、ポル」

「無問題」


 すると、フェイン達と会ってから口をつぐんでいたジェイクが不遜に言い放つ。


「おい、おっさん」

「……あん?俺のことか?」

「ネーレの父親か何か知らねーけど、学園長を呼び捨てにするんじゃねぇ。それと、ネーレに貴族を名乗るのは小物だって教えたらしいな。あんたが謝るくらいで許してやるよ」


 言い切った、と言わんばかりに鼻を鳴らしてふんぞり返る。

 何の反省もしていないジェイクの言い分にポルは呆れ果てて、もはや魔力で脅すのも面倒であった。

 おっさん呼ばわりされたフェインはジェイクの胸に付いていた家紋を見つけると、ニヤリと笑う。


「馬ぁ鹿、貴族ってのはな、高貴な気配が滲み出るから貴族なんだよ。なぁ?ヴァリアスの小僧」

「な、なん……!貴様、家の名を知っていながらその態度!もっと無礼だぞ!」

「おいおい……本当に一流貴族様のご子息かぁ?これじゃ娘に小物だと言われてもしょうがないなぁ」


 そのフェインの挑発に乗せられたジェイクは、懐からバッとナイフを取り出した。


「こ、の……!言わせておけば!」


 家宝のナイフに質量のある雷を纏わせて、ジェイクはフェインに斬りかかった。

 しかし、フェインは事も無げにそのナイフを雷ごと二本指で掴み取る。


「なっ……!?なんで、電撃も効かない……!?」

「丁度良い出力で気持ちが良いが?」

「チッ……!」


 フェインがぱっとナイフから指を離すと、ジェイクは素早く距離をとる。

 それからもジェイクはフェインに斬りかかった。

 しかし、いずれも止められ、いなされ、避けられて。フェインに微々たる傷さえ与えることは出来なかった。


「はぁ、はぁ……」

「小僧、名前は」

「……ジェイクだ」

「ジェイク、さっきの言葉は取り消そう。かなり痺れたぜ」


 言葉とは裏腹に、フェインは歯を見せて笑いながら手をぷらぷらとさせる。

 そんなフェインにジェイクは肩の力が抜けて、ナイフを仕舞った。


「……何者だよ、おっさん」

「そこそこ強かった元冒険者だ。気にすんな。だが、お前さんの父親は貴族の名を振りかざしていきなり襲ってくるような奴じゃないぜぇ?」

「おっさんに父上の何がわかる!」

「分かるさ。友人だからな」

「……父上の?」

「あぁ」

「じゃあ、父上の好きな食べ物は?」

「確か……クリームパン?」

「父上のクセは?」

「困ったらつむじを掻くこと」

「得意な魔法属性は?」

「無属性。次に雷」

「……どうやら本当みたいだな。名前を聞いても?」

「フェインだ。ポルと一緒に居るってことは特進クラスか?」

「まぁな。当然だ」

「あいつの血が入ってるか疑わしいくらい傲慢だな、おい……だが、あいつと似て良い太刀筋だった。お前さんは強くなるぜ」

「ふん、当然だ!」


 フェインに褒められて気を良くしたジェイクは胸を張るが、ネーレが横槍を入れた。


「でもポルおねーちゃんに「けっとー」で一回も勝ったことないんでしょー?」

「そ、それは!ポルが俺より更に強いからだ!俺も強いぞ!」

「えー。でも、今おとーさんに敵う気配もしなかったし、それってどうなのー?」

「ぐ、うぅ……」


 ジェイクが凹んでいると、ミサラがジェイクの頭をポンポンとして、ポルはジェイクの肩に手を置く。


「大丈夫よ、ジェイクくん。きっと貴方は強くなるわよ!」

「ジェイク。将来。有望」

「これが慰められるってやつか……複雑だ……」


 今までの人生で挫折らしい挫折をしてこなかったジェイクは慰められるという貴重な経験をした。


「それじゃ、俺らはここら辺で失礼させてもらうぜ。ジェイク、アルスに宜しくな」

「あぁ、わかった」

「ポルちゃん、またね!故郷に帰る時はドバレアに寄ってね!」

「是」


 ネーレもポルにお別れを言おうとすると、ポルがネーレに何かを手渡す。

 それは、大きな牙だった。

 無骨な乳白色の部分の多くを色とりどりのより合わせた糸で覆い隠されて、牙は首飾りのお守りのようになっていた。


「綺麗……あっ、ポルおねーちゃん、これってソゴウおにーちゃんの……」

「是。パルガ。譲渡」

「……うん、わかった!パルガに渡しておくねっ!」


 ネーレはそれをギュッと握りしめて、ポルと握手を交わした。

 やがてフェイン一家は学園に背を向けて宿屋の方へと帰っていった。


 残されたポルとジェイクは「決闘」を行う為に、廊下を歩いて演習場に向かう。

 ジェイクがふとポルに訊ねた。


「なぁポル、さっきネーレに渡してたデッカい牙って何の牙なんだ?」

「……勇者の牙」

「はぁ?……って、普通に喋った……?」


 ポルは制服の内ポケットを圧迫する、自作の鞘に入れた大振りのナイフに手を当てた。


(そしてこれが、勇者の剣)


 ポルはナイフの持ち主の事を思い出しながら、演習場の扉を開いた。

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