表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロア・オブ・ライフ  作者: 爺々屋
密林編
3/82

熊と蛇、肉と牙

 朝霧の中。動く影が二つあった。

 共通点は、二つとも生き物であり、地球では滅多にお目にかからないデカさということ。

 異なる点は、明らかに形状が違うということ。

 一つは、今まで見たことのある縄よりも何回りも太く、長い。

 一つは、動物園で見たことのあるそれに似たものよりも何回りも大きい。

 それらが、俺が息を殺している木のすぐ近くで睨みあっていた。

 片や唸り声をあげ、俺なんて紙切れのよりも容易く切り裂くことが出来るであろう爪をみせながら威嚇する。

 片や強靭な筋肉の塊である肉体をくねらせて、チョロチョロと先が二股に分かれた真っ赤な舌を挑発するように、俺なんて丸呑み出来る大きな口から出し入れしている。


 ………勘弁してください。




 □□■




「ん……ぐ、痛ぇ」


 木の上で布団もなしに、無理な体勢で寝ていたため、身体中バキバキで目が覚めた。

 身体と痛みと足の痛みを感じながら、俺はキョロキョロと周りを見渡して木からゆっくりと降りる。

 目が覚めたとき、まだ日は完全に昇りきっておらず、霧が出ていて視界が悪かった。五メートル先も見えない。

 そんな中で俺は、いまだ痛む足を湧き水で冷やしていた。

 痛みは昨日ほどではなくなったものの、色はそのままであり、用心に越したことはないだろう。

 傷口にバイ菌が入ってこれ以上悪化することは避けたい。


「どうすっかなぁ、この足のまんまじゃ探索も出来ないだろうし。まずは食料が欲しいな……水はここにあることだし。食料といっても木の実かなんかだろうけど。動物、じゃなくてここでは魔物なのか?それが食べるものをチェックしたいな。あと、靴だ。靴。大きい葉っぱを足に巻きつければそれっぽくなるだろう……昨日みたいなのはもう嫌だからな」


 などとぶつぶつ呟き、思考で痛みを紛らわせながら今後の動きを考えていたところだった。

 ガサ……と、草を掻き分ける音が聞こえた。はっきりと。

 身体は驚いて跳ね上がり、心臓が暴れだす。

 ただの動物?……それともお約束の魔物?

 なんて警戒してみたが、もしや人間なのでは。同じ日本人とか、原住民とか!

 俺がこの森――というより密林だろうか――にトリップしたということは他の人間もいるのではないだろうか。

 しかし、声をかけようかと思案した直後。


「グルルルル……」


 と、唸り声が聞こえた。

 脇目も振らず木の上に逃げる。木の上に登るまで異様に冷静に最速で動いた自覚がある。

 グルルて、グルルて!

 絶対に人間ではない声にガタガタと震え、息を殺しながら正体不明のものを木の上で待ち構える。

 やがて、ズシっズシっ、と地に足を踏みつけるような足音が響いてくる。

 それは地球でいう熊に似ていた。全身が黒い体毛で、頭に水晶のような角が生えている。

 それと、デカイ。

 地球の熊も勿論デカイが、コイツは比にならない。

 地球の熊の大きさを1クマとするとコイツは3クマくらいある。

 恐怖のあまり意味の分からないことを考えていると、巨大熊が来た反対の方向から、ズル……と、重い物を引きずったような音が聞こえてきた。

 嘘だろ、今度はなんだよ、と関節のきしむ音すら出さないように首を回す。

 絶句した。

 いや、最初から言葉は絶っていたので頭の中が真っ白になったというべきか。

 ホラーサバイバル映画で出てきそうな巨大な蛇のそれが、ズルズルと熊と合流する方向に向かいながら地を這っていたのだ。毒々しい紫と青が混ざったような色の鱗を持つ大蛇。

 やがてその二体は同じ場所で相まみえる。

 湧き水の場所だ。

 危ないところだった。あのまま足を冷やし続けてたら。

 怖くてそれより先は考えられない。嘘だ。轢き殺される想像をしてしまった。

 すると、大熊のほうがその蛇を視認すると大声をあげた。


「グルぉぉぉぉオオオオ!!」


 ビリビリと空気が揺れる。

 あまりの大音量に俺は声を出しそうになったが、口に手を押し当てなんとか堪える。

 蛇の方は大声こそ出さないものの、大きな顎をカパァと大きく開き、熊を見下すように屹立している。蛇の頭は木よりも高い位置にある。

 俺の位置からだと熊の右側の背中が見え、蛇は正面から見えている。

 とはいえ両者とも俺との距離はどっこいどっこいなのでどちらにせよ、怖い。少し移動しただけで、ここまで来てしまう可能性のほうが少なくないだろう。

 先に動いたのは大蛇の方だった。

 俺の目にはそそり立っていた大蛇の頭部がぶれたようにしか見えなかったが、大熊に襲い掛かったようだ。

 それを大熊はまたもや俺の目には捉えることが不可能なスピードで、大木なような腕を振るう。

 ギャリっ!と硬質な物を引っ掻く音が密林に響いた。

 大蛇は熊が腕を振った方向に吹き飛ばされていたが、無傷のようで、ギョロリと熊を睨めつける。

 大蛇が、大熊の頭を呑み込まんと口を開けゆっくりと近付く。

 大熊はゆっくりと近付いてくることに警戒したのか、唸り声をあげながら一気に大蛇との距離を詰める。

 だが、大蛇は尻尾を振るい、大熊の横腹を殴る。傍から見ていた俺でも全く意識していなかった攻撃だった。

 しかし熊はそれを察していたのか、並外れた反射神経なのか、振るわれた方向にわざと跳び、衝撃を減らしたようだった。

 あれを俺が全力で上手くやっても内蔵がぐちゃぐちゃになって死ぬだろうな。

 体勢を立て直した熊は、ふーっと呼吸を整えている。

 すると、大熊の頭部が急に輝きはじめた。

 驚き、目を凝らすと、どうやら大熊の頭部には角が生えており、それが光っているようだ。

 その光は真っ白のように見えて、様々な色の光を放っている。

 対する大蛇も顎を開け、コォォと何か音を発している。

 すると。

 大蛇の口の中に炎の塊が出来ていた。

 もしかして、あれが魔法……?

 いや、そうなのだろう。そして一つわかった。この異世界では、「魔物も魔法を使える」ということだ。

 大蛇の口から火球が高速で射出された。

 火球はその道筋にある草木を燃やし尽くしている。

 しかし熊は動かない。

 あれ程の熱さであればひとたまりもないだろう。

 そう思った俺だが、杞憂だった。

 火球が大熊の角から放つ光を受けると萎むように消えていったのだ。

 ……あの光、魔法を無効化するみたいな効果があんのか!


 しかし、大熊は腕を大蛇に喰らいつかれていた。


「はっ!?」


 大蛇は火球を放った同時に飛び出し、食いかかったのだ。

 光が魔法を無効化するのをわかっていてわざと魔法を放ち、油断した隙を突いたということか。理解することが一瞬できなかった。

 一枚、大蛇が上手だったということだろう。

 ……戦略の上では。

 食いつかれた熊は取り乱すことなく冷静に対処する。

 大蛇の失態は、腕に食いついてしまったことだろう。

 角を我慢して頭部に食い掛かるか、長い胴体で大熊の身体を締めつけるなどするべきだったのだ。

 大熊はその食いついている大蛇の目に片方の腕を突っ込んだ。

 すると大蛇の胴体は激しく脈打ち、大地を揺らす。

 数十秒は続いただろうか。


 大蛇は完全に沈黙していた。


 大熊の、勝利だ。


「凄ぇ……」


 思わず呟いていた。

 初めて魔法を見たからというのもあるが、巨大なもの同士の戦いは圧巻と言わざるを得ない。

 熊は噛まれた腕が痛むのか、ヨタヨタとしながら湧き水のところに行き、水を飲む。

 飲み終わると、また大蛇の元に行く。

 なにをするんだ、と思っていたところ、その行動にビビらざるを得なかった。

 まず、爪で大蛇の首付近の鱗を器用に取り、そこを爪で多分一メートルくらい、縦に傷を付けた。

 そして、大蛇の頭部を噛みながら、爪を胴体に引っ掛け、引き離す。

 ブチブチぃと聴きたくないもない不快な肉の千切れる音。

 ズシンと、胴体から切り離された大蛇の頭部が地面に落ちる。

 それには目もくれず、大熊は胴体の方を噛み、引きずっていこうとした。

 しかし流石に重かったようで、胴体の真ん中あたりで同じことをして、両断された大蛇の胴体の一つを引きずって、森の中に消えた。

 大熊を見送った後、俺は大蛇の頭部に恐る恐る近付いていった。


「は、は……」


 昨日、俺は、水場を探すために二時間ほどこの辺りを歩きまわった。その時こいつらのような化け物に遭わなかったのは本当にラッキーだったのだろう


「物凄かったな」


 俺がもしどちらかに相対したら、二秒も保たない自信がある。

 いや、もし出会ってしまった時にどう生き残るかということも考えておかなければならないだろう。

 大蛇の頭部に近くにくるとあまりの大きさにビビった。

 170近くある俺の身長の首まであるのだ。

 死んでなお、残っている目の方で睨みつけてるようで恐ろしい。

 ただの死体だというのに、脚はガクガクと震える。

 直視するのが怖く、目を逸らすと残された大蛇の胴体が視界に映る。

 生々しい、血で濡れた肉壁。

 うっ…となるが我慢して近づく。

 血など見慣れてない俺からしたらこちらも恐怖だが、用があった。

 肉だ。

 そう、蛇の肉を食料として使えないかなと思ったのだ。

 しかし。


「どうやって肉だけを取ればいいんだよ……」


 ナイフなんて勿論無い。

 手を突っ込む?有り得ない。


「んー……牙、とか?」


 恐怖を押し殺して、再び頭部の前に立つ。

 今度は目の無い側に立ってみたが、目玉を潰され、虚空となった眼孔も怖すぎた。

 ので、正面から。

 探すのに五分、運ぶのに十分掛かった大きな石を頭部の正面に置き、木の枝を使い、テコの原理で大蛇の口をこじ開けた。


「はぁ、はぁ……よし、次は牙を、抜く作業だな」


 そこらにある比較的鋭い角をもつ石で牙の付け根の肉を裂いていく。

 恐怖と初の解体という作業だけで俺のストレスと疲労はマックスに近い。

 ようやく牙がぐらぐらになるまで肉を裂いたところで、ふと思う。


「毒は有る……のか?」


 今まで無心に肉をガスガス裂きまくっていたというのに、牙を抜こうという段階になって怖くなった。

 まあ、でも大丈夫だろうと思い直し、牙を抜こうとぐっと力を入れた瞬間、裂いた肉の切り口から半透明の液体がビュッと出る。

 それが俺の傍に生えていた草に落ちると、その草はみるみるうちに枯れていった。


「…………………」


 冷や汗がどっと流れる。

 あ、危ねえ!

 作業中に出てたら死んでいた……!

 だいぶ蛇の死体にも慣れてきた俺はアゴを地面に付けるようにしていた蛇の頭部を横に倒す。

 その頭部に乗っかり、牙にその辺に生えていたツルのような植物を括りつける。

 そしてツルの端を持ちながら、蛇の頭部から飛び降りる。

 飛び降りた先は首の方で、例え毒が撒き散ろうと頭部が壁の代わりになるのだ。

 ブシュー…と音が聴こえたので、音が止み次第蛇の正面に向かう。


「……怖!」


 蛇の正面付近にあった草木は全て枯れていた。

 だが、無事に牙を抜くことが出来たようだ。

 牙は長さ八十センチほどで、太さは一番太いところで五センチより大きいくらいだ。


「でもこの牙を触るの怖すぎるんだけど、どうすっかなぁ。湧き水のとこで洗う訳にもいかないしな」


 チラッと蛇の頭部に目がいく。


 葉っぱで牙を挟み――この段階で葉っぱは六枚使った――それを取っ手にして持つ。

 試し切りのような感覚で、肉に突き刺す。特に変化は無い。

 毒蛇の肉体には自身の毒の耐性は有るらしいので当然といえば当然か。

 なんどか頭部の肉のみに牙を突き立てたところで木に刺してみる。変化は無い。

 恐る恐る手にも触れさせてみたが、大丈夫なようだ。

 念のため、湧き水で葉っぱを濡らしたもので拭く。

 試し切りというか突きで気付いたことは、この牙、かなり丈夫だということ。

 牙だから曲がってはいるものの先さえ垂直に突き立てれば面白いくらい楽々と肉を裂ける。


「武器を手に入れたー!ってか」


 喜び、そのテンションのまま胴体の肉を切りに行く。

 切れ味などは無いが、ドスドスと突くと、大きく穴を穿つことが出来た。

 だが、結局その肉に手を突っ込み、引っこ抜く。

 血塗れになった手と腕は洗いました。

 最初こそ血肉を見るだけで参ったが、慣れるとどうということもない。

 およそ五百グラムくらいの肉が取れた。

 よし。食料、確保。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ