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ロア・オブ・ライフ  作者: 爺々屋
帝都編
31/82

燐光とは

二章あらすじ

密林の外で褐色白髪の少女ポルと出会う。二人で子熊の名前を「パルガ」と名付けた。

南部国の街ドバレアには宿屋の主人フェインの手引きで入ることとなった。

十河がドバレアに来て二日後、ドバレアは黒翼竜の襲撃を受ける。多くの死傷者を出しながらも、それらを撃退。

しかし立て続けにその夜。ポルと宿屋の娘ネーレが攫われる。そして十河とパルガが救い、事無きを得たのだった。

十河とポルとパルガの二人と一匹は、フェイン一家に見送られてドバレアを出発する。

 ローブを脱ぎ、民族衣装らしい色鮮やかなポシェットだけを着たポル。

 簡素なベットに女の子座りしながら熱を帯びた目で俺を見つめている。


「ソゴウ……」


 俺は、思わずゴクリと唾を飲み込んでポルの深い青の瞳を見つめ返した。

 このままでは駄目だ。

 ポルの気持ちに応えなきゃいけない、男が廃るというものだ。

 意を決して、目を瞑る。

 そして……

『原魔の森』に居た時よりも集中力が上がった俺は、見られながらも難なく「燐光」を放つことが出来た。


「なぁ、どうだ?」


「………………」


 ポルに「燐光」がどんな魔法なのかを見てもらっていた。

 ちなみに、パルガは俺のすぐ後ろでリンゴをかじっている。汁が飛ぶからもう少し下がりなさい。


「ソゴウ」


「おう」


 ポルはまたも考えるように目線を落とし、そのまま呟くように告げる。


「……魔法。否。謎」


「………………え?」


 結論から言うと。

 俺が魔法だと思っていた「燐光」は、魔法ではなかった。


 俺がポルに「燐光」を見てもらっていた場所は、ドバレアから帝都への道のりの間にある集落とも呼べる、村の宿屋である。

 この衝撃的な事実を教えられるまでの経緯を辿ると、村にたどり着く少し前まで遡ることになる。




 △△▲




 意気込んでドバレアを出発をしたは良いが、道中は開けた平原が続き、二日程経った今のところ魔物に襲われることなど全然無い。

 超平和だ。

 ドバレアの方面に生まれている高い入道雲を見つめながら、無造作に荷物から物を出してパルガと人間語の単語の練習をしていた。


「パルガー、これなんだー」

「にんじん」

「これは?」

「肉」

「残念ー、正確にハ、ギュう肉、でした」

「ソゴウ。発音。悪質。牛肉」

「あー、はいはいポルさん、すみませーんねー」

「……今日。指導。強化」

「いやほんと済みません」

「愚かなり」

「うっせぇぞパルガ。なんでそれだけ発音良いんだよ!」


 ピオという名の馬は若いがのんびりとした性格のようで、スピード感は全くない。

 これは確かにあと二週間とちょっと掛かるな。

 それにしてもこの旅が二週間か。意外と長いんだよなぁ。


「ポル。ここら辺、魔物、居なイのか?」


 そう手綱を持ったままのポルの背中に訪ねると首をゆるく横に振る。つまり、居るには居るということ。

 それだったら、まぁいいか。

 ……いいか?


(……おいおい、何が良いんだよ。魔物なんて、出ない方が良い決まってるのに)


 なんでだろう。魔物を倒さないと落ち着かないような気分だ。ストレス溜まってるのな俺。

 単語テストをするのもやめて、目をつむり、瞑想する。

 休む目的もあるが、魔物に近付かれていた時に備えてだ。


(ああ、魔物。居ないか……)


 なぁ、とぼんやり考えていたら隣と言っても差し支えないほどの距離に気配を察知する。

 しかしすぐに起きたりはしない、冷静に相手の数を確認する。する事が出来た。俺も成長したなぁ。

 一、ニ、三……三匹。


「パルガ!そこの草むらに三匹、何かいるぞ!」

「……がぁああ!」


 指を指して言うと、パルガは勢い良く草むらの中に飛び込んでいった。

 すると、慌ててニ匹の豚面の人が飛び出してきた。

 油断していた一匹はパルガの爪の餌食となったようだ。


(オーク……って奴か?そういや、密林では見なかったな)


「おい、言葉、通じるカ?」


 今更だが一応、声を掛けてみる。これで実は言葉が通じるなんてなったらシャレにならない。


「ぶばぁぁああ!!」

「ばぁあばぁぁ!!」


 ……余計な心配だった。

 二匹のオークは粗末な槍を構えて突進してくる。

 動きは鈍重で、我先にと向かって来て、互いに肩で押し合っている。

 俺なんかが言うのもなんだが、舐められたもんだな。

 身体を鋼鉄のように硬くする為「集中」すると、周囲にパチリと小さな音をたてて燐光が浮かぶ。

 ……汚い首をへし折ってやる。


(らい)炸裂(バースト)


 しかしその時、馬車の方から人間語の特訓のとは比較にならない雷撃が飛んできて、オークの一匹を焦がした。


「……不快」


 まぁ、女の子があのフォルムを好きになれるとはあまり思えない。

 すぐ隣の仲間が食らった電撃で痺れたのか、生きている方はたたらを踏んでいる。

 牙を逆手に持ち、軽くステップで近づくと、身長二メートルほどのオークと目が合う。


「死んどけ、豚」


 側頭部に牙を突き刺す。

 ずるりと牙は頭蓋を貫き、言われた通り呆気なくオークは死んだ。

 俺の本来の腕力ならこんな芸当は無理だが、強化魔法の「燐光」のお陰で無理も出来るってもんだ。


「ふう、倒し終えたな」

「……ソゴウ」

「ああ、大丈夫。怪我も、ないし、汚れても、ない」

「否、否。疑問」


 そう俺の事を睨むような目線でポルが言う。


「疑問?なんだ?」

「それ、昨晩、使用、何」

「……使用?この、光ノ、事か?」

「是……」

「がぁあ!」


 草むらから出てきたパルガが、緊迫した吠え方をした。

 まだ残っていたのか?と振り返ると、魔物がパルガの後方の地面から出てきた。

 大腸とも言えるようなピンク色な縄状のフォルム。

 ぬめぬめとした体皮が陽光に照らされて、キモい。


 でっかいミミズだった。


 太さが一メートルはあろうそれが、戻ってくるパルガを追うように身体をぐねぐねさせながら向かってくる。


「うああああああ!!キメぇええええええ!!なんだあれよぉおおおあああ!!」


 触りたくねぇ!牙でも嫌だ!


「……()放射(シュート)


 心底気持ち悪かったので一目散に逃げようとしたが、ポルは平静としたまま火の魔法をミミズへと放つ。

 ミミズなので、断末魔を上げたりせずに丸焦げになっていた。あー良かった、爆発とかじゃなくて。


「うえー……でもキモいものはキモいな……」


 焼き肉で言うホルモンみたい……あ、もう俺ホルモン食えないかもしれない。こちらの世界にホルモン焼きがあるかは知らないが。

 追撃はない……みたいだな。

 さて、ドハレアを出てから最初の魔物襲来が無事終わったので改めて進もうとする。


「ぬおぉお!あんたらぁ!なんてことをしてんだぁ!」


 すると後ろから、大声を掛けられた。何て言った?

 振り返ると、いかにも農民らしい男が怒った顔で走ってきていた。手には鉄製のクワを持ち、ボロっとした薄茶色の服を着ている。


「おま、おまえら!ミミズ様をぶっ殺してんじゃねぇよ!?」


 誰かを殺すなよ、みたいなのを言ったのは解る。まさかミミズの事か?


「ポル、誰を、殺すの駄目?念話、くれ」

(……ミミズ)


 ポルは念話でそう告げる。ああ、やっぱりか。でもなんでだ。


「オークは良い!だが!おまえらが殺したミミズ様は!この辺の土壌を良くしてくれるありがてぇお方なんだよ!」

(ミミズ、一帯、土壌、良好、変化)


 その農民の男の話の内容を言わずとも念話で伝えてくれる。

 ええと?つまりミミズは農家にとっては大事だったってことか?

 そんなこと言われても、明らかにパルガを狙って追っていたしなぁ。


「おい!聞いてんかよ、どうしてくれんだよ!それとも言葉がわっかんねぇのか!?」


 俺より人間語が喋れるはずのポルは我関せずと言わんばかりに前を向いたまま。

 仕方なく、俺が対応することに。


「えー……悪い、知らなかっタ。でもミミズ、襲ってきタ。あー……自分たち、正しい」

「ああん!?そりゃ、おまえらが土を荒らしそうな野蛮な人間に見えたからだろうがスットコドッコイ!」


 最後なんつった?

 これは、なんと言っても怒っちゃう奴だ。

 論理的に話をしても無駄で、論理的に話せば話すほど怒りはヒートアップするだろうな。


「大体よぉ!?土に優しーい気持ちを持って接していればこんなことには……」

「がぁぁぁぁあああ!!」


 なにやら農民の男が説教を始めそうななった時、黙って馬車の隣にいたパルガが咆える。

 バッと、パルガが咆えた方向に目を向ける。

 そこには、うねうねとしたピンク色の内臓のような絨毯が広がっていた。

 それも、こちらに向かって。

 風景を表す表現で、絨毯というのがここまで不快なのも初めてだなぁ。


「に……逃げろぉぉおおおお!!」

「お前も逃げてんじゃねぇかよ!!」


 最初に逃げろといったのは農民の男である。

 ポルはピシッと手綱を鳴らすと、馬のピオは今までよりも格段に速く走りだす。

 俺は荷台に乗り、パルガは横を並走する。熊って案外、脚速いんだよな。

 馬の速度だと逃げられそうだが、哀れなのは農民の男。今にもピンクの絨毯に飲まれそうだ。


「た、助けてくれぇぇえええ!嫌だぁ!死にたくないぃいい!!」


 ……どうする。触りたくない云々は置いといて、俺一人でどうにかなる相手じゃない。

 黙々としたまま馬を操るポルの背中に向かって声を荒げる。


「ポルッ!!なんとか、大きい、魔法、ミミズに、使えないカ!?」

「皆無」


 無いのかよ!


「……手綱。交代。状態。維持。要求」

「え……!?ちょ、おま!」


 ポルに魔法を使えないか聞くと、馬車の手綱を渡してきた。俺、馬の扱い方なんてわからないだけど!

 だが馬のピオはそんな俺にも構わず、真っ直ぐに走り続けていてくれている。有り難い。


「嫌だぁぁぁああああ!!」

「風。目標。固定。吸引」

「ぬぁ!?」


 後ろを見ると、農民の男がポルの魔法で引き寄せられて荷台に倒れていた。助かったようだ。


「お、オラは助かった、助かったのかァ!?」

「……ソゴウ!手綱!」

「え?」


 ポルが無表情のまま緊迫した声を出す。

 前を向くと進行方向先の地面が盛り上がっている。

 不味い、ミミズか!?


「くっ……!?」

「手綱。交代!」


 なんとかそれを避けようと手綱をがむしゃらに引っ張ろうとしたとこで、ポルが俺から手綱を奪う。

 ピオはそのやり取りでで慌ててしまうものの、減速しながら直進する。


「済まん!ポル、後ろから、来てる!急ぐ!」

「………っ」


 ポルが手綱をグイッと迷いなく引くと、ピオはそれに従って道の脇ギリギリをすり抜ける。パルガは逆側だ。

 すると予想通りミミズが道の真ん中で地面から姿を現していた。


(よし、避けられ……)


 しかし、馬車は運悪く石に車輪が当たり車体が大きく跳ねる。俺は身体を固定していたので問題はなかったが、


「……ああ!?」


 荷物の幾つかと共に農民の男が車体から身体が離れていた。

 しかもパルガが居る方と逆の方に。パルガの助けは、期待出来ない。


「くそ!手を、伸ばせ!!」

「ひぃあ……!」


 俺は精一杯、男は体が強張っている所為で少しだけ、互いに手を伸ばしあう。

 しかし、直感してしまう。


(届か、ない……!!)


 もうちょっと、もうちょっとなんだ。あと少しで、男の手ごと手首も掴める。

 身体を半身傾けるんだ、手をもっと出すんだ。

 そうすれば「届く」!


「うおおおおおお!!」

「ひぃあああぁ!!」


 ぱちり、と燐光が光る。

 ガシッと、確かに男の手の感触を感じ、思いっきり引っ張る。

 農民の男は荷台に転がり、巻き込まれた俺は下敷きになっていた。

 ああ……助けられた。


「はああ……」

「お、オラ、今度こそ助かったんかぁ……」


 そのまま馬車は速度を上げてミミズの大群から距離を離す。数分もしないうちに、ミミズの影は見えなくなった。








 寂れているとまではいかないくらいだが、人の少ない土色の農村にたどり着くと、やっと落ち着いた農民の男が俺らに頭を下げた。


「ほんっ……とうに助かった!お前らは命の恩人だ!」

「いやぁ、ミミズ様ニ、追いかけられタ、嬉しかったなぁ」


 出会い頭に説教されている途中にそのありがてぇミミズに追いかけられたんだから、嫌味の一つも言いたくなる。


「わ、悪かったって。村の外に出るのも初めてだったんだよ。ミミズはいい魔物だとも聞いてたしよぉ……お礼と言っちゃあなんだが、村の宿代はオラが払う。知り合いが経営してるしな」


 こんな小さい村で知り合いが居ないのは引きこもりくらいだ。と、喉まで出かかったが我慢。田舎者を馬鹿にしてしまうのは都会っ子の悪い癖だ。


 俺の想像する都会にはもう行くことか出来るかもわからないけどな。


 男の案内で村の奥へと進むと、意外にも立派な木造の宿屋に着いた。

 フェインさんの宿には数段劣るが、充分どころか、村にそぐわないくらい立派だ。


「おお……良い、宿屋、だな」

「この村はドバレアと帝都を結ぶ中間地点だからな、素朴そうに見えるが生活は豊かなんだぜ?……おおーい!誰か居るかー!?」


 やがて奥から宿屋の主人が現れ、農民の男……結局最後まで名前を聞かなかった……がカクカクシカジカと説明して、一番大きな部屋をとってもらった。


 馬車とピオを外に繋いでから、二人と一匹で部屋の中へと入る。

 さりげなくポルと同室になってしまったが、俺が気を遣えばいい話か。

 パルガはやけに宿屋の主人に気に入られ、リンゴで餌付けされていた。

 もうじき夜なので、あとで食事を運んできてくれるそうだ。


「ソゴウ」

「ん、なんだ。どこで、寝たいか、ことか?」

「否。光」


 光?ああ、燐光のことか。

 そうだな、この際だし燐光ってどんな魔法なのか聞いてみるか。


「光、あれ、俺の使えル、魔法。どんな魔法かは、知らない」

「……検証。ソゴウ。着座」

「ああ」


 ポルはどうやら俺の魔法を調べるのに本腰を入れるようで……っていきなりローブ脱ぐなよ、ビビった。

 そう言えばローブの下はあんまり見たことないな。ポンチョになってんのか、色とりどりだな。

 ベットに腰を降ろし、こちらを見てくるポルの眼差しは真剣そのもの。

 しかしポルの生足が視界に映ってしまい、恥ずかしくなって早々に目を閉じる。いや、俺は断じてロリコンじゃない。


「ソゴウ。光」

「はいはい……ちょっと待ってろって……」


 目を瞑って「ああ、ミキさんともやったよなぁ」と、思わず考えてしまった。

 本当に、少しだけだが、悲しくなった。



 ……それでその結果。

 俺の「燐光」は、魔法ではないという事「だけ」が判明したのだ。

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