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ロア・オブ・ライフ  作者: 爺々屋
『新たなる光』編
42/82

とある家族の旅行・前編

三章あらすじ

十河にパルガ、ポルの三名は帝都に向かう道中、魔物に襲われる商人の一団を発見して救出する。その中には志村ミキ以外で初めての日本人たちが居た。

旅のさなか、窮地を救ってくれたドワーフ族のリャーノとも親交を深めた。

二週間ほどの旅路の末、帝都に無事到着した日本人たちは『聖霊教』の保護下へと入ることとなる。

だが帝都に来て暫く経った頃、帝都の大結界を破壊して魔族が現れ、日本人は魔族の先祖だと言い放ったのだった。

そして日本人たちは捕らえられ、奴隷の獣人と無益な争いをさせられ、その後に生き地獄と呼ばれる国リドルブリゲンに送られてしまうのであった。


※この章は主人公を除いた群像劇となります。ご了承下さい。

フェイン一家から始まり、その後はポルやパルガなどが中心となっていきます。

 帝都・カーフィグザウンを見下ろせて、すぐ上には浮遊城がある小高い丘にある大きな屋敷。

 屋敷の土地と大きさが、いかにその屋敷に住む貴族が権力を持っているかを示していた。

 睨みを効かせる衛兵たちは人を寄せ付けず、美しい花壇たちは不浄な者を退ける。


 だがそんな立派な屋敷の主は、無精髭を生やすガタイの良い大男に胸倉を掴まれて怒鳴り散らされていた。


「黒づくめがぁ、魔族の手先だとぉ……!?どういう事だぁ!!」

「だから、言っただろう?フェイン。魔族が襲来した際にそのようなことを言ったらしい、と」


 近くに控えていたメイド達があわあわとして固まっていると、胸倉を掴まれたままの貴族が苦笑しながらメイド達に戻れとジェスチャーを送る。


「ほら、メイドも怖がってるよ。少しは落ち着こうよ」

「……悪い。黒づくめにゃ恩人が居るんでな」

「へぇ?伝説の剣士に恩を売れるなんて凄いじゃないか」

「だぁれが伝説だぁ。あと、そんな軽い恩じゃねぇ。あいつは娘の命を救ってくれたんだ」


 フェインは不満げな顔のまま柔らかな一人掛けソファに腰を沈め、熱々の紅茶を一口で飲み干す。

 帝都に着くやいなや黒づくめに関する張り紙が目に飛び込んできたフェインはアポイントを取る事なくこの屋敷に突撃したのだった。


「ふぅん、ネーレちゃんが。魔物にでも襲われたのかな?」

黒翼竜(ブラックワイバーン)の群れが町を襲ってきた……ってのもあるが、その日の夜に誘拐された。実行犯は『影』で、依頼人は胡散臭い『聖霊教』の神父様だ。誘拐についちゃどうせ検討はついてただろぉ?」

「まぁね。フェインを狙える輩も限られているし」


 美しい赤髪を携える端正な顔立ちの貴族は人差し指で額を抑えてジッと考えると、口を開く。


「……誘拐されたのは、ネーレちゃんだけだったのかな?」

「違ぇ、ポルって名のボルボ族の嬢ちゃんも一緒だった。ネーレはむしろついでだったらしい。あぁそれと二人が最初ってわけじゃなく、その前に何人も子どもが誘拐されて殺されてる」


 赤髪の貴族は同じポーズのまま思考すると「なるほどね」と小さく呟いた。

 耳聡いフェインがその呟きを聞き逃すわけはなく、捲し立てるように追及する。


「おい、なにか判ったなら教えろぉ。つぅか話を逸らすんじゃねぇ。黒づくめが魔族なのは一先ず判ったが「らしい」ってのがどうも納得出来ねぇ」

「まぁまぁ、落ち着いてよフェイン。というか相変わらず僕に対して口が悪いよね……一応は義理の兄なのに」

「るっせぇ、年は同じだろうが。で、どうなんだ?」


 フェインの妻ミサラの実兄である赤髪の貴族、セフタ=アンゼルナは爽やかな笑顔を崩さずに言う。


「まず一つ目。「らしい」という事に関してだけど……理由は黒づくめが魔族だという正確な情報がほぼ無いからなんだ。しかし代わりに曖昧で悪い噂なら大流行している。意図を感じるほどにね」

「……仕組まれた事だってのか。『聖霊教』かぁ?」

「おそらく。でも、証拠が少ない。彼らの上層部の情報はまるで掴めないんだ」

「それで……黒づくめはリドルブリゲン行き、か」


 フェインがその国名を言っただけで、空気は重いものへと変わる。

 手の付けられない犯罪者や危険な少数種族を押し込めた、最悪の牢獄の国リドルブリゲン。

 そこは名前を口にしただけでその日は不幸になると嘯かれるほどだ。

 そしてタイミング悪く、若いメイドがフェインの空のカップに紅茶を注いでいたが、空気が変わったせいか立ち竦んでしまう。

 またセフタが苦笑しながら戻るようにジェスチャーを送ってから、難しい顔のままのフェインに向く。


「それで二つ目だったね。ネーレちゃんの誘拐についてだけど、実は似たような事件が起こっているんだ。それも表沙汰になっていない、ね」

「帝都でか?」

「大陸中でだよ。しばしば耳に入っていたけどフェインの話を聞いて確信した。次の誘拐は南東部の村か町で起こる」


 フェインがセフタの予想を聞いて、更に難しい顔となる。


「なんだよそりゃ。法則性があんのかぁ?誘拐の順番に」

「あるんだよ。最初に聞いた集団誘拐は北西部の町、続いて西北西、次は西の町、そして最後の報告では南西部の村……という風に円を描くように起こっているんだ」

「おいおい、誘拐なんざ何処でも起こってるだろ」

「僕が言っているのは人間の子ども限定の集団誘拐だよ。獣人や亜人、はもうあまり聞かないか……とにかく人間以外を除いて考えてみると、法則性があるんだ」

「表沙汰になってねぇってのは?」

「詳細はほぼ全て隠蔽されてるってこと。僕の優秀な部下でも事件の概要しかわからなかった」


 フェインも無精髭を弄りながら考えるポーズを取ったが、すぐに諦めて熱い紅茶を飲み干す。

 そしてがしがしと髪を掻き毟ってから、フェインは観念したかのよう口を開いた。


「……この件は、もう俺にゃ関係ねぇや。やめよう。あぁそうだ、後でニルマのとこに行くから許可取っといてくれねぇか」

「人遣いが荒いなぁ……すぐに向かわせるよ。でも、良いのかい?得意の人助けをしなくて」

「……もう、俺にゃ家族が居る。昔みたいにあちこち首を突っ込んで巻き込みたくねぇんだよ」


 そんなフェインの口と表情は全く揃っておらず、苦渋な決断であることがひしひしと伝わる。

 セフタはそれを悟っていながらも、目を伏せ、気付かないフリをして紅茶を口に含む。


「昔よりは、落ち着いたね。フェイン」

「そらぁミサラと一緒に居れば、多少は落ち着かざるを得ねぇよ」

「……ぷ、確かに」


 二人して天然な女性を思い浮かべながら、くつくつと笑い合うフェインとセフタだった。


 ……その男たちの様子を見る若いメイド達の視線が終始熱いことに、二人が気付くことはなかった。



 ◇◇◆



 フェインに置いていかれたミサラとネーレの二人は、フェインの古い友人が営む宿屋に荷物を置いてから、観光のために外を出歩いていた。

 ミサラは帝都について詳しいが、ネーレは来るのが始めてだったので驚きの連続だった。

 ネーレはずっとあちらこちらを見回しながら「へー!」だとか「わぁー!」などと言って感動が途絶えない。

 長旅の疲れなど無いように目を輝かせるネーレに、つい頬が緩むミサラは優しく声をかける。


「ふふふ♪ どお?ネーレ、帝都は楽しい?」

「うん!すっごく!……あっ、そうだ!パルガってどこにいるかな!?」

「うーん何処かしらねー?」


 勿論、ミサラも黒づくめに関する張り紙に目を通している。


【髪と瞳の色が黒い人間の形容をした「黒づくめ」は魔族の尖兵であるため極国リドルブリゲン送りとする。見つけ次第、兵士または冒険者を頼るべし】


 ミサラはネーレに笑顔で接しながら、一人の黒づくめの少年を案じていた。


(ソゴウくん……『原魔の森』を生き延びたのでしょう、貴方なら……)


 娘の命を救ってくれた少年の無事を胸中で祈るミサラだった。


(パルガちゃんはソゴウくんと一緒に居たから、もしかしたら居ないかもしれないわね~……)


 しかし、それをネーレに言うのは憚れた。ネーレが1番楽しみにしているのがパルガに会うことなのだから。

 そこで、ボルボ族の少女のことを思い浮かべる。


「……そうだ!もしかしたらパルガちゃんはポルちゃんの所に居るかもしれないわね!トラウム学園に行ってみる?」

「ポルおねーちゃんの学校!? うん!行く行く!!」


 うんうんと頷いたネーレはミサラより先を小躍りしながら歩いていく。

 やがて二人が大きな通りに出ると、そこは人で溢れかえっていた。

 道の真ん中を開けるようにして立ち並ぶ人々はやけに嬉しそうである。


「あら、今日は人が多いわねー」

「お祭りでもやってるのかなー?」


 ネーレの言葉に気付いたお姉さんが屈んで、ネーレと目を合わせる。


「お嬢さんは帝都は初めてなのかしら?」

「うん!そうだよ!今から何かあるのー?」

「えっとね、悪ーい奴らを怖ーい国に送った『天聖騎士団(ロイアルナイツ)』が帰ってきたの!」

「ろいあるないつ?」

「そうよ、知らないの?王様直属の近衛師団なの!滅多に見ることが出来ないからこうやってみんな……って、来たみたい!ごめん私は見に行くね!」


 黄色い声を出しながら、ネーレに『天聖騎士団』の事を教えてくれたお姉さんは人混みの中に突入していった。

 周りの人々も『天聖騎士団』を褒め称える声を上げて騒ぎ立てる。


「お母さん!私もロイアルナイツを見たい!」

「ポルちゃんとパルガちゃんは良いの?」

「えっ……あ、ふぇ……」

「うふふ♪ 冗談よ。光の理に願い誓う。視界塞がれ惑う我らに、晴れ渡り見る為の目の力の肯定を」


 ミサラが手を広げて詠唱すると、仄かな光の塊がフワフワと浮かんでいく。

 ネーレに合わせてしゃがんだミサラがネーレに「おいで」と呼んで傍に寄らせると、ミサラの広げる両手の間にはこの場を空から見下ろした映像が写っていた。

 そこには……「空竜(ドラグーン)」と呼ばれる討伐レートAの魔物に堂々と跨る、白く輝く鎧を身に付けた軍団が二列になって練り歩いていた。

 大きな翼を畳み、しっかりと四つ足で歩く、捻れ伸びる二本角の竜の姿は迫力があった。


「わぁ……!」

「私も久しぶりに見るわ~。中々カッコいいわね~♪ 」


 彼ら『天聖騎士団』の装備は白く統一されているが、形は人それぞれで、個性豊かであった。

 全体が丸っこい鎧の者も居れば、ほぼ鎧として機能をはたしていない様に見える者も居る。

『天聖騎士団』を食い入るように見つめていたネーレが、急にガバッと立ち上がる。


「カッコいい!」


 そう叫んだかと思うと、人混みに向けて走り出す。

 ミサラがのんびりと「どうしたのかしら~」と考えていると、ネーレは人の脚の間をスルスルと抜けていく。

『天聖騎士団』の進行方向先にあった樽に登り、飛んで、露店の屋根に立った。

 そしてタイミングを見計らって、列の先頭を歩いていた騎士の「空竜」に飛びついた。

 勢い余って騎士の鎧に額が激突したが、ネーレは気にすることなく元気に訪ねた。


「ねぇ!このカッコいい竜にどうやったら乗れるの!?」


 一部始終を見ていた人々の一部は歓声を引っ込めてざわつく。

 子どもが突然、歴代最強と名高い『天聖騎士団』団長の「空竜」の飛び乗ったのだから。

 団長の隣に居た副団長が剣の柄に手を伸ばしたが、団長が手でそっと制す。


「……君の名前は?」

「ネーレだよ!」

「じゃあ、ネーレ。進みながらでいいかな?」

「うん!」


 団長の「空竜」は何事もなかった様に歩みを続ける。

 ミサラは「あらあら」と苦笑して、両手の中の映像を見ながら付いていくことにした。


 全身くまなく鎧で覆われ顔も見えない団長はネーレを脚の間に入れたまま、質問をしてみる。


「勇猛果敢なネーレ。君は『天聖騎士団』に入りたいということで良いのかな?」

「んー?えーっとねー。ネーレは、このカッコ良い竜さんに乗りたい!」

「……あはは!君は男の子みたいなことを言うね。私たちはカッコ良くないのかな?」

「ううん、カッコ良いよ!でも、竜の方がカッコ良い!」


 その言葉に団長だけでなく、周りの団員たちも笑いをこぼした。

 多くが、女の子ならば殿方の理想として『天聖騎士団』を拝んで、男の子ならば単に憧れを持っていたり竜騎士になりたくて『天聖騎士団』を目指す。

 それなのに、団長の腹に背を預けるネーレは「空竜」に乗りたいからと言ったのだった。


「おっと、そういえばネーレの質問に答えてなかったね。どうやって『天聖騎士団』に入るかだよね?」

「うん!」

「一番簡単で手っ取り早いのは、トラウム学園を卒業すること。『天聖騎士団』の団員の多くがトラウム学園の卒業者だ。ま、私は冒険者からの引き抜きだったけれど」

「トラウム学園に行けばいいの?」

「んー……最低でも特進クラスくらいには入れないと難しいとか言っていた気がする」

「ふーん、そうなんだー……うん、わかったよ!ありがとう、おねーちゃん!」


 ネーレはそう言うと、アッサリと「空竜」から飛び降りていった。

 お姉ちゃんと呼ばれた嬉しさの余韻に浸る団長がネーレの背中を見送っていると、ネーレは先で待っていたミサラに抱きつく。

 ミサラが一言二言ネーレに何かを耳打ちすると、ネーレは満面の笑みで、ぶんぶんと手を降って大声を出す。


「団長さーんっ!あーりーがーとーっ!!」


 団長がそれに緩やかに手を振り返していたら、ニコニコと笑うミサラと目が合う。

 団長は思わず二度見した。


(……はぁ!? え!? 今の、ミサラさん!? えっ、という事は、あ、あの子……!?)


 やがて人混みの中に紛れていった親子の方向を凝視して固まっていた団長は、副団長に声を投げかけられる。


「団長、子どもだからといってあんな油断をしてしまっては……団長?聞いてますか?」

「はは……『天聖騎士団』最強の座が奪われるのも時間の問題かなぁ……」


 ガックリと肩を落とす団長の後姿は、団員たちにとって見慣れない珍しい光景であった。

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