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ロア・オブ・ライフ  作者: 爺々屋
密林編
4/82

出会い

 せっかく取った肉を食べようと思ったのだが。

 当然ながら野生の生き物の生肉を食べることなど論外。

 なので、やることがありました。

 用意する物は、乾いた木を少々。乾いた葉も少々。

 あとは気合を絞り出していく。


「ぬぅぅおおお……!」


 火を起こそうと四苦八苦していた。あまり希望は見えない。

 焼かなきゃ腹を壊すどころか、そこから悪い病気になってしまう可能性も捨てきれない。

 火があれば人として大きな一歩を踏み出せる。だが、簡単にはいかない。

 具体的な方法も知らないまま木の棒をひたすらに回していたが、手の平が限界に達した。


「あぁ……痛ぇ~。休憩!」


 高らかに宣言し、火を起こすのに使っていた木の枝を投げ、大の字に寝る。

 作業は大蛇の上で行っていたが、意外と安定していて居心地が良い。

 慣れというのも怖いものだ。こんなデカイ死体があれば、怖がって近づかないんじゃ?という目論見からここにいる。


「火、点かねぇなぁ……ていうか割と自然にサバイバル生活してるけど、異世界なんだよなここ」


 足の痛みにも馴れてきた。

 改めてこの異世界について、今後の自分の身の振り方を考えることにしよう。

 まず、この異世界は、既存のものなのか?ということ。つまり、地球みたいに自然発生的な世界なのか?ということ。

 まぁ違うだろうな。神はこう言ってた。「日本人が考えた設定」と。

 ということはだ、人間というのは俺たち日本人しか存在しないのか?

 そんなことはない、はずだ。仮に存在しなかったとしてもエルフやドワーフなどという定番の種族が存在するはず。というか、そうでないとつまらない。

 魔法は存在した。それに魔物も存在した。しかも魔法が使える魔物だ。

 ……やっぱりこれは重要なことなんだが、魔法は使えるのか? 幼い頃から訓練しなくちゃいけないとか、特殊な儀式が必要だとか条件があるのか?


 はぁぁぁあああ!とちょっと魔法をイメージしてみる。

 うん。まぁやっぱり、出来ない。


「……というか、こんな密林のような場所で、冷たい湧き水なんて出るか?普通」


 チラリと湧き水を見やる。


「助かってるからいいんだけどな。……地球の環境とは違うものだとも考えた方がいいかもしれないな」


 それと、ただの動物が存在するか、だな。

 もし、全部が魔物だったら、俺がこの先、生きていくのは難しいな。

 だってこんな蛇とか狩れないです、無理です。死にます。

 無言で大蛇の鱗をビリィと剥ぐ。意外と簡単に剥げた鱗で防具とか作れないかな。ゲームみたいに。

 まぁそれはどうでも良いが、他の日本人とも合流したいところだな。生きていればだけど。

 俺なんて多分運が良い方だろうけどな。極寒の銀世界とかがスタート地点だったらすぐに死んでいただろう。こんな格好だ。

 ふと視界に、大蛇の毒によって枯れた草木が入る。

 ……そういえば大蛇が毒を持ってたってことはあの大熊、無事じゃないんじゃ?

 もしかしてあの巨体だと毒が回るのが遅いのか?それともこの毒も魔法に近いもので、無効化したとか。

 まぁそれもどうでもいい。俺にとっての問題は、他にもこいつら並みの魔物がうじゃうじゃしているんだった、詰みだな。


「どうかこの大蛇や大熊はカーストがトップクラスだと信じたい……」


 これからどうすべきか。まず火を起こしたい。肉を食いたい。

 それで、ポジティブに考えて、火を起こせて肉を食べれたとしよう。

 この密林に居続けるか?それとも果てのわからない密林の外を目指すか?

 ……前者だな。この密林で生き残ることが出来なければ、この先いつか死ぬ。なんとかこの密林で生き残る方法を探したい。

 拠点は間違いなくこの湧き水のあるこの場所になる、だろうけど。この大蛇の死体が邪魔だな。腐った時に大変なことになりそうだし。


「一応、他の水源も探してみよう……」


 あと他に考えなきゃいけないことは。

 えーと。

 魔法を使いたいな。

 まぁ、なんだ。せっかくというか。やっぱり諦めきれない部分というか。

 魔法を使いたい……。


「使いたい!」


 よし、真剣な思考タイムは終了だ。

 ずっとこんなに真面目な考えを続けることが出来たら浪人なんてしてない。

 これこそ、まさにだが、この程度の息抜きはしていいだろう。

 真面目に魔法の練習を始めてみることにしよう。

 目標は、火の魔法を使うことにしてみる。

 いきなり大蛇が使ったような、大魔法は使えないとはわかっているが、マッチの火くらいは出したい。出してみたい。

 魔法はイメージが大事だと、多くのライトノベルは語る。

 空気中の魔素を取り込み、魔法を発現するタイプはすでに実証済み。

 完成した魔法をイメージして発現するタイプ。体内に蓄積された魔力を水のようにイメージし、発現するタイプ。

 他には外界に干渉するもの。

 精霊に語りかけて魔法を使うタイプ。術式を描くタイプ……などなど、思いつくものは全てやってやる。

 周りには誰も居ない。

 ここは異世界、恥ずかしがることなんて無いんだ。

 そこからの俺の行動は早い。

 大蛇の頭部から飛び降り、まだかなり痛いムカデに噛まれた足の痛みに涙目になりながらも、魔法を使うべく、特訓を開始する。


「……よし、まずは合っていたなら成功率が高い外界に干渉するのにしよう」


 魔方陣とかを描くのは無理なので、精霊に呼びかけてみることにした。


「火の精霊よ!我が呼び声に応え、火を顕現させよ!」


 ………ふん。変化無し、か。

 ならばもう少し捻ったパターンだ。


「炎の精霊よ!我が友よ!神が創造し、神の御子たる我に、闇を払い正義の鉄槌を下さん裁きの聖炎を分け与えたまえ!」


 バッ、バッ!と頭の中で擬音を想像しつつ良い感じにポーズを取る。

 ………うん。まぁ、駄目か。

 それと死ぬほど恥ずかしい。

 誰も見ていないとは言え、成人手前の男がしていいことじゃない。

 でももう少しやろう。

 次はお願いする系。


「頼む、火の神の子、俺に力をくれ!」


 ズバッ!と聞こえそうなほどキレのある動きをしてみる。

 ……何も起こらない、か。

 今度はどうしようかな、なんてくだらないことを考えて少し楽しくなってきていた。

 背後で、ガサ、と草を掻き分ける音。


「……ッ!?」


 想定していなかった出来事に身体が硬直する。

 恐怖で縛られそうな身体を無理矢理動かして、傍に置いていた大蛇の牙を掴む。

 そして、振り返った。

 まだ姿は見えない。いや見えてもらっては困る。

 木の上に逃げるのは下策だ。もし魔物に隠れてるのがバレたら、逃げ場が無い。

 さっき大熊は大蛇が居たから俺を見過ごしたようなものだろう。

 なので、屈み、大蛇の頭部の影に隠れることにした。


「来い、来い、来るなら来いよ……」


 絶対に逃げきってやる。いいや隠れきるほうが良いか。

 心拍音でバレてしまいそうなほど、俺の心臓は暴れる。

 手に握った大蛇の牙が手の平の汗で滑りそうになる。

 口が乾く。ただ、待つ。

 ……出て来たのは、なんと、女性だった。



 ▽▽▼



 黒のショートヘアのその女性はぴったりとしたジーンズに、上もまたぴったりとしたシャツを着ている。明らかに日本人だった。

 背は俺と同じくらいだろうか。あと貧乳。


「ひっ!」


 その女性は巨大な蛇に腰を抜かしそうになっていたが、死んでるのが分かったら平気そうにして近付き、ペタペタと触っていた。どうやら豪胆な人物らしい。


「あの……」


 と立ち上がって声を掛けると、ビクッとしたものの、こちらをみると目を輝せて笑顔で近付いてきた。


「うおー!生き残りの日本人じゃん!しかも若い!ラッキィ!」


 ガッツポーズを取って全身で喜びを表現する陽気さに気圧されながらも自己紹介をして警戒心を解くことにする。俺の方が警戒しているのが現状だが。


「どうも、えと、俺、十河雅木って言います」


 声震えてないよな、と思いつつもとりあえずは自己紹介をすることにした。何故か異世界に来たばかりの時よりも緊張してしまう。


「おっと、紹介する流れかなー? 私は志村ミキって言います。よろしくね」

「……生き残れたんですね」



 その言葉に、志村さんは苦笑しながら言葉を返す。


「それは、この密林でってこと?それともあの場所でってことかな?」


 明るい人だが落ち着いた雰囲気。年上の感じだ。多分。

 志村さんの言うあの場所とは、淡白な色の世界。神とやらが俺たちを集めた場所のことだろう。


「まぁ、どっちもですよ。この密林ではこんな化け物もいますしね」


 トントンと、大蛇の頭部を持っていた牙で叩く。

 ゲームなどには疎い人の可能性もあるので「魔物」ではなく「化け物」という表現を使う。


「でっかいねぇ、これ、きみが倒したの?」

「いやいやまさか。地球の三倍くらいの大きさの熊が倒してくれたコイツの後処理をしているだけですよ」

「あはは! 中々逞しいね~!」


 ケラケラと笑う志村さん。

 笑い事じゃねぇ!とあの戦いを間近で見た者としては叫びたかったが、なんとか飲み込んだ。

 さらに、彼女は爆弾発言を落としてきた。


「ねぇねぇ、十河くん、だっけ?そういえばさっき大声でなんて言ってたの?」


 ……し、しまったーッ!聞かれていたーッ!

 なんて不幸、なんて不幸なんだ!

 ファンタジーの世界、異世界に来たからには魔法を使いたいという普通の男の子に課せられる試練としては非常に酷なのではないのだろうか!

 あああ、どうしよう。なんと説明しようか、この大蛇が吐いた毒によって枯れてしまった自然を嘆いていたとか、大熊の受けた傷が心配で堪らないとか、何も食べてなくてお腹が減りすぎておかしくなる寸前だったとか、あとは、くそ、どうしたものか。

 極力ポーカーフェイスを保ったまま、内心慌てまくっていたら、志村さんは微笑み、言う。


「あはは、ゴメンゴメン。意地悪な質問だったね」


 おぉ……この女性、良い人だ。

 人が答えにくそうにしてるので、すぐに質問を撤回してくれたのかな。砕けた態度で、軽いように見えるがそうでもないのかもしれない。いかんいかん、人を見た目や雰囲気だけで判断してはいけない。

 と思っていた矢先に、こんどは核弾頭を落としてきた。


「さっきの魔法とかでも使おうとしてたんでしょ?いやー、私の弟も一時期そういうの嵌っててねー。中二病ってやつ?」


 お、弟めぇ!余計な知識を与えやがってぇ!

 と内心で叫んでいたが、意外なことに馬鹿にする感じではなかった。


「でも、そんなこともしたくなる気持ちもわかるよ。この世界、なんか凄くない? 太陽、なぜか二つあるし、角が生えてるウサギとか居たし」


 どうやら志村さんには中二病患者を馬鹿にする習慣はないようだ。よかった。本当によかった。軽く流してもらえたようで命拾いした。

 志村さんは、顎に手を当て考えたようにすると、真剣な眼差しで俺を見つめる。


「ねぇ、さっきの。もう一回やってみてくれない?ここは異世界だから、本当に魔法が使えるかもしれないしね」

「え」


 いや、え? 何を言ってるんだ貴女は。 

 ぶっちゃけやりたくない。人前でやっちゃいけない類のものだろう。地球でまともに暮らしていたら幼少期にしか許されないような恥ずかしいポーズをまたやれと?

 というかすでに一回やってみて出来なかったのだからもうやる意味無くない?


「大丈夫よ、次は成功するわ。きっとね」


 志村さんは真面目な表情のまま、俺を見据える。

 う~ん……なんでこの人こんな確信めいて言えるんだろう。

 その気迫に押され、嫌々だが、やってみることにした。


「……火の精霊よ!我が呼び声に応え、火を顕現させよ!」


 バッ!と鋭い動きをしてみる。もうやけくそだ。

 当然ながら、やはり火は出ない。


「駄目よ! もっと気持ちを込めて! 精霊に語りかけるように!」

「え!? はっ、はい!……火の精霊よ! 我が呼び声に応え、火を顕現させよぉ!」


 ババッ!と動きにさらに変化を加え、適当な詠唱にも力を込める。


「いいわよ! もっと! 気持ちを込めて!」

「うぉお! 火の精霊よぉお! 我が呼び声に応えぇえ! 火を顕現させよぉぉお!!」


 うおおお! なんかテンション上がってきた! 今なら何でもできそうな気がする!


「その調子ブッフぁ!」


 ……え?

 冷静になると凄くカッコ悪いポーズをとりながら、首だけ志村さんの方を向くと、腹を抱えて大笑いしてた。今にも地面に転げまわりそうなほど破顔しまくっている。

 これは、図られた。


「あっはは、うふふふふ! もう無理ぃ! あ、あんた面白すぎ、弟より乗せやすいとか! あは、あはははは!」


 こ、この女ぁぁぁ!


 ……こんな女性が、俺が異世界で会った最初の人間となった。

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