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ロア・オブ・ライフ  作者: 爺々屋
帝都編
33/82

ドワーフのリャーノ

※3/1、日本人の下の名前をカタカナで追加しました

「お邪魔するのである!とう!」


 高らかにそう言いながら、馬車へと飛び乗ってきた木の巨人から助けてくれた少女。

 その少女は近くで見れば見るほど小柄で、どうにも物を投げて木の巨人の腕を折る力があるようには見えなかった。

 栗色の髪の下につく顔は幼いが凛々しい目つきであり、口元は得意気な笑みを浮かべている。

 片手に手持ちサイズの斧を携えている。先程投げたのは斧なのだろう。


「助かった、ありがとう」

「うむ、礼には及ばん!我輩も移動手段が無く困っていたのである!」


 語調や態度から察するに、豪儀な性格だろうな。何故か腕組んでるし。


「ふむ。ところで、商人らが何処に行ったか知らないであるか?」

「先」

「おお、もう避難していたであるか!良かったのである」


 ポルがボソッと「先」と言っただけで瞬時に理解しやがった。頭の回転は悪くないよう。

 馬車が進むつれ、林の木が疎らになり、木の巨人の姿は見えなくなる。もう安心と言っていいだろう。

 馬車の速度が緩やかになる。


「いやはやしかし。なんだったのであろうか、あの魔物は」

「スコーチトレント。『枯れ木の巣窟』。特有。魔物」

「ほう、なる程!我輩は東方より流浪する身ゆえ、この地域の魔物には詳しくないのであるよ」

「納得」


 少女の喋りは早く、俺は必死に聞き取っているが、少女は構わず素っ気ないポルに一方的に話し掛け続ける。


「ぬぉー!思い出してしまったのである!そういえば貴重な手斧の一本を消費してしまったのである!買い直さねばならぬ!」

「弁償。可能。範囲内」

「ぬ?……はっ、ねだるような形になってしまったのである!そんなつもりは無いのである!」

「命。恩人。当然」

「かーっ良き人であるなぁー!おっとぉ!名前を言っていませんでしたな!我輩はリャーノ=ギゴ=アンベルスと言う者である!リャーノで結構!」

「ポル」

「ポル殿であるな!宜しくである!ボルボ族の方とお見受けする、初めて会ったのである!確か南方の『原魔の森』周辺を囲うように生活する原住民でありましたな!」


 ……全く会話に入りこめねぇ!というか喋っているの少女、リャーノだけだ。

 速さが途轍もない。これが女子力。

 阿呆なことを考えていると、今度は俺に顔をぐるりと向けてきた。


「おっと!御仁にも挨拶が遅れたのである!我輩はリャーノ=ギゴ=アンベルスである!」

「えー、俺は、十河、宜しく」

「うむ!ソゴウ殿!宜しくである!む、もしやこの熊の魔物もお仲間であるか!?これはこらはなんとも暖かそうな毛並みであるぅ!」


 ……女子力高いわー。



 ▽▽▼



 リャーノの女子力という名のマシンガントークに圧倒されながら馬車を走らせていると、先程の馬車たちが開けた場所で停車している所へとたどり着く。


「リャーノさん!ご無事でしたか!」

「うむ、セブアル殿と夫人もご無事なようでなにより!」


 話を聞くと、リャーノはこの商人の護衛として雇われていたらしい。別行動だったのは、リャーノが木の巨人の気を引いていたからだとか。

 この地域に初めて来た商人とその妻は林が危険とは知らず、道中にまんまと襲われてしまったと言う訳だ。

 新米の商人ということで、手持ちが乏しく、同じく新米の冒険者を雇うしかなかったんだと。

 その新米の冒険者は最後尾の馬車に集まっており、運悪く木の巨人の奇襲で全滅。あの、大破していた馬車だ。

 何人か救えなかったのに心が痛むが、商人夫婦を助けられただけでも良かった。

 ああ、それと一番大事なことを忘れそうだった。


「商人さん、黒づくめ、居る?」

「ん?ああ、あの馬車に居るよ。会ってやってくれ」


 足早に、示された馬車へと向かう。

 天幕をヒョイと開けると、日本人たちがこちらを一斉に向いた。

 その中で、さっき言葉を交わした太った大柄の男性が話しかけてくる。


「あ、さっきの!日本人!」

「ども。えーと……保護されてるんですか?」

「そう、そうなんだよ。優しい人が拾ってくれて……僕たちはマンガかラノ、小説みたいに草原のど真ん中に立ってたんだ」

「……それはいつの話なんですか?」

「うん?一週間前くらいかな」


 何を話すべきか決めていなかった俺も悪いが、今ここで話すべきことなのかこれは。

 しかしどうやら、異世界へ飛ばされた時期は人によって異なるみたいだな。

 それと「僕たち」という表現を使ったってことは、この人たちは纏まって異世界に飛ばされたらしい。

 ならば、俺とセットだったのが、恐らくミキさんだったんだな。


「そうですか……俺、十河雅木って言います。年は19です。一ヶ月くらい前にこの異世界に来てました。多分、皆さんより少しだけ、詳しくと思います」


 異世界の名前は、確かスピエルぜウク、だったか。


「一ヶ月!?よく生きてたね……僕は浜島ユウキ。年は21だよ。えっと、他の人たちは……」


 俺と浜島さんが馬車の中に目を向けると、子ども、お年寄り、女性、ひ弱そうな少年……と様々であった。

 一通り他の日本人に挨拶を済ますと、商人が「そろそろ出発するよ」と言ってきた。


「了解、した!俺、この馬車、入る」

「ソゴウ」

「あ、ポル。仲間、居た、から、そっち行く。良い?」

「……うん」


 あれ?

 何故か普通に頷かれた。

 ポルの態度はよく分からないが、俺は日本人の集められた馬車に乗り込み、情報共有をすることにしよう。

 馬車が動き出す。

 車内はポルの馬車より、申し訳ないが少し居心地が良かった。


「十河さんだっけ。凄いね、異世界の言語を話せるんだ」

「ええ、まぁ、色々ありまして。何かわからないこととか、知ってることってありますか?情報を共有しましょう」


 それから、三十分程だろうか。俺を中心にして、この異世界のことを出来る限り話した。

 魔法が存在する。

 恐ろしい魔物がいる。

 一日が地球よりやや短い。

 しかし、話せば話すほど、俺自身も大してこの異世界を知ってる訳ではないことに気付いた。

 出せる情報が少なくなると、車内は静かになっていった。


「まぁ、そんなものだよねぇ……ところで、よくさっきは生きてたね。ほら、あの林で魔物に向かっていったじゃないか」

「ああ……逃げ足には自信があるんですよ」


 それと、なんとなく「燐光」のことだけは伏せておいた。

 理由は、もし俺以外の日本人が「燐光」を使えないとしたら。

 どんな目で見られるか分からないから、だな。

 ……自己中かな、俺。

 すると、俺の様子を伺っていた、堀内さんというオカッパ眼鏡の女性が小さく挙手しながら話しかけてきた。


「あのぅ、質問いいかなー?」

「はい」

「ちょくちょく覗いてくるその熊は敵じゃないよね?」


 振り返ると、やはりパルガだった。日本人に興味津々なようだ。

 ああ、だからやけにみんな端に寄っていたんだ……俺の顔を見て嫌がってるのかと思った。


「大丈夫ですよ、こいつは友達です。パルガっていいます」

「へー、友達!ね、ね、触ってもいいかな?いけるぅ?」

「えぇ、まぁ。噛みも吠えもしません」


 なんかそれじゃ犬みたいだな。

 いかんいかん。一般の熊への評価がおかしくなりそうだ。いや、大熊を思い出せ、あれは怖いだろ。


「よっし!」


 そう気合を入れると、堀内さんはスルスルとパルガの近くに寄っていった。その動きにむしろパルガがびくっとする。

 堀内さんは笑顔で、しかも全力でパルガの顔面を撫で回す。


「おーよちよち!私動物とかマスコットキャラとか好きなんだよねー!うひょー!熊が近ーい!そう言えば一昨年あたりに流行ったクマ太郎ってマスコットキャラ居たよねー!」


 それは俺でも知ってる。いやだけど曲がりもなにも熊だぞ?怖くないのか。

 パルガが歩きながら、頭を馬車にいれて、顔を撫でられているかと思うと笑ってしまう。

 大人しいパルガを見て安心したのか、他の日本人も笑顔を浮かべている。


「……があ」


 すると撫でられていたパルガが、近くに居た俺の衣服をやんわりと噛んだ。


「え?……ちょ、なんだよ!」


 ズルズルと、有無を言わせないように馬車から引きずり出され、横に居たポルの馬車の中へ乱雑に落とされる。

 手綱を持ったポルが、目だけをこちらに向けた。


「あー……ただいま?」

「……ん」


 結局、俺はまたよく揺れるポルの馬車で過ごすことになった。



 □□■



 それから俺たちは比較的、安全な旅を続けた。


 時には魔物に襲われることもあったが、どれも小さな魔物ばかりで、リャーノがほとんど倒してしまっていた。

 魔物が現れるとポルやパルガも参戦しようとするが、その度にリャーノは「これは護衛の仕事であるぅ!」と主張して譲らなかったのだ。

 そのリャーノだが、彼女は所謂『ドワーフ』の種族であったらしい。種族の特徴は予想通り、力持ちということであった。

 その剛腕ぶりはパルガ顔負けであり、手斧一つで大抵の魔物を屠っていた。

 武者修行という名目で生まれ故郷を出てきたんだとか。逞しい。

 そして俺と日本人たちの、それに日本人と異世界人との関係は良好だ。

 最初は俺も、浜島ユウキさんや堀内ミカさんだけだったが、徐々に他の人とも仲良くなれた。

 穏やかな主婦の岡本レイコさん。

 優しき妙齢の女性の荒木タマオさん。

 可愛い5歳児の久保田アイちゃん。

 内気な中学二年生の佐藤マサムネくん。

 である。

 俺を除いたこの六人が日本人の全員だった。

 ちなみにだが、木の巨人に殺された御者の代わりに日本人が乗る馬車の手綱を握ってるのは年長者の荒木さん。

 北海道の農家出身で、馬によく触れていたんだとか。

『枯れ木の巣窟』という名だった林を抜けてから、約一週間が経つ。

 異世界での一日は短いため、実質四日か五日といったところだ。

 その頃には俺と日本人はもちろん、商人夫婦やポル、パルガさえもすっかり打ち解けていた。


 ポルの魔法が日本人のかき集めた枝葉に火を点ける。その焚き火を囲み、星空の下で夕食を摂るのが通例となっていた。

 食材の多くを商人のセブアルさんとその奥さんから提供してもらっている。


「今日もさぶないスープだけど、我慢して下さいね」


 申し訳なさそうな笑顔のセブアル夫人からスープが注がれた底の深い皿を受け取る。


「いえ、こうして食事を頂いているだけで嬉しいです」

「そう、ありがとうね。ソゴウくん」


 俺の人間語の言語能力はほぼ完璧にまで近づいていた。驚き、というよりむしろ気味の悪さを感じている。

 日本で、普段耳にすることもある英語ですらまともに覚えられないというのに、聴き覚えのない異世界の言語をこんなにも早く憶えられるもんなのかな。

 憶えなければ未だ電気を流されるから、というだけでは納得しづらいが。


「……うーむ」

「おや、ソゴウ殿何か悩み事でもあるのであるか?」

「ん?ああ……いや。あとどれくらいで帝都ってとこに着くのかなぁって」

「そうですな、この調子だとあと日の出を二度拝む頃には着いておりますぞ!」

「……あー、うん。わかった」


 リャーノはたまにわかり辛い言葉を用いてくるから聞き取るのが困難な時があるから困る。

 しかし、リャーノという人は所謂天才肌というのが分かってきた。

 ポルだってこんなに幼いのに魔法をバンバン使えるが、リャーノは性格に似合わず知識の造詣が深いのだ。食べ物だったり、文化についてだったり。

 あー、そうだ。知識といえば。


「なぁ、リャーノ。変な質問なんだけど、魔法じゃない魔法……ていうのってある?」

「ほう、魔法じゃない魔法でありますか?例えばどのような」

「えー……力が増したり、敵を察知出来たり、とか」

「ふむ、ありますぞ!」

「……ホントか!?」


 まさか肯定の答えが返ってくるとは思わず、つい声が大きくなる。

 リャーノは手に持っていた皿を傾けてかっかっかっとスープを掻きこんだ後、ゆっくりと話し出す。


「うむ、本当である!それはおそらく『闘気』(オーラ)であろう」

「『闘気』?」

「うむ。『闘気』の話をする前に、ソゴウ殿は魔法がどのように発動されるか御存知であるか?」

「いや……知らないな」

「では、ポル殿は御存知であるかな?」


 リャーノが、馬車の荷台の上に座って食事をとっていたポルにそう質問する。ポルは口を閉ざしたまま、コクンと首肯した。


「では、ポル殿。魔法とはどのように発動するか教えて頂いても構わぬであるか?」

「……魔法とは」


 え、いま、「とは」って言ったか。あの単語しか喋ろうとしないポルが。

 と思った直後に更なる衝撃が走る。


「体内の魔力が術者の意識、言語、行動に従って固定化され体外に発現されるもの。魔法には無・火・水・風・土・雷・闇・光の八つの属性があり、術者の意志によって体内で分類される。また、属性には術者によって天性の適性が存在する」

「素晴らしい!模範解答である!……ソゴウ殿。それが一般的な魔法である」


 スープを口に運ぶ作業は止まり、口は半開きになってしまった。内容はなんとか聞き取る事が出来たけど。

 ポルってそんなに流暢に喋れるのかよ。なんで普段は単語なんだよ。分かりやすいけどさ。


「ああ、大体分かった。じゃあその『闘気』ってのは?」

「ずばり『闘気』とは。魔法と異なり、魔力を体内で用いた身体能力の上昇術である」


 リャーノは人差し指をぴんと立てて、俺とポルに向かって教職の人間のように、雄弁に話し出す。


「魔法を使わずに魔力を溜めに溜め、肉体を酷使したり、精神を研ぎ澄ますなどの事で体内の魔力が肉体を活性化させ、常人ならざる力を得る、いわば奥義。これは意図的に最初から出来るものではなく、魔力をある意味「鍛えた」結果が『闘気』なのである。我輩などの戦士や騎士など、前衛を担う者達にとっての一つの到達点であるな」

「へぇー」

「よって『闘気』を纏う者は魔法を使えないという欠点があるのである。しかし、中には魔法を使いつつも『闘気』を生み出すという異常な魔力量を持つ者も居るとか。有名なのが、八年前に一世を風靡した『紅吽龍彗』の『彗』という格闘家であるな。魔力と『闘気』の両方を巧みに使いこなしていたらしいのである」

「……『紅吽龍彗』?なんだそれ?」


 聴き覚えのない単語だ。もしかして固有名詞か?

 頭をどれだけ捻っても出てこない。チラッとポルの方を見ても、怒っていないので知らない単語だろう。


「おおっと、違う世界から来たソゴウ殿が知る由も無かったであるな。失敬失敬。ちょいと昔に有名になった(パーティー)であるよ。我輩が十六の時であったか……と、そんな事はどうでもいいであるな」


 ……リャーノと商人夫婦には俺たち日本人が全く別の世界から来たことを説明している。

 リャーノは純粋に信じてくれたが、商人夫婦は訝しんでる表情だった。

 ポルにも詳しいことを話すのは初めてだったけど、特に変わりは無い。

 あちらにとっては荒唐無稽な話だろう。商人夫婦の反応が正しいはずだ。なにせ、「違う世界から来た」などと言ったのだから。

 狂人か、はたまた奇人とも捉えられる。

 リャーノはスクっと立ち上がると、楽しそうに騒いでいるパルガを始めとした日本人たちと商人夫婦を笑顔で眺めて言う。


「異なる世界、とは言っても。ああして笑いあえる人間である。黒の髪に黒の瞳というのは物珍しいであるが、なんてことはなあであるよ」

「気持ち悪い、とか思わなかったのか?」


 ドバレアでの、人々の反応が思い出される。


「まさか!」


 しかし、リャーノは即答で否定した。

 腰に手を当てて尊大な態度で立つリャーノは、得意気そうな笑顔で言い放った。


「我輩は人を見る!それは決して皮や毛などではないのである!」

「はは、成る程な」

「……むふ」


 背後でも笑い声がした。

 俺は振り向くなんて無粋なことはせず、立ち上がり、騒いでいるパルガ達が居る方へ歩いていった。


 その晩はパルガを相手にした相撲もどきで大いに盛り上がった。

 最もパルガを苦戦させた、というか唯一負けさせたのがリャーノだったということも言い加えておこう。

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