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ロア・オブ・ライフ  作者: 爺々屋
帝都編
35/82

保護下へ

 ポルが抱きついたのは、モーブリーという名の商人さんだった。

 なんでもポルの恩人らしく、ここ帝都の学園を受けられるチケットをくれたのもモーブリーさんなんだと。

 ポルからの紹介を終え、俺とモーブリーさんは互いに挨拶を交わした。


「十河雅木と言います。ポルさんには、お世話になりました」

「はっは、お言葉が上手ですね!黒づくめさんとは思えません」

「これは……殆どポルさんから習いました」


 日常会話くらいは簡単に出来るようになってからも、学習という名の拷問は続けられたから困ったものだった。

 モーブリーさんの傍に立つポルが、口を小さく開いて「復習」と呟いたのを聞き逃しはしない。怖い。


「そうですか!いやぁ、私もポルさんに人間語を教えたのですが、覚えが早くてつい熱が入ってしまったんですよ。はっは」

「へぇ、そうだったんですか」


 意外だ。ポルは頭が良いから独学で学んだのかと思ったのに。


「それではポルさん、行きましょうか?」

「是」


 ……そして、俺たちはここでポルとお別れだ。

 ポルは何処か安い宿に泊まるつもりだったが、モーブリーさんの提案でモーブリーさんの家にお邪魔することになったらしい。

 家族に、ポルを紹介するんだそうだ。

 本当に、別れってのは突然にやってるくるもんだな。

 もう二度と会えないという訳じゃないだろうが、ここ二週間以上共に過ごしたポルとの別れは寂しいものだった。


「じゃあな、ポル。また会おうぜ。試験、頑張ってな」

「了解」


 ポルは小さく手を振ってから、モーブリーさんと共に、いつもの簡素な馬車でだんだんと離れていった。


「……」

「がぁあ……」


 寂しそうな声を出したパルガの頭をくしゃくしゃと撫でてやる。

 こちらを見ていたセブアルさん夫婦と日本人たちに向き直って、苦笑しながら声を掛けた。


「……待たせて済みません。行きましょうか」



 ▽▽▼



 セブアルさんが商業ギルドで用事を済ますと、俺たち日本人を教会へと連れていってくれた。

 しかしその道中で、冒険者ギルドに行かなくてはならないリャーノとも別れなければならなかった。


「うむ、我輩はここで失礼するのである!ソゴウ殿!何か困った事があれば我輩を訪ねるのである!いやむしろ我輩が訪ねるのである!」

「はは、ありがとう。なるべくそうしないようにするよ。また会おうぜ」


 手をブンブンと振りながら「ご達者で~!」と叫び、走っていく方向には冒険者ギルドがあるのだが……


「デカイですね。冒険者ギルド」

「私の所属するギルドは規模が小さいからなぁ。あの冒険者ギルド……『太陽の御手』は由緒正しく、帝国の中でも屈指の大手だぞ?」


 そんな所に招待されているというリャーノは、冒険者登録をしにいったらしい。各地によってそれぞれ登録をしなくてはならないからとか。

 別れを惜しむ気持ちを切り替えて、俺たちの目的地である教会へ向かうこととなった。

 しばらくの間セブアル夫婦の馬車の中で、俺たち日本人らは雑談をしていた。

 佐藤くんは中学生ながら知識が豊富で大人びているのだが、気が弱いためかキョロキョロとしている。

 対照的に堀内さんは教会が楽しみのようで、ヘラヘラとしながら佐藤くんをからかっている。


「だ、大丈夫ですかね……?ちゃんと教会に向かってますよね?」

「佐藤くんは心配性だねー。ここまで来て信じてないのはちょっとどうなのー?」

「堀内さんはのんき過ぎるんだよ……」

「まぁまぁ十河くんが大丈夫だって言ってるしさー。私たち言葉わかんないしー」


 まるで本当の孫と祖母のように話すのは、荒木さんと久保田藍ちゃん。

 殆ど全員が久保田ちゃんを下の名前の「藍ちゃん」と呼ぶ。


「ねーねー、荒木おばあちゃん。いまどこに向かっとると?」

「あたし達を匿ってくれる教会に行ってるんだよ」

「かくまってってなに?」

「藍ちゃんには難しいかねぇ。そうさね、守ってくれるってとこだね」

「そーなんだ!」

「そうなのさ」


 もうすっかり気心の知れた仲になった俺たちは、全員が全員と気兼ねなく話せるようになっていた。

 揺れはやがて止まり、セブアルさんが「到着したぞ」と告げる。

 先導するセブアル夫妻に付いていく俺を先頭にして、馬車から降りた日本人たちがゾロゾロと教会の中へと入っていく。


「それじゃ、ソゴウくん。私は司祭様に話をしにいくから、ここで待っててくれ」

「はい、わかりました……ここで待っててくれだって」


 司祭に事情を話しに行ってくれたセブアルさんを、俺たちは中の入り口の側で待つ。


「あらあら……教会なんて初めて入ったわぁ」

「ぼ、僕は何度かありますけど、どこか違った雰囲気のように感じられますね…」

「はー、綺麗ー!ステンドグラスって異世界にもあるんだねー」

「天井高かー!きゃはは!」

「藍ちゃん、堀内ちゃん、静かにするさね」

「そうだよ、お世話になるんだから」


 外観と同じの乳白色の壁には繊細な模様が刻まれていて、壁の凹凸はミュージアムの中に居るような錯覚を感じる。

 教会の内部は地球でも見られたような建築様式みたいだが、所々で見たことの無いような独特な装飾も見受けられる。

 正直言うと建築とか装飾やらは良くわからないけど、少なくとも、馴染みのあるものではないと思う。

 ふと高い天井を見やる。

 そこには後光の差す美しい女性が瞳を閉じ、微笑みながら祈っている絵が大きく描かれていた。

 その女性の周りにも六人の男女がそれぞれのポーズを取って描かれていた。

 おぉ……綺麗な絵だな。中心のは女神様か何かかな。


 数分が経ったところで、いつぞやの男のような純白の衣服に身を包む司祭と話が終わったセブアル夫妻が笑顔で戻ってくる。


「朗報だぞ!もう既に十数人の黒づくめを匿ってるどころか、簡単な仕事も斡旋しているらしい!」

「仕事、ってことは給金が貰えるということですか?」

「ええ。雑用が殆どで、お給料は少ないって言ってましたけどね」


 いや、それでも有難いな。ずっとタダで居候する訳にもいかないだろうし。

 皆にもその事を告げると、身を置ける場所が保証されたことが決まってどこかホッとしたようだ。


「セブアルさん、本当にありがとうございました」

「良いんだよ。特に君は命の恩人だからね」


 俺の通訳の下で、全員がセブアル夫妻と別れを告げる。

 微笑みを浮かべる女性の司祭が静かに歩み寄ってきて、優しい声音で言った。


「それでは、黒づくめの方々。こちらに」




 □■□




 伝えられた通り、教会の奥の大部屋には日本人が集められていた。

 その部屋はシンプルで飾り気が無く、むしろ倉庫みたいだった。多くのベットが設置されており、男性と女性で大雑把に分けられている。

 大人は「簡単な仕事」とやらに駆り出されている時間らしく、数人の子どもしか居ない。

 あと静かにしていたパルガに関してだが、俺が御せる事を示すと共に過ごすことを快諾してもらえた。


「おままごとしてるの!?わーたーしーもーまーぜーてー!」


 藍ちゃんは早速、子どもの輪の中に入って遊んでいる。元気だなぁ。でもあの中では年長さんになるのかな。

 藍ちゃん以外のみんなは到着するなり、用意されていた空いている簡易ベットの上に座ったり、寝転んだりしている。

 俺はというと、黙々とナイフを布で磨いていた。

 大牙も武器ではあるが、手入れの必要はあまりない。更に言うと汎用性が高いと言えばこっちだ。


「……よし」


 ナイフを布で磨き終わった丁度の時に、先程の女性の司祭さんに声を掛けられた。


「ソゴウさん、少し宜しいでしょうか?貴方に話がある方がいらっしゃって」

「……話?」

「ええ、徳の高い方ですので、失礼の無いようにお願いします」


 付いてきて下さい、と言って歩き出した司祭さんに慌てて付いていく。

 ふと窓の外に視線を向けると日は暮れかけていた。

 ランプで点々と照らされる薄暗い廊下を暫くの間無言で歩いていたけど、一つ質問してみる。


「あの、大人がしているっていう簡単な仕事ってのはどんなのですか?」

「ええ。ゴミ拾い、清掃が主な仕事ですね」


 はぁ、考え過ぎだったか。

 清掃活動……妥当なところだろう。奴隷の様に働かせている!なんて言われても困っていたが。

 ……どちらにせよ、こちらはとやかく言える立場じゃないけどな。


 廊下の先には、金や銀などで上品に装飾された扉が待ち受けていた。

 すると、司祭さんが恭しく扉を開けてくれる。どうやら司祭さんは中に入らないらしい。


「失礼、します」


 緊張で自分がちゃんとした人間語を話せているか不安になりつつも、その部屋の中へ足を踏み入れる。

 様々な緑で飾り付けられていた室内だった。

 その部屋の奥には、現実では一度も無かったが、見たことのある尖った耳を持つ女性が座っていた。

 尖った耳に砂金の川のような美しい髪を掛けて、やはり純白の衣服に身を包む美女であった。


「エルフ……?」

「はい、その通りでございます。黒づくめさん」

「……あなたが、俺を呼んだんですか?」

「それも、その通りでございます。申し遅れました、わたくしの名はヴリスタ=メヒール。『聖霊教』の枢機卿でございます」


 ……す、枢機卿!?トップの教皇の次に偉い人じゃねーか!

 動揺を隠せずに思わず表情が固くなるが、そんな俺を見て、クスクスと笑う枢機卿のメヒールさん。


「そんな怖い顔をしないで欲しいです。わたくしの立場はこの際無視して結構でございます」

「……わかりました。俺の名前は十河雅樹、です」

「ふふ、ソゴウさんですね。では本題に移りましょうか。貴方をここへ呼んだのは、正体不明の黒づくめと、対話をしようと思い立ってのことでございます」

「今までは対話が成り立たなかったんですか?」

「言いたいことはわかる。だけど、それだけ……と言った訳でございました」


 困った顔の笑顔でさえも見惚れてしまいそうな美しさだ。

 おっと、気を逸らしちゃいかんな。


「俺たちは害はありません。その、変な話なんですが、俺たち黒づくめは別の世界からやって来たんです」

「はぁ、別の世界……でございますか?」

「はい。魔法や魔物が存在しない世界です。その代わり……なんていうかな……物理の法則を活かした生活をおくっていました」


 俺はポルからあり得ないくらい多くの人間語の、単語や熟語を習った。

 だがその中には、科学といった類いの言葉は一つも無かったのだ。

 あの神様とやらが「科学とか禁止」と言っていたのと関連はあるだろう。


「それは興味深い話でございますね。なるほど、異なる世界から来たということはひとまず理解しました。どの言語にも当てはまらない言葉を話すので、薄々そうではないかとも思っていました」

「俺たちは、今後どのようにすれば良いでしょうか」

「しばらくは教会が身を預かります。ですから、貴方には一人でも多く人間語を理解出来る黒づくめを育てて欲しいのでございます」

「わかりました……いつも『聖霊教』にはお世話になります」


 俺なりの皮肉を込めているのだが、まぁ伝わりなどしないだろう。


「ふふ。実を言うと黒づくめの保護の件は教皇様が決めたことではなく、国王様の勅命なのでございます」


 先の枢機卿のインパクトと比べても、現実味が無さ過ぎて、驚くタイミングを失った。


「……国王?」

「はい。正確に言いますと、国王様が国全体に向けて黒づくめを保護するように、と仰ったのでございます。教会はそのお手伝いをしているのでございます」


 国王がわざわざ俺たちを名指しで保護するように言ったのか。

 あの浮遊城にいる国王が、どんな経緯で俺たちの存在を知ったんだろう。


「じゃあ、もしかしたら一般家庭が保護している、ということもあり得るんですか?」

「あるかもしれません。しかしその場合、黒づくめさんが獣人や亜人の奴隷と同じ扱いを受けている可能性もあるので、わたくし達教会は引き渡すよう推奨しております。ご安心下さい」


 ……あぁ、忘れていた。

 この世界ではファンタジーの小説のように、いやまさにその通りなのだろう。

 まだ見たことはないが、ポルによると獣人や亜人といった者たちは迫害されており、奴隷として扱われている。

 差別されていることに変わりはないが、ポルのボルボ族は迫害されているというよりも「未開人」や「野蛮人」などといった見方らしい。

 一昔前はドワーフやエルフもそうであったが、関係が改善され、今ではそうではなくなったという。

 目の前の人物が良い例だろう。


「……細かい配慮に感謝します」

「まぁ、本当に人間語がお上手でございますね。誰に教わったのですか?」

「この異世界の、初めての友人です」


 そう言葉にしてからパルガを思い出したが、人じゃないからセーフ。


「それはきっと素晴らしい方でしょうね」

「ええ、とても優しいボルボ族の少女です」

「……ふふ、そうでございますか」


 むむ、表情を崩さなかったな。もっと動揺するかと思ったのに。

 ちょっと悔しいなどと思っていたら、メヒールさんが口元を抑え、笑いを堪えていた。


「ふふふ、ふふ。貴方はとっても友人想いの方でございますね?」

「……はは、一体なんのことやら」


 ちっ……完全に見透かされている。恥ずかしいな。

 長寿である設定の場合が多いエルフだから、見た目以上に年がいっているのかもしれない。


「なるほど。また一つ黒づくめさんの特徴がわかりましたよ。他人を重んじる、といった性質をお持ちでございますね?」

「あぁ、まぁ、そうかもしれませんね」

「別に貴方だけを見て判断したわけではございませんよ?黒づくめさんは獣人や亜人にも気を遣う、という報告がございまして」


 それはまた、なんとも日本人らしいなぁ。

 奴隷の扱いを受けていたのが目に余った人でも居たのだろうか。


「……納得しました」

「ふふ、今日はこれくらいにしておきましょう。もうディゾヌラズ様が目を閉じてしまいましたしね」

「……でぃぞ?」

「ふふ、ディゾヌラズ様……聖霊様です。教会に入ってすぐの天井をご覧になりましたか?」

「あぁ、あの綺麗な女の人の絵ですか?」

「そうです。彼女が『聖霊教』の主神であり、太陽神であり、聖霊様であるディゾヌラズ様なのでございます。そして一対の太陽を私たちはディゾヌラズ様の目だと解釈しているのでございます」


 細く白い指で自身の片目を指すメヒールさん。

 太陽神で主神、ということはそのディゾヌラズ神の周りにいた六人も神様で、何かしらを司っているのだろう。


「貴重なお話、ありがとうございます」

「良いのでございますよ。こちらこそお話に付き合わせて申し訳ありません。それでは今度こそ、お休みなさい」


 外で待機していた司祭の女性に連れられてその部屋を出る。

 扉が閉まる直前、振り向いて中を見るとまだメヒールさんは俺に微笑み掛けていた。


「……」

「お疲れ様でした。またお部屋まで案内させて貰いますね」

「はい、お願いします」


 疲れが溜まっているから早く寝たい……という気持ちを抑えつつ、日本人のいる大部屋に戻っていった。

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